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第三章『アイランド・クライシス/少年少女たちの一番暑い夏』
Int.18:二人と一人、夜に交錯するそれぞれの想い
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「――――む、お前らなんだ、こんな時間に」
そして、暫くしてから帰り道。校舎の廊下をエマと並んで一真がそろりそろりと歩いていると、階段の出会い頭で偶然にも西條と出くわしてしまった。
「げっ」
あまりに突然だったものだから、一真は思わずそんな声を上げてしまう。
「なーにが『げっ』だよお前は、誰に向かって言ってる」
ともすれば、西條は一真の頭頂部に軽く拳骨をお見舞いし。それをモロに喰らった一真は「ってえ!?」なんて間抜けな声を出す。
「で? 弥勒寺にアジャーニ、なんだ二人揃ってこんな夜更けに。忘れ物か?」
「あー……っと、それは」
「それはですね、教官? えーっと……」
何か上手いこと言い訳をひり出そうとする一真とエマだが、二人揃ってそんな風に口ごもってしまうもので。すると西條は「はぁ……」とあからさまな溜息を吐き出すと、
「ったく……。もういい、面倒だしもう聞かん。私はここで誰も見てないし、誰とも会ってない。それでいいな」
と、後頭部をボリボリと掻きながら至極面倒そうにぶっきらぼうな口調でそう告げてきた。
「あはは……すいません、西條教官」
苦笑いをしながらエマが軽く頭を下げれば、西條は「全く……」と呟き、
「若い者同士で結構だが、見つからないようにやれよ? そういうのは」
なんて妙に斜め上なことを口走る。
「ごっ……! 誤解ですって、教官っ!」
慌てて一真は捲し立て、「ほら、エマも何か言ってくれよ!」と彼女の方を向くが。
「えへへ……カズマと、かあ……」
なんて風に、エマは妙に顔を紅くしながら心ここにあらず、と夢遊病めいた顔で妙なことを口走っていて、とても一真の声なんか届いちゃいなさそうな雰囲気だった。
「ちょっ、おいエマっ!」
とまあ一真が肩を何度か揺さぶればエマはハッとして意識を取り戻し、
「そ、そうですよ教官っ! ぼ、僕らは別にそういう……。と、とにかくやましいことは何もありませんからっ!」
なんて具合に、多少口をどもらせながらも遅すぎる言い訳をやっと口にしてくれた。
「……はぁ」
しかし西條はといえば、頭痛を堪えるように指で眉間を押さえながら、また大きすぎる溜息をつくばかり。
「分かった分かった、もうそういうことにしといてやる」
と、至極面倒そうに二人に向けて告げた。
「まあいい、二人ともさっさと戻れ」
「はぁーい……。行こっ、カズマ」
「あ、ああ」
戸惑いながらも一真はエマに促されるまま、その場を立ち去ろうとした。
「――――弥勒寺」
しかし、そう呼びかけてくる西條に背中を呼び止められ、一真は立ち止まると一瞬後ろを振り返った。
「……早めに、部屋に帰るんだぞ。出来るだけ、早めにな」
西條が呟いた、そんな意味深な言葉に、一真は首を傾げながらも「……? あ、はい」と頷く。
「ほら、さっさと行け」
ともすれば今度はさっさと行くように告げられて、困惑しつつも一真は「じゃ、失礼します」と言って、今度こそその場を後にしていった。
「…………ったく」
そんな彼の背中を見送りながら、西條は白衣の胸ポケットから出したマールボロ・ライトの煙草を口に咥え、ジッポーで火を灯す。校内禁煙だろうが、そんなのは知ったことか。どうせ今は自分の他に、誰も居やしない。
ふぅ、と紫煙混じりの息をつきながら、西條は今一度溜息をついた。
「次から次へと、あれだけ侍らせてアイツは。もしアレで無自覚だってなら、それこそ天性の才だな……」
ステラに霧香と来て、今度はエマ・アジャーニと来るか――――。
こうも毎度毎度見てしまうと、西條としても溜息の一つや二つ、つきたくなってしまう。まして西條は色んな意味で複雑な立場だから、余計にだ。
「その上、今度は壬生谷の奴もその気があると来てるからな……」
――――瀬那、案外アイツを落とすのは、至難の業かもしれんぞ?
なんてことを思いながら、西條は自前の携帯灰皿に煙草の灰をトントン、と落とす。
「そろそろ、瀬那も帰る頃かな」
誰に向けるでもなくひとりごちると、西條は誰も居ない廊下を歩き始めた。教え子たちがどうであれ、今の西條がやるべき仕事は変わりないのだ。
「にしたって、仕事を増やしてくれるね……。どうやら今夜は、まだまだ帰れなさそうだ」
ひどく憂鬱そうに肩を竦めながら、独り言を呟いて西條は歩く。白衣の長い裾を翻しながら廊下を歩く彼女の姿が、その闇の中に消えていくと。辺りを漂っていた紫煙の匂いもまた、薄く霧散していった。
そして、暫くしてから帰り道。校舎の廊下をエマと並んで一真がそろりそろりと歩いていると、階段の出会い頭で偶然にも西條と出くわしてしまった。
「げっ」
あまりに突然だったものだから、一真は思わずそんな声を上げてしまう。
「なーにが『げっ』だよお前は、誰に向かって言ってる」
ともすれば、西條は一真の頭頂部に軽く拳骨をお見舞いし。それをモロに喰らった一真は「ってえ!?」なんて間抜けな声を出す。
「で? 弥勒寺にアジャーニ、なんだ二人揃ってこんな夜更けに。忘れ物か?」
「あー……っと、それは」
「それはですね、教官? えーっと……」
何か上手いこと言い訳をひり出そうとする一真とエマだが、二人揃ってそんな風に口ごもってしまうもので。すると西條は「はぁ……」とあからさまな溜息を吐き出すと、
「ったく……。もういい、面倒だしもう聞かん。私はここで誰も見てないし、誰とも会ってない。それでいいな」
と、後頭部をボリボリと掻きながら至極面倒そうにぶっきらぼうな口調でそう告げてきた。
「あはは……すいません、西條教官」
苦笑いをしながらエマが軽く頭を下げれば、西條は「全く……」と呟き、
「若い者同士で結構だが、見つからないようにやれよ? そういうのは」
なんて妙に斜め上なことを口走る。
「ごっ……! 誤解ですって、教官っ!」
慌てて一真は捲し立て、「ほら、エマも何か言ってくれよ!」と彼女の方を向くが。
「えへへ……カズマと、かあ……」
なんて風に、エマは妙に顔を紅くしながら心ここにあらず、と夢遊病めいた顔で妙なことを口走っていて、とても一真の声なんか届いちゃいなさそうな雰囲気だった。
「ちょっ、おいエマっ!」
とまあ一真が肩を何度か揺さぶればエマはハッとして意識を取り戻し、
「そ、そうですよ教官っ! ぼ、僕らは別にそういう……。と、とにかくやましいことは何もありませんからっ!」
なんて具合に、多少口をどもらせながらも遅すぎる言い訳をやっと口にしてくれた。
「……はぁ」
しかし西條はといえば、頭痛を堪えるように指で眉間を押さえながら、また大きすぎる溜息をつくばかり。
「分かった分かった、もうそういうことにしといてやる」
と、至極面倒そうに二人に向けて告げた。
「まあいい、二人ともさっさと戻れ」
「はぁーい……。行こっ、カズマ」
「あ、ああ」
戸惑いながらも一真はエマに促されるまま、その場を立ち去ろうとした。
「――――弥勒寺」
しかし、そう呼びかけてくる西條に背中を呼び止められ、一真は立ち止まると一瞬後ろを振り返った。
「……早めに、部屋に帰るんだぞ。出来るだけ、早めにな」
西條が呟いた、そんな意味深な言葉に、一真は首を傾げながらも「……? あ、はい」と頷く。
「ほら、さっさと行け」
ともすれば今度はさっさと行くように告げられて、困惑しつつも一真は「じゃ、失礼します」と言って、今度こそその場を後にしていった。
「…………ったく」
そんな彼の背中を見送りながら、西條は白衣の胸ポケットから出したマールボロ・ライトの煙草を口に咥え、ジッポーで火を灯す。校内禁煙だろうが、そんなのは知ったことか。どうせ今は自分の他に、誰も居やしない。
ふぅ、と紫煙混じりの息をつきながら、西條は今一度溜息をついた。
「次から次へと、あれだけ侍らせてアイツは。もしアレで無自覚だってなら、それこそ天性の才だな……」
ステラに霧香と来て、今度はエマ・アジャーニと来るか――――。
こうも毎度毎度見てしまうと、西條としても溜息の一つや二つ、つきたくなってしまう。まして西條は色んな意味で複雑な立場だから、余計にだ。
「その上、今度は壬生谷の奴もその気があると来てるからな……」
――――瀬那、案外アイツを落とすのは、至難の業かもしれんぞ?
なんてことを思いながら、西條は自前の携帯灰皿に煙草の灰をトントン、と落とす。
「そろそろ、瀬那も帰る頃かな」
誰に向けるでもなくひとりごちると、西條は誰も居ない廊下を歩き始めた。教え子たちがどうであれ、今の西條がやるべき仕事は変わりないのだ。
「にしたって、仕事を増やしてくれるね……。どうやら今夜は、まだまだ帰れなさそうだ」
ひどく憂鬱そうに肩を竦めながら、独り言を呟いて西條は歩く。白衣の長い裾を翻しながら廊下を歩く彼女の姿が、その闇の中に消えていくと。辺りを漂っていた紫煙の匂いもまた、薄く霧散していった。
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