幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光

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第三章『アイランド・クライシス/少年少女たちの一番暑い夏』

Int.25:期末戦技演習/六刀、交えし剣は各々が誇りと共に②

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『やあ、カズマ』
 兵装を受領した≪閃電≫を市街地フィールドに向けて歩かせている最中、偶然にも通りかかったエマの≪シュペール・ミラージュ≫が一真に合流してきた。
「エマか。悪いな、教官の割り振りといえ、こんなのが隊長役になっちまって」
『ああ、その件なら別に構わないよ。逆に、的確だと思うしね』
 視界の端に映るエマの微笑む顔をチラリと見ながら、「俺を選んだ人選が、的確なのか?」と一真は疑問符を浮かべながら訊く。
『僕は、そうだと思うけどな』
「そりゃないって」大げさに肩を竦めながら、一真が言う。「俺なんかより、エマの方がよっぽど的確だと思うんだがな」
『うーん、それはどうだろうね?』
「……? どういう意味だよ、エマ?」
 訊き返す一真だったが、しかしエマは『ふふっ……♪』と笑うのみで、具体的に答えようとしない。
『まあ、実際やってみれば分かることもあるさ。幸い、これは実戦じゃない。幾らヘマをしたところで、君も僕らも死ぬワケじゃないんだ。気楽にいこうよ、カズマ?』
「確かに、言われてみりゃその通り。まあいいさ、どのみちこうして隊長役を賜っちまったんだ。なら、やれるだけはやってみるさ」
『…………期待してるよ、一真』
 フッと小さく笑いながら一真が言うと、今度は三人目のウィンドウが視界の端に表示される。現れたのはコールサイン・ストーム03。やはりというべきか、それは霧香だ。
「おう、霧香か。――――って、≪新月≫じゃないか。それで大丈夫なのか?」
 隣を見れば、いつの間にか≪閃電≫の真隣を歩いていた霧香機は、何故か訓練機のJST-1A≪新月≫だったものだから。まさか訓練機をそのまま乗ってくるとは思わなかった一真は、流石に目を白黒させながらそう言った。
『問題、ない。寧ろ、これの方が、他よりは使いやすい…………』
「あ、そうなのね…………」
 しかし、いつもの無表情に多少のしたり顔を交えた霧香にそう言われてしまえば。一真としても、頷くことしか出来ない。霧香本人がこう言っているのだから、外野の一真がこれ以上言えることも無いだろう。一応、訓練機塗装のオレンジ色でなく、オーソドックスなダークグレーに装甲が塗り替えられているから、よっぽど使えるだろうが。
『――――ストーム各機、聞こえるか? 私だ』
 そんなやり取りをしていれば、管制センターに居るらしい西條からデータリンク通信が飛んでくる。一真が『ストーム・リーダー、感度良好です』と答えると、視界の端に映る西條はフッと小さく笑い、
『今回、お前たちの対戦がA組の一番槍だ。精々、上手く戦えよ?』
「ははは……了解です。それで? 相手は誰なんです、教官」
 しかし西條は『まあ、焦るな』とボカすばかりで、肝心の対戦相手が誰かは答えようとしなかった。
『まあ、相手は蓋を開けてみてのお楽しみだ。精々、良い反応を期待してるぞ?』
 ――――ああ、この人また何かロクでもないこと仕込んでるな。
 それは最早誰もが察せることで、一真が露骨に溜息をつくと、そんな彼の視界の端でエマも『あははは……』と苦く笑っている。尤も、霧香の方は相変わらずの変わらぬ薄い無表情だったが。
『とにかく、ストーム隊はさっさとフィールドに向かえ。対戦相手のブラッド隊はもう現地に着いているんだ』
「はいはい、ストーム・リーダー了解です……。精々期待しててください、教官」
『フッ、そうさせて貰うよ。上手く踊ってみるがいいさ、お前らのその剣でね』




 ――――そうして、辿り着いた市街地フィールド。≪閃電≫、≪新月≫、そして≪シュペール・ミラージュ≫が並んで立ち尽くすその対面で、対戦相手であるコールサイン・"ブラッド"の三機分隊もまた、横並びになって待ち構えていた。
 横並びになった三機の内、一真たちから見て向かって右側に立つ機体は案の定というか、予想通り深紅の米軍機・FSA-15E≪ストライク・ヴァンガード≫だ。網膜投影で機影と重なるターゲット・ボックスと、そこに表示されるコールサインは"ブラッド02"。パイロットは確認するまでもなく、ステラ・レーヴェンスに間違いないだろう。
『へへっ、よう弥勒寺っ!』
 次に、向かって左側には霧香機と同じくダークグレーに塗られた実戦仕様の≪新月≫が立っていた。データリンク通信でそんな陽気な声を掛けてくるコールサイン・"ブラッド03"のソイツの中身は、意外にも白井らしい。そんな白井機がマニピュレータでキャリング・ハンドルを持って片腕に吊す大柄なライフルが、81式140mm狙撃滑腔砲なんて妙な代物な辺りが少しばかり気になるところではあるが……。
『…………』
 そして――――問題は、中央に立つコールサイン・"ブラッド01"だ。対艦刀を地面に突き立て、その柄の上に両手を置き仁王立ちするその機影に、一真は確かに見覚えがあった。いや、見慣れすぎていると言っても過言ではない。その装甲こそ濃紺で染め上げられているが、しかしあのシルエットは、間違いなく――――。
「≪閃電≫……!? それも、タイプFじゃないか――――!?」
 ――――JS-17F≪閃電≫・タイプF。
 一真の眼前に堂々たる風格を漂わせ仁王立ちするその機体は、今まさに一真がその身を預ける機と同型の物に間違いなかったのだ。
 そんなものだから、一真は絶句のあまり声すらも出なくなってしまっている。西條は何かを仕掛けてくるだろうと覚悟はしていたが、まさか自分と同じタイプFをもう一機引っ張ってくるなんて、思いもしなかったのだ。
 こんな超高級なエース・カスタム機をもう一機引っ張ってくるなんて、ホントにあの人は何者なんだ――――?
 ますます、西條への疑問は尽きないところだ。………しかし、一真の頭の中を支配していたのはそんなことよりも、目の前の≪閃電≫。そして、それを駆るパイロットに他ならない。
「瀬那……」
『…………うむ』
 眼前に仁王立ちする、濃紺の≪閃電≫――――。それを駆るパイロットが、コールサイン・"ブラッド01"の正体が、他でもないあの瀬那だったものだから。だからこそ、一真は余計に驚いていた。
 驚いていたが――――しかし、何処か妙に腑に落ちる所はあった。確かに彼女になら、瀬那になら。西條がわざわざタイプFなんてヤバい代物を無理矢理にでも引っ張ってきて、彼女に授けた理由も分からないでもない。
(瀬那に、タイプFか――――)
 相手にとって、不足無し…………!
 次第に一真の中では驚愕が薄れていき、そして代わりに湧き上がるのは燃えすぎる闘志の炎だ。
 思えば、瀬那とこうして真面目に剣を交えることなど、一度も無かった。この間の模範演武は、あんなものは所詮近接兵装に限った模擬試合に過ぎない。
 しかし、今回は違う。全ての兵装の使用が許された、文字通りの真剣勝負なのだ。3on3の集団戦というところはあるものの、しかし瀬那とこういうキッチリした形で戦える機会に巡り会えたことには違いない。まして相手にステラや白井まで居るとなると、余計に一真の中で闘志が燃え滾ってしまう。
「いいぜ、燃えてきた……!」
『手加減は致さぬぞ、一真。――――幾ら、其方が相手といえどもな』
「上等!」ひどく興奮した顔で、一真は瀬那にそう言い返す。「遠慮も手加減も抜きだ、存分にやってやろうぜ……!」
『ふっ。安心したぞ、一真。やはり其方は、そうでなくては』
 さすれば、視界の端に映る瀬那の顔はフッと小さな笑みを浮かべていた。
『さーて、カズマ! それにエマに霧香もっ! こっちも全力で行かせて貰うわ、覚悟しなさいよ!』
「おうよ!」
 続けてステラの言葉に一真がそう返せば、更に『僕も手加減しないよ、幾ら君たちが相手でもね』とエマが言う。霧香の方は、相変わらずの無言だが。
『特にカズマ、アンタにはこの間の負け分があるからね。今日でその分のペイバックといこうじゃないの!』
「良いぜ、纏めて掛かって来な……!」
 瀬那に続けて、ステラまでもが己に向けて闘志を燃やしてくる。こんな強い奴と、二人も同時に戦えるだなんて、一真は歓喜のあまり身体を震わしそうになるぐらいの勢いだった。
「……ああ、白井」
 そんな折、思い出したかのように一真が声を掛ければ、白井が『んにゃ? なんだよ弥勒寺』と反応する。
「お前が特訓してるって、ステラたちから聞いてるぜ?」
『まあまあ、だけどな』
「――――期待してるぜ、その成果」
 不敵に笑いながら一真がそう言うと、白井もニッと口角を緩ませて。
『後で吠え面かいても、知らねーからなぁ?』
 なんて具合に、いつもの調子で軽口めいた挑発を一真に投げ掛けてきた。
『CPよりストーム、ブラッド各隊に通達します。三十秒後に試合を開始しますので、マスターアームの解除を許可します』
「ストーム・リーダー了解。マスターアーム解除」
『ブラッド・リーダー、こちらも承知した』
 データリンク通信で聞こえてくる美弥の指示に従い、それぞれの分隊長である一真と瀬那が同時に頷く。両隊とも、前面コントロール・パネルに生えるマスターアーム・スウィッチのトグル式スウィッチを安全位置のSAFEから解除のARMへと、各々が各々の指先でパチン、と弾いた。
『全機、マスターアームの解除を確認。残り十五秒、両分隊は間合いを取り、準備をお願いしますっ』
 そんな美弥の言葉に従い、ストーム、ブラッドの二分隊はお互いに後ろずさって距離を取っていく。
『残り、五秒』
 ゴクリ、と誰かが生唾を飲み込む音が、データリンク通信から聞こえてくる。そうはしなかったものの、しかし一真とて同じような心境だった。
『三秒――――』
 一秒が、永遠にも感じる。三対三の集団対人戦という、一真にとって今までに体験したことも無いような戦いが、今まさに始まろうとしていた。
『――――試合、開始ですっ!』
 ――――そして、戦いの火蓋は切って落とされる。
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