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第四章『ファースト・ブラッド/A-311小隊、やがて少年たちは戦火の中へ』
Int.24:真影の詩、真夏の蒼穹と金色の少女⑤
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そうした紆余曲折を経た末、なんとか随求堂を出た一真とエマの二人は、それからいくらかの堂なんかを経て参道を歩き、やっとこさ主役の本堂に辿り着いていた。
これこそ、ここが清水たる所以。"清水の舞台"とも称される、文字通り舞台のような懸造が崖に向かって突き出た格好が目を引く本堂だが、平安京への遷都より以前に開かれて以降、焼き討ちなどの憂き目に遭い何度も焼失している。現在残っているものは今より四百年ほど前、江戸時代の1633年になって再建されたものだ。
「ほらカズマ、こっちこっち!」
そんな舞台の中で、先を行くエマがそんな風にはしゃぎ回りながら一真を呼ぶ。
「あんまりはしゃぐなよ、落ちるぜ?」
頬を緩めながら肩を竦め、後を追いゆっくりと歩く一真がそう言えば、エマは「大丈夫、大丈夫!」とはしゃぐ。
「まさに舞台、ってか」
割に珍しく、そんな洒落めいたことを言いながら、はしゃぐエマの元へ歩み寄りつつ、一真もせり出した舞台に足を踏み入れる。
木のしなりの関係か、少しばかり下方に緩やかな傾斜が掛かったような感じの舞台は若干の不安感を覚えるが、しかし再建以来数百年、幾度かの補修工事はあれど一度として崩れていない舞台だ、心配はいらないだろう。
ちなみに余談だが、この舞台の高さは地上から大体12mほど。思い切って物事を決めることの例えで"清水の舞台から飛び降りる~"なんて言うこともあるが、過去にはここから数百人規模で実際に身を投げているらしい。その数は、江戸中期から明治元年までのおおよそ二百年の間に、飛び降り未遂を含め二三五件と膨大な数だ。
とはいえ、その数とは裏腹に生還率は八割五分とかなり高い。維新後に禁止令が発令されるまでの間にそれほどまでの人数がここから飛び降りたのだが、しかしそれほどまでに生き残った数は多いそうだ。
それと余談だが、身を投げる理由は決して自殺目的でなく、寧ろ願掛けという意図だったそうだ。八割五分という異常な生還率も相まって、この飛び降り迷信はここ以外にも、当時全国に広がっていったという……。
――――閑話休題。
「わあ……!」
そんな舞台の上に立ち。手すりに両手を掛けながら、エマは眼をきらきらさせながら、その向こうの景色に釘付けになっていた。
「よく見えるな、ここからだと」
眼を輝かせながらそわそわと視線を急がせるエマの横に立ち、一真は手すりに背中と両肘を預けながら、振り返る格好で同じように舞台からの景色を眺める。
ここが山の中に建てられているだけあって、しかも視界を遮るようなものが何も無いものだから、ここからは盆地にある京都市街が一望できた。
奥には延々と連なる山々が見え、その手前には広大な市街が広がっている。条例の関係で背の高い建造物が殆どないだけあって、市内で唯一天高くそびえ立つ駅前の京都タワーの姿は、ここからでもハッキリと見て取ることが出来た。それはまるで、先日あのタワーからここを見た時の裏返しのようだ。
「…………綺麗だね、この街は」
清々しいぐらいの晴天の中、もうすぐ直上に差し掛かろうとしていた太陽から降り注ぐ陽の光を一身に浴びながら。そんな景色を遠目に眺めつつ、至極感慨深そうな声でエマがそう、何気なく呟いた。
「ああ、本当に」
そんなエマに相槌を打ちながら、一真は小さく深呼吸をする。透き通った山の空気が、生い茂る緑で濾過された清らかな空気が、少し吸い込むだけで五臓六腑に染み渡る。
「これは、壊させちゃいけない」
「……ああ」
「この街を、ここに住む人々を。僕らが……ちゃんと、護らなきゃね」
そんな風に言って、一真の方を振り向き見上げながら、ニコッと微笑むエマの表情は――――しかしその中に、何処か憂いの影色も共に秘めているような、一真はふと、そんな気がしてしまっていた。
「……そう、だな」
だから、一真は敢えて短くそれだけを口にして、ただ黙って頷くのみ。それのみで、それ以上に不要な言葉を紡ぎ出そうとはしなかった。それ以上無用な言葉を紡ごうものなら、彼女の決意が崩れてしまいそうな気がしていたから……。
「ねえカズマ、あれ何かな?」
「ん?」
そんな折、エマが何処かを指し示しながらそう訊いてきたものだから、一真もまたそちらの方に視線を向けてみた。
エマが指差すのは、舞台から見て左下方にある境内の敷地内。そこにはちょっとした滝……というには少しばかり小振りだが、そんなようなものが三つほど連なるちょっとした一画があるのが見えた。
「この先から行けるっぽいな」
「だね」一真の何気ない言葉に、エマが頷く。「行ってみようか、あそこ」
「んだな」
そう頷いて、また先に歩いて行くエマの後を一真は追い掛けていく。
「ホラ、早く早く! 置いてっちゃうよ?」
「はいはい、そう慌てなさんなって……」
「早く、早くっ♪」
そんな風にはしゃぐエマの笑顔が、珍しく無邪気なものだから。それにゆっくりとした足取りで後を追う一真も肩こそ竦めども、しかし浮かべる表情は綻んだ笑顔だった。
これこそ、ここが清水たる所以。"清水の舞台"とも称される、文字通り舞台のような懸造が崖に向かって突き出た格好が目を引く本堂だが、平安京への遷都より以前に開かれて以降、焼き討ちなどの憂き目に遭い何度も焼失している。現在残っているものは今より四百年ほど前、江戸時代の1633年になって再建されたものだ。
「ほらカズマ、こっちこっち!」
そんな舞台の中で、先を行くエマがそんな風にはしゃぎ回りながら一真を呼ぶ。
「あんまりはしゃぐなよ、落ちるぜ?」
頬を緩めながら肩を竦め、後を追いゆっくりと歩く一真がそう言えば、エマは「大丈夫、大丈夫!」とはしゃぐ。
「まさに舞台、ってか」
割に珍しく、そんな洒落めいたことを言いながら、はしゃぐエマの元へ歩み寄りつつ、一真もせり出した舞台に足を踏み入れる。
木のしなりの関係か、少しばかり下方に緩やかな傾斜が掛かったような感じの舞台は若干の不安感を覚えるが、しかし再建以来数百年、幾度かの補修工事はあれど一度として崩れていない舞台だ、心配はいらないだろう。
ちなみに余談だが、この舞台の高さは地上から大体12mほど。思い切って物事を決めることの例えで"清水の舞台から飛び降りる~"なんて言うこともあるが、過去にはここから数百人規模で実際に身を投げているらしい。その数は、江戸中期から明治元年までのおおよそ二百年の間に、飛び降り未遂を含め二三五件と膨大な数だ。
とはいえ、その数とは裏腹に生還率は八割五分とかなり高い。維新後に禁止令が発令されるまでの間にそれほどまでの人数がここから飛び降りたのだが、しかしそれほどまでに生き残った数は多いそうだ。
それと余談だが、身を投げる理由は決して自殺目的でなく、寧ろ願掛けという意図だったそうだ。八割五分という異常な生還率も相まって、この飛び降り迷信はここ以外にも、当時全国に広がっていったという……。
――――閑話休題。
「わあ……!」
そんな舞台の上に立ち。手すりに両手を掛けながら、エマは眼をきらきらさせながら、その向こうの景色に釘付けになっていた。
「よく見えるな、ここからだと」
眼を輝かせながらそわそわと視線を急がせるエマの横に立ち、一真は手すりに背中と両肘を預けながら、振り返る格好で同じように舞台からの景色を眺める。
ここが山の中に建てられているだけあって、しかも視界を遮るようなものが何も無いものだから、ここからは盆地にある京都市街が一望できた。
奥には延々と連なる山々が見え、その手前には広大な市街が広がっている。条例の関係で背の高い建造物が殆どないだけあって、市内で唯一天高くそびえ立つ駅前の京都タワーの姿は、ここからでもハッキリと見て取ることが出来た。それはまるで、先日あのタワーからここを見た時の裏返しのようだ。
「…………綺麗だね、この街は」
清々しいぐらいの晴天の中、もうすぐ直上に差し掛かろうとしていた太陽から降り注ぐ陽の光を一身に浴びながら。そんな景色を遠目に眺めつつ、至極感慨深そうな声でエマがそう、何気なく呟いた。
「ああ、本当に」
そんなエマに相槌を打ちながら、一真は小さく深呼吸をする。透き通った山の空気が、生い茂る緑で濾過された清らかな空気が、少し吸い込むだけで五臓六腑に染み渡る。
「これは、壊させちゃいけない」
「……ああ」
「この街を、ここに住む人々を。僕らが……ちゃんと、護らなきゃね」
そんな風に言って、一真の方を振り向き見上げながら、ニコッと微笑むエマの表情は――――しかしその中に、何処か憂いの影色も共に秘めているような、一真はふと、そんな気がしてしまっていた。
「……そう、だな」
だから、一真は敢えて短くそれだけを口にして、ただ黙って頷くのみ。それのみで、それ以上に不要な言葉を紡ぎ出そうとはしなかった。それ以上無用な言葉を紡ごうものなら、彼女の決意が崩れてしまいそうな気がしていたから……。
「ねえカズマ、あれ何かな?」
「ん?」
そんな折、エマが何処かを指し示しながらそう訊いてきたものだから、一真もまたそちらの方に視線を向けてみた。
エマが指差すのは、舞台から見て左下方にある境内の敷地内。そこにはちょっとした滝……というには少しばかり小振りだが、そんなようなものが三つほど連なるちょっとした一画があるのが見えた。
「この先から行けるっぽいな」
「だね」一真の何気ない言葉に、エマが頷く。「行ってみようか、あそこ」
「んだな」
そう頷いて、また先に歩いて行くエマの後を一真は追い掛けていく。
「ホラ、早く早く! 置いてっちゃうよ?」
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「早く、早くっ♪」
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