幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光

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第四章『ファースト・ブラッド/A-311小隊、やがて少年たちは戦火の中へ』

Int.64:ファースト・ブラッド/吉川ジャンクション迎撃戦②

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「――――ヴァイパー02、08後退開始。01、04は依然砲撃を継続中」
 戦場より少しだけ離れた中国自動車道の本線上。そこへ不作法にも斜めに停まり待機する82式指揮通信車の中、オペレーティング・デスクの前でそう淡々と報告する美弥の言葉を聞きながら、その後ろで壁にもたれ掛かりながら立っていた西條は「始まったか……」とひとりごちていた。
「ヴァイパー00より後衛・砲撃支援部隊各機、支援砲撃は出来そうか?」
 左耳に付けたインカムより伸びるマイクに向かって西條がそう呼びかければ、それに『否定ネガティヴ』と返すのはコールサイン・ヴァイパー06、つまり白井だ。
『ゴルフ場の森が思ったより深い。こりゃああそこから出てきて貰わん限り、ライフルでの砲撃支援は無理ですぜ、教官』
「想定内だ。07、09、ミサイルの準備は?」
『……07、いつでもいけるよ…………』
『ヴァイパー09、こちらも準備完了しています。命令さえ頂ければ、いつでも』
 西條の問いに、同じく後方・砲撃支援部隊の霧香とまどかが続けてそう肯定する。
『ただ、詳細な敵位置情報と、誘導は必要かな……? 森が深すぎて、私たちの制御ユニットじゃ、ちょっと見えそうに無いからね……』
 続けてそう言った霧香の言葉に、西條が「ふむ」と小さく唸る。
 ――――霧香の≪新月≫とまどかの≪叢雲≫には、それぞれ片方に六発ずつの対地ミサイルが装填された90式六連装多目的ミサイル・ランチャーを両肩に装備している。加えて背中のサブ・アームを兼ねた背部マウントを両方とも外し、ミサイル誘導用の90式高度誘導ユニットも背負っていた。
 その制御ユニットにはレーザー目標指示装置やミリ波レーダー・ユニットなどが仕込まれているのだが、彼女らの位置からではゴルフ場の森が邪魔になり、肝心のミサイルのロック・オンが出来そうにないと霧香は言うのだ。一応ミサイル弾頭のシーカー自体は、ファイア・アンド・フォーゲット(撃ちっ放し)能力を備えた赤外線画像誘導ではあるが……。
(しかし、それでは効果的とはいえない)
 ミサイルの弾着精度を高めるには、やはり精密な誘導が不可欠だ。幾ら安価といえども、ミサイル自体は普通の砲弾よりずっと値が張る代物。たかがグラップル種如きの為に使っていては、幾らあっても足りないというものだ。
「二人とも、確かランチャーの中身は通常弾頭だったな?」
『……うん』
『あっ、はい。そうだったと思います』
 霧香とまどかが続けて頷くと、西條は「そうか……」とまた小さく唸った。
「なら、狙うとすればハーミットとアーチャーだ。まだミサイルは控えておけ。今はとにかく、見える範囲で良い。二人の20mmで支援砲撃を」
『……ふっ。07、了解したよ…………』
『09、了解です。支援砲撃を開始』
「ヴァイパー07、09、砲撃開始しました」
 そんな美弥の言葉を片耳に聞きながら、しかし西條の頭は別の方向へと動く。
「ヴァイパー00よりスカウト1、聞いての通りだ。敵をゴルフ場内部に誘い込み次第、ホールディング・エリア2から前進。後衛部隊のミサイル誘導支援に当たってくれ。……送れ」
『スカウト1よりヴァイパー00、了解』
 OH-1の観測した偵察データをデータリンクで彼女らに共有すれば、制御ユニットの処理能力を駆使しあそこからでのロック・オンも可能になる。そう考え、西條はスカウト1に対しそんな指示を下したのだ。
「中衛部隊、移動開始。前衛を援護しつつ、後退支援に当たれ。奴らをゴルフ場の内側に誘い込む」
『05、了解。移動を開始する』
『03、こちらも承知した。任せよ』
『10、了解です』
 その西條の命令にエマ、瀬那、そして美桜の順で頷く声が聞こえれば、美弥が正対するオペレーティング・デスクの一ヶ所、モニタに表示される略地図の中で、彼女ら中衛遊撃部隊の三機を示す光点がそれぞれ動き始めていた。
「美弥、前衛二人の状況は?」
「あっ、はいっ。
 ……ヴァイパー01、04ともに敵集団との距離、100mを切りました。近距離戦闘を開始した模様です」
 相変わらず、ギリギリと言ったら本当にギリギリまで引き寄せるんだな、お前は――――。
 美弥の報告を聞くと、西條は錦戸の顔を思い浮かべながら小さくほくそ笑む。
『――――このっ、このっ、このォォォッ!!』
 そんな折、インカムから聞こえてくるのは焦り、叫ぶ声。ぎょっとした西條が美弥の肩越しにオペレーティング・デスクのモニタを覗き込むと――――。
「っ……! ヴァイパー04、至急後退してくださいっ!!」
『01よりヴァイパーズ・ネスト! 04が敵に囲まれています……っ!』
『速すぎるのよ! こんな、こんな図体してぇぇっ!!』
 ――――そのモニタの中で、ステラを示す光点が、敵を示す無数の光点に取り囲まれかけていた。
「馬鹿、さっさと下がるんだよステラっ!」
 焦り、西條も美弥の肩に手を置いたまま、叫ぶ。
『ンなこと言ったって……! ああもう、なんなのよっ!?』
「――――っ! ヴァイパー04、ハーミット二体と接敵!」
 目を見開いた美弥の報告に、西條もまた息を呑む。
 二人の見る、オペレーティング・デスクのモニタ。その中で、ステラ機は――――二体のハーミット種に、至近距離まで詰め寄られていた。
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