幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光

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第五章『ブルー・オン・ブルー/若き戦士たちの挽歌』

Int.21:CALLING/ブリーフィング、若き戦士たちは次なる戦火へ身を落とし

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 突如として緊急招集が掛かったのは、それから数日が過ぎたある日のことだった。
「――――折角の盆の時期に済まないとは思うが、我々に出撃命令が下った」
 とある盆の一日の、正午を少し前にした頃。緊急招集に応じA組の教室に集まったA-311小隊の面々の前、教壇の上に立った西條が、そんな前置きの一言で以てブリーフィングを始める。
「今回の作戦エリアも市街地となる。また、いつも通り浸透してきた敵集団の殲滅作戦だ」
 そう言いながら、西條は黒板に貼り付けた地図に視線を向ける。岡山と広島の県境ぐらいにあるちょっとした街を示せば、次に西條はその地図の隣に貼り付けた、もう一枚の地図の方へと視線を移した。縮尺の大きなそれは、たった今示したばかりの街の概略図だと分かる。
「敵の規模はそう大きくない。だが事前の偵察により、敵集団の中に"ハーミット"が多数、それに"ソルジャー・アンチエアー"の姿も、少数だが確認されている。"ソルジャー・アンチエアー"は射程距離こそ長くないが、厄介な奴だ。一応、留意しておけ」
 "ソルジャー・アンチエアー"――――。
 体長2m、幻魔にしては比較的小柄な人間サイズの小型種・"ソルジャー"の亜種だ。体色はアルビノのように白く、レーザー光線の発振器官を持つ。"アンチエアー"の名が示す通りに対空迎撃能力が高く、超音速で高高度を飛ぶジェット戦闘機までとはいかないが、しかし自分に迫る対地ミサイルや、特科の榴弾砲がブッ放す榴弾ぐらいは簡単に迎撃してしまう。
 故にFS任務に就いた戦闘攻撃機は元より、TAMSにとっても厄介な奴らには変わりない。TAMSの複合装甲ならある程度は奴のレーザー光線にも耐えられるが、しかしいつまでも浴び続けていれば、やがて喰い破られるのは必定だ……。
 それを既に心得ているからか、この教室に集められた一真以外の小隊の面々も、幾らかは神妙な顔で息を呑んでいた。
 当然といえば、当然だ。今まで何度か経験した戦いで、"ソルジャー・アンチエアー"の姿は無かった。つまり、彼女らは奴と相対するのは初めてということになる。とすれば、多少の緊張を覚えるのも仕方ないというものだ……。
「……まあ、そう深刻に捉えることはない」
 そんな彼女らの反応を何となく顔色で察してか、西條はフッと軽く表情を緩ませながら、緊張を解すようなことを言う。
「奴はあくまでも、小型種に過ぎない。脅威といっても、TAMSの装甲ならばよっぽど大丈夫だろうよ。別に"アーチャーα"を叩けと言っているワケじゃないんだ」
 西條がそう言えば、教室内に張り詰めていた緊張の糸が少しだけ確かに弛緩していくのが、一真にも何となく読み取れた。
 ちなみに今、西條が言った"アーチャーα"というのは、"ソルジャー・アンチエアー"と同じようなレーザー発振器官を持つ、文字通り"アーチャー"の亜種だ。こちらも体色は白で、物理弾を発射するマシーン・ガン器官の代わりにレーザーが生えていると思っても良い。だがその出力はアンチエアーの比では無く、強力で厄介極まりないのだ……。
「……こほん」
 なんてことを一真が考えていれば、弛緩した空気を軽く引き締めるように西條は小さく咳払いをし、その後でブリーフィングを続けていく。
「今回の狩りのシチュエーションは、こんなところだ。
 ……また未確認だが、前線を喰い破り浸透する別の敵集団が至近に在るという情報もある。運が悪ければ背中を取られ、挟み撃ちに遭うかもしれん……。一応、これも留意しておけ」
 …………今回は、背中にも注意しておく必要があるってワケだ。
 今までのように、前だけ向いて戦えば良いってものでもなくなる。狩り自体はそこまで難しくもないが、しかし未確認の敵集団の存在によって、作戦全体の難しさは格段に上がっていた。
「そういうことも鑑み、今回のフォーメーションは少し変則的に組ませて貰うことになった。――――錦戸」
「はい」西條に呼ばれ、頷いた錦戸は彼女と入れ替わるように教壇に立った。目の前に出てきた厳つい顔は、しかし相変わらずの顔に似合わぬ好々爺めいた笑みを浮かべまくっている。
「とはいえ、前衛と中衛遊撃に関しては、そこまで変更はありません。……ですが、後衛を少し弄らせて貰いました」
「俺たちを、ですかい?」
 錦戸の言葉に、頭の上に疑問符を浮かべた白井が言葉を挟めば。錦戸は「はい」と頷いて、それの回答をする。
「白井くんに140mmを担いで貰う点は、変わりありません。対ハーミット戦術に於いて、貴方の140mmは必要不可欠ですから」
 そうやって錦戸が言えば、白井は「へヘッ、嬉しいねえ」なんて、何処か照れくさそうに小さく笑う。
「橘さんと東谷さんたちにも、基本フォーメーション通り後衛を担当して貰います。ミサイル・コンテナを担いで貰う点も変わりありませんが、兵装は中近距離戦を考慮しておいてください」
「……? しかし教官、それでは私たちの支援砲撃が」
「構いません」不思議そうにまどかが訊き返すが、しかし錦戸はその言葉半ばでそう頷いてくる。
「どのみち市街地である以上、どうしても交戦レンジは狭くなります。それに敵の別働隊が確認されている以上、それを鑑みれば、やはり貴方たちには中近距離用途の兵装を担いで貰った方が良いと、我々で判断しました。……白井くんの護衛役も含めて、で」
「……ふっ、そういうことか…………」
 そうやって錦戸が説明すれば、いつもの薄い無表情で霧香が納得したように独りでうんうんと勝手に頷き。そうすれば「分かったよ……」と続けて、
「となると、私たちは早々に、ミサイル撃ち尽くしちゃった方が便利かな……?」
「そうですね」肯定する錦戸。「今回のミサイルはクラスター弾頭を選択してありますので、接敵と同時に斉射を。細かい誘導は、スカウト1とのデータリンクで調整してください」
「ふっ、了解したよ……」
「また、後方に展開した補給モジュールの中には、ワンセット限りですがクラスター弾入りのミサイル・コンテナの予備を格納してある手筈です。不測の事態の際には、それを使って対処してください」
 ――――不測の事態。
 それが示すところが、つまり敵の別働隊に背後を突かれることだと。それをまどかは暗黙の内に察していたが故に、知らず知らずの内に息を呑んでいた。
「加えて、中衛の哀川さんには適時、後衛部隊の援護に加わって頂ければと。……ポジションとしては、そんなところでしょうか」
「了解です。……任せてください、白井くんたちの面倒は、私がしっかり見ますからぁ♪」
 最後に錦戸にそう言われた美桜が、そんな具合で表情をいつもの聖母めいた笑みに緩ませながら頷くと。その後で錦戸がうんうんと微笑しながら頷くのを見て、西條が「そういうワケだ」とまた前に出てくれば、
「出撃は、今より三時間半後。それまでに準備と、兵装の取り付け指示も行っておけ。
 ――――ブリーフィングは以上だ。とりあえず、これで解散とする。……気張れよ!」
 そんな具合に締め括る言葉を告げ、西條はブリーフィングを手短な内に終わらせた。
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