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第五章『ブルー・オン・ブルー/若き戦士たちの挽歌』
Int.69:ブルー・オン・ブルー/迫る銀翼、薄ら笑いと氷鉄の蒼
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「――――各機、宜しいですね。接敵まであと僅かです」
A-311小隊を運ぶ輸送ヘリ編隊に近づく、背中から銀翼を生やした謎のTAMS部隊。接近するその編隊の先頭を往く、真っ青に装甲を塗り固めた指揮官機――――JS-16E≪飛焔≫のコクピットで、マスター・エイジが不気味な笑顔を浮かべながらそう、他の機体に呼びかけていた。
「基本的には好きに暴れて頂いて構いませんが、一点だけ注意を」
マスター・エイジはそうやって呼びかける言葉を続けながら、袖を折った藍色のロングコートめいた装束の襟を片手で避ける。黒で統一したポロシャツとズボンの上からそれを羽織っていて、パイロット・スーツは着ていない。頭のヘッド・ギアは必須だから有線式を着けているが、彼はあのぴっちりとしたパイロット・スーツという奴があまり好きではなかったのだ。
「藍色のタイプFと、そして輸送モジュールを抱えたCH-3を堕としてはいけません。あの二人に死なれては、まだ困りますから」
ニコニコと、フレームレスの眼鏡の奥に見える瞳で微笑みながら、マスター・エイジは念を押すみたいに言う。そうしている間にも、網膜投影で映し出されるA-311小隊との距離は、加速度的に詰まってきていた。
「各機、9L斉射後は散開。攪乱しつつ、TAMSを地上に叩き落としてください」
そう告げながら、マスター・エイジは操縦桿のボタンを何度か押し、コントロール・パネルの兵装表示もチラリと見つつ使用兵装を選択してやる。
AIM-9L"サイドワインダー"短距離空対空ミサイル。背中に背負うフライト・ユニット、TFS-2多目的飛翔翼システムの翼下ハードポイントへ一機につき片側一発、合計二発が吊されている対空ミサイルを、マスター・エイジは使用兵装に選択した。
「相手は訓練生ですが、油断はせぬよう。幾ら訓練生といえども、彼らは実戦を潜り抜けてきた手練ればかりです。気を抜けば、貴方たちの方が堕とされかねない」
ニコニコとした表情で言うマスター・エイジだったが、しかしその笑顔は表面だけのもの。薄い笑顔の奥にある内心は、まるで笑ってなどいなかった。
「…………」
一瞬無言になりながら、マスター・エイジは自機の後方を追従する他の機体を見る。その機種といえば、米軍のFSA-15C≪ヴァンガード≫やFSA-16C≪スコーピオン≫などといった、その全てが外国機で構成されていた。自国製の機体は、彼の≪飛焔≫だけしかこの中には居ない。
――――機体もパイロットも、全て楽園派の高度な意志決定力を持つ者たち、"マスター"の位を持つマスター・エイジよりも更に上位の存在である"エルダー"たちによって急遽、用意された者たちだった。
だからこそだろう、外国機ばかりで構成されているのは。手に入りやすく、ありふれていて、足も付きにくい。恐らくは中のパイロットも、安値で買い叩いてきたあぶれ者の傭兵たちのはずだ。
(捨て駒にするならば、これぐらいで丁度良い)
ニッ、と小さく不敵に微笑みながら、マスター・エイジは操縦桿を握り直す。既にA-311小隊との距離は近くなっていて、随伴する三機のAH-1S対戦車ヘリからは、なけなしの20mm機関砲での迎撃が飛んできている。
「所詮は20mm、この程度で臆することなどありませんよ?」
だがまあ、仕方ないともマスター・エイジは同時に思い、ほんの少しだけ哀れんでもいた。
何せ彼女らには、マトモな対空兵装などありはしない。ヘリに吊られたTAMSたちならば一応撃てはするだろうが、しかし唯でさえ不安定な空中であんな馬鹿みたいに反動の強いものを撃ちまくれば、彼女らを吊り下げるCH-3輸送ヘリの方が間違いなくバランスを崩してしまう。そうなれば、そのままコントロールを失ってTAMS諸共墜落コースだ。だから、彼女らも迂闊に撃てはしないのだ。
だからこそ、マスター・エイジはほんの少しだけの哀れみを彼らに抱いていた。殆ど無抵抗で自分たちの攻撃を受けなければならない、彼女らに対して。
「ですが、仕方の無いことです。正直、瀬那と少佐以外は生きようが死のうが、どうでも良いことですしね……」
軽く肩を竦めながら、マスター・エイジはフッと小さく笑い。そうしながら、視線を再び目の前のシームレス・モニタに映るA-311小隊へと戻す。
「シーカー・オープン、ロック・オン……」
フライト・ユニットの翼下に吊すサイドワインダー・ミサイルの赤外線シーカーへアルゴンガスが吹かれ、冷却され、そして目標追尾の準備が整う。そうすれば数秒経たずして、マスター・エイジの視界の中、シームレス・モニタの中に映る機影と重なるよう浮かび上がるターゲット・ボックスが真っ赤に染まり、ブザー音と共にロック・オンが完了したことを告げてくる。
「――――FOX2」
そして、マスター・エイジは小さな笑顔と共に、操縦桿のミサイルレリース・ボタンを親指で押し込んだ。
ミサイルの尻のロケット・モーターが火を吹き始め、翼下ハードポイントのランチャーから二発ずつ、サイドワインダー・ミサイルが発射されていく。暗い夜闇の空の中に、少しの白い噴煙の軌跡を残しながら……。
「さあ、行きなさい。哀れな子供たちの、その救済の為に……」
A-311小隊を運ぶ輸送ヘリ編隊に近づく、背中から銀翼を生やした謎のTAMS部隊。接近するその編隊の先頭を往く、真っ青に装甲を塗り固めた指揮官機――――JS-16E≪飛焔≫のコクピットで、マスター・エイジが不気味な笑顔を浮かべながらそう、他の機体に呼びかけていた。
「基本的には好きに暴れて頂いて構いませんが、一点だけ注意を」
マスター・エイジはそうやって呼びかける言葉を続けながら、袖を折った藍色のロングコートめいた装束の襟を片手で避ける。黒で統一したポロシャツとズボンの上からそれを羽織っていて、パイロット・スーツは着ていない。頭のヘッド・ギアは必須だから有線式を着けているが、彼はあのぴっちりとしたパイロット・スーツという奴があまり好きではなかったのだ。
「藍色のタイプFと、そして輸送モジュールを抱えたCH-3を堕としてはいけません。あの二人に死なれては、まだ困りますから」
ニコニコと、フレームレスの眼鏡の奥に見える瞳で微笑みながら、マスター・エイジは念を押すみたいに言う。そうしている間にも、網膜投影で映し出されるA-311小隊との距離は、加速度的に詰まってきていた。
「各機、9L斉射後は散開。攪乱しつつ、TAMSを地上に叩き落としてください」
そう告げながら、マスター・エイジは操縦桿のボタンを何度か押し、コントロール・パネルの兵装表示もチラリと見つつ使用兵装を選択してやる。
AIM-9L"サイドワインダー"短距離空対空ミサイル。背中に背負うフライト・ユニット、TFS-2多目的飛翔翼システムの翼下ハードポイントへ一機につき片側一発、合計二発が吊されている対空ミサイルを、マスター・エイジは使用兵装に選択した。
「相手は訓練生ですが、油断はせぬよう。幾ら訓練生といえども、彼らは実戦を潜り抜けてきた手練ればかりです。気を抜けば、貴方たちの方が堕とされかねない」
ニコニコとした表情で言うマスター・エイジだったが、しかしその笑顔は表面だけのもの。薄い笑顔の奥にある内心は、まるで笑ってなどいなかった。
「…………」
一瞬無言になりながら、マスター・エイジは自機の後方を追従する他の機体を見る。その機種といえば、米軍のFSA-15C≪ヴァンガード≫やFSA-16C≪スコーピオン≫などといった、その全てが外国機で構成されていた。自国製の機体は、彼の≪飛焔≫だけしかこの中には居ない。
――――機体もパイロットも、全て楽園派の高度な意志決定力を持つ者たち、"マスター"の位を持つマスター・エイジよりも更に上位の存在である"エルダー"たちによって急遽、用意された者たちだった。
だからこそだろう、外国機ばかりで構成されているのは。手に入りやすく、ありふれていて、足も付きにくい。恐らくは中のパイロットも、安値で買い叩いてきたあぶれ者の傭兵たちのはずだ。
(捨て駒にするならば、これぐらいで丁度良い)
ニッ、と小さく不敵に微笑みながら、マスター・エイジは操縦桿を握り直す。既にA-311小隊との距離は近くなっていて、随伴する三機のAH-1S対戦車ヘリからは、なけなしの20mm機関砲での迎撃が飛んできている。
「所詮は20mm、この程度で臆することなどありませんよ?」
だがまあ、仕方ないともマスター・エイジは同時に思い、ほんの少しだけ哀れんでもいた。
何せ彼女らには、マトモな対空兵装などありはしない。ヘリに吊られたTAMSたちならば一応撃てはするだろうが、しかし唯でさえ不安定な空中であんな馬鹿みたいに反動の強いものを撃ちまくれば、彼女らを吊り下げるCH-3輸送ヘリの方が間違いなくバランスを崩してしまう。そうなれば、そのままコントロールを失ってTAMS諸共墜落コースだ。だから、彼女らも迂闊に撃てはしないのだ。
だからこそ、マスター・エイジはほんの少しだけの哀れみを彼らに抱いていた。殆ど無抵抗で自分たちの攻撃を受けなければならない、彼女らに対して。
「ですが、仕方の無いことです。正直、瀬那と少佐以外は生きようが死のうが、どうでも良いことですしね……」
軽く肩を竦めながら、マスター・エイジはフッと小さく笑い。そうしながら、視線を再び目の前のシームレス・モニタに映るA-311小隊へと戻す。
「シーカー・オープン、ロック・オン……」
フライト・ユニットの翼下に吊すサイドワインダー・ミサイルの赤外線シーカーへアルゴンガスが吹かれ、冷却され、そして目標追尾の準備が整う。そうすれば数秒経たずして、マスター・エイジの視界の中、シームレス・モニタの中に映る機影と重なるよう浮かび上がるターゲット・ボックスが真っ赤に染まり、ブザー音と共にロック・オンが完了したことを告げてくる。
「――――FOX2」
そして、マスター・エイジは小さな笑顔と共に、操縦桿のミサイルレリース・ボタンを親指で押し込んだ。
ミサイルの尻のロケット・モーターが火を吹き始め、翼下ハードポイントのランチャーから二発ずつ、サイドワインダー・ミサイルが発射されていく。暗い夜闇の空の中に、少しの白い噴煙の軌跡を残しながら……。
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