幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光

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第五章『ブルー・オン・ブルー/若き戦士たちの挽歌』

Int.74:ブルー・オン・ブルー/戦慄の深蒼①

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『さてと、まずはウデ試しです。踊ろうではありませんか――――』
 相対する蒼いJS-16E≪飛焔≫のパイロット――――マスター・エイジはにこやかにそう言うと、脚でスロットル・ペダルを踏み込み。背中のメイン・スラスタを全開に吹かし、フライト・ユニットのジェット・エンジンも低出力で併用しつつ、両手に持つ73式対艦刀を構え白井たちへと突撃を敢行した。
「まどかちゃん、散開して囲むぜっ!!」
『分かってます! ――――ヴァイパー09、散開ブレイク!』
 それに対し、白井の≪新月≫とまどかの≪叢雲≫は別々の方向にスラスタの短噴射で飛び、距離を取ることで対応しようとする。
「20mmじゃあ、仕留められるか微妙なところだが……!」
『脚ぐらいなら、止められますッ!!』
 そうしながら、二人はそれぞれが持つ93式突撃機関砲から20mm砲弾での射撃を開始する。
 照準の大半を機体制御OSに任せた、半自動制御での標的追従射撃での照準だったが、しかしマスター・エイジは蒼い≪飛焔≫を巧みに操り、左右斜め上方から降り注ぐ二機分の機関砲斉射を軽々と交わしていく。その蒼い装甲に、まどかたちの20mm砲弾は擦りもしない。
『なんて速さ……!?』
 そんなマスター・エイジの繊細かつ大胆な回避行動に驚愕しつつ、飛んでいたまどか機は着地する。そうしながら、まどかは予備で腰に吊していた88式75mm突撃散弾砲を機体の右手マニピュレータに抜かせるが、
「ちぃぃっ、速すぎるッ!!」
 ――――丁度その頃、白井の≪新月≫は地を蹴って飛び上がった蒼い≪飛焔≫に間合いを詰められ、一気に肉薄されてしまっていた。
『白井さんッ!!』
 それを見上げながらまどかは叫び、突撃機関砲と散弾砲の砲口を≪飛焔≫の背中に向ける。そして、両手の人差し指を操縦桿のトリガーに触れさせたが、
『っ……!』
(撃てない――――)
 直前で躊躇し、その指を離してしまった。あの位置では、白井機まで砲撃に巻き込んでしまうと判断したからだった。
「こっち来んなよ、この野郎っ!!」
 白井は咄嗟に持っていた突撃機関砲を目の前の≪飛焔≫に投げつけるが、しかしマスター・エイジはそれを易々と回避。右手の対艦刀で突きの姿勢を取らせながら、更に増速して白井機との距離を詰める。
『さあ、君はどう踊る!?』
「ちぃぃぃっ!!」
 オープン回線でのマスター・エイジの声が響く中、白井は右手の中へ腕裏シースから00式近接格闘短刀を射出展開。自機の胸目掛けて繰り出されるマスター・エイジの突きに対し機体を捻らせながら、右手の中に順手で握り締めたその近接格闘短刀のブレードで以て対処する。
「ぐぅぅぅっ!!」
 強烈な衝撃が、コクピットを揺さぶった。――――が、コクピット・ブロックを貫通はしていない。
『ほう……?』
 意外そうな、何処か感心したような声を上げるマスター・エイジの撃ち放った突きは、寸前で白井の近接格闘短刀に軌道を反らされ。その刃は、≪新月≫の左肩口……。丁度、首の近くの胴体辺りを真っ直ぐに掠めていた。
『流石は少佐の教え子、というわけですか』
「ヘッ……! あんまし俺を嘗めてもらっちゃあ、困るぜッ!」
 マスター・エイジの感心する声に、こちらも敢えてオープン回線で応じてやりながら。白井はマスター・エイジの懐に出来た一瞬の隙を見逃さず、そのまま≪飛焔≫の横っ腹目掛けて近接格闘短刀で突きを繰り出す。
『ふっ……』
 だが、マスター・エイジは≪飛焔≫の上半身をちょいと捻らすだけでそれを回避。まるで白井の反撃を読んでいたかのような素早い動きに、白井は「……えっ?」と一瞬呆気に取られてしまう。
『折角の才能だというのに、機体が追いついていない。……少し、勿体ないですね』
 すると、マスター・エイジはそんな妙なことを呟き。白井がその一言を妙に頭の端に引っ掛からせていると、
「うわぁぁぁっ!!?!」
 途端に宙返りするようになった≪飛焔≫は鋭い蹴りを≪新月≫の腹に繰り出し、下方の地面へ向けて吹き飛ばした。
 バランスを失い、きりもみ状態で落下していく≪新月≫。街の建物を吹き飛ばしながら何十mも地面を流れていく≪新月≫。それを見下ろしながら、マスター・エイジはにこやかに笑い。そして、心の何処かで己の甘さも痛感していた。
 手心を、加えたのだ。
 本来ならば、あそこで左手の対艦刀で一撃繰り出せば、あの≪新月≫のコクピット・ブロックは容易に貫けていた。
 だが――――現実として、マスター・エイジは敢えてそうはしなかった。
 ここで終わらせては勿体ないという気持ちか、或いはもう少し楽しみたいという、舌舐めずりにも似た慢心か。いずれにせよ、マスター・エイジはそんな己の甘さを、何処かで恥じている節もあった。
(少佐ならば、きっと情け容赦なく仕留めていたのでしょうが)
 だが、これはこれで良しとしよう。幸いにして、まだ楽しむだけの時間は十分に残されている――――。
『やぁぁぁぁ――――っ!!!』
 そうしていれば、雄叫びと共に突撃機関砲と散弾砲を滅茶苦茶にブッ放しながら飛び上がり、スラスタ全開で自機へと突っ込んでくるもう一機。ダークグレーに塗装されたまどかの≪叢雲≫の機影を、見下ろす≪飛焔≫の睨み眼のような頭部の双眼式カメラ・アイは捉えていて。そうすれば、マスター・エイジの顔には再びの笑顔が舞い戻ってくる。
「さて、次はあのですか……」
『これ以上、白井さんに近づけはさせない――――!!』
 空中を飛びながら≪飛焔≫はくるりと向きを変え、突っ込んでくる≪叢雲≫と正対する。
 そのコクピットの中で――――マスター・エイジは独り、歓喜の笑みを浮かべていた。次なる相手との死合いに臨む、その歓喜の笑顔を。
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