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第五章『ブルー・オン・ブルー/若き戦士たちの挽歌』
Int.78:ブルー・オン・ブルー/Lone Wolfs①
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『さあ、参りましょうか――――!!』
最初に一歩を踏み出したのは、マスター・エイジの方だった。
両手マニピュレータに握り締める二振りの対艦刀をチラつかせながら、≪飛焔≫の蒼い機影が白井へ、ボロボロの≪新月≫へと迫る。その爆発的な加速力は、自分の乗る≪新月≫の比では無い。
(加速力だけで言うなら、弥勒寺や綾崎のタイプFクラスってことか……!)
だが、そんな異様なスペック差のある≪飛焔≫を相手にしても、白井は焦らなかった。既にこのレベルの機体を相手にするのは、演習といえども経験済みだ。
「っ……!」
白井もまたスロットル・ペダルを足で踏み込み、なけなしの推進剤を燃やしてスラスタを逆噴射。後ろ向きに地面を滑るようにして、迫るマスター・エイジの≪飛焔≫から逃げる。
『結構! 判断は悪くない!』
「そりゃあどうも……っ!!」
褒め称えながらも接近の手を緩めないマスター・エイジの≪飛焔≫へ向け、白井は≪新月≫が右腕一本で持つ81式140mm狙撃滑腔砲を腰溜めに構える。砲身が短く切り落とされたそれが狙うのは、迫り来る≪飛焔≫の腹のド真ん中だ。
(腰溜めでも……TAMSなら、狙える!)
そして、間髪入れずに白井は右操縦桿のトリガーを引き、狙撃滑腔砲をブッ放した。
物凄い反動がボロボロの≪新月≫を襲い、バランサーが完全にイカれて狂った≪新月≫はそのバランスを崩しかける。それを白井が手動で無理矢理立て直しながら、しかし目線は標的を捉え続けたままだった。
マズル・ブレーキが無くなった短い砲身から、ガス爆発かってぐらいの物凄い爆炎を迸らせつつ、140mm口径のAPFSDS弾が撃ち放たれる。
邪魔なサポット部分が外れ、ダーツの矢によく似た細い格好になった砲弾が、迫る≪飛焔≫の腹目掛け音を超えた速度で飛翔する。
不可避の一撃――――。
これだけの至近距離ということを鑑みれば、マスター・エイジはまず避けられないはずだった。ダーツのようなAPFSDS砲弾で≪飛焔≫の腹は裂けるように吹き飛んで、その一撃で全ての決着が付く筈だった。
しかし――――。
『ふっ……!』
白井が狙撃滑腔砲を発砲する、そのコンマ数秒前。マスター・エイジは肩や脚のサブ・スラスタを左右互い違いの方向に吹かせば、ギュッと急速に≪飛焔≫の向きを横にずらす。例えるなら、白井に対して肩を見せて横を向く格好だ。
勿論、そうすることで白井の撃ち放ったAPFSDSの射線から、≪飛焔≫の腹は完全にズレることになる。そんなマスター・エイジの発砲前の動きは、まるで白井の行動を最初から読んでいるかのようだった。
「嘘だろ……!?」
当然、撃ち放ったAPFSDS弾は虚空を切り裂くだけで、≪飛焔≫の真横を素通りしてしまう。
――――紙一重の回避。
完全に行動を先読みされた上での、そんな人間業とも思えない行動を目の前で見せつけられてしまえば。幾ら白井とて、狼狽の色を隠せなくなってしまう。
『やはり、良いセンスをしている』
そんな狼狽により、白井の懐に出来た一瞬の隙。それを、マスター・エイジが見逃すはずがなかった。
『ですが、まだまだ脇が甘い――――!!』
更なる増速をして、≪飛焔≫が白井と≪新月≫の懐へと飛び込んで来る。
そして、繰り出されるのは右からの鋭い刺突の一撃。ハッと我に返った白井は咄嗟の回避行動を取るが、しかし≪新月≫の頭部を正中から対艦刀の切っ先に貫かれてしまう。
『まずは頭、頂戴しましょうかっ!』
「畜生……! 視界がっ!?」
頭を文字通り串刺しにされ、≪新月≫の首から上が千切れ飛ぶ。ともすれば白井の見る視界の中、コクピットのシームレス・モニタに激しいノイズが走り、所々が黒く消えブラック・アウトしてしまう。
すぐにサブ・カメラでの視界に切り替わるが、しかし所々に走るノイズと映像欠けは解消されない。
「チィィィッ!!!」
そうしながら、しかし白井はタダじゃあ起きない男だった。
頭部を抉られながら、しかし右腕はキッチリ動かしていて。狙撃滑腔砲を持つ手首を少しだけズラしながら、腕裏のシースから近接格闘短刀を射出展開した。
だが、それを握り締めることはしない。かなりの勢いで射出された近接格闘短刀は、しかしそのまま空を切り、そして――――。
『っ!?!』
狼狽するマスター・エイジの息づかいがオープン回線で聞こえれば、彼の≪飛焔≫が左手で持っていた対艦刀が左手マニピュレータの中から激しく吹き飛んでいく。
「へっ……」
――――白井の撃ち放った近接格闘短刀が対艦刀に激突し、吹き飛ばしたのだ。
咄嗟の行動だったが、しかし成功したともなれば、白井の顔に浮かぶのはしてやったりの不敵な笑みだった。
「いつか見た、弥勒寺の真似だけど……。案外、便利なもんだな」
予想外の兵装喪失による一瞬の心理的動揺で、マスター・エイジの勢いは緩み。次第に≪新月≫と≪飛焔≫との距離が離れていく。その隙に白井は更にスロットル・ペダルを踏み込み、推進剤の残量も気にせずに盛大な逆噴射を掛けて≪飛焔≫から距離を取る。
――――土壇場で白井を救ったのは、友が嘗て己に見せた妙技だった。
最初に一歩を踏み出したのは、マスター・エイジの方だった。
両手マニピュレータに握り締める二振りの対艦刀をチラつかせながら、≪飛焔≫の蒼い機影が白井へ、ボロボロの≪新月≫へと迫る。その爆発的な加速力は、自分の乗る≪新月≫の比では無い。
(加速力だけで言うなら、弥勒寺や綾崎のタイプFクラスってことか……!)
だが、そんな異様なスペック差のある≪飛焔≫を相手にしても、白井は焦らなかった。既にこのレベルの機体を相手にするのは、演習といえども経験済みだ。
「っ……!」
白井もまたスロットル・ペダルを足で踏み込み、なけなしの推進剤を燃やしてスラスタを逆噴射。後ろ向きに地面を滑るようにして、迫るマスター・エイジの≪飛焔≫から逃げる。
『結構! 判断は悪くない!』
「そりゃあどうも……っ!!」
褒め称えながらも接近の手を緩めないマスター・エイジの≪飛焔≫へ向け、白井は≪新月≫が右腕一本で持つ81式140mm狙撃滑腔砲を腰溜めに構える。砲身が短く切り落とされたそれが狙うのは、迫り来る≪飛焔≫の腹のド真ん中だ。
(腰溜めでも……TAMSなら、狙える!)
そして、間髪入れずに白井は右操縦桿のトリガーを引き、狙撃滑腔砲をブッ放した。
物凄い反動がボロボロの≪新月≫を襲い、バランサーが完全にイカれて狂った≪新月≫はそのバランスを崩しかける。それを白井が手動で無理矢理立て直しながら、しかし目線は標的を捉え続けたままだった。
マズル・ブレーキが無くなった短い砲身から、ガス爆発かってぐらいの物凄い爆炎を迸らせつつ、140mm口径のAPFSDS弾が撃ち放たれる。
邪魔なサポット部分が外れ、ダーツの矢によく似た細い格好になった砲弾が、迫る≪飛焔≫の腹目掛け音を超えた速度で飛翔する。
不可避の一撃――――。
これだけの至近距離ということを鑑みれば、マスター・エイジはまず避けられないはずだった。ダーツのようなAPFSDS砲弾で≪飛焔≫の腹は裂けるように吹き飛んで、その一撃で全ての決着が付く筈だった。
しかし――――。
『ふっ……!』
白井が狙撃滑腔砲を発砲する、そのコンマ数秒前。マスター・エイジは肩や脚のサブ・スラスタを左右互い違いの方向に吹かせば、ギュッと急速に≪飛焔≫の向きを横にずらす。例えるなら、白井に対して肩を見せて横を向く格好だ。
勿論、そうすることで白井の撃ち放ったAPFSDSの射線から、≪飛焔≫の腹は完全にズレることになる。そんなマスター・エイジの発砲前の動きは、まるで白井の行動を最初から読んでいるかのようだった。
「嘘だろ……!?」
当然、撃ち放ったAPFSDS弾は虚空を切り裂くだけで、≪飛焔≫の真横を素通りしてしまう。
――――紙一重の回避。
完全に行動を先読みされた上での、そんな人間業とも思えない行動を目の前で見せつけられてしまえば。幾ら白井とて、狼狽の色を隠せなくなってしまう。
『やはり、良いセンスをしている』
そんな狼狽により、白井の懐に出来た一瞬の隙。それを、マスター・エイジが見逃すはずがなかった。
『ですが、まだまだ脇が甘い――――!!』
更なる増速をして、≪飛焔≫が白井と≪新月≫の懐へと飛び込んで来る。
そして、繰り出されるのは右からの鋭い刺突の一撃。ハッと我に返った白井は咄嗟の回避行動を取るが、しかし≪新月≫の頭部を正中から対艦刀の切っ先に貫かれてしまう。
『まずは頭、頂戴しましょうかっ!』
「畜生……! 視界がっ!?」
頭を文字通り串刺しにされ、≪新月≫の首から上が千切れ飛ぶ。ともすれば白井の見る視界の中、コクピットのシームレス・モニタに激しいノイズが走り、所々が黒く消えブラック・アウトしてしまう。
すぐにサブ・カメラでの視界に切り替わるが、しかし所々に走るノイズと映像欠けは解消されない。
「チィィィッ!!!」
そうしながら、しかし白井はタダじゃあ起きない男だった。
頭部を抉られながら、しかし右腕はキッチリ動かしていて。狙撃滑腔砲を持つ手首を少しだけズラしながら、腕裏のシースから近接格闘短刀を射出展開した。
だが、それを握り締めることはしない。かなりの勢いで射出された近接格闘短刀は、しかしそのまま空を切り、そして――――。
『っ!?!』
狼狽するマスター・エイジの息づかいがオープン回線で聞こえれば、彼の≪飛焔≫が左手で持っていた対艦刀が左手マニピュレータの中から激しく吹き飛んでいく。
「へっ……」
――――白井の撃ち放った近接格闘短刀が対艦刀に激突し、吹き飛ばしたのだ。
咄嗟の行動だったが、しかし成功したともなれば、白井の顔に浮かぶのはしてやったりの不敵な笑みだった。
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予想外の兵装喪失による一瞬の心理的動揺で、マスター・エイジの勢いは緩み。次第に≪新月≫と≪飛焔≫との距離が離れていく。その隙に白井は更にスロットル・ペダルを踏み込み、推進剤の残量も気にせずに盛大な逆噴射を掛けて≪飛焔≫から距離を取る。
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