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第六章『黒の衝撃/ライトニング・ブレイズ』
Int.01:黒の衝撃/飛焔、圧倒的な力①
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戦いに割って入り、突如として一真の前に現れた黒いTAMS。見覚えの無い謎の機体・JS-16G≪飛焔≫は斬り結んでいたマスター・エイジの蒼いJS-16E≪飛焔≫から大きく飛び退いて離れると、一真たちのすぐ傍に着地した。
『大丈夫かい、君たち』
そうすれば、振り向いた黒い≪飛焔≫の赤い双眸がこちらをキッと睨み。新たな会話ウィンドウが視界の端に表示されると共に低い男の声が飛んでくる。少しパーマ掛かったような機体色と同様の黒い髪を揺らす、彫りの深い男の顔が一真たちの視界の中に映し出された。
『盛り上がっているところ悪いが、此処は俺に任せて貰おう。君たちでは少々荷が重すぎる』
「馬鹿言え! コイツは俺が――――」
『馬鹿は君の方だ、白いの。
……分からないのかい? 自分と蒼い奴、彼我の実力差が如何に決定的なのかを』
激情する一真が上から被せる言葉へ更にうわ被せしながら、黒い≪飛焔≫の男がニィッと邪悪な笑みを浮かべる。
「っ……!」
一真はそれに何か言い返してやりたかったが、しかし彼の言うことがあまりに的確で。その為に、何かこれ以上の言葉を言い返すことが出来なかった。
『ちょっとぉん!? 雅人ちゃんったら、独りで先走りすぎじゃないかね!?』
ともすれば、また上空に反応。新たにパラシュートで降下してきた三機が逆噴射用のロケット・モーターを吹かしながら着地すると共に、また聞き覚えのない、今度は普段の白井並みかそれ以上に軽い調子な男の声が聞こえてくる。
『独りで十分だ。それより省吾、お前は愛美たちと一緒に、他の雑魚の掃除を頼む』
『へいへい、分かりましたよ。ブレイズ02、りょーかーい』
そんな短い会話があの黒い≪飛焔≫のパイロット――雅人と呼ばれていた彼と交わされれば、たった今降りてきた他の三機が別方向へと動いていく。
(……これは、一体)
一真の視界内にまたも現れた、新たな三機。それぞれ"BLAZE-02"から"04"までコールサインの割り振られた機体は、今目の前に背中を見せる雅人の謎の機体とは異なり、JS-17C≪閃電≫が二機にFSA-15J≪雪風≫が一機と、別段見知らぬ機体では無かった。
しかし、やはりその機体色は漆黒に染め上げられていた。光をまるで反射しない、不自然なぐらいにザラついた黒の装甲を闇夜に溶け込ませながら、背中のパラシュート・ザックを切り離した三機がスラスタを吹かし、飛び去って行く。
(特殊部隊……?)
こんな妙なナリをした連中なものだから、一真は戦闘中だというのにひどく訝しんでいた。
先程、雅人とかいったこの≪飛焔≫のパイロットは"第202特殊機動中隊≪ライトニング・ブレイズ≫"と名乗った。ということはやはり、特殊部隊の類で間違いはないだろう。聞き覚えの無い部隊名ではあったが、その類であることは察せられる。
『ほほう……? レーダーに映らないとは、一体全体どういうカラクリでしょうか』
なんてことを一真が考えている間にも、マスター・エイジは再び蒼い≪飛焔≫に構えを取らせていて。
『…………さあ?』
ともすれば目の前も黒い異形の≪飛焔≫も、同様に構えを取る。
『その鋭角な形状、エッジの効いた装甲……。さしずめ、パッシヴ・ステルスの類でしょうか』
『好きに想像していろ。俺はこれ以上、貴様の御託に付き合う気は無い』
(パッシヴ・ステルス……?)
確かに、マスター・エイジがそう推測するのも納得するぐらいに、目の前の≪飛焔≫は異形で。言われてみればこれだけ鋭角ばかりの多い装甲、レーダー波を反射するには丁度良さそうだ。光をまるで反射しない妙な黒い塗装も、レーダー波を吸収する特殊な対レーダー吸収塗膜であると推測すれば、一応の納得がいく。
(ステルス機、だとでも言うのか? しかも、わざわざTAMSで……)
レーダーに反応しない"見えない機体"。いわゆるステルス機というのは、こと戦闘機ではほんの少しだけ一真も聞いたことがあった。'90年代末期になって米空軍が少数だけ投入したステルス攻撃機・F-117"ナイトホーク"。アレと戦略爆撃機B-2"スピリット"だけが、今世界の空を飛ぶ唯一のステルス機なはずだ。
だが、わざわざその未成熟な技術を、しかもレーダーとは無縁に思えるTAMSに適用する意味が分からない。基本的に陸戦兵器であるTAMSにそんな能力を付与して、一体全体何の意味があるというのか……?
『早く後退したまえ、此処は俺が引き受けると言った』
なんて、一真がそんな永遠に答えの出るワケのない疑念を重ねていれば。そうしていれば黒い≪飛焔≫から、雅人の若干苛立った声が聞こえてくる。
「くっ……!」
一真は、まだ抵抗したい気分だった。あの蒼い≪飛焔≫だけは、マスター・エイジだけは、己の手で仕留めたいのが本音だった。
「…………分かったよ」
しかし、一真は身を退く。己とマスター・エイジでは実力が違いすぎることを、既に悟っていたから。だからこそ、雅人の言葉を彼にしては割と素直に聞き入れたのだ。
「……行こう、霧香。ステラたちと合流する」
『ふっ……。承知したよ、一真』
そうして、一真の白い≪閃電≫・タイプFは霧香の≪新月≫を伴い、スラスタを吹かし急速にその場を離脱していく。
推進剤が燃える青白いスラスタの光跡が二つ。それを眼で追いながら、マスター・エイジはほくそ笑んだ。ほくそ笑みながら、少しの焦燥も抱いていた。
(――――しかし、パッシヴ・ステルス機が実用化されていたとは)
相対する漆黒の≪飛焔≫。しかし己の≪飛焔≫とはあまりにかけ離れた風貌をしたソイツを眺めながら、マスター・エイジはひどく訝しんでいた。
『もう、くだらないお話は喋り飽きたか?』
クッ、と低く身を落とし、黒い≪飛焔≫が対艦刀を構える。その構えひとつ取って見ても、マスター・エイジの眼からは分かることがあった。
――――この黒い≪飛焔≫、パイロットは中々の手練れだ。
しかも、対人戦の経験が比較的豊富なタイプの、だ。今のご時世、しかもこと日本国防軍にあって、対人戦の経験がある人間というのは中々に貴重だった。
『ええ、飽きました。ですから、参りましょうか』
己もまた対艦刀を≪飛焔≫に構えさせながら、口先では飄々として。しかしマスター・エイジはその内心で、少しの焦燥感もまた同時に抱いていた。
(……退き際は、見誤らないようにせねばなりませんね)
『大丈夫かい、君たち』
そうすれば、振り向いた黒い≪飛焔≫の赤い双眸がこちらをキッと睨み。新たな会話ウィンドウが視界の端に表示されると共に低い男の声が飛んでくる。少しパーマ掛かったような機体色と同様の黒い髪を揺らす、彫りの深い男の顔が一真たちの視界の中に映し出された。
『盛り上がっているところ悪いが、此処は俺に任せて貰おう。君たちでは少々荷が重すぎる』
「馬鹿言え! コイツは俺が――――」
『馬鹿は君の方だ、白いの。
……分からないのかい? 自分と蒼い奴、彼我の実力差が如何に決定的なのかを』
激情する一真が上から被せる言葉へ更にうわ被せしながら、黒い≪飛焔≫の男がニィッと邪悪な笑みを浮かべる。
「っ……!」
一真はそれに何か言い返してやりたかったが、しかし彼の言うことがあまりに的確で。その為に、何かこれ以上の言葉を言い返すことが出来なかった。
『ちょっとぉん!? 雅人ちゃんったら、独りで先走りすぎじゃないかね!?』
ともすれば、また上空に反応。新たにパラシュートで降下してきた三機が逆噴射用のロケット・モーターを吹かしながら着地すると共に、また聞き覚えのない、今度は普段の白井並みかそれ以上に軽い調子な男の声が聞こえてくる。
『独りで十分だ。それより省吾、お前は愛美たちと一緒に、他の雑魚の掃除を頼む』
『へいへい、分かりましたよ。ブレイズ02、りょーかーい』
そんな短い会話があの黒い≪飛焔≫のパイロット――雅人と呼ばれていた彼と交わされれば、たった今降りてきた他の三機が別方向へと動いていく。
(……これは、一体)
一真の視界内にまたも現れた、新たな三機。それぞれ"BLAZE-02"から"04"までコールサインの割り振られた機体は、今目の前に背中を見せる雅人の謎の機体とは異なり、JS-17C≪閃電≫が二機にFSA-15J≪雪風≫が一機と、別段見知らぬ機体では無かった。
しかし、やはりその機体色は漆黒に染め上げられていた。光をまるで反射しない、不自然なぐらいにザラついた黒の装甲を闇夜に溶け込ませながら、背中のパラシュート・ザックを切り離した三機がスラスタを吹かし、飛び去って行く。
(特殊部隊……?)
こんな妙なナリをした連中なものだから、一真は戦闘中だというのにひどく訝しんでいた。
先程、雅人とかいったこの≪飛焔≫のパイロットは"第202特殊機動中隊≪ライトニング・ブレイズ≫"と名乗った。ということはやはり、特殊部隊の類で間違いはないだろう。聞き覚えの無い部隊名ではあったが、その類であることは察せられる。
『ほほう……? レーダーに映らないとは、一体全体どういうカラクリでしょうか』
なんてことを一真が考えている間にも、マスター・エイジは再び蒼い≪飛焔≫に構えを取らせていて。
『…………さあ?』
ともすれば目の前も黒い異形の≪飛焔≫も、同様に構えを取る。
『その鋭角な形状、エッジの効いた装甲……。さしずめ、パッシヴ・ステルスの類でしょうか』
『好きに想像していろ。俺はこれ以上、貴様の御託に付き合う気は無い』
(パッシヴ・ステルス……?)
確かに、マスター・エイジがそう推測するのも納得するぐらいに、目の前の≪飛焔≫は異形で。言われてみればこれだけ鋭角ばかりの多い装甲、レーダー波を反射するには丁度良さそうだ。光をまるで反射しない妙な黒い塗装も、レーダー波を吸収する特殊な対レーダー吸収塗膜であると推測すれば、一応の納得がいく。
(ステルス機、だとでも言うのか? しかも、わざわざTAMSで……)
レーダーに反応しない"見えない機体"。いわゆるステルス機というのは、こと戦闘機ではほんの少しだけ一真も聞いたことがあった。'90年代末期になって米空軍が少数だけ投入したステルス攻撃機・F-117"ナイトホーク"。アレと戦略爆撃機B-2"スピリット"だけが、今世界の空を飛ぶ唯一のステルス機なはずだ。
だが、わざわざその未成熟な技術を、しかもレーダーとは無縁に思えるTAMSに適用する意味が分からない。基本的に陸戦兵器であるTAMSにそんな能力を付与して、一体全体何の意味があるというのか……?
『早く後退したまえ、此処は俺が引き受けると言った』
なんて、一真がそんな永遠に答えの出るワケのない疑念を重ねていれば。そうしていれば黒い≪飛焔≫から、雅人の若干苛立った声が聞こえてくる。
「くっ……!」
一真は、まだ抵抗したい気分だった。あの蒼い≪飛焔≫だけは、マスター・エイジだけは、己の手で仕留めたいのが本音だった。
「…………分かったよ」
しかし、一真は身を退く。己とマスター・エイジでは実力が違いすぎることを、既に悟っていたから。だからこそ、雅人の言葉を彼にしては割と素直に聞き入れたのだ。
「……行こう、霧香。ステラたちと合流する」
『ふっ……。承知したよ、一真』
そうして、一真の白い≪閃電≫・タイプFは霧香の≪新月≫を伴い、スラスタを吹かし急速にその場を離脱していく。
推進剤が燃える青白いスラスタの光跡が二つ。それを眼で追いながら、マスター・エイジはほくそ笑んだ。ほくそ笑みながら、少しの焦燥も抱いていた。
(――――しかし、パッシヴ・ステルス機が実用化されていたとは)
相対する漆黒の≪飛焔≫。しかし己の≪飛焔≫とはあまりにかけ離れた風貌をしたソイツを眺めながら、マスター・エイジはひどく訝しんでいた。
『もう、くだらないお話は喋り飽きたか?』
クッ、と低く身を落とし、黒い≪飛焔≫が対艦刀を構える。その構えひとつ取って見ても、マスター・エイジの眼からは分かることがあった。
――――この黒い≪飛焔≫、パイロットは中々の手練れだ。
しかも、対人戦の経験が比較的豊富なタイプの、だ。今のご時世、しかもこと日本国防軍にあって、対人戦の経験がある人間というのは中々に貴重だった。
『ええ、飽きました。ですから、参りましょうか』
己もまた対艦刀を≪飛焔≫に構えさせながら、口先では飄々として。しかしマスター・エイジはその内心で、少しの焦燥感もまた同時に抱いていた。
(……退き際は、見誤らないようにせねばなりませんね)
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