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第六章『黒の衝撃/ライトニング・ブレイズ』
Int.30:駆け抜ける閃光、進化する剣①
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解散後、一真と瀬那……と、何故か「面白そうだから」と付いて来たエマと共に西條・錦戸の教官二人組に半地下構造の士官学校TAMS格納庫へと連れて来られれば、三島のおやっさんたち顔馴染みのメカマンたちに混じって格納庫の中をウロつく、奇抜な風貌をした見慣れないメカマンを一真は見つけた。
「あーら、やーっと来てくれたのねぇん♪」
と、その見慣れないメカマンは一真たち一行を見つけるなり、全速力でこっちに突っ込んでくる。口調は完全に女言葉だが、放っているのは野太い声の男だ。……繰り返す、女言葉で喋っているそのメカマンは、何処からどう見てもガタイの良い男だ。
「げげっ!?」
まあ、そんな予想外の言葉が飛び出してくれば、一真もギョッとした顔で脊髄反射的に飛び退き。しかしそのメカマンはそんな一真の元へと一瞬で駆けてきて、引き攣った顔の一真の両手をぎゅっと取り握り締めた。ニコニコと……一真以上にデカく指の太い、だが手入れが行き届いているだけに無骨とも言いづらい手で。
「待ってたのよぉ? き・み・が、噂の白いタイプFのパイロットくんねぇ?」
「あ、はあ、まあ一応……」
ぶんぶんと握られた両手を振られながら、一真が引き攣った顔でとりあえず認める。その後ろでは瀬那も物凄く微妙な顔色で困惑していて、エマの方は「あはは……」と完全に困り切った様子で苦笑いといった具合だ。
「み、弥勒寺一真っす……。そんでもって、こっちがもう一機のパイロットで綾崎瀬那」
「面妖な……。ま、まあ見知りおくがよい……」
「あらあら、こっちも綺麗な娘さんだこと♪ ……で、そちらの金髪の美少女さんはどなた?」
「あ、はい。僕はエマ・アジャーニ少尉です。欧州連合のフランス空軍から、交換留学って形でこっちに」
「あー! はいはい、理解したわぁ。貴女ってば、ひょっとして≪シュペール・ミラージュ≫の娘ねぇ? 戦闘ログは見させて貰ったわぁ。本当にお上手なのね、あ・な・た♪」
とまあ、そのメカマンが顔に明らかに似合っていないコテコテの女言葉でそんな風に言葉を捲し立てながら、一真の手をやっとこさ離すと瀬那とエマ、一人ずつと同じように握手を交わしていく。
それが終わった頃になると、西條が「クリス、その辺にしておいてくれ」と笑いを堪えた顔で言う。メカマンは立ち上がると「分かったわよ。それにしても久し振りね、舞依ちゃんに明美くんも」なんて風に、今度は教官たちの方へと視線を向けた。
「えーと……教官たちのお知り合いですか?」
手を離されたエマが半分困り顔で訊けば、西條は「ああ」と頷く。
「……不本意だが、紹介しよう。コイツは――――」
「あーら、自己紹介がまだだったわねぇ。アタシはクリスよ、ク・リ・ス! ≪ライトニング・ブレイズ≫の中隊付け整備班のメカニック・チーフやらせて貰ってるわ。今回、貴方たち二人のタイプFの改修も、三島のおやっさんと一緒にアタシも担当することになったわぁ」
「――――三井健二軍曹だ」
くねくねと身体を捻らせながらのメカマン――クリスが再び一真たちに向き直って珍妙な自己紹介をしたが、その直後に呆れ顔の西條が大きすぎる溜息を交えつつ、訂正するみたいに彼の名を告げる。すると三井軍曹……もとい、クリスは「んもうっ!」とぷんすかとぶりっ子風な怒り顔になって、
「それはあくまで、アタシの戸籍上の名前! クリスがアタシの本名、アタシのソウル・ネームなのよっ! 失礼しちゃうわね、舞依ちゃんったら!」
なんて風に西條に捲し立てるものだから、西條は更に深々とした溜息をついた。ちなみに錦戸はといえば、その横で「はっはっは」と相変わらずの好々爺っぽい笑顔を浮かべながら、クリスたちを見守っている。
「こんなナリだがよ、これでも俺と同じで、元は嬢ちゃんたちの≪ブレイド・ダンサーズ≫でメカやってた野郎だ。腕の方は確かだぜ、坊主ども」
と、ぷりぷり怒るクリスの収拾がいい加減付かなくなりそうになった頃、そんなクリスの首根っこを引っ張りながらで三島のおやっさんが首を突っ込んできた。皺だらけの顔をニヤニヤとさせていて、トレードマークのサングラスは相変わらずだ。
「もうっ、レディの首掴まないでよ、おやっさんってば!」
クリスが自分の首根っこを掴んでいた三島の手を振りほどけば、三島は錦戸と一緒になって「がはは」と笑い出した。
「カズマ、これって……」
「そういうことだ……」
「一真、エマ、皆まで言うでない」
この辺りで、一真もエマも、瀬那もが何と無しに三井軍曹……もとい、クリスがどういう人間かを悟っていた。
(オカマだ)
(オカマちゃんだね、間違いなく)
(そういう者か、心得た)
クリスは、誰がどうみても――――オカマの類の人間だ。
だがまあ、三島の言葉を信じるならば、クリスは嘗て三島たちと一緒に伝説の機動遊撃中隊≪ブレイド・ダンサーズ≫のメカマンとして、西條や錦戸たちの戦いを支えてきた叩き上げだ。幾らクリスが物凄くアレなオカマといえど、腕の方は確かに違いない。何せ、今となっては特殊部隊≪ライトニング・ブレイズ≫のメカニック・チーフを担っているぐらいなのだ。
「っと、そういえばクリス……さん?」
「んもう、クリスで良いわよ♪」と、恐る恐る質問を投げ掛けようとした一真の方へ人差し指を立てながら、ウィンクなんか投げつつでクリスが言う。
「で、何かしら?」
「じゃ、じゃあクリス。さっき言ってた、俺たちのタイプFの改修だとか何とか。アレってどういうことだ?」
一真のそんな質問に、クリスは「ああ、そのことね」と頷き。すると途端に片手に携えていたクリップボードに視線を落とすと、「えーと……」と呟きながら少しの間、何から話したものかを整理する。
「じゃあ、折角だしイチから話しちゃいましょうか。舞依ちゃん、それで構わないわよね?」
「ああ、その辺はクリスに任せる」
「エマちゃんも一緒だけれど、聞かせちゃって大丈夫? 彼女、交換留学生って聞いてるけど」
「……今となっては今更だ。構わんよ、さっさと話してやってくれ」
「はいはい♪」
そんなこんなで、≪閃電≫・タイプFの改修プランに関する説明が、クリスの口から語られ始めた。
「あーら、やーっと来てくれたのねぇん♪」
と、その見慣れないメカマンは一真たち一行を見つけるなり、全速力でこっちに突っ込んでくる。口調は完全に女言葉だが、放っているのは野太い声の男だ。……繰り返す、女言葉で喋っているそのメカマンは、何処からどう見てもガタイの良い男だ。
「げげっ!?」
まあ、そんな予想外の言葉が飛び出してくれば、一真もギョッとした顔で脊髄反射的に飛び退き。しかしそのメカマンはそんな一真の元へと一瞬で駆けてきて、引き攣った顔の一真の両手をぎゅっと取り握り締めた。ニコニコと……一真以上にデカく指の太い、だが手入れが行き届いているだけに無骨とも言いづらい手で。
「待ってたのよぉ? き・み・が、噂の白いタイプFのパイロットくんねぇ?」
「あ、はあ、まあ一応……」
ぶんぶんと握られた両手を振られながら、一真が引き攣った顔でとりあえず認める。その後ろでは瀬那も物凄く微妙な顔色で困惑していて、エマの方は「あはは……」と完全に困り切った様子で苦笑いといった具合だ。
「み、弥勒寺一真っす……。そんでもって、こっちがもう一機のパイロットで綾崎瀬那」
「面妖な……。ま、まあ見知りおくがよい……」
「あらあら、こっちも綺麗な娘さんだこと♪ ……で、そちらの金髪の美少女さんはどなた?」
「あ、はい。僕はエマ・アジャーニ少尉です。欧州連合のフランス空軍から、交換留学って形でこっちに」
「あー! はいはい、理解したわぁ。貴女ってば、ひょっとして≪シュペール・ミラージュ≫の娘ねぇ? 戦闘ログは見させて貰ったわぁ。本当にお上手なのね、あ・な・た♪」
とまあ、そのメカマンが顔に明らかに似合っていないコテコテの女言葉でそんな風に言葉を捲し立てながら、一真の手をやっとこさ離すと瀬那とエマ、一人ずつと同じように握手を交わしていく。
それが終わった頃になると、西條が「クリス、その辺にしておいてくれ」と笑いを堪えた顔で言う。メカマンは立ち上がると「分かったわよ。それにしても久し振りね、舞依ちゃんに明美くんも」なんて風に、今度は教官たちの方へと視線を向けた。
「えーと……教官たちのお知り合いですか?」
手を離されたエマが半分困り顔で訊けば、西條は「ああ」と頷く。
「……不本意だが、紹介しよう。コイツは――――」
「あーら、自己紹介がまだだったわねぇ。アタシはクリスよ、ク・リ・ス! ≪ライトニング・ブレイズ≫の中隊付け整備班のメカニック・チーフやらせて貰ってるわ。今回、貴方たち二人のタイプFの改修も、三島のおやっさんと一緒にアタシも担当することになったわぁ」
「――――三井健二軍曹だ」
くねくねと身体を捻らせながらのメカマン――クリスが再び一真たちに向き直って珍妙な自己紹介をしたが、その直後に呆れ顔の西條が大きすぎる溜息を交えつつ、訂正するみたいに彼の名を告げる。すると三井軍曹……もとい、クリスは「んもうっ!」とぷんすかとぶりっ子風な怒り顔になって、
「それはあくまで、アタシの戸籍上の名前! クリスがアタシの本名、アタシのソウル・ネームなのよっ! 失礼しちゃうわね、舞依ちゃんったら!」
なんて風に西條に捲し立てるものだから、西條は更に深々とした溜息をついた。ちなみに錦戸はといえば、その横で「はっはっは」と相変わらずの好々爺っぽい笑顔を浮かべながら、クリスたちを見守っている。
「こんなナリだがよ、これでも俺と同じで、元は嬢ちゃんたちの≪ブレイド・ダンサーズ≫でメカやってた野郎だ。腕の方は確かだぜ、坊主ども」
と、ぷりぷり怒るクリスの収拾がいい加減付かなくなりそうになった頃、そんなクリスの首根っこを引っ張りながらで三島のおやっさんが首を突っ込んできた。皺だらけの顔をニヤニヤとさせていて、トレードマークのサングラスは相変わらずだ。
「もうっ、レディの首掴まないでよ、おやっさんってば!」
クリスが自分の首根っこを掴んでいた三島の手を振りほどけば、三島は錦戸と一緒になって「がはは」と笑い出した。
「カズマ、これって……」
「そういうことだ……」
「一真、エマ、皆まで言うでない」
この辺りで、一真もエマも、瀬那もが何と無しに三井軍曹……もとい、クリスがどういう人間かを悟っていた。
(オカマだ)
(オカマちゃんだね、間違いなく)
(そういう者か、心得た)
クリスは、誰がどうみても――――オカマの類の人間だ。
だがまあ、三島の言葉を信じるならば、クリスは嘗て三島たちと一緒に伝説の機動遊撃中隊≪ブレイド・ダンサーズ≫のメカマンとして、西條や錦戸たちの戦いを支えてきた叩き上げだ。幾らクリスが物凄くアレなオカマといえど、腕の方は確かに違いない。何せ、今となっては特殊部隊≪ライトニング・ブレイズ≫のメカニック・チーフを担っているぐらいなのだ。
「っと、そういえばクリス……さん?」
「んもう、クリスで良いわよ♪」と、恐る恐る質問を投げ掛けようとした一真の方へ人差し指を立てながら、ウィンクなんか投げつつでクリスが言う。
「で、何かしら?」
「じゃ、じゃあクリス。さっき言ってた、俺たちのタイプFの改修だとか何とか。アレってどういうことだ?」
一真のそんな質問に、クリスは「ああ、そのことね」と頷き。すると途端に片手に携えていたクリップボードに視線を落とすと、「えーと……」と呟きながら少しの間、何から話したものかを整理する。
「じゃあ、折角だしイチから話しちゃいましょうか。舞依ちゃん、それで構わないわよね?」
「ああ、その辺はクリスに任せる」
「エマちゃんも一緒だけれど、聞かせちゃって大丈夫? 彼女、交換留学生って聞いてるけど」
「……今となっては今更だ。構わんよ、さっさと話してやってくれ」
「はいはい♪」
そんなこんなで、≪閃電≫・タイプFの改修プランに関する説明が、クリスの口から語られ始めた。
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