幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光

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第六章『黒の衝撃/ライトニング・ブレイズ』

Int.59:Fの鼓動/最終評価試験、激突する金と白銀の狼たち④

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『ブレイズ・シードよりヴァイパー02、状況を報告してください』
「見ての通りズタボロだ、クソッ!」
 段々と煙が晴れていく中、ビルの屋上で丸くなるように膝立ちをする一真のタイプF改は、純白の装甲のあちこちをピンク色をしたペイント砲弾の着弾痕で汚していたが、しかし未だ撃墜判定を下されてはいなかった。
「シールドに助けられた、クリス様々だなこりゃあ」
 屋上の床面に突き立て、機体の前面を覆い隠すように構えていた左腕のシールドを退けながらで一真が呟く。咄嗟にしゃがみ込んでシールドを構え、そして防御態勢を取ったからこそ、一真は未だにこうして撃墜判定どころか、一切のダメージ判定すら喰らわないままの五体満足の機体でいられたのだ。これはひとえに、ペイント砲弾に汚れきったシールドと、そして強化された試作一号機の装甲のお陰としか言えない。
『03が敵機と交戦中です。すぐに援護に』
 データリンク通信で聞こえるサラの指示に「了解」と短く返し、一真は膝立ちになっていた機体を立ち上がらせようとする。
「畜生、まだ煙たくて見えねえ……」
 まだ晴れない白煙でシームレス・モニタいっぱいが満たされた不明瞭な視界の中、一真は毒づきながらで機体を操作。ゆっくりと機体を引き起こしていくが、
「うおっ……!?」
 しかし、地面を踏み締めるはずの右足が空を切り、途端に接地感がなくなってしまう。
 そして襲い来るのは、背中からの妙な浮遊感。途端に天地は転げ回り、純白のタイプF改はまるで押し倒されたように仰向けに転がってしまう。機体とともにコクピットごと強制的に上を向かされた一真がやがて感じるのは、緩やかに段々と襲い来る、背中から落ちていく下降の感覚だった。
 ――――足を踏み外した。
 ここまで来て、一真はそれを漸く理解する。襲い来る下降感は、あの高いビルの屋上から自機が落下していることを告げていた。
 そうして落下していれば白煙の層を突き抜け、すぐに視界は晴れてくる。一真の視るシームレス・モニタに映る光景は、やはりビルから仰向けに落ちていく光景だった。炊かれた白煙が厚い雲のように覆うビルの屋上が、加速度的に遠くなっていく。
「ドジっちまったのかよ、ンな時に……!」
 不意の転落に、一真は焦燥に駆られる。この高さだ。幾ら一号機が頑丈になったといえども、これだけの質量を持つ物体。あれだけの高さから落下し地面に激突すれば、タダでは済まないことなんて眼に見えている。
 一真は焦った。額から滲み離れていく冷や汗が、万有引力の法則に従い一真の少し前へと浮いていく。重い機体の質量が重力に引っ張られ、落下速度は加速度的に増している。
 だが、頭では焦っていても身体は的確に反応を示した。一真の脚は脊髄反射的な速度でスロットル・ペダルを限界まで踏み込むと、背中のターボ・スラスタを全開で噴射。同時にサブ・スラスタの背面側も"ヴァリアブル・ブラスト"で起動し、タイプF改・試作一号機が持ち得る最大限の出力で逆噴射を掛けた。
「ぐっ……!!」
 逆噴射の強烈なGに身体が引っ張られ、血流が狭まり視界が少しだけ赤く、暗くなる。ブラックアウトかレッドアウトかといったギリギリの段階で一真は歯を食い縛ってそれに耐えながら、尚も逆噴射を継続した。
 安全速度へと急速に落下速度が低下していく。そして地面からおおよそ10mといった距離にまでなれば、純白の装甲のあちこちをピンク色に汚したタイプF改は、まるでホヴァリングでもするかのように空中で静止した。サブ・スラスタを吹かし姿勢を変え、二本の足で地面に着地する。
「悪い、トチって踏み外した!」
『問題ありません』と、息の荒い一真とは裏腹に、冷静な色を保ったままの声でサラが返す。
『……ですが、交戦中の03が押されています。このままでは危険と判断。ヴァイパー02、至急援護に向かってください』
「分かってるよ、言われんでも!」
 一真はサラに頷き返すと、戻していたスロットル・ペダルを再び深々と踏み込んだ。ターボ・スラスタを吹かし、遠く離れてしまった瀬那機の救援へと向かう。彼女の腕は信頼に値するが、しかしそれでも、あのエマが相手ではいつまで持つか分かったものじゃない……!
「間に合ってくれよ、俺のドジが原因なんて、洒落にならねえ」
 ターボ・スラスタの恩恵を得たタイプF改・試作一号機は、以前に比べ格段に早くなった。しかしその速度も、これだけ密集した市街地のような環境では役に立ちにくい。もしエマが一真の転落まで予想して煙幕攻撃を仕掛けたのだとしたら、大したものだ。
 あの屋上の高度を使って直接飛んでいくのとでは、どうしても時間に差がありすぎる。このタイム・ラグはあまりにも痛すぎた。それでも一真は間に合ってくれと、瀬那機とエマ機を示すマップデータ上の反応に向けスロットル全開で駆け抜けていく。
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