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Chapter-03『BLACK EXECUTER』
第五章:逡巡と告白、変化の訪れは突然に/05
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「なんだと?」
有紀の持ちかけてきた提案を聞いた瞬間、戒斗は思わず自分の耳を疑っていた。
――――自分もP.C.C.Sに入れ、だと?
一体全体、何の意図があってそんな提案を持ちかけるのか。神姫でも何でもない、ただの人間でしかない自分に……有紀は何を思って、P.C.C.Sに入ってくれなどと言うのか。
「なに、簡単な話だよ。P.C.C.Sに入っておけば、君もアンジェくんのことを……ある程度だがサポートできるようになる。少なくとも、今よりは彼女の力になれるはずだよ」
当然ながら、戒斗はその提案をすぐに受け入れることは出来ない。
そんな彼の様子を見てか、有紀は続けて戒斗に向かって述べていた。まるで彼の心情を……出来る限りアンジェの力になりたいという戒斗の気持ちを、全て見透かしているかのように。
「……俺が入るのは、まあ横に置いておいてだ。肝心のアンジェの処遇はどうなる?」
言われた戒斗が神妙な面持ちで問うと、有紀は石神の方を振り向いて「さて、そういえばどうしようか」と今気付いた風に相談する。
相談された石神はといえば、腕組みをしながら「ううむ」と唸りながら暫く考え込んだ後、こう結論を呟いた。
「アンジェくんに関しては……そうだな、あくまで書類上は正体不明のままにしておこう」
「石神くん、その心は?」
「なに、組織のしがらみに囚われない神姫が居てくれた方が、今後何かのイレギュラーがあった時に動きやすいというものだ。そうは思わないか、有紀くん?」
「……確かにね。外部の人間のままの方が、何かと柔軟に対応しやすいか」
「ああ、給料の方なら安心してくれ。もし戒斗くんもP.C.C.Sに入ってくれるのなら、アンジェくんと一緒に協力員扱いということで……多少の手当は勿論出すさ」
はっはっは、と腕組みをしながら石神が高笑いをする。
――――協力しない理由は見当たらない、か。
初対面の石神はさておき、店の常連だった有紀は当然のことながら……セラに関しても、何だかんだとある程度は気心の知れた仲だ。信用出来るか出来ないかで問われれば、間違いなく信用出来る相手なのは間違いない。
それに、石神も悪い人間ではないと戒斗は思っていた。これでもヒトを見る目はある方だと自負している。石神は間違いなく善人だ。尤も……特務機関の長であるが故の気苦労なんかが滲み出てはいるが。
何よりも、アンジェが協力すると言っている相手なのだ。なのに自分が手を引く理由はどこにもない。彼女が行くと言うのなら――――例え行く先が何処であろうと、何処までもついて行く覚悟はある。アンジェが協力するのなら、戒斗が協力しない理由はどこにもありはしないのだ。
「…………分かった、提案通り俺もP.C.C.Sとやらに入るとしよう」
故に戒斗は、そうやって了承の意を有紀たちに告げていた。
「フッ……戒斗くん、君ならそう答えてくれると信じていたよ」
彼の答えを聞いて、有紀が至極満足そうな顔でうんうんと頷いている。表情は普段通りのニヒルな笑みだったが、しかし彼女にしては珍しく、心の底から嬉しそうにしている風にも戒斗には見えていた。
「……………………」
(セラ…………)
そんな会話が繰り広げられている中、殆ど会話には入ってきていなかったセラはといえば。少し離れた場所で遠巻きに戒斗たちを見つめながら、ただ険しく、難しい顔だけを浮かべていて。そんな彼女の、どこか哀しそうな横顔を――――アンジェだけは、決して見逃さなかった。
(第五章『逡巡と告白、変化の訪れは突然に』了)
有紀の持ちかけてきた提案を聞いた瞬間、戒斗は思わず自分の耳を疑っていた。
――――自分もP.C.C.Sに入れ、だと?
一体全体、何の意図があってそんな提案を持ちかけるのか。神姫でも何でもない、ただの人間でしかない自分に……有紀は何を思って、P.C.C.Sに入ってくれなどと言うのか。
「なに、簡単な話だよ。P.C.C.Sに入っておけば、君もアンジェくんのことを……ある程度だがサポートできるようになる。少なくとも、今よりは彼女の力になれるはずだよ」
当然ながら、戒斗はその提案をすぐに受け入れることは出来ない。
そんな彼の様子を見てか、有紀は続けて戒斗に向かって述べていた。まるで彼の心情を……出来る限りアンジェの力になりたいという戒斗の気持ちを、全て見透かしているかのように。
「……俺が入るのは、まあ横に置いておいてだ。肝心のアンジェの処遇はどうなる?」
言われた戒斗が神妙な面持ちで問うと、有紀は石神の方を振り向いて「さて、そういえばどうしようか」と今気付いた風に相談する。
相談された石神はといえば、腕組みをしながら「ううむ」と唸りながら暫く考え込んだ後、こう結論を呟いた。
「アンジェくんに関しては……そうだな、あくまで書類上は正体不明のままにしておこう」
「石神くん、その心は?」
「なに、組織のしがらみに囚われない神姫が居てくれた方が、今後何かのイレギュラーがあった時に動きやすいというものだ。そうは思わないか、有紀くん?」
「……確かにね。外部の人間のままの方が、何かと柔軟に対応しやすいか」
「ああ、給料の方なら安心してくれ。もし戒斗くんもP.C.C.Sに入ってくれるのなら、アンジェくんと一緒に協力員扱いということで……多少の手当は勿論出すさ」
はっはっは、と腕組みをしながら石神が高笑いをする。
――――協力しない理由は見当たらない、か。
初対面の石神はさておき、店の常連だった有紀は当然のことながら……セラに関しても、何だかんだとある程度は気心の知れた仲だ。信用出来るか出来ないかで問われれば、間違いなく信用出来る相手なのは間違いない。
それに、石神も悪い人間ではないと戒斗は思っていた。これでもヒトを見る目はある方だと自負している。石神は間違いなく善人だ。尤も……特務機関の長であるが故の気苦労なんかが滲み出てはいるが。
何よりも、アンジェが協力すると言っている相手なのだ。なのに自分が手を引く理由はどこにもない。彼女が行くと言うのなら――――例え行く先が何処であろうと、何処までもついて行く覚悟はある。アンジェが協力するのなら、戒斗が協力しない理由はどこにもありはしないのだ。
「…………分かった、提案通り俺もP.C.C.Sとやらに入るとしよう」
故に戒斗は、そうやって了承の意を有紀たちに告げていた。
「フッ……戒斗くん、君ならそう答えてくれると信じていたよ」
彼の答えを聞いて、有紀が至極満足そうな顔でうんうんと頷いている。表情は普段通りのニヒルな笑みだったが、しかし彼女にしては珍しく、心の底から嬉しそうにしている風にも戒斗には見えていた。
「……………………」
(セラ…………)
そんな会話が繰り広げられている中、殆ど会話には入ってきていなかったセラはといえば。少し離れた場所で遠巻きに戒斗たちを見つめながら、ただ険しく、難しい顔だけを浮かべていて。そんな彼女の、どこか哀しそうな横顔を――――アンジェだけは、決して見逃さなかった。
(第五章『逡巡と告白、変化の訪れは突然に』了)
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