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Sortie-01:黒翼の舞う空
第二章:十センチ差の衝撃/04
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ベンチに寝転がった格好から身体を起こす翔一と、彼の前に立ち、片手を腰に当てて彼を見下ろすアリサ。二人は暫くの間、無言のままに互いをジッと見合い……そうしている中、最初に口を開いたのはアリサの方からだった。
「肝心なコトを聞いてなかったわね。アンタ、名前は?」
「翔一だ、桐山翔一」
「……なんてね、知ってるわ。アンタが何者で、どうしてこの学院に居るのかも。なんで羽佐間しょ……こほん、羽佐間先生とあれだけ親しそうにしているのかも。アンタのことは全部、調査資料で読ませて貰ったわ」
「調査資料……か」
興信所でも使ったのだろうか。
そんな呑気なことを翔一が思っている間にも、アリサは続けて彼にこう問いかける。
「単刀直入に訊かせて貰うけれど」
「今度は何をだ?」
「――――アンタ、昨日のコト覚えてる?」
やっぱり、アレは幻覚や夢の類なんかじゃあない。
今のアリサの言葉で確信を抱き、そしてそう思うと……翔一は不思議なまでの安堵感を覚えていた。あの出来事が幻でなかったことに対する、不思議なまでの安心を…………。
だから翔一は、彼女の問いかけを「ああ」と頷くことで肯定してみせた。するとアリサは「はぁーっ……」と大きな溜息をつき、まるで頭痛を堪えるみたく指で眉間を押さえ始める。
「だろうと思った。やっぱりアンタには効かなかったのね……」
「どういうことだ……?」
「記憶消去よ、記憶消去。アンタ映画で見たことない? ペンみたいな奴を目の前に出されて、ピカッと光ったら色んな記憶が綺麗さっぱり消し飛んでるヤツ」
「ああ……」
それこそ、メン・イン・ブラックだ。
翔一がぼうっと、何気なくそう思っている間にも。アリサは翔一に対して更なる問いを投げ掛けてきた。
「覚えてるってことは、昨日アタシと逢ったことも?」
その問いかけに「当然だ」と翔一が答えれば、するとアリサはまた特大の溜息をつく。
「……こんだけ条件が揃っちゃうと、やっぱりアタシと共鳴起こしたのはアンタで確定か…………」
「共鳴? それに昨日のアレは一体……」
「質問してるのはアタシの方よ。いいからこっちの質問に答えなさい」
疑問符ばかりを並べ立てる翔一の言葉を強制的にぶった切って、アリサは自分の側からの質問を更に続けて行く。
「まずひとつ。アンタ……ええと、翔一とかいったっけ。単刀直入に訊くけれど、不思議な力が使えるでしょう?」
「…………?」
「いわゆるESP、超能力よ。感覚が鋭くなったり、念力で物を動かせたり。能力の種類とか使える量、その強さの度合いは個人差があるけれど……そうね、百聞は一見に如かずだわ。例えばこんな風に、よ」
と言って、アリサは後ろに振り返ると。傍らの地面に置いていたビニール袋――さっき彼女が食べていた昼食の包みやらのゴミが入っている、口を結んである袋だ。アリサはそれをおもむろに拾い上げると、ポイッと遠くへ放り投げた。
それを翔一が不思議そうな顔で見ていると、アリサは遠くの地面に落下したソイツに向かって手を伸ばし。そうすれば、右手でパチンと指を鳴らす。
「っ……!?」
すると――――遠くにあるビニール袋が、独りでに焔に包まれた。
自然発火現象、とでもいうのだろうか。何の前触れもなく、火種も何もなく。アリサが指を鳴らした途端、遠くにあるビニール袋が焔に包まれ、燃え始めたのだ。
しかも、燃えていたのはほんの一瞬だけ。一秒にも満たないほどの時間の間に、焔に包まれていたビニール袋は燃え尽き、灰に変わっていた。
――――とても、理屈では説明できない事象が目の前で起こっている。
幾ら相手がゴミが入っているだけのビニール袋といえど、一瞬で燃え尽きて灰になるなんてあり得ない。仮にこれがマジックの類だとしても、そんな超高火力なんて出せるはずもないのだ。それこそ……素人目に見た限りだが、あの焔の温度は摂氏数千度とか、そんな次元だろう。とても人為的に、何の下準備もなく出来る所業とは思えない。
だからこそ、翔一は大口を開けて固まっていた。思考も、顔も。あまりに現実離れした光景に、彼の何もかもが硬直してしまっていたのだ。
そんな翔一を横目に、伸ばしていた腕をそっと下ろしたアリサが平然とした顔で彼にこう告げる。
「これがアタシの持ってる能力のひとつ、パイロキネシス。……つまり、アタシはアンタと同類なの」
「超能力者、ってことか……?」
「広義的な、ね」とアリサ。「アンタも持っているはずよ、間違いなくね」
「……僕は」
口ごもりはしたが、しかし否定は出来なかった。
確かに、昔から不思議な能力を翔一も持っていた。少し先の未来の光景が頭にパッと浮かんで、その通りの出来事が起こったり。或いは……物を壊してしまっても、ちょっとした物なら握るだけで元通りに直せてしまったり……と。そんな風な不思議な力は、確かに昔から。それこそ物心付いた時から翔一は持ち合わせていた。
だが、その力のことは両親にだって話したことがない。自分にとってこういう能力は生まれつきのもので、当然のことだと子供の頃は思い込んでいたが……。でも幼稚園に通うような歳になる頃には、これが他人が持ち合わせていない特別な力で。そして他人に力のことを話したところで、絶対にロクなことにはならないと学習していた。
だからこそ、翔一のこの能力のことは誰も知らないし、知られる要因もない。そもそも能力自体をあまり使っていないのだ。どうしたって、他の誰かに知られるはずがない。知られることなんて、あり得ないのだ。
しかし……そうであるが故に、アリサの言葉は信じるに値するものだった。
こんな能力を自分が持っていることなんて、それこそ自分と同類でもなければ分かるワケがない。それにたった今、まさに目の前で見せつけられたあの能力。超自然的な発火能力、パイロキネシス。あんな風にコンビニ袋が独りでに燃え上がり、一瞬の内に灰になってしまうなんて……とても、仕込みで出来るようなこととは思えない。
「……その通りだ」
であるが故に、彼女の言葉が信じるに値するものと判断したが故に、翔一は静かに頷いて彼女の問いかけを肯定し、認めた。
するとアリサはやれやれと呆れ顔をして、次に彼に向かってこんなことを言う。
「昨日、アタシはアンタと共鳴現象を起こしたの」
「共鳴……」
そういえば、あの時も彼女は同じようなことを呟いていた。何かと自分の調子がおかしくなったのは、共鳴現象が原因だとか何とか…………。
「さっきも君はそう言っていたな。とすると、やっぱり昨日感じたあの感覚は……」
薄々予想はしていたが、やはり昨日感じたあの感覚――――頭の中心から湧き上がるような、耳鳴りに似た甲高い強烈な感覚は。彼女の言葉から察するに、恐らく――――。
「アンタの考えている通りよ。あの感覚はアタシも感じた。つまり、アンタがアタシと……同じESPであるアタシと共鳴を起こしたってこと。だからアタシもおかしくなって、つでに機体のディーンドライヴは止まるわエンジンは止まるわ、挙げ句の果てに不時着よ。夜間飛行訓練の最中だったってのに、ツイてないわね………」
「……アリサ、ちょっと待ってくれ。まるで意味が分からないんだ。君の言っていることはあまりに突拍子もなくて、どうにも僕の理解が及ばない」
「あら? アンタって自分の眼で見たモノが信じられないタイプ?」
「そういうワケじゃあないんだが」
「もし信じられないのなら、今すぐにその愚かな考えを捨てることね。アンタは確かにあの夜、あの海岸でアタシと……そして、不時着した≪グレイ・ゴースト≫を見た、見てしまったの。アタシとあんなに強い共鳴現象を起こしたアンタは、紛うことなきESP……それも、かなり強力な能力者で。そしてアンタは決して見てはいけないモノを見てしまった。オマケに記憶消去が効かないと来たわ。
となると……桐山翔一。アンタに残されている道は、ひとつしかない」
「≪グレイ・ゴースト≫……? あの黒い戦闘機のことか? それに、僕に残されている道って……」
「アタシに質問をしない、アタシがそれに答える義理もない。
――――不本意、アタシとしてはものすっごく不本意よ。でも、アタシがアンタと共鳴を起こしてしまった以上、島にアンタを連れて行くのはアタシの役目なのよ」
「島? ……駄目だ、ますますワケが分からない。アリサ……アリサ・メイヤード。君は一体、何を言っているんだ……?」
傍から見ると、アリサの言葉はどう考えても電波の類にしか聞こえない。だがしかし、自分がそういった奇妙な能力を持つ手合いで、そしてどうやら同類らしい彼女が、まさに能力を行使しているところを直に見せつけられて。そして、何よりも……昨日、あの海岸で見た彼女と、そしてあの黒い奇妙な戦闘機のことを思い出すと。翔一にはどうしても、彼女が嘘を言っているようには思えなかった。
「桐山翔一、アンタにはH‐Rアイランド……蓬莱島に来て貰うわ。悪いけれど、拒否権はない。アンタはどうあろうと、アタシと一緒に来て貰うしかないの」
「…………もし、僕が拒否したら?」
「そうね――――」
物は試しにと翔一が問うてみると、アリサは小さく頷いて。すると彼女はおもむろに右手を懐に……羽織るブレザージャケットの下に突っ込み、そこから銀色に光る何かを抜き……それを翔一の方にクッと突き付けてきた。
「今すぐ、此処でアンタを殺してしまっても構わない。口封じにね」
「っ……!?」
アリサが懐から抜き、そして翔一に突き付けてきたモノ。それは紛うことなき拳銃、リヴォルヴァー拳銃だった。
――――コルト・アナコンダ。
六インチの長大な銃身を有する、六連発の大型リヴォルヴァー拳銃。それを彼女は右腕一本で構え、翔一に突き付けてきている。それこそ、まるでダーティハリーのようにだ。彼女はイーストウッドのように背が高いし、大型拳銃が不思議なぐらいによく似合う。強いて違う点があるとすれば……彼女の構える拳銃がS&Wでなく、銃身の上にショットガンのようなベンチレーテッド・リブが付いたコルト製であることぐらいか。
「……冗談だろ?」
自分の額目掛けて突き付けられる、太い銃口。銃身の内側に刻まれたライフリングすら見えるぐらいの至近距離で睨み付けてくるそれを前に、冷や汗を掻きながら翔一が言うが。しかしアリサの切れ長な金色の双眸から注がれる冷え切った視線も、そして巨大な拳銃を構える彼女の右腕も、決して揺るぎはしない。
「玩具だとでも思っているのかしら。確かにこの国のトイガンは凄く良い出来をしているわ、だからアンタがそう思うのも無理はない」
でも――――。
「何だったら、試してみても良いわよ? アンタが思う通りにこれが玩具か、それとも実弾の四四マグナムが装填されている本物か」
そう言って、アリサは親指でカチリとアナコンダの撃鉄を起こす。六分の一回転したシリンダー弾倉が銃身と一直線に並び、装填されていた強烈な四四マグナムの実包が……ジャケッテッド・ホロー・ポイント弾頭が、銃口越しに翔一を睨み付ける。
そんな風に拳銃を突き付けてくるアリサの気迫が、とても冗談でやってるようには思えなくて。銃を突き付けられながら、翔一は小さく肩を竦めると「……分かったよ」と頷き、島に来いという彼女の言葉を承諾した。
すると、アリサは「なら結構」と言って、撃鉄を押さえながら拳銃の引鉄を引き。ゆっくりと撃鉄を元の位置に戻すと、構えを解いたコルト・アナコンダをブレザージャケットの下、左脇に吊ったショルダーホルスターにサッと納める。
「ところで翔一、今日の放課後は暇かしら?」
「あ、ああ……。特に予定はないが」
「だったら善は急げ、よ。ホームルームが終わり次第、すぐに荷物を纏めて学院の保健室に来なさい。仕方ないから、アタシが連れて行ってあげる」
「連れて行く? 僕を何処に連れて行こうというんだ、君は……?」
やはり困惑気味な翔一の言葉に、アリサは「さっきも言ったじゃない」と返し、また腰に手を当てて彼を小さく見下ろして。そうすれば何処か不機嫌そうな、刺々しい表情で、アリサは翔一に向かってこう告げた。
「H‐Rアイランド――――蓬莱島よ」
(第二章『十センチ差の衝撃』了)
「肝心なコトを聞いてなかったわね。アンタ、名前は?」
「翔一だ、桐山翔一」
「……なんてね、知ってるわ。アンタが何者で、どうしてこの学院に居るのかも。なんで羽佐間しょ……こほん、羽佐間先生とあれだけ親しそうにしているのかも。アンタのことは全部、調査資料で読ませて貰ったわ」
「調査資料……か」
興信所でも使ったのだろうか。
そんな呑気なことを翔一が思っている間にも、アリサは続けて彼にこう問いかける。
「単刀直入に訊かせて貰うけれど」
「今度は何をだ?」
「――――アンタ、昨日のコト覚えてる?」
やっぱり、アレは幻覚や夢の類なんかじゃあない。
今のアリサの言葉で確信を抱き、そしてそう思うと……翔一は不思議なまでの安堵感を覚えていた。あの出来事が幻でなかったことに対する、不思議なまでの安心を…………。
だから翔一は、彼女の問いかけを「ああ」と頷くことで肯定してみせた。するとアリサは「はぁーっ……」と大きな溜息をつき、まるで頭痛を堪えるみたく指で眉間を押さえ始める。
「だろうと思った。やっぱりアンタには効かなかったのね……」
「どういうことだ……?」
「記憶消去よ、記憶消去。アンタ映画で見たことない? ペンみたいな奴を目の前に出されて、ピカッと光ったら色んな記憶が綺麗さっぱり消し飛んでるヤツ」
「ああ……」
それこそ、メン・イン・ブラックだ。
翔一がぼうっと、何気なくそう思っている間にも。アリサは翔一に対して更なる問いを投げ掛けてきた。
「覚えてるってことは、昨日アタシと逢ったことも?」
その問いかけに「当然だ」と翔一が答えれば、するとアリサはまた特大の溜息をつく。
「……こんだけ条件が揃っちゃうと、やっぱりアタシと共鳴起こしたのはアンタで確定か…………」
「共鳴? それに昨日のアレは一体……」
「質問してるのはアタシの方よ。いいからこっちの質問に答えなさい」
疑問符ばかりを並べ立てる翔一の言葉を強制的にぶった切って、アリサは自分の側からの質問を更に続けて行く。
「まずひとつ。アンタ……ええと、翔一とかいったっけ。単刀直入に訊くけれど、不思議な力が使えるでしょう?」
「…………?」
「いわゆるESP、超能力よ。感覚が鋭くなったり、念力で物を動かせたり。能力の種類とか使える量、その強さの度合いは個人差があるけれど……そうね、百聞は一見に如かずだわ。例えばこんな風に、よ」
と言って、アリサは後ろに振り返ると。傍らの地面に置いていたビニール袋――さっき彼女が食べていた昼食の包みやらのゴミが入っている、口を結んである袋だ。アリサはそれをおもむろに拾い上げると、ポイッと遠くへ放り投げた。
それを翔一が不思議そうな顔で見ていると、アリサは遠くの地面に落下したソイツに向かって手を伸ばし。そうすれば、右手でパチンと指を鳴らす。
「っ……!?」
すると――――遠くにあるビニール袋が、独りでに焔に包まれた。
自然発火現象、とでもいうのだろうか。何の前触れもなく、火種も何もなく。アリサが指を鳴らした途端、遠くにあるビニール袋が焔に包まれ、燃え始めたのだ。
しかも、燃えていたのはほんの一瞬だけ。一秒にも満たないほどの時間の間に、焔に包まれていたビニール袋は燃え尽き、灰に変わっていた。
――――とても、理屈では説明できない事象が目の前で起こっている。
幾ら相手がゴミが入っているだけのビニール袋といえど、一瞬で燃え尽きて灰になるなんてあり得ない。仮にこれがマジックの類だとしても、そんな超高火力なんて出せるはずもないのだ。それこそ……素人目に見た限りだが、あの焔の温度は摂氏数千度とか、そんな次元だろう。とても人為的に、何の下準備もなく出来る所業とは思えない。
だからこそ、翔一は大口を開けて固まっていた。思考も、顔も。あまりに現実離れした光景に、彼の何もかもが硬直してしまっていたのだ。
そんな翔一を横目に、伸ばしていた腕をそっと下ろしたアリサが平然とした顔で彼にこう告げる。
「これがアタシの持ってる能力のひとつ、パイロキネシス。……つまり、アタシはアンタと同類なの」
「超能力者、ってことか……?」
「広義的な、ね」とアリサ。「アンタも持っているはずよ、間違いなくね」
「……僕は」
口ごもりはしたが、しかし否定は出来なかった。
確かに、昔から不思議な能力を翔一も持っていた。少し先の未来の光景が頭にパッと浮かんで、その通りの出来事が起こったり。或いは……物を壊してしまっても、ちょっとした物なら握るだけで元通りに直せてしまったり……と。そんな風な不思議な力は、確かに昔から。それこそ物心付いた時から翔一は持ち合わせていた。
だが、その力のことは両親にだって話したことがない。自分にとってこういう能力は生まれつきのもので、当然のことだと子供の頃は思い込んでいたが……。でも幼稚園に通うような歳になる頃には、これが他人が持ち合わせていない特別な力で。そして他人に力のことを話したところで、絶対にロクなことにはならないと学習していた。
だからこそ、翔一のこの能力のことは誰も知らないし、知られる要因もない。そもそも能力自体をあまり使っていないのだ。どうしたって、他の誰かに知られるはずがない。知られることなんて、あり得ないのだ。
しかし……そうであるが故に、アリサの言葉は信じるに値するものだった。
こんな能力を自分が持っていることなんて、それこそ自分と同類でもなければ分かるワケがない。それにたった今、まさに目の前で見せつけられたあの能力。超自然的な発火能力、パイロキネシス。あんな風にコンビニ袋が独りでに燃え上がり、一瞬の内に灰になってしまうなんて……とても、仕込みで出来るようなこととは思えない。
「……その通りだ」
であるが故に、彼女の言葉が信じるに値するものと判断したが故に、翔一は静かに頷いて彼女の問いかけを肯定し、認めた。
するとアリサはやれやれと呆れ顔をして、次に彼に向かってこんなことを言う。
「昨日、アタシはアンタと共鳴現象を起こしたの」
「共鳴……」
そういえば、あの時も彼女は同じようなことを呟いていた。何かと自分の調子がおかしくなったのは、共鳴現象が原因だとか何とか…………。
「さっきも君はそう言っていたな。とすると、やっぱり昨日感じたあの感覚は……」
薄々予想はしていたが、やはり昨日感じたあの感覚――――頭の中心から湧き上がるような、耳鳴りに似た甲高い強烈な感覚は。彼女の言葉から察するに、恐らく――――。
「アンタの考えている通りよ。あの感覚はアタシも感じた。つまり、アンタがアタシと……同じESPであるアタシと共鳴を起こしたってこと。だからアタシもおかしくなって、つでに機体のディーンドライヴは止まるわエンジンは止まるわ、挙げ句の果てに不時着よ。夜間飛行訓練の最中だったってのに、ツイてないわね………」
「……アリサ、ちょっと待ってくれ。まるで意味が分からないんだ。君の言っていることはあまりに突拍子もなくて、どうにも僕の理解が及ばない」
「あら? アンタって自分の眼で見たモノが信じられないタイプ?」
「そういうワケじゃあないんだが」
「もし信じられないのなら、今すぐにその愚かな考えを捨てることね。アンタは確かにあの夜、あの海岸でアタシと……そして、不時着した≪グレイ・ゴースト≫を見た、見てしまったの。アタシとあんなに強い共鳴現象を起こしたアンタは、紛うことなきESP……それも、かなり強力な能力者で。そしてアンタは決して見てはいけないモノを見てしまった。オマケに記憶消去が効かないと来たわ。
となると……桐山翔一。アンタに残されている道は、ひとつしかない」
「≪グレイ・ゴースト≫……? あの黒い戦闘機のことか? それに、僕に残されている道って……」
「アタシに質問をしない、アタシがそれに答える義理もない。
――――不本意、アタシとしてはものすっごく不本意よ。でも、アタシがアンタと共鳴を起こしてしまった以上、島にアンタを連れて行くのはアタシの役目なのよ」
「島? ……駄目だ、ますますワケが分からない。アリサ……アリサ・メイヤード。君は一体、何を言っているんだ……?」
傍から見ると、アリサの言葉はどう考えても電波の類にしか聞こえない。だがしかし、自分がそういった奇妙な能力を持つ手合いで、そしてどうやら同類らしい彼女が、まさに能力を行使しているところを直に見せつけられて。そして、何よりも……昨日、あの海岸で見た彼女と、そしてあの黒い奇妙な戦闘機のことを思い出すと。翔一にはどうしても、彼女が嘘を言っているようには思えなかった。
「桐山翔一、アンタにはH‐Rアイランド……蓬莱島に来て貰うわ。悪いけれど、拒否権はない。アンタはどうあろうと、アタシと一緒に来て貰うしかないの」
「…………もし、僕が拒否したら?」
「そうね――――」
物は試しにと翔一が問うてみると、アリサは小さく頷いて。すると彼女はおもむろに右手を懐に……羽織るブレザージャケットの下に突っ込み、そこから銀色に光る何かを抜き……それを翔一の方にクッと突き付けてきた。
「今すぐ、此処でアンタを殺してしまっても構わない。口封じにね」
「っ……!?」
アリサが懐から抜き、そして翔一に突き付けてきたモノ。それは紛うことなき拳銃、リヴォルヴァー拳銃だった。
――――コルト・アナコンダ。
六インチの長大な銃身を有する、六連発の大型リヴォルヴァー拳銃。それを彼女は右腕一本で構え、翔一に突き付けてきている。それこそ、まるでダーティハリーのようにだ。彼女はイーストウッドのように背が高いし、大型拳銃が不思議なぐらいによく似合う。強いて違う点があるとすれば……彼女の構える拳銃がS&Wでなく、銃身の上にショットガンのようなベンチレーテッド・リブが付いたコルト製であることぐらいか。
「……冗談だろ?」
自分の額目掛けて突き付けられる、太い銃口。銃身の内側に刻まれたライフリングすら見えるぐらいの至近距離で睨み付けてくるそれを前に、冷や汗を掻きながら翔一が言うが。しかしアリサの切れ長な金色の双眸から注がれる冷え切った視線も、そして巨大な拳銃を構える彼女の右腕も、決して揺るぎはしない。
「玩具だとでも思っているのかしら。確かにこの国のトイガンは凄く良い出来をしているわ、だからアンタがそう思うのも無理はない」
でも――――。
「何だったら、試してみても良いわよ? アンタが思う通りにこれが玩具か、それとも実弾の四四マグナムが装填されている本物か」
そう言って、アリサは親指でカチリとアナコンダの撃鉄を起こす。六分の一回転したシリンダー弾倉が銃身と一直線に並び、装填されていた強烈な四四マグナムの実包が……ジャケッテッド・ホロー・ポイント弾頭が、銃口越しに翔一を睨み付ける。
そんな風に拳銃を突き付けてくるアリサの気迫が、とても冗談でやってるようには思えなくて。銃を突き付けられながら、翔一は小さく肩を竦めると「……分かったよ」と頷き、島に来いという彼女の言葉を承諾した。
すると、アリサは「なら結構」と言って、撃鉄を押さえながら拳銃の引鉄を引き。ゆっくりと撃鉄を元の位置に戻すと、構えを解いたコルト・アナコンダをブレザージャケットの下、左脇に吊ったショルダーホルスターにサッと納める。
「ところで翔一、今日の放課後は暇かしら?」
「あ、ああ……。特に予定はないが」
「だったら善は急げ、よ。ホームルームが終わり次第、すぐに荷物を纏めて学院の保健室に来なさい。仕方ないから、アタシが連れて行ってあげる」
「連れて行く? 僕を何処に連れて行こうというんだ、君は……?」
やはり困惑気味な翔一の言葉に、アリサは「さっきも言ったじゃない」と返し、また腰に手を当てて彼を小さく見下ろして。そうすれば何処か不機嫌そうな、刺々しい表情で、アリサは翔一に向かってこう告げた。
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(第二章『十センチ差の衝撃』了)
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日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。
そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。
なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。
縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。
日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。
この小説は真実の物語です。
「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」
どうぞ、お楽しみ下さい。
『神知りて 人の幸せ 願うのみ
神のつたへし 愛善の道』
歌人 蔵屋日唱
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