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Sortie-01:黒翼の舞う空
第六章:この蒼穹(そら)の為に/04
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ハイレート・クライムで急上昇していく年老いた白銀の翼は、すぐさま分厚い雲を突き抜けて。そして辿り着いた先は高度三五〇〇〇フィートの高高度。初めて目の当たりにするその光景に――――翔一は、ただただ息を呑んでいた。
「…………これが、本物の空なのか」
下方に望むは分厚い雲海と、そしてその先にある太平洋のさざ波。上方に望むは茜色に染まった、薄い蒼の混ざる夕焼けの天球と、そしてギラギラとした夕刻の日差しを容赦無く照り付け、白い塗装の翼をも茜色に染め上げる太陽の光。遙か彼方に望む水平線は、何処かうっすらと丸みを帯びているようにも見える。地球という母なる星が確かに球状であることを、何よりも雄弁に語り掛けるかのように。
そんな圧倒的な光景を前に、翔一は言葉すら発することも出来ぬまま、息を呑むことしか出来ないでいた。それほどまでに圧倒的な美しさがあり、そして言葉に出来ないほどの不思議な感覚を……彼は、確かに覚えていたのだ。
この感覚は、きっと戦闘機に乗ってこの高高度に在るが故のものなのだろう。旅客機の与圧されたキャビンの中、ぼんやりと窓の外を眺めているのとはまるで違う感覚。キャノピーの範囲が許す限り見渡せる視界、その全てが空なんだ。そんな光景を前にして……翔一は、もう言葉を発することすら忘れるぐらいに心奪われていたのだ。今まさに彼が在る、この大空に。
「よっぽど気に入ったのね、この場所が」
翔一がそんな風な反応を見せていると、背中越しにそれを悟ったのか。前席で操縦桿を握るアリサが、後方の彼に小さく語り掛ける。
「アタシも好きよ、空の上は。こうして飛んでいる時間が一番好き。戦わずに済む、今みたいに自由な飛び方が……アタシは、一番好きかな」
言われてみれば、彼女は歴としたファイター・パイロットなのだ。乗っている機体がSFじみた空間戦闘機であることを除けば、戦う相手が同じ人間の飛ばす戦闘機でなく、外宇宙から押し寄せた敵性体であることを除けば……常に死と隣り合わせの身の上で在ることには変わりない。
だからなのだろう、彼女が戦わずに飛ぶ空が一番好きだと言ったのは。自由に飛べる空が好きだと、アリサがそう言ったのは。
そんな彼女の気持ちは、翔一も何となく分かる気がしていた。実際に戦ったことのない自分が、未だ一般人の身分を保っている自分が、変に同意みたいな気持ちを抱いてしまうのはおこがましくて、彼女に対し失礼かもと思ってしまうが。それでも……何故だか、分かってしまう気がする。
きっと、同じくこの空を愛しているが故のことなのだろう。アリサも翔一と同じく、確かに空を愛している。
同じ気持ちだからこそ……分かるのだ。戦わずに飛べる空が、自由な空が一番好きだと言った彼女の言葉が。アリサの気持ちが、翔一にも。
「前に、要司令が言ってたわ。『空自だった頃、俺たちは抜かずの剣だった。そのことを、今でも誇りに思っている』って。何となくアタシにも分かる気がするわ、司令の言っていたことも、その意味も…………」
「抜かずの剣、か……」
それはきっと、要がまだ空自のファントムライダーだった頃のことを指しているのだろう。自ずとそのことを理解すると、翔一はスッと眼を細めた。
統合軍に属している今はもう、否が応でも剣は抜かざるを得ないのだ。今まさに相手にしているのは人間ではない、謎の敵性体なのだから。戦わねば人類全体が滅びかねないような、そんな正体不明の敵と……要隆一郎という男もまた、アリサや他の統合軍人と同じように日夜、相対している。
であるからこそ……もう、要は抜かずの剣には戻れないのだ。彼もまた、アリサと同じく既に剣を抜き、そして振るってしまったのだから。前線に立つESPパイロットと基地司令という違いはあれど、一度鞘から剣を抜いてしまったことには変わりない。
そうであるからこそ、要は過去、空自時代に抜かずの剣であったことを誇っているのだろう。空を愛する者として、一度もその剣をヒトに対して振るわなかったことを…………。
アリサはそんな要のことを、きっと心の何処かでは羨ましくも思っているのだ。だからこそ、こんな言葉が彼女の口から出てきたのかも知れない。
「…………まあ、そうは言ってもファイターは好きなのよ。結局、アタシはどう足掻いてもこの場所に、コクピットに収まるしかなかった」
「アリサ、君は……」
「この道を選んだこと、アタシは後悔していない。けれど……時々思うのよ。もっと自由に空を飛べたらって。任務とか、色んなコトとか。何も気にせず、誰の指図も受けずに……自由に、アタシだけの空を飛べたらなって」
まるで独り言のように呟いてから、アリサはクスッと小さく笑い。そして「何言ってるのかしら、アタシってば。アンタ相手にあれこれ言ったって、仕方のないことなのに」と、自嘲するかのように言う。
そんな彼女に、翔一は掛ける言葉が見つからず。ただ一言「……そうか」とだけ、短い一言だけを返していた。
「……不思議だわ。なんでアンタ相手だと、こんなことばっかり話したくなるのかしら」
「普段は、話さないのか?」
当たり前じゃない、とアリサは翔一に言い返す。
「こんなこと、他人に話したって仕方のないコトでしょう? それに、言ったって仕方のない話よ。現にアタシは統合軍のESPパイロットで、≪グレイ・ゴースト≫を飛ばしていて。だから戦うしかないのよ、何処まで行っても。そのことに文句は無いし、後悔もない。アタシ自身、なんで今みたいな言葉が出てきたのか……自分でも分からないぐらいよ」
「……きっと、それが君の本心なんじゃないのか?」
「かもしれないわね」と、アリサは小さく肩を竦める。「けれど……それはそれ、これはこれよ。アタシにはアタシの目的がある。やらなきゃいけないことがある。だからアタシはゴーストを飛ばすの。だから、アタシは……戦うの。アイツらと、レギオンとね」
アリサはフッと自嘲じみた笑みを浮かべ、そして続けて翔一にこう問いかける。「翔一、アンタはなんで飛びたいと思ったの?」と。
「……僕の父さんは、空自のパイロットだった」
「らしいわね」
「よく話を聞かされたよ、空の上の話を。詳しいことは機密保持があるからって教えてくれなかったけど、それでも色んな話を聞かされた。それに……さっきも話したように、一緒にセスナを飛ばしたりもしていたんだ。楽しかったよ、父さんと飛んだ空は」
「…………もう、亡くなったんだったかしら」
翔一は「ああ」と頷き、静かに肯定する。するとアリサはマズい話題に踏み込んでしまったかと思ったらしく「変なコト訊いちゃったわね」と、彼女らしくもない、何処かしおらしいような態度で詫びてくる。
「別に、構わないよ」
そんな彼女に翔一は薄い笑顔で言ってから、またそっと眼を細め。そして、続けてこんなことを呟く。
「あの時、確かに僕は父さんから、大空から翼を貰った気がしたんだ。自分だけの翼で、何処までも行けるような、何処までも飛んでいけるような……そんな気がしていた」
「……今は?」
「ん?」
「今は……アンタ、どうなの?」
アリサに訊かれ、翔一は「そうだな……」と少しの間だけ思い悩み。その後で、前席の彼女に向かってこう言った。
「…………今までは、翼なんて失くしたと思っていた。父さんが死んだあの日から、僕の周りから誰も居なくなったあの日から。僕はもう……二度と飛べないんだと、そう思っていた」
――――でも。
「今、こうしてアリサと一緒に飛んでいて。また空の上に飛び上がって来られて……僕は、また飛べるような気がしてきたんだ」
「失くした翼が、また生えてきたってことかしら?」
何処か微妙に冗談めかしたようなアリサの言葉に、翔一は薄く笑みながら「かもしれないね」と頷き、肯定する。
「…………僕は、この空をいつまでも飛んでいたい」
そして、続けて彼女に向かって呟いた。自身の胸の中に秘めた思いを、そのままの形で言葉にするみたいに。
「もし、僕に出来ることがあるのなら。僕の力が役に立って、それが誰かを守ることに繋がって。そして……この空を、ずっと飛んでいられるのなら。僕が好きで、焦がれて、守りたいと思ったこの空を、ずっとずっと飛んでいられるのなら。
――――やるよ、空間戦闘機のパイロット。僕の手で、少しでも何かが出来るのなら」
「……そう」
まるで決意表明じみた翔一の言葉に対し、ファントムの操縦桿を握るアリサの反応は短く、そして何処か素っ気ないような、複雑な心境を隠しているような感じだった。
そんな彼女の反応を聞きつつ、自分自身の決意を確かな言葉の形として紡ぎ出しつつ。しかし翔一は同時に、心の中でこうも思っていた。前席で操縦桿を握る彼女の後ろ姿を眺めながら、ふとした折に彼は……翔一は、アリサに対してこんなことを思っていたのだ。
――――君と、ずっとこの空の上を飛んでいたい。
そう、彼は確かに思っていた。
(第六章『この蒼穹(そら)の為に』了)
「…………これが、本物の空なのか」
下方に望むは分厚い雲海と、そしてその先にある太平洋のさざ波。上方に望むは茜色に染まった、薄い蒼の混ざる夕焼けの天球と、そしてギラギラとした夕刻の日差しを容赦無く照り付け、白い塗装の翼をも茜色に染め上げる太陽の光。遙か彼方に望む水平線は、何処かうっすらと丸みを帯びているようにも見える。地球という母なる星が確かに球状であることを、何よりも雄弁に語り掛けるかのように。
そんな圧倒的な光景を前に、翔一は言葉すら発することも出来ぬまま、息を呑むことしか出来ないでいた。それほどまでに圧倒的な美しさがあり、そして言葉に出来ないほどの不思議な感覚を……彼は、確かに覚えていたのだ。
この感覚は、きっと戦闘機に乗ってこの高高度に在るが故のものなのだろう。旅客機の与圧されたキャビンの中、ぼんやりと窓の外を眺めているのとはまるで違う感覚。キャノピーの範囲が許す限り見渡せる視界、その全てが空なんだ。そんな光景を前にして……翔一は、もう言葉を発することすら忘れるぐらいに心奪われていたのだ。今まさに彼が在る、この大空に。
「よっぽど気に入ったのね、この場所が」
翔一がそんな風な反応を見せていると、背中越しにそれを悟ったのか。前席で操縦桿を握るアリサが、後方の彼に小さく語り掛ける。
「アタシも好きよ、空の上は。こうして飛んでいる時間が一番好き。戦わずに済む、今みたいに自由な飛び方が……アタシは、一番好きかな」
言われてみれば、彼女は歴としたファイター・パイロットなのだ。乗っている機体がSFじみた空間戦闘機であることを除けば、戦う相手が同じ人間の飛ばす戦闘機でなく、外宇宙から押し寄せた敵性体であることを除けば……常に死と隣り合わせの身の上で在ることには変わりない。
だからなのだろう、彼女が戦わずに飛ぶ空が一番好きだと言ったのは。自由に飛べる空が好きだと、アリサがそう言ったのは。
そんな彼女の気持ちは、翔一も何となく分かる気がしていた。実際に戦ったことのない自分が、未だ一般人の身分を保っている自分が、変に同意みたいな気持ちを抱いてしまうのはおこがましくて、彼女に対し失礼かもと思ってしまうが。それでも……何故だか、分かってしまう気がする。
きっと、同じくこの空を愛しているが故のことなのだろう。アリサも翔一と同じく、確かに空を愛している。
同じ気持ちだからこそ……分かるのだ。戦わずに飛べる空が、自由な空が一番好きだと言った彼女の言葉が。アリサの気持ちが、翔一にも。
「前に、要司令が言ってたわ。『空自だった頃、俺たちは抜かずの剣だった。そのことを、今でも誇りに思っている』って。何となくアタシにも分かる気がするわ、司令の言っていたことも、その意味も…………」
「抜かずの剣、か……」
それはきっと、要がまだ空自のファントムライダーだった頃のことを指しているのだろう。自ずとそのことを理解すると、翔一はスッと眼を細めた。
統合軍に属している今はもう、否が応でも剣は抜かざるを得ないのだ。今まさに相手にしているのは人間ではない、謎の敵性体なのだから。戦わねば人類全体が滅びかねないような、そんな正体不明の敵と……要隆一郎という男もまた、アリサや他の統合軍人と同じように日夜、相対している。
であるからこそ……もう、要は抜かずの剣には戻れないのだ。彼もまた、アリサと同じく既に剣を抜き、そして振るってしまったのだから。前線に立つESPパイロットと基地司令という違いはあれど、一度鞘から剣を抜いてしまったことには変わりない。
そうであるからこそ、要は過去、空自時代に抜かずの剣であったことを誇っているのだろう。空を愛する者として、一度もその剣をヒトに対して振るわなかったことを…………。
アリサはそんな要のことを、きっと心の何処かでは羨ましくも思っているのだ。だからこそ、こんな言葉が彼女の口から出てきたのかも知れない。
「…………まあ、そうは言ってもファイターは好きなのよ。結局、アタシはどう足掻いてもこの場所に、コクピットに収まるしかなかった」
「アリサ、君は……」
「この道を選んだこと、アタシは後悔していない。けれど……時々思うのよ。もっと自由に空を飛べたらって。任務とか、色んなコトとか。何も気にせず、誰の指図も受けずに……自由に、アタシだけの空を飛べたらなって」
まるで独り言のように呟いてから、アリサはクスッと小さく笑い。そして「何言ってるのかしら、アタシってば。アンタ相手にあれこれ言ったって、仕方のないことなのに」と、自嘲するかのように言う。
そんな彼女に、翔一は掛ける言葉が見つからず。ただ一言「……そうか」とだけ、短い一言だけを返していた。
「……不思議だわ。なんでアンタ相手だと、こんなことばっかり話したくなるのかしら」
「普段は、話さないのか?」
当たり前じゃない、とアリサは翔一に言い返す。
「こんなこと、他人に話したって仕方のないコトでしょう? それに、言ったって仕方のない話よ。現にアタシは統合軍のESPパイロットで、≪グレイ・ゴースト≫を飛ばしていて。だから戦うしかないのよ、何処まで行っても。そのことに文句は無いし、後悔もない。アタシ自身、なんで今みたいな言葉が出てきたのか……自分でも分からないぐらいよ」
「……きっと、それが君の本心なんじゃないのか?」
「かもしれないわね」と、アリサは小さく肩を竦める。「けれど……それはそれ、これはこれよ。アタシにはアタシの目的がある。やらなきゃいけないことがある。だからアタシはゴーストを飛ばすの。だから、アタシは……戦うの。アイツらと、レギオンとね」
アリサはフッと自嘲じみた笑みを浮かべ、そして続けて翔一にこう問いかける。「翔一、アンタはなんで飛びたいと思ったの?」と。
「……僕の父さんは、空自のパイロットだった」
「らしいわね」
「よく話を聞かされたよ、空の上の話を。詳しいことは機密保持があるからって教えてくれなかったけど、それでも色んな話を聞かされた。それに……さっきも話したように、一緒にセスナを飛ばしたりもしていたんだ。楽しかったよ、父さんと飛んだ空は」
「…………もう、亡くなったんだったかしら」
翔一は「ああ」と頷き、静かに肯定する。するとアリサはマズい話題に踏み込んでしまったかと思ったらしく「変なコト訊いちゃったわね」と、彼女らしくもない、何処かしおらしいような態度で詫びてくる。
「別に、構わないよ」
そんな彼女に翔一は薄い笑顔で言ってから、またそっと眼を細め。そして、続けてこんなことを呟く。
「あの時、確かに僕は父さんから、大空から翼を貰った気がしたんだ。自分だけの翼で、何処までも行けるような、何処までも飛んでいけるような……そんな気がしていた」
「……今は?」
「ん?」
「今は……アンタ、どうなの?」
アリサに訊かれ、翔一は「そうだな……」と少しの間だけ思い悩み。その後で、前席の彼女に向かってこう言った。
「…………今までは、翼なんて失くしたと思っていた。父さんが死んだあの日から、僕の周りから誰も居なくなったあの日から。僕はもう……二度と飛べないんだと、そう思っていた」
――――でも。
「今、こうしてアリサと一緒に飛んでいて。また空の上に飛び上がって来られて……僕は、また飛べるような気がしてきたんだ」
「失くした翼が、また生えてきたってことかしら?」
何処か微妙に冗談めかしたようなアリサの言葉に、翔一は薄く笑みながら「かもしれないね」と頷き、肯定する。
「…………僕は、この空をいつまでも飛んでいたい」
そして、続けて彼女に向かって呟いた。自身の胸の中に秘めた思いを、そのままの形で言葉にするみたいに。
「もし、僕に出来ることがあるのなら。僕の力が役に立って、それが誰かを守ることに繋がって。そして……この空を、ずっと飛んでいられるのなら。僕が好きで、焦がれて、守りたいと思ったこの空を、ずっとずっと飛んでいられるのなら。
――――やるよ、空間戦闘機のパイロット。僕の手で、少しでも何かが出来るのなら」
「……そう」
まるで決意表明じみた翔一の言葉に対し、ファントムの操縦桿を握るアリサの反応は短く、そして何処か素っ気ないような、複雑な心境を隠しているような感じだった。
そんな彼女の反応を聞きつつ、自分自身の決意を確かな言葉の形として紡ぎ出しつつ。しかし翔一は同時に、心の中でこうも思っていた。前席で操縦桿を握る彼女の後ろ姿を眺めながら、ふとした折に彼は……翔一は、アリサに対してこんなことを思っていたのだ。
――――君と、ずっとこの空の上を飛んでいたい。
そう、彼は確かに思っていた。
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なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。
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「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」
どうぞ、お楽しみ下さい。
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