51 / 142
Sortie-01:黒翼の舞う空
第十二章:アリサ・メイヤード/03
しおりを挟む
――――二年前の、確か五月の末頃だったと記憶している。
あの時、月近くに開いた巨大な超空間ゲートから、レギオンの大部隊が出現したのだ。超巨大な司令船、マザーシップ・タイプを伴う大船団が。
その数はマザーシップ一隻を筆頭に、空母型のキャリアー・タイプが五隻。他に戦闘機型のモスキートや爆撃機型のドラゴンフライは……キャリアーの艦載機を含めると、数えるのが面倒になるほどの膨大な数だったはずだ。
突如として出現したその大部隊は、しかしすぐに地球に侵攻を仕掛けることはせず。マザーシップとともに月面に着陸すると、そこから一歩も動かなくなった。まるで本格的な地球侵攻を前に、まずは月へ前線基地を造り上げてみせるかのように、だ。
そんな、月面に駐留を始めたレギオンの大部隊に対し――――国連統合軍の参謀本部は、すぐさま排撃作戦を実行に移した。
作戦名、オペレーション・イーグル。史上初の月面着陸ミッションを成し遂げたアポロ十一号、その着陸船『イーグル』になぞらえた作戦名だ。
その作戦に、当時は統合軍のマイアミ基地に所属していたアリサたちも当然のように駆り出された。レギオンと交戦を始めて以来、類を見ないほど大規模での攻撃作戦だ。一機居るだけでも凄まじい戦力になるESPパイロットと専用の空間戦闘機を無意味に遊ばせておくほど、当時の統合軍には余裕が無かったのだ。開戦から三年目のこの年、統合軍は今よりもずっと余裕が無かった。
マイアミ基地の滑走路を離陸し、急上昇で大気圏をあっさりと飛び越えて。漆黒の宇宙空間、編隊を組んで飛ぶ月面までの道すがら。与圧されたゴーストのコクピットの中で、後席のソフィアとこんな会話を交わしていたのを覚えている。
「ねぇアリサ、月にはまだ星条旗が残ってるって話、聞いたことある?」
「……さあね。その辺の話はあんまり詳しくないのよ、アタシ」
「んー、前にお姉ちゃんが言ってたんだ。『月にはまだ、アポロ計画で立てた星条旗が残ってる』って」
「それがもし本当だとしたら、凄く浪漫のある話ね」
「だねー。ねぇねぇアリサ、この作戦が終わったらさ、着陸した場所に行ってみない?」
「着陸した場所って……まさか、アポロ計画の?」
「そうそう。半世紀以上も前に人間がさ、ゴーストみたいに凄い戦闘機じゃなくて……普通のロケットで飛んでいって、月の上を歩いたんだよ? それってさ、とっても凄いことだと思わない?」
「……まあ、凄いとは思うけれど。でもそんな寄り道、許可が下りるとは思えないわ」
「頼めば何とかなるって! ゴーストの航続距離なんて、殆ど無限みたいなものだしさー。ちょっとぐらい寄り道したって大丈夫だよ」
「本当かしら……?」
「ぶー、そこは本当だよー。ちゃんとプロフェッサー・タテガミにも聞いてきたもん」
「…………ソフィアの口から急にそんな知的な話が出てきて、なんか変だとは思っていたけれど。そう、椿姫が絡んでるのね……」
「えへへ、そこは否定できないかな。……というかアリサ、その言い方って普段の私が知的じゃないってことじゃない!? 酷くなーい!?」
「……で、ソフィアは何処へ行きたいの?」
「もしかして、連れて行ってくれるの!?」
「もしも、寄り道の許可が下りたらね。本当にもしも、の話だけれど」
「わーい! ありがとーアリサっ! 大好き! 愛してる! 結婚してーっ!!」
「何寝ぼけたこと言ってんのよ、馬鹿」
「んー、だったら……そうだなあ。やっぱりあそこが良いかな。十一号が着陸した場所。座標データはプロフェッサー・タテガミにちゃんと聞いてきて、メモも取ってあるから。今から入力してそっちに送るね」
「了解。……月面座標、北緯〇度四〇分、二六・六九秒。東経二三度二八分、二二・六九秒。静かの海……ああ、此処ね。作戦エリアからはかなり離れてるみたいね、この場所」
「ねー。というかアリサ、ホントに連れてってくれるの?」
「許可が下りれば、の話だけれど。もし本当に上が許可を出してくれるのなら、アタシがアンタを連れていってあげるわよ」
「わーい! ありがとアリサっ! でも……本当に良いの?」
「当たり前じゃない。だって、アタシとアンタは――――」
――――二人でひとつの、翼だから。
その言葉を彼女が言い終える前に、作戦指揮に当たる統合軍の将官からの訓示が、オペレーション・イーグルに参加している全機へ広域通信の形で飛んで来たものだから。アリサはソフィアに対して言い掛けていたその言葉を、どうしても今は飲み込むしかなかった。
それでも、後で必ず言えると思っていた。帰ってから、改めてまたソフィアに今の言葉を言ってやれると。信頼と親愛を込めた今の言葉を、必ずソフィアに告げてやれると。
――――この時のアリサは、確かにそう信じていて。一欠片も、疑ってなどいなかったのだ。当たり前というものが、決して当たり前でないことを。決して永遠でないことを……この時のアリサはまだ、知らなかったのだ。
あの時、月近くに開いた巨大な超空間ゲートから、レギオンの大部隊が出現したのだ。超巨大な司令船、マザーシップ・タイプを伴う大船団が。
その数はマザーシップ一隻を筆頭に、空母型のキャリアー・タイプが五隻。他に戦闘機型のモスキートや爆撃機型のドラゴンフライは……キャリアーの艦載機を含めると、数えるのが面倒になるほどの膨大な数だったはずだ。
突如として出現したその大部隊は、しかしすぐに地球に侵攻を仕掛けることはせず。マザーシップとともに月面に着陸すると、そこから一歩も動かなくなった。まるで本格的な地球侵攻を前に、まずは月へ前線基地を造り上げてみせるかのように、だ。
そんな、月面に駐留を始めたレギオンの大部隊に対し――――国連統合軍の参謀本部は、すぐさま排撃作戦を実行に移した。
作戦名、オペレーション・イーグル。史上初の月面着陸ミッションを成し遂げたアポロ十一号、その着陸船『イーグル』になぞらえた作戦名だ。
その作戦に、当時は統合軍のマイアミ基地に所属していたアリサたちも当然のように駆り出された。レギオンと交戦を始めて以来、類を見ないほど大規模での攻撃作戦だ。一機居るだけでも凄まじい戦力になるESPパイロットと専用の空間戦闘機を無意味に遊ばせておくほど、当時の統合軍には余裕が無かったのだ。開戦から三年目のこの年、統合軍は今よりもずっと余裕が無かった。
マイアミ基地の滑走路を離陸し、急上昇で大気圏をあっさりと飛び越えて。漆黒の宇宙空間、編隊を組んで飛ぶ月面までの道すがら。与圧されたゴーストのコクピットの中で、後席のソフィアとこんな会話を交わしていたのを覚えている。
「ねぇアリサ、月にはまだ星条旗が残ってるって話、聞いたことある?」
「……さあね。その辺の話はあんまり詳しくないのよ、アタシ」
「んー、前にお姉ちゃんが言ってたんだ。『月にはまだ、アポロ計画で立てた星条旗が残ってる』って」
「それがもし本当だとしたら、凄く浪漫のある話ね」
「だねー。ねぇねぇアリサ、この作戦が終わったらさ、着陸した場所に行ってみない?」
「着陸した場所って……まさか、アポロ計画の?」
「そうそう。半世紀以上も前に人間がさ、ゴーストみたいに凄い戦闘機じゃなくて……普通のロケットで飛んでいって、月の上を歩いたんだよ? それってさ、とっても凄いことだと思わない?」
「……まあ、凄いとは思うけれど。でもそんな寄り道、許可が下りるとは思えないわ」
「頼めば何とかなるって! ゴーストの航続距離なんて、殆ど無限みたいなものだしさー。ちょっとぐらい寄り道したって大丈夫だよ」
「本当かしら……?」
「ぶー、そこは本当だよー。ちゃんとプロフェッサー・タテガミにも聞いてきたもん」
「…………ソフィアの口から急にそんな知的な話が出てきて、なんか変だとは思っていたけれど。そう、椿姫が絡んでるのね……」
「えへへ、そこは否定できないかな。……というかアリサ、その言い方って普段の私が知的じゃないってことじゃない!? 酷くなーい!?」
「……で、ソフィアは何処へ行きたいの?」
「もしかして、連れて行ってくれるの!?」
「もしも、寄り道の許可が下りたらね。本当にもしも、の話だけれど」
「わーい! ありがとーアリサっ! 大好き! 愛してる! 結婚してーっ!!」
「何寝ぼけたこと言ってんのよ、馬鹿」
「んー、だったら……そうだなあ。やっぱりあそこが良いかな。十一号が着陸した場所。座標データはプロフェッサー・タテガミにちゃんと聞いてきて、メモも取ってあるから。今から入力してそっちに送るね」
「了解。……月面座標、北緯〇度四〇分、二六・六九秒。東経二三度二八分、二二・六九秒。静かの海……ああ、此処ね。作戦エリアからはかなり離れてるみたいね、この場所」
「ねー。というかアリサ、ホントに連れてってくれるの?」
「許可が下りれば、の話だけれど。もし本当に上が許可を出してくれるのなら、アタシがアンタを連れていってあげるわよ」
「わーい! ありがとアリサっ! でも……本当に良いの?」
「当たり前じゃない。だって、アタシとアンタは――――」
――――二人でひとつの、翼だから。
その言葉を彼女が言い終える前に、作戦指揮に当たる統合軍の将官からの訓示が、オペレーション・イーグルに参加している全機へ広域通信の形で飛んで来たものだから。アリサはソフィアに対して言い掛けていたその言葉を、どうしても今は飲み込むしかなかった。
それでも、後で必ず言えると思っていた。帰ってから、改めてまたソフィアに今の言葉を言ってやれると。信頼と親愛を込めた今の言葉を、必ずソフィアに告げてやれると。
――――この時のアリサは、確かにそう信じていて。一欠片も、疑ってなどいなかったのだ。当たり前というものが、決して当たり前でないことを。決して永遠でないことを……この時のアリサはまだ、知らなかったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
神典日月神示 真実の物語
蔵屋
歴史・時代
私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。
この方たちのお名前は
大本開祖•出口なお(でぐちなお)、
神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。
この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。
昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。
その神示を纏めた書類です。
私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。
日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。
殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。
本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。
日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。
そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。
なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。
縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。
日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。
この小説は真実の物語です。
「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」
どうぞ、お楽しみ下さい。
『神知りて 人の幸せ 願うのみ
神のつたへし 愛善の道』
歌人 蔵屋日唱
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる