蒼空のイーグレット

黒陽 光

文字の大きさ
68 / 142
Sortie-01:黒翼の舞う空

第十五章:迎撃‐インターセプト‐/06

しおりを挟む
「――――司令、滑走路に進入する機体があります」
「なんだと!?」
 司令室、要隆一郎の長い沈黙を破らせ、苦い面持ちを破らせて。彼の張りのある大声を、やたらと張りのある大声をだだっ広い司令室に木霊させたのは……レーアから無感情な声で告げられた、そんな突拍子もない報告だった。
「どの機体だ!?」
「…………シリアルナンバー、08‐9225。GIS‐12Eの225番機です。……308スコードロン、榎本大尉の予備機ですね」
 意味不明な事態に狼狽する要に、レーアが淡々とした調子で報告する。
 それと同時に、島の地上にある……管制塔にあるカメラの映像がモニタに映し出されると。確かにそこに映っていたのは、黄色と黒のラインが施された派手な≪ミーティア≫。今まさに滑走路へ無断でタキシングしていく機体は、まさしく榎本の予備機だった。
「レーアくん、当該機のコクピットに回線を繋げ!」
「了解。……当該機コクピット映像、出ます」
 レーアがキーボードを軽く叩き、告げると同時に、司令室のモニタに映し出された≪ミーティア≫のコクピット。そこに映っていた正体不明のパイロットは……他でもない、あの桐山翔一だった。
「翔一くん……!?」
 とすれば、要は更に狼狽する。この状況で出撃する機体、パイロットも揃っていない状況で、まさかと思っていたが…………。
「翔一くん、止すんだ!」
『……すみません、要さん。お叱りなら後で幾らでも』
「しかし……! 君では、とても!」
 要は彼の愚行を止めようと、明らかに無謀な蛮勇としか思えない行為を止めようと、説得を図り必死の形相で叫ぶが。しかし翔一は静かに首を横に振るのみで、彼の言葉に聞く耳を持とうとはしない。
『例え無茶だとしても……それでも、行かなきゃならない。……そんな気がするんです。僕が行かなきゃ、全部駄目になるって。僕が行かなきゃ、もう二度とアリサに逢えなくなってしまうって……そんな気が、するんです』
 ――――未来予知。
 真っ直ぐな、あまりに真っ直ぐすぎる視線をモニタ越しに向けられながら彼に告げられて、要がハッと思い当たったのはそれだった。
「翔一くん。君には確か……限定的だが、未来予知の力があったな」
 だから、要は恐る恐る彼に問うてみる。もし、これがそうであるのなら――――例え無茶にも程がある博打だとしても。例え、これが勝算の低すぎる大博打だったとしても。
『それに近い、とだけ』
 ――――もし、そうであるのならば。
「…………分かった」
 だとすれば、賭けるだけの価値がある。仮にこれが、彼の若さ故の暴走だとしても。仮にこれが、彼の若気の至りで……あまりに向こう見ずで無謀な、どうしようもない蛮勇であったとしても。
 ――――もし、これが現状を打破する切っ掛けになるのであれば、賭ける価値はある。彼という可能性に、桐山翔一という……親友ともの遺した忘れ形見に、たったひとつの可能性に……賭ける価値は、ある。
 だからこそ、彼の出撃を要は許容した。彼の若さ故の無謀さを……許容し、そして賭けよう。この時確かに、要隆一郎は彼の純粋すぎるほどに純粋な、眩しいほどに真っ直ぐな視線に……その面持ちに、嘗ての親友ともの面影を重ねていたのだから。
「翔一くん。クロウ隊を…………アリサくんを、頼む」




「…………了解です」
 通信から聞こえる要の言葉に。キャノピーの片隅に表示された、司令室に詰める彼の真剣な面持ちに、こちらもまた真剣な顔で頷き返し。そして翔一は≪ミーティア≫で、フル装備で身を固めた己が翼で、蓬莱島の長い滑走路に躍り出る。
『アイランド・タワーからスピアー1、離陸を許可する。…………司令命令での特別許可だ。始末書は覚悟しておけ』
「スピアー1よりアイランド・タワー、元より覚悟の上ですから」
 翔一の返す言葉に、離陸許可を告げた管制塔の管制官は小さく笑み。そして彼に対しこう告げた。
『アイランド・タワーよりスピアー1、どうか君の空に、最大級の幸運があらんことを』
 激励じみた、管制官の放ったその粋な言葉に。翔一は「スピアー1、了解」とだけ頷き返し、そして続けて呟く。
「――――スピアー1、クリアード・フォー・テイクオフ」
 スロットルを全開まで開き、エンジン出力を最大まで叩き上げる。幾ら単発で、推力そのものもゴーストより劣るといえ……仮にもプラズマジェットエンジン、オーヴァー・テクノロジーの塊だ。その加速力は、地球上にあるどのジェット戦闘機よりも爆発的で、そして強烈にして優雅なものなのだ。
 甲高い爆音を上げ、クロースカップルド・デルタ翼の機体が滑走を開始する。
 翔一のESP能力により、機体搭載の重力制御装置・ディーンドライヴはそのリミッターを解除され、全開出力のフルスペック・モードで稼働している。だから、戦力的な意味で……既にこの≪ミーティア≫はただの≪ミーティア≫ではない。アリサの≪グレイ・ゴースト≫と同じ、一騎当千の超兵器……ESP専用機へと変わり果てたのだ。
「さあ……行こうか」
 滑走を続けていた機体はやがてふわりと浮き上がり、主脚タイヤが滑走路から離れていく。
 ギア・アップ。主脚を胴体に格納し、翔一はグッと操縦桿を引いて機首を引き上げる。その角度は九〇度近い急角度。フルスロットルでの急上昇、ハイレート・クライム――――。
 彼女と同じように、翔一は銀翼を広げて大空へと飛び立っていく。夜明けを間近に控えた薄明るい空へ、誰のものでもない――――彼自身の、大きな翼で。




(第十五章『迎撃‐インターセプト‐』了)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

 神典日月神示 真実の物語

蔵屋
歴史・時代
 私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。 この方たちのお名前は 大本開祖•出口なお(でぐちなお)、 神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。  この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。  昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。 その神示を纏めた書類です。  私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。  日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。 殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。 本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。 日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。 そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。 なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。 縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。 日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。 この小説は真実の物語です。 「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」 どうぞ、お楽しみ下さい。 『神知りて 人の幸せ 願うのみ 神のつたへし 愛善の道』  歌人 蔵屋日唱

処理中です...