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Sortie-01:黒翼の舞う空
第十六章:それでも、君と飛べるのなら/04
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「スプラッシュ・ワン! ……よし、これでこの辺りの奴らは一掃した……!」
『喜ぶのはまだ早いわよ、翔一! クロウ隊が相手してる連中を叩かなきゃならないんだから!』
「分かっている、気を抜いたつもりはない」
『なら良し! ミサイルは……まだ残ってるわね?』
「ああ。AAM‐01が四発残ってる。これが無くなったら……後はガンポッドでどうにかするさ」
『オーライ、それじゃあ行くわよ! しっかり付いて来なさいッ!』
「当然だ!」
アリサが居た空域、残っていた別働隊を手早く殲滅させた二人はエレメントを維持したまま、クロウ隊が交戦中の敵本隊の方に目掛けて急上昇。≪グレイ・ゴースト≫と≪ミーティア≫の二機で乱戦状態の中へと飛び込んでいく。
前者は元より、翔一の≪ミーティア≫はただの≪ミーティア≫だ。しかし……今は他でもない桐山翔一が、超能力者が乗り込んでいる。だから≪ミーティア≫は彼のESP能力によってディーンドライヴのリミッターが解除され、完全状態のフルスペック・モードで動いているのだ。
それは……事実上、この機体が一騎当千のESP機に変わり果てたことと同義だ。専用設計のゴーストに比べてスペック上は何もかも劣っているが、しかしこの場に在る無敵の超兵器、人類の切り札が二機に増えたことに変わりはない。
――――ならば、もう奴らに負ける理由なんて何処にもない。もう、劣勢ではなくなっているのだ。絶望的な戦いへの特攻じゃあない。これは……生き残る為の、生き抜く為の戦いなのだ。
『さあ、お出ましよ!』
「ああ!」
『散開!! 踊るわよ、翔一ッ!』
「君となら、何処でだって! ――――シーカー・オープンッ!!」
アリサ機と一旦別れ、散開。翔一はAAM‐01の赤外線画像誘導シーカーを開き、敵機のロックオンを開始する。
ジジジジ……と蝉の鳴き声にも似た電子音がコクピットに小さく響く。翔一は正面HUDの中に敵機を捉え、ロックオン――――をするだけで、しかしミサイルを撃とうとはしない。ロックオンして、脅しただけ。彼は敢えて、撃たないのだ。
「アリサ、そっちに追い込む!」
『オーケィ、ソイツはアタシに任せなさい! それよりアンタは』
「分かってる! どうやら奴らには、君のことが随分と魅力的に見えているようだ……後ろを取られかけているんだろう!?」
『流石によく見てるわね、アンタは!』
「ソイツは僕が仕留める! アリサ、君は前だけ見て飛べ!」
『ここまで来たら信じてあげるわよ、アンタのことッ!』
そう――――翔一がロックオンまでしておいて、あえて撃たなかった理由。それは、アリサ機が数機のモスキートに背中を取られかけているからだ。
幾ら状況がイーブンになったといえ、この乱戦だ。彼女がどれだけのエースとて、容易く後ろを取られても仕方ないような状況下にある。
そんな状況に於いて、余裕すら漂わせる表情でさっさと回避機動を取り、背中を取れそうで取れない距離を保っている辺り……やはり、アリサ・メイヤードは間違いなくエースのそれだ。さっきまでの切羽詰まった感じは何処へやら。今の彼女は自由に飛び回っている。翔一が憧れたように、大きな漆黒の翼を広げて。
ならば、彼女を守ってやるのは自分の仕事だ。アリサの騎士を気取るワケではないが……せめて、これぐらいのことはさせて欲しい。今まさに本人に告げたように、アリサには前だけ見て飛んでいて欲しいから。
だから翔一は、敢えて目の前の獲物を脅すだけで泳がせておいて。ロックオンに慌てて回避運動を始めたソイツをアリサに仕留めて貰いつつ……彼女の背中に食らい付いた数機を撃墜してしまおうと、そう思っての行動だったのだ。折角ミサイルを使うのなら、そちらに使ってやった方がより効果的だ。
『墜ちろぉぉぉっ!!』
急接近した彼女が、つい数秒前まで翔一がロックオンしていた敵機をガンで撃墜する。
それを視界の端に捉えながら――――尚もアリサの背中に追い縋るモスキートの群れに対し、翔一はミサイルのシーカーを向けた。今度は焦らせるだけの脅しじゃあない。確実に墜ちて貰う……!
「よし……捉えた!」
ジジジジ……という追尾中の電子音が、ピーッという甲高い音に変わる。同時に彼の見るHUDの中、モスキートの機影と重なる緑のターゲット・ボックスが赤色へと切り替わった。
――――AAM‐01、ロックオン完了。
「スピアー1、FOX2!!」
操縦桿のウェポンレリース・ボタンを親指で押し込み、ミサイル発射。主翼に四連ランチャーを介して吊したAAM‐01、手元に残った四発の内の一発が標的目掛けて≪ミーティア≫の主翼から飛んでいく。
そうすれば……多少の距離があったから、敵機は翔一の放ったミサイルに対して回避を試みたが。しかし彼が必中のタイミングで放ったのだ、外すはずがない。回避運動も虚しく、そのモスキートはAAM‐01の直撃を喰らい爆散してしまった。
「まずは一機……!」
敵機撃墜。しかし喜んでいる暇はない。まだアリサを追いかけている敵機は居る……!
「逃がすものか! スピアー1、FOX2!」
アリサを追いかける残りのモスキートに対し、翔一は続けざまにミサイルをお見舞いしてやる。残った三発全てを撃ち尽くす勢いだ。つるべ打ちの如き勢いで三発を続けざまに発射してやると、彼の放ったそれらは全て命中。アリサの背中を取ってやろうと追い縋っていたモスキートは全機、彼の手で仕留められた。
「もう大丈夫だ、アリサ!」
『馬鹿、そういうアンタが大丈夫じゃあないでしょうが!』
翔一がそう言っていると、いつの間に傍に戻ってきていたのか……アリサ機が後方から迫ってきて。とすれば彼女はガンを掃射。一瞬だけ友軍誤射でもする気かと翔一は焦ったが……。しかし撃墜されたのは翔一ではなく、彼の≪ミーティア≫のすぐ後ろに張り付いていたモスキート・タイプだった。
「後ろ……いつの間に」
『前から言ってるけれど、アンタは背中にも眼を付けなさいな。……って、こんだけ滅茶苦茶な乱戦だとそうも言ってられないか。アタシもあんまりヒトのこと言えないしね、この状況だと』
翔一に忍び寄っていた脅威を一瞬の内に取り除いてみせたアリサが、機体をスッと彼の傍に並べる。翔一が彼女に対し「すまない、助かった」と言うと、アリサは『お互い様よ』と返してくれた。
『それより、次の獲物に取り掛かるわよ。……クロウ12が囲まれてるの、見える?』
「ああ……十機以上ににタコ殴りか。確かにマズいな、これは」
『だから、アタシたちで全部墜とす。アンタは右半分、アタシは左半分。……イケるわよね?』
「当たり前だ」と翔一。「だが……出来れば左側にしてくれないか、僕の取り分は」
『どっちでも、好きな方にしなさい。……けれど、どうして?』
「元は左利きなんだ、僕はね。今は右と混じって中途半端な感じになっているけれど、左の方が何かとやりやすいんだよ」
そんな翔一の答えに、アリサは『なにそれ、馬鹿みたいにしょうもない理由』と失笑した後で、
『……でも、嫌いじゃないわ。アンタのそういうトコは』
と、微かな微笑みすら見せるぐらいに穏やかな顔と声音で、続けて彼女は呟いた。
「出来れば好きでいて欲しいな、僕としては」
『それはこれからのアンタ次第よ。……じゃあ、アンタが左半分でアタシが右半分ね』
「了解だ。騎兵隊らしい活躍を見せなきゃな」
『気概は結構! 後は踊って証明しなさい! ――――行くわよ翔一、アタシたちで全部喰らい尽くすッ!』
二機はフルスロットルで急加速し、渦中へ。十数機のモスキートに取り囲まれて……翔一が例えた通り、まさにタコ殴りの苦境に立たされているクロウ隊十二番機、コールサイン・クロウ12の救出に向かう。
「さてと、やってみるか……!」
ニヤリと小さく笑みを浮かべながら、翔一は使用兵装をガンポッド……腹下に吊した三〇ミリ口径の強力な後付けレーザー機関砲、GLP‐42/Aへと切り替える。
――――LASER RDY。
『散開! ……喉笛、噛み千切るッ!』
「仰せのままに……!」
最接近。翔一機は左に、アリサ機は右へと分かれ、クロウ12を囲んでいるそれぞれへと食らい付いていく。
「止められるものなら……!」
瞬時に標的を判断。未来予知の能力をフル活用し、視えた敵機の機動……コンマ数秒後、確実にやって来る未来位置へと照準を合わせ、翔一はトリガーを引く。
≪ミーティア≫の腹下から、緑色の強烈な閃光がフラッシュみたく断続的に瞬き始めた。
レーザーガンポッドの掃射だ。機体が予備兵装で固定装備している物とは段違いの出力で、威力も桁違い。撃ち放つレーザーの雨あられを以て翔一はモスキートを一機、また一機と撃墜していく。未来予知を使い……必要最小限の動きのみで。それこそ、居合いの達人がすれ違いざまにバッタバッタと敵を斬り伏せていくかのように。
『止めてみなさいッ!』
同じように、アリサもすれ違いざまに次々とレールガトリング機関砲でモスキートの群れを撃墜していく。もうガンの残弾は殆ど無いが……まだ、少しだけ撃てる。
『翔一、食べ残しは!?』
「二機! アリサはどうだ!?」
『一機だけよ! ……アタシの勝ちね!』
「みたいだな……! 平らげるとしよう!」
『完食しなきゃね、こういう場ではッ!』
そうしてすれ違いざま、一撃離脱気味の掃射で大半を撃墜した二人は……その先でぐるりと旋回し、互いの軌跡を交錯させ合い。高度十数万フィートの超高空に、まるで互いの軌跡で「X」の字を描くみたく軌道をクロスさせ……そして反転。今度はアリサが翔一の、翔一がアリサの辿ったコースを逆方向から攻める。互いが喰らい損なった残り物を、全て平らげる為に。
互いが互いの辿ったコースを逆方向で突き抜け、翔一はレーザーガンポッドで。アリサはレールガトリング機関砲の残弾全てを使い果たす勢いで撃ちまくり、遂にクロウ12をタコ殴りにしていた十数機のモスキートを殲滅してしまった。
――――本当に、二人のコンビネーションは息が合っているの一言だ。
一応はこれが初陣の翔一はまだまだ慣れない様子で、飛び方は拙さが抜けず、撃墜数もあまり伸びないが。しかしそこを生粋のエース・パイロットたるアリサが上手くカヴァーしていた。
それに対し、翔一はアリサから一歩引いた位置で状況を俯瞰し、適切な判断を下している。一歩離れた場所から、冷静な思考で以て。
そんな風に、互いが互いを上手く補い合っている二人のコンビネーションは……本当に、初めて組んだ二人とは思えないほどに息の合った、まさに阿吽の呼吸と言うべき完璧な連携だった。
『クロウ12、無事!? ……ではなさそうね』
「右の主翼が半分もげている。よくこれで無事に飛べるものだよ……」
『まさにディーンドライヴ様々って感じね。とにかくクロウ12、アンタはもう離脱なさい。玄関先までのエスコートならしてあげるから』
『クロウ12よりイーグレット1、スピアー1! 助かるわ、恩に着る!』
危機を救ってくれた翔一とアリサに、クロウ12――――どうやら女性パイロットらしく、少し低めの凛とした声での礼が返ってくる。
そんなクロウ12だが、今まさに翔一が口走った通り、右の主翼が半ばから吹き飛んでしまっていた。
恐らくは敵のガン……いいや、ミサイルの爆発を至近距離で喰らったのだろう。千切れた主翼の断面からは煙も噴いている。よくこれで飛べるものだが……その辺り、流石は空間戦闘機といったところだろう。まさにディーンドライヴ様々だ。
ともかく、大破したクロウ12をどうにか無事に離脱させてやらねばならない。ともすれば、せめてこの魔境めいた乱戦空域を離脱するまでは護衛してやるべきか…………。
『コスモアイより状況報告。敵損耗率、八〇パーセントを突破。皆さん、もう一息です』
『イーグレット1よりコスモアイ、クロウ12はもう駄目よ! 今から離脱させるけれど、構わないかしら!?』
『……了解、イーグレット1。クロウ12の戦域離脱を許可します。イーグレット1はそのままエスコートを。スピアー1は残るクロウ隊の援護に当たってください』
「スピアー1、了解。……ということだ、アリサ。任せたよ」
『分かってるわよ、アタシが責任持って送り届ける』
そういうことで、アリサ機が大破したクロウ12の援護に回ることになった。
この瞬時の判断、流石にレーアの判断力は素晴らしいの一言だ。余裕のある翔一機をエスコートで遊ばせておくよりも、あらゆる意味で余裕のないアリサ機を回した方が効率的だ。翔一機はミサイルこそ乱戦の末に撃ち尽くしたといえ、まだガンの弾もあるし……何より強力なガンポッドも持ち合わせている。こんな有用な戦力を遊ばせておく理由はないだろう。
だから翔一も納得して、クロウ12アリサにを任せ。今まで一緒だった彼女の≪グレイ・ゴースト≫の傍から離れていくが――――。
――――しかし、事態は二分も経たない内に急変した。
『喜ぶのはまだ早いわよ、翔一! クロウ隊が相手してる連中を叩かなきゃならないんだから!』
「分かっている、気を抜いたつもりはない」
『なら良し! ミサイルは……まだ残ってるわね?』
「ああ。AAM‐01が四発残ってる。これが無くなったら……後はガンポッドでどうにかするさ」
『オーライ、それじゃあ行くわよ! しっかり付いて来なさいッ!』
「当然だ!」
アリサが居た空域、残っていた別働隊を手早く殲滅させた二人はエレメントを維持したまま、クロウ隊が交戦中の敵本隊の方に目掛けて急上昇。≪グレイ・ゴースト≫と≪ミーティア≫の二機で乱戦状態の中へと飛び込んでいく。
前者は元より、翔一の≪ミーティア≫はただの≪ミーティア≫だ。しかし……今は他でもない桐山翔一が、超能力者が乗り込んでいる。だから≪ミーティア≫は彼のESP能力によってディーンドライヴのリミッターが解除され、完全状態のフルスペック・モードで動いているのだ。
それは……事実上、この機体が一騎当千のESP機に変わり果てたことと同義だ。専用設計のゴーストに比べてスペック上は何もかも劣っているが、しかしこの場に在る無敵の超兵器、人類の切り札が二機に増えたことに変わりはない。
――――ならば、もう奴らに負ける理由なんて何処にもない。もう、劣勢ではなくなっているのだ。絶望的な戦いへの特攻じゃあない。これは……生き残る為の、生き抜く為の戦いなのだ。
『さあ、お出ましよ!』
「ああ!」
『散開!! 踊るわよ、翔一ッ!』
「君となら、何処でだって! ――――シーカー・オープンッ!!」
アリサ機と一旦別れ、散開。翔一はAAM‐01の赤外線画像誘導シーカーを開き、敵機のロックオンを開始する。
ジジジジ……と蝉の鳴き声にも似た電子音がコクピットに小さく響く。翔一は正面HUDの中に敵機を捉え、ロックオン――――をするだけで、しかしミサイルを撃とうとはしない。ロックオンして、脅しただけ。彼は敢えて、撃たないのだ。
「アリサ、そっちに追い込む!」
『オーケィ、ソイツはアタシに任せなさい! それよりアンタは』
「分かってる! どうやら奴らには、君のことが随分と魅力的に見えているようだ……後ろを取られかけているんだろう!?」
『流石によく見てるわね、アンタは!』
「ソイツは僕が仕留める! アリサ、君は前だけ見て飛べ!」
『ここまで来たら信じてあげるわよ、アンタのことッ!』
そう――――翔一がロックオンまでしておいて、あえて撃たなかった理由。それは、アリサ機が数機のモスキートに背中を取られかけているからだ。
幾ら状況がイーブンになったといえ、この乱戦だ。彼女がどれだけのエースとて、容易く後ろを取られても仕方ないような状況下にある。
そんな状況に於いて、余裕すら漂わせる表情でさっさと回避機動を取り、背中を取れそうで取れない距離を保っている辺り……やはり、アリサ・メイヤードは間違いなくエースのそれだ。さっきまでの切羽詰まった感じは何処へやら。今の彼女は自由に飛び回っている。翔一が憧れたように、大きな漆黒の翼を広げて。
ならば、彼女を守ってやるのは自分の仕事だ。アリサの騎士を気取るワケではないが……せめて、これぐらいのことはさせて欲しい。今まさに本人に告げたように、アリサには前だけ見て飛んでいて欲しいから。
だから翔一は、敢えて目の前の獲物を脅すだけで泳がせておいて。ロックオンに慌てて回避運動を始めたソイツをアリサに仕留めて貰いつつ……彼女の背中に食らい付いた数機を撃墜してしまおうと、そう思っての行動だったのだ。折角ミサイルを使うのなら、そちらに使ってやった方がより効果的だ。
『墜ちろぉぉぉっ!!』
急接近した彼女が、つい数秒前まで翔一がロックオンしていた敵機をガンで撃墜する。
それを視界の端に捉えながら――――尚もアリサの背中に追い縋るモスキートの群れに対し、翔一はミサイルのシーカーを向けた。今度は焦らせるだけの脅しじゃあない。確実に墜ちて貰う……!
「よし……捉えた!」
ジジジジ……という追尾中の電子音が、ピーッという甲高い音に変わる。同時に彼の見るHUDの中、モスキートの機影と重なる緑のターゲット・ボックスが赤色へと切り替わった。
――――AAM‐01、ロックオン完了。
「スピアー1、FOX2!!」
操縦桿のウェポンレリース・ボタンを親指で押し込み、ミサイル発射。主翼に四連ランチャーを介して吊したAAM‐01、手元に残った四発の内の一発が標的目掛けて≪ミーティア≫の主翼から飛んでいく。
そうすれば……多少の距離があったから、敵機は翔一の放ったミサイルに対して回避を試みたが。しかし彼が必中のタイミングで放ったのだ、外すはずがない。回避運動も虚しく、そのモスキートはAAM‐01の直撃を喰らい爆散してしまった。
「まずは一機……!」
敵機撃墜。しかし喜んでいる暇はない。まだアリサを追いかけている敵機は居る……!
「逃がすものか! スピアー1、FOX2!」
アリサを追いかける残りのモスキートに対し、翔一は続けざまにミサイルをお見舞いしてやる。残った三発全てを撃ち尽くす勢いだ。つるべ打ちの如き勢いで三発を続けざまに発射してやると、彼の放ったそれらは全て命中。アリサの背中を取ってやろうと追い縋っていたモスキートは全機、彼の手で仕留められた。
「もう大丈夫だ、アリサ!」
『馬鹿、そういうアンタが大丈夫じゃあないでしょうが!』
翔一がそう言っていると、いつの間に傍に戻ってきていたのか……アリサ機が後方から迫ってきて。とすれば彼女はガンを掃射。一瞬だけ友軍誤射でもする気かと翔一は焦ったが……。しかし撃墜されたのは翔一ではなく、彼の≪ミーティア≫のすぐ後ろに張り付いていたモスキート・タイプだった。
「後ろ……いつの間に」
『前から言ってるけれど、アンタは背中にも眼を付けなさいな。……って、こんだけ滅茶苦茶な乱戦だとそうも言ってられないか。アタシもあんまりヒトのこと言えないしね、この状況だと』
翔一に忍び寄っていた脅威を一瞬の内に取り除いてみせたアリサが、機体をスッと彼の傍に並べる。翔一が彼女に対し「すまない、助かった」と言うと、アリサは『お互い様よ』と返してくれた。
『それより、次の獲物に取り掛かるわよ。……クロウ12が囲まれてるの、見える?』
「ああ……十機以上ににタコ殴りか。確かにマズいな、これは」
『だから、アタシたちで全部墜とす。アンタは右半分、アタシは左半分。……イケるわよね?』
「当たり前だ」と翔一。「だが……出来れば左側にしてくれないか、僕の取り分は」
『どっちでも、好きな方にしなさい。……けれど、どうして?』
「元は左利きなんだ、僕はね。今は右と混じって中途半端な感じになっているけれど、左の方が何かとやりやすいんだよ」
そんな翔一の答えに、アリサは『なにそれ、馬鹿みたいにしょうもない理由』と失笑した後で、
『……でも、嫌いじゃないわ。アンタのそういうトコは』
と、微かな微笑みすら見せるぐらいに穏やかな顔と声音で、続けて彼女は呟いた。
「出来れば好きでいて欲しいな、僕としては」
『それはこれからのアンタ次第よ。……じゃあ、アンタが左半分でアタシが右半分ね』
「了解だ。騎兵隊らしい活躍を見せなきゃな」
『気概は結構! 後は踊って証明しなさい! ――――行くわよ翔一、アタシたちで全部喰らい尽くすッ!』
二機はフルスロットルで急加速し、渦中へ。十数機のモスキートに取り囲まれて……翔一が例えた通り、まさにタコ殴りの苦境に立たされているクロウ隊十二番機、コールサイン・クロウ12の救出に向かう。
「さてと、やってみるか……!」
ニヤリと小さく笑みを浮かべながら、翔一は使用兵装をガンポッド……腹下に吊した三〇ミリ口径の強力な後付けレーザー機関砲、GLP‐42/Aへと切り替える。
――――LASER RDY。
『散開! ……喉笛、噛み千切るッ!』
「仰せのままに……!」
最接近。翔一機は左に、アリサ機は右へと分かれ、クロウ12を囲んでいるそれぞれへと食らい付いていく。
「止められるものなら……!」
瞬時に標的を判断。未来予知の能力をフル活用し、視えた敵機の機動……コンマ数秒後、確実にやって来る未来位置へと照準を合わせ、翔一はトリガーを引く。
≪ミーティア≫の腹下から、緑色の強烈な閃光がフラッシュみたく断続的に瞬き始めた。
レーザーガンポッドの掃射だ。機体が予備兵装で固定装備している物とは段違いの出力で、威力も桁違い。撃ち放つレーザーの雨あられを以て翔一はモスキートを一機、また一機と撃墜していく。未来予知を使い……必要最小限の動きのみで。それこそ、居合いの達人がすれ違いざまにバッタバッタと敵を斬り伏せていくかのように。
『止めてみなさいッ!』
同じように、アリサもすれ違いざまに次々とレールガトリング機関砲でモスキートの群れを撃墜していく。もうガンの残弾は殆ど無いが……まだ、少しだけ撃てる。
『翔一、食べ残しは!?』
「二機! アリサはどうだ!?」
『一機だけよ! ……アタシの勝ちね!』
「みたいだな……! 平らげるとしよう!」
『完食しなきゃね、こういう場ではッ!』
そうしてすれ違いざま、一撃離脱気味の掃射で大半を撃墜した二人は……その先でぐるりと旋回し、互いの軌跡を交錯させ合い。高度十数万フィートの超高空に、まるで互いの軌跡で「X」の字を描くみたく軌道をクロスさせ……そして反転。今度はアリサが翔一の、翔一がアリサの辿ったコースを逆方向から攻める。互いが喰らい損なった残り物を、全て平らげる為に。
互いが互いの辿ったコースを逆方向で突き抜け、翔一はレーザーガンポッドで。アリサはレールガトリング機関砲の残弾全てを使い果たす勢いで撃ちまくり、遂にクロウ12をタコ殴りにしていた十数機のモスキートを殲滅してしまった。
――――本当に、二人のコンビネーションは息が合っているの一言だ。
一応はこれが初陣の翔一はまだまだ慣れない様子で、飛び方は拙さが抜けず、撃墜数もあまり伸びないが。しかしそこを生粋のエース・パイロットたるアリサが上手くカヴァーしていた。
それに対し、翔一はアリサから一歩引いた位置で状況を俯瞰し、適切な判断を下している。一歩離れた場所から、冷静な思考で以て。
そんな風に、互いが互いを上手く補い合っている二人のコンビネーションは……本当に、初めて組んだ二人とは思えないほどに息の合った、まさに阿吽の呼吸と言うべき完璧な連携だった。
『クロウ12、無事!? ……ではなさそうね』
「右の主翼が半分もげている。よくこれで無事に飛べるものだよ……」
『まさにディーンドライヴ様々って感じね。とにかくクロウ12、アンタはもう離脱なさい。玄関先までのエスコートならしてあげるから』
『クロウ12よりイーグレット1、スピアー1! 助かるわ、恩に着る!』
危機を救ってくれた翔一とアリサに、クロウ12――――どうやら女性パイロットらしく、少し低めの凛とした声での礼が返ってくる。
そんなクロウ12だが、今まさに翔一が口走った通り、右の主翼が半ばから吹き飛んでしまっていた。
恐らくは敵のガン……いいや、ミサイルの爆発を至近距離で喰らったのだろう。千切れた主翼の断面からは煙も噴いている。よくこれで飛べるものだが……その辺り、流石は空間戦闘機といったところだろう。まさにディーンドライヴ様々だ。
ともかく、大破したクロウ12をどうにか無事に離脱させてやらねばならない。ともすれば、せめてこの魔境めいた乱戦空域を離脱するまでは護衛してやるべきか…………。
『コスモアイより状況報告。敵損耗率、八〇パーセントを突破。皆さん、もう一息です』
『イーグレット1よりコスモアイ、クロウ12はもう駄目よ! 今から離脱させるけれど、構わないかしら!?』
『……了解、イーグレット1。クロウ12の戦域離脱を許可します。イーグレット1はそのままエスコートを。スピアー1は残るクロウ隊の援護に当たってください』
「スピアー1、了解。……ということだ、アリサ。任せたよ」
『分かってるわよ、アタシが責任持って送り届ける』
そういうことで、アリサ機が大破したクロウ12の援護に回ることになった。
この瞬時の判断、流石にレーアの判断力は素晴らしいの一言だ。余裕のある翔一機をエスコートで遊ばせておくよりも、あらゆる意味で余裕のないアリサ機を回した方が効率的だ。翔一機はミサイルこそ乱戦の末に撃ち尽くしたといえ、まだガンの弾もあるし……何より強力なガンポッドも持ち合わせている。こんな有用な戦力を遊ばせておく理由はないだろう。
だから翔一も納得して、クロウ12アリサにを任せ。今まで一緒だった彼女の≪グレイ・ゴースト≫の傍から離れていくが――――。
――――しかし、事態は二分も経たない内に急変した。
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春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
神典日月神示 真実の物語
蔵屋
歴史・時代
私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。
この方たちのお名前は
大本開祖•出口なお(でぐちなお)、
神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。
この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。
昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。
その神示を纏めた書類です。
私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。
日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。
殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。
本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。
日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。
そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。
なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。
縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。
日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。
この小説は真実の物語です。
「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」
どうぞ、お楽しみ下さい。
『神知りて 人の幸せ 願うのみ
神のつたへし 愛善の道』
歌人 蔵屋日唱
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