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Sortie-02:騎士たちは西欧より来たりて
第三章:騎士たちは西欧より来たりて/01
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第三章:騎士たちは西欧より来たりて
――――それから数日後、週末は土曜日の昼頃のことだ。
「よし、今日はここまでね。お疲れ翔一」
「たまには飛ばないと、やっぱりウデも鈍るものだな……」
「最近はアンタ、ずっと後ろでサポート役ばっかだったもんね。たまにこうして前後逆にして訓練……ってのも悪くないかも。司令も何だかんだ、色々と考えてくれてるのね」
「だな」
翔一の技量維持の為の飛行訓練を終えて。アリサは蓬莱島の滑走路近くにあるエプロンに駐機した≪グレイ・ゴースト≫の傍に寄りかかりながら、少しばかり疲れ顔をした隣の彼と言葉を交わしていた。
ちなみに今日の飛行訓練だが、今まさに二人の会話の中にあった通り、普段とは前後を逆にした――――つまり、いつもは前席で操縦しているアリサが後席に乗って教官役を。逆にいつも後席でサポートに徹している翔一を前席に乗せ、ゴーストを操縦させる形での訓練だった。
目的は先に述べた通り、翔一の技量維持の為だ。彼がアリサの正式な相棒となった後も、要の提案で定期的にやっている訓練だが。パイロットしての勘を鈍らせないという意味で、確かに意味のある訓練だといえよう。翔一がアリサを伴わず、一人で飛ぶ機会がこの先無いとは限らないのだから。
「……ん?」
「何よ翔一、ボケーッとしちゃって。そんなに疲れちゃったワケ?」
「いや、そうじゃないよ。…………アリサ、あれを」
「えっ? ――――あら、アレってどう見ても」
「ゴースト、だよな」
「ええ……間違いないわ」
驚いた顔で翔一が見上げる方に、アリサも視線を向けてみると。するとその先には、こちらに向かって……蓬莱島の滑走路に向かって着陸態勢に入っている、大柄な戦闘機の姿があって。その戦闘機の機影が、どう見ても傍らにある自分たちの機体と……≪グレイ・ゴースト≫と同じだったものだから、アリサも翔一も二人並んでエプロンに立ち尽くしたまま、呆然とした顔でそのゴーストを見上げていた。
「んー、例の新しい子たちだよ」
――――誰だろう、あのゴーストに乗っているのは。
二人揃ってそんな疑問を頭に浮かべ、うーんと首を傾げていると。すると、後ろから傍に歩み寄って来た第三者の少女の口からそんな答えが告げられる。
――――立神椿姫。
アリサたちのすぐ真横に立ち、何故かスナック菓子の袋を小脇に抱えていて。その中身をぱくぱくと摘まみながら、横の二人と同じように着陸態勢の≪グレイ・ゴースト≫を遠い眼で眺める少女。いつも通りに白衣を羽織り、何故かその下には赤を基調としたセーラー服……明らかにコスプレ衣装の類としか思えないものを着ている、そんな珍妙な格好で現れた彼女が、二人の疑問を短い一言で解消してくれたのだ。
「ああ……そういえば、前に司令がそんなことを」
椿姫に言われて、アリサは以前のデブリーフィングで要が言っていたことを思い出し、合点がいったような顔をする。確か≪グレイ・ゴースト≫とESPパイロットが、ある再編計画の都合でこの基地に着任することになった……と、そんなことを要は前に言っていた。
だとすれば、今まさに減速しつつ滑走路に進入しようとしている、あの≪グレイ・ゴースト≫が、噂の彼女らということなのだろう。未だ要から詳細を聞かされていないから、どんな奴らなのかは知らないが……飛び方や雰囲気を見る限り、何となく腕前は悪くなさそうに思える。根拠なしの単なる直感に過ぎないが、少なくとも現段階でアリサはそう感じていた。
「それにしても、椿姫が外に出てくるなんて珍しいな」
そんな風に納得しているアリサの傍ら、翔一が……尚もスナック菓子を食べ続けている椿姫の方を軽く見下ろしながら、不思議そうに呟く。
実際、研究職の彼女が基地の外に出てくるなんて珍しいコトだった。
まだこの蓬莱島……正式には国連統合軍の極東方面司令基地『H‐Rアイランド』か。ともかく地下にまで広がる広大な秘密基地に出入りするようになって、翔一はまだ日が浅いといえば浅いが。しかし蓬莱島に出入りするようになってから、椿姫と知り合ってから。少なくとも翔一は一度たりとて彼女が地下基地の外に出た場面は見たことがないし、そんな話も聞いたことがない。
だから、翔一は彼女が太陽の下に出てきているのを珍しく思ったのだ。不健康なまでに青白い肌だったり、時には明らかに徹夜明けとしか思えないぐらいに物凄い隈を眼の下に作っていたり……いつもそんな風な椿姫だから、てっきり太陽とはまるで無縁の存在だと思っていたのだが。
「にゃははー、私もあの子たちのことがちょーっと気になってねー」
そんな疑問を何気なく呟いた翔一に対し、椿姫は八重歯をチラリと見せる無邪気な笑みでそう言って返す。
「それにさ、仮にも私ってゴーストの生みの親じゃん? だからさ、色んな意味で気になってたんだよね。あの子たちのゴースト……先行量産型の六号機はさ、実は一度も直に見たことないから」
「そうなのか?」
「うん、ビスケー湾基地の所属だからね。……ああっと、フランスの西側だよ」
「なるほど……」
「というか翔ちゃん、何気に酷くない? 私のこと、吸血鬼みたいに言わないでよねー。そりゃあさ、確かにいっつもラボに籠もりっきりだけど。でも私だって陽の光を浴びたくないワケじゃないんだよー? 時々は全部忘れて、気楽に日向ぼっこもしたくなるんだ」
納得したようにうんうんと唸る翔一に、にゃははと無邪気に笑う椿姫は軽く肩を竦めつつ、冗談っぽくそう言ってくる。吹き込んでくる風に、ポニーテールに結った茜色の髪を揺らしながら……ぱっちりとした空色の瞳からの視線で、翔一を見上げながら。
「悪かったよ、ちょっと偏見が過ぎたかもな」
「もうっ、ほんとだよぉ。罰として後で珈琲奢ってねー」
「構わないさ、何杯でも奢るよ」
「やっりぃ♪ あ、だったらドラ焼きも奢ってよ。大好物なんだー」
ぴょんっと軽くその場で飛び跳ねて、見た目相応……というと彼女に怒られそうだが、ともかく身長一四三センチの小柄な身体を揺らし、椿姫が無邪気に喜ぶ。
そんな彼女の方に横目の視線を流す翔一が、椿姫の子供みたいに無邪気な仕草に薄く笑んでいる傍ら――――例の≪グレイ・ゴースト≫はいつの間にやら着陸を終えていて。滑走路から離れた黒翼が、誘導路を通ってゆっくりとこちらの方へ……滑走路脇にあるエプロンの方へと向かってきていた。
――――それから数日後、週末は土曜日の昼頃のことだ。
「よし、今日はここまでね。お疲れ翔一」
「たまには飛ばないと、やっぱりウデも鈍るものだな……」
「最近はアンタ、ずっと後ろでサポート役ばっかだったもんね。たまにこうして前後逆にして訓練……ってのも悪くないかも。司令も何だかんだ、色々と考えてくれてるのね」
「だな」
翔一の技量維持の為の飛行訓練を終えて。アリサは蓬莱島の滑走路近くにあるエプロンに駐機した≪グレイ・ゴースト≫の傍に寄りかかりながら、少しばかり疲れ顔をした隣の彼と言葉を交わしていた。
ちなみに今日の飛行訓練だが、今まさに二人の会話の中にあった通り、普段とは前後を逆にした――――つまり、いつもは前席で操縦しているアリサが後席に乗って教官役を。逆にいつも後席でサポートに徹している翔一を前席に乗せ、ゴーストを操縦させる形での訓練だった。
目的は先に述べた通り、翔一の技量維持の為だ。彼がアリサの正式な相棒となった後も、要の提案で定期的にやっている訓練だが。パイロットしての勘を鈍らせないという意味で、確かに意味のある訓練だといえよう。翔一がアリサを伴わず、一人で飛ぶ機会がこの先無いとは限らないのだから。
「……ん?」
「何よ翔一、ボケーッとしちゃって。そんなに疲れちゃったワケ?」
「いや、そうじゃないよ。…………アリサ、あれを」
「えっ? ――――あら、アレってどう見ても」
「ゴースト、だよな」
「ええ……間違いないわ」
驚いた顔で翔一が見上げる方に、アリサも視線を向けてみると。するとその先には、こちらに向かって……蓬莱島の滑走路に向かって着陸態勢に入っている、大柄な戦闘機の姿があって。その戦闘機の機影が、どう見ても傍らにある自分たちの機体と……≪グレイ・ゴースト≫と同じだったものだから、アリサも翔一も二人並んでエプロンに立ち尽くしたまま、呆然とした顔でそのゴーストを見上げていた。
「んー、例の新しい子たちだよ」
――――誰だろう、あのゴーストに乗っているのは。
二人揃ってそんな疑問を頭に浮かべ、うーんと首を傾げていると。すると、後ろから傍に歩み寄って来た第三者の少女の口からそんな答えが告げられる。
――――立神椿姫。
アリサたちのすぐ真横に立ち、何故かスナック菓子の袋を小脇に抱えていて。その中身をぱくぱくと摘まみながら、横の二人と同じように着陸態勢の≪グレイ・ゴースト≫を遠い眼で眺める少女。いつも通りに白衣を羽織り、何故かその下には赤を基調としたセーラー服……明らかにコスプレ衣装の類としか思えないものを着ている、そんな珍妙な格好で現れた彼女が、二人の疑問を短い一言で解消してくれたのだ。
「ああ……そういえば、前に司令がそんなことを」
椿姫に言われて、アリサは以前のデブリーフィングで要が言っていたことを思い出し、合点がいったような顔をする。確か≪グレイ・ゴースト≫とESPパイロットが、ある再編計画の都合でこの基地に着任することになった……と、そんなことを要は前に言っていた。
だとすれば、今まさに減速しつつ滑走路に進入しようとしている、あの≪グレイ・ゴースト≫が、噂の彼女らということなのだろう。未だ要から詳細を聞かされていないから、どんな奴らなのかは知らないが……飛び方や雰囲気を見る限り、何となく腕前は悪くなさそうに思える。根拠なしの単なる直感に過ぎないが、少なくとも現段階でアリサはそう感じていた。
「それにしても、椿姫が外に出てくるなんて珍しいな」
そんな風に納得しているアリサの傍ら、翔一が……尚もスナック菓子を食べ続けている椿姫の方を軽く見下ろしながら、不思議そうに呟く。
実際、研究職の彼女が基地の外に出てくるなんて珍しいコトだった。
まだこの蓬莱島……正式には国連統合軍の極東方面司令基地『H‐Rアイランド』か。ともかく地下にまで広がる広大な秘密基地に出入りするようになって、翔一はまだ日が浅いといえば浅いが。しかし蓬莱島に出入りするようになってから、椿姫と知り合ってから。少なくとも翔一は一度たりとて彼女が地下基地の外に出た場面は見たことがないし、そんな話も聞いたことがない。
だから、翔一は彼女が太陽の下に出てきているのを珍しく思ったのだ。不健康なまでに青白い肌だったり、時には明らかに徹夜明けとしか思えないぐらいに物凄い隈を眼の下に作っていたり……いつもそんな風な椿姫だから、てっきり太陽とはまるで無縁の存在だと思っていたのだが。
「にゃははー、私もあの子たちのことがちょーっと気になってねー」
そんな疑問を何気なく呟いた翔一に対し、椿姫は八重歯をチラリと見せる無邪気な笑みでそう言って返す。
「それにさ、仮にも私ってゴーストの生みの親じゃん? だからさ、色んな意味で気になってたんだよね。あの子たちのゴースト……先行量産型の六号機はさ、実は一度も直に見たことないから」
「そうなのか?」
「うん、ビスケー湾基地の所属だからね。……ああっと、フランスの西側だよ」
「なるほど……」
「というか翔ちゃん、何気に酷くない? 私のこと、吸血鬼みたいに言わないでよねー。そりゃあさ、確かにいっつもラボに籠もりっきりだけど。でも私だって陽の光を浴びたくないワケじゃないんだよー? 時々は全部忘れて、気楽に日向ぼっこもしたくなるんだ」
納得したようにうんうんと唸る翔一に、にゃははと無邪気に笑う椿姫は軽く肩を竦めつつ、冗談っぽくそう言ってくる。吹き込んでくる風に、ポニーテールに結った茜色の髪を揺らしながら……ぱっちりとした空色の瞳からの視線で、翔一を見上げながら。
「悪かったよ、ちょっと偏見が過ぎたかもな」
「もうっ、ほんとだよぉ。罰として後で珈琲奢ってねー」
「構わないさ、何杯でも奢るよ」
「やっりぃ♪ あ、だったらドラ焼きも奢ってよ。大好物なんだー」
ぴょんっと軽くその場で飛び跳ねて、見た目相応……というと彼女に怒られそうだが、ともかく身長一四三センチの小柄な身体を揺らし、椿姫が無邪気に喜ぶ。
そんな彼女の方に横目の視線を流す翔一が、椿姫の子供みたいに無邪気な仕草に薄く笑んでいる傍ら――――例の≪グレイ・ゴースト≫はいつの間にやら着陸を終えていて。滑走路から離れた黒翼が、誘導路を通ってゆっくりとこちらの方へ……滑走路脇にあるエプロンの方へと向かってきていた。
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