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Sortie-02:騎士たちは西欧より来たりて
第五章:極東の大地、我が愛しき故郷(ふるさと)で/01
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第五章:極東の大地、我が愛しき故郷(ふるさと)で
そんな、色々と目新しいことばかりだった週末も過ぎ去って、迎えた週明けの月曜日の早朝。アリサと翔一は例によって風守学院の二年A組の教室……いつもの窓際最後尾と、そのひとつ前の席に陣取り、もう五分ほど先まで迫ってきている朝のホームルームまでの時間を、何をするでもなくだらりと過ごしていた。
「はぁー……っ」
「お疲れ気味だな、アリサ」
椅子の背もたれに肘を掛けながら振り返り、薄い笑みとともに言う翔一に対し、アリサは上半身を机に寝かせた格好のまま「当然よ……」と、彼に指摘された通りの疲労困憊な顔で返す。
「二階級の特別昇進は、まあ良いとしてもよ? 今まで一匹狼だったのがいきなり飛行隊長、それも試験部隊の隊長になっちゃったんですもの。死ぬほど面倒なデスクワークやら手続きやらのてんこ盛りで、もうホント参っちゃうわ…………」
「僕に手伝えることがあれば、幾らでも手伝うけれども」
「アンタに手伝って貰えることなら、もう全部して貰ってるわよ。アンタ自身も分かってるでしょう?」
「まあ……それは、かもしれないな」
「一応はアタシが飛行隊長だからね。そのアタシのサインが必要なあれこれが多すぎるったらないのよ……」
「ははは、大変そうだ。……まあでも、無理はしない範囲でな、アリサ」
「本気でヤバくなったら、翔一にもっと頼みごと増えるかも……」
「頼れそうなら頼って欲しいな、僕だって仮にも副隊長なんだから。僕に出来ることなら、何でも手伝うよ」
「ん、ありがと。イザって時はホント頼むわ……」
ぐでーっと机の上に上半身をうつ伏せの格好で寝かせ、朝っぱらから疲れ切った様子で脱力するアリサを眺めながら、翔一がフッと表情を綻ばせる。
実際、ここ二日ばかしのアリサはいつにも増して大変そうだった。理由は本人が言った通りだ。イーグレット隊の飛行隊長に任命された彼女に求められるデスクワークや、諸々の書類の決裁やらの数は目玉が飛び出るぐらいに多い。参謀本部肝いりの試験部隊だから、尚更のことだ。変な話……一応は普通の飛行隊であるファルコンクロウ隊、榎本の仕事量の比ではないだろう、この二日間にアリサがこなしてきた膨大なデスクワークの量は。
彼女に課せられた、そんな膨大な量のデスクワーク。一応はイーグレット隊の副隊長の立場である翔一もある程度は手伝っているのだが……まさにアリサが会話の中で言った通り、翔一じゃあ扱えないモノも多いのだ。翔一も出来る範囲は全力で彼女のことを手伝っているつもりだったが、しかし飛行隊長である彼女のサインが要る書類が多い以上、その成果はあまり芳しくなかった。
とはいえ、実際のところはアリサ、こうして仕草に見せているほど疲れてもいなかったりする。
本当にタフな女の子だと、今更になって翔一が実感しているぐらいだ。今日だって、こんな風に疲れたと言う割には……普段通りに少し早めに起きて、翔一の分と自分用の弁当二つをキッチリ用意してしまっている。
だから、彼女がこんなわざとらしいぐらいに疲れた風な態度を取るのは……ひとえに、翔一の前では無防備でいたいからなのだ。少しだけ慰めて欲しい、という気持ちもある。乙女心は複雑怪奇なのが世の常だが……その辺りのアリサの気持ちは、翔一とて多少なりとも理解出来ているつもりだった。
故に、彼は今みたいなアリサのぐでーっとした様子を見て、小さく表情を綻ばせていたのだ。
無論、彼女に言った言葉自体は全部本気も本気だ。自分に手伝えることがあるなら何でも手伝うし、アリサの為になるのなら協力は惜しまない。彼女が自分にして欲しいことがあると言えば、なんでもやってやるつもりだった。比喩とか抜きに、本当になんでもだ。
だがまあ……アリサが自分にそういうことを言ってこないだろうということも、同時に何となく理解していた。
パッと見は強気で棘の多い……それこそパーソナル・エンブレムみたく薔薇のような性格に思えるアリサだが、しかしこれでいて繊細なところがあり、何でも自分一人で抱え込んでしまう癖もある。その良い例が彼女の元相棒、ソフィア・ランチェスターにまつわる一件だ。彼女は自分一人で様々なことを抱え込んだ末に、ああしてたった独りで飛び続ける道を選んだのだ。
だからこそ、翔一は彼女のことをタフな女の子だと実感する一方で、同時に注意深くアリサのことを見て、気遣ってやらねばな……と思う。抱え込みやすい彼女の、そんな彼女の傍に居られる自分が気を付けてやらねばならないと、翔一は今こうしてアリサを眺めつつ、改めて認識していた。
尤も――――自分一人で抱え込みやすいという点に関しては、自分も決してヒトのことは言えない気がするが。
「っと、もうこんな時間か」
とまあ、そんなことを思っている内に五分なんかアッという間に過ぎ去り。いつしかチャイムが鳴り響けば、朝のホームルームの時間が訪れた。
今日も今日とて、学院での気怠い一日がこうして始まっていくのだ。いつもと変わらない、どうしようもないぐらいに平和そのものな――――しかしある意味ではとてつもなく尊い、そんな普段通りの一日が。
今日もそんな、ありふれた一日のはずだった。そのはずだったのだ。
「……転入生だって?」
「いきなり、どういうことかしら……?」
ホームルームが始まった途端、教壇に立つ担任教師がこのクラスへの転入生を紹介する、と唐突に言い放ったのだ。
その発言に首を傾げているのは、何も翔一とアリサだけじゃあない。この二年A組の教室に集まったクラスメイト全員が、担任教師の告げた突然の言葉に疑問符を浮かべていた。
皆がざわめくのも無理ないことだろう。何せこのクラスには、既に合衆国からの転入生が一人、少し前にやって来ているのだから。まあ、その転入生というのは他ならぬアリサ・メイヤードのことなのだが…………。
とにもかくにも、こうして皆がざわつくのも至極当然のことなのだ。この短期間に二人目の転入生だなんて、まずあり得ないというか……色々と奇妙に思って当然だ。
そうして翔一やアリサ、そして他のクラスメイトたち全員が、転入生というのは一体誰だろうと思っていると――――。
「……は?」
「…………冗談だろ?」
大口を開けて唖然とするアリサと翔一、そんな二人の視線の先。ガラリと教室の戸を開けてこの二年A組に現れたのは、
「よっす、俺は風見宗悟。よろしくだ」
――――――他でもない、あの風見宗悟だった。
そんな、色々と目新しいことばかりだった週末も過ぎ去って、迎えた週明けの月曜日の早朝。アリサと翔一は例によって風守学院の二年A組の教室……いつもの窓際最後尾と、そのひとつ前の席に陣取り、もう五分ほど先まで迫ってきている朝のホームルームまでの時間を、何をするでもなくだらりと過ごしていた。
「はぁー……っ」
「お疲れ気味だな、アリサ」
椅子の背もたれに肘を掛けながら振り返り、薄い笑みとともに言う翔一に対し、アリサは上半身を机に寝かせた格好のまま「当然よ……」と、彼に指摘された通りの疲労困憊な顔で返す。
「二階級の特別昇進は、まあ良いとしてもよ? 今まで一匹狼だったのがいきなり飛行隊長、それも試験部隊の隊長になっちゃったんですもの。死ぬほど面倒なデスクワークやら手続きやらのてんこ盛りで、もうホント参っちゃうわ…………」
「僕に手伝えることがあれば、幾らでも手伝うけれども」
「アンタに手伝って貰えることなら、もう全部して貰ってるわよ。アンタ自身も分かってるでしょう?」
「まあ……それは、かもしれないな」
「一応はアタシが飛行隊長だからね。そのアタシのサインが必要なあれこれが多すぎるったらないのよ……」
「ははは、大変そうだ。……まあでも、無理はしない範囲でな、アリサ」
「本気でヤバくなったら、翔一にもっと頼みごと増えるかも……」
「頼れそうなら頼って欲しいな、僕だって仮にも副隊長なんだから。僕に出来ることなら、何でも手伝うよ」
「ん、ありがと。イザって時はホント頼むわ……」
ぐでーっと机の上に上半身をうつ伏せの格好で寝かせ、朝っぱらから疲れ切った様子で脱力するアリサを眺めながら、翔一がフッと表情を綻ばせる。
実際、ここ二日ばかしのアリサはいつにも増して大変そうだった。理由は本人が言った通りだ。イーグレット隊の飛行隊長に任命された彼女に求められるデスクワークや、諸々の書類の決裁やらの数は目玉が飛び出るぐらいに多い。参謀本部肝いりの試験部隊だから、尚更のことだ。変な話……一応は普通の飛行隊であるファルコンクロウ隊、榎本の仕事量の比ではないだろう、この二日間にアリサがこなしてきた膨大なデスクワークの量は。
彼女に課せられた、そんな膨大な量のデスクワーク。一応はイーグレット隊の副隊長の立場である翔一もある程度は手伝っているのだが……まさにアリサが会話の中で言った通り、翔一じゃあ扱えないモノも多いのだ。翔一も出来る範囲は全力で彼女のことを手伝っているつもりだったが、しかし飛行隊長である彼女のサインが要る書類が多い以上、その成果はあまり芳しくなかった。
とはいえ、実際のところはアリサ、こうして仕草に見せているほど疲れてもいなかったりする。
本当にタフな女の子だと、今更になって翔一が実感しているぐらいだ。今日だって、こんな風に疲れたと言う割には……普段通りに少し早めに起きて、翔一の分と自分用の弁当二つをキッチリ用意してしまっている。
だから、彼女がこんなわざとらしいぐらいに疲れた風な態度を取るのは……ひとえに、翔一の前では無防備でいたいからなのだ。少しだけ慰めて欲しい、という気持ちもある。乙女心は複雑怪奇なのが世の常だが……その辺りのアリサの気持ちは、翔一とて多少なりとも理解出来ているつもりだった。
故に、彼は今みたいなアリサのぐでーっとした様子を見て、小さく表情を綻ばせていたのだ。
無論、彼女に言った言葉自体は全部本気も本気だ。自分に手伝えることがあるなら何でも手伝うし、アリサの為になるのなら協力は惜しまない。彼女が自分にして欲しいことがあると言えば、なんでもやってやるつもりだった。比喩とか抜きに、本当になんでもだ。
だがまあ……アリサが自分にそういうことを言ってこないだろうということも、同時に何となく理解していた。
パッと見は強気で棘の多い……それこそパーソナル・エンブレムみたく薔薇のような性格に思えるアリサだが、しかしこれでいて繊細なところがあり、何でも自分一人で抱え込んでしまう癖もある。その良い例が彼女の元相棒、ソフィア・ランチェスターにまつわる一件だ。彼女は自分一人で様々なことを抱え込んだ末に、ああしてたった独りで飛び続ける道を選んだのだ。
だからこそ、翔一は彼女のことをタフな女の子だと実感する一方で、同時に注意深くアリサのことを見て、気遣ってやらねばな……と思う。抱え込みやすい彼女の、そんな彼女の傍に居られる自分が気を付けてやらねばならないと、翔一は今こうしてアリサを眺めつつ、改めて認識していた。
尤も――――自分一人で抱え込みやすいという点に関しては、自分も決してヒトのことは言えない気がするが。
「っと、もうこんな時間か」
とまあ、そんなことを思っている内に五分なんかアッという間に過ぎ去り。いつしかチャイムが鳴り響けば、朝のホームルームの時間が訪れた。
今日も今日とて、学院での気怠い一日がこうして始まっていくのだ。いつもと変わらない、どうしようもないぐらいに平和そのものな――――しかしある意味ではとてつもなく尊い、そんな普段通りの一日が。
今日もそんな、ありふれた一日のはずだった。そのはずだったのだ。
「……転入生だって?」
「いきなり、どういうことかしら……?」
ホームルームが始まった途端、教壇に立つ担任教師がこのクラスへの転入生を紹介する、と唐突に言い放ったのだ。
その発言に首を傾げているのは、何も翔一とアリサだけじゃあない。この二年A組の教室に集まったクラスメイト全員が、担任教師の告げた突然の言葉に疑問符を浮かべていた。
皆がざわめくのも無理ないことだろう。何せこのクラスには、既に合衆国からの転入生が一人、少し前にやって来ているのだから。まあ、その転入生というのは他ならぬアリサ・メイヤードのことなのだが…………。
とにもかくにも、こうして皆がざわつくのも至極当然のことなのだ。この短期間に二人目の転入生だなんて、まずあり得ないというか……色々と奇妙に思って当然だ。
そうして翔一やアリサ、そして他のクラスメイトたち全員が、転入生というのは一体誰だろうと思っていると――――。
「……は?」
「…………冗談だろ?」
大口を開けて唖然とするアリサと翔一、そんな二人の視線の先。ガラリと教室の戸を開けてこの二年A組に現れたのは、
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