蒼空のイーグレット

黒陽 光

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Sortie-02:騎士たちは西欧より来たりて

第八章:This moment, we own it./04

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 先に歩いて行った二人と追いついた二人、アリサたち四人が駐車場から歩くこと五分……以上は掛かったか。しかし十分までは掛かっていない。とにもかくにも、そうして四人が辿り着いた先は、この港湾地帯でも一番の目玉に当たる大きな水族館だった。
 水族館は港湾地帯の中でもかなり海に近い場所に建っていて、水族館から歩いて三分ぐらいでもう岸壁という至近距離にある。海風の中に微かに漂う潮の匂いが清々しく、肌を撫でる柔風もどことなく涼しげな……そんな場所にある水族館だ。
 で、この水族館は近隣地区で最大級の売り文句に違わず、建屋から何からがやたらと大きくて広い。というか、平面的な広さでいえば此処が日本で最も広大な水族館なのだそうだ。更にとてつもなく大きな屋外水槽もあり、こちらは日本どころか世界最大級とのこと。加えて、海洋生物の研究などの学術的な面でも抜きん出た実績を有する水族館のようだ。恐らくこの規模の水族館となると……世界的な目線じゃあなければ似たような場所を探すのは難しいだろう。何にせよ、大きさも中身も凄い水族館のようだ。
 そんな水族館の裏手には少しばかり小ぢんまりとした、割に小規模な遊園地もある。加えて、徒歩数分の距離には大きなショッピングモールなんかの施設もあるから、もうこの近辺だけでも一日中遊べてしまいそうなぐらいだ。右を見ても左を見ても遊ぶ場所だらけだし、食事にも困らない。それに何よりも景色が最高だ。これなら確かに、デートスポットとして有名になるのも納得の場所だった。
 ともかく、四人はそんな水族館の正面にある緩い階段を昇り、そのまま正面入り口へ――――ではなく、入り口のすぐ脇にある入場券販売の窓口の方に足を向ける。
 窓口自体は全自動の券売機ではなく、古典的で昔ながらな人力の窓口だ。それが横並びに幾つか並んでいて、窓口自体の数も結構あるが……流石に日曜ともなればそれなりに混み合っていて、どの窓口にも多少の待機列が形成されている。とはいえ列も長蛇というワケではなく、五分も待っていれば順番が回ってくる程度の緩い待機列だった。
 そんなチケット購入の順番待ち、翔一たちは適当な待機列の最後尾に着けば、暫しの待ち時間を経て。そうすると、まずは先頭に立っていた翔一の順番が回ってきた。
「学生証は……持ってきてないな。まあいいや、大人二枚で」
 どうやら学生証の類を提示すれば多少の学割が利く料金設定のようだが、翔一を含めた四人全員、当然のように学生証なんて持ってきていない。だから窓口の前に立った翔一は、仕方なしに自分と……ついでに、真後ろで順番待ちをしていたアリサの分も一緒に。合計二枚のチケットを窓口の係員に申し出る。
「ちょっ、アタシの分まで払う気なの?」
「当然だよ」
「流石に悪いわよ、そんなの。自分の分は自分で払うから」
 完全にアリサの分まで自分が持ってやるつもりらしい翔一に対し、彼の真横まで歩み出てきたアリサは遠慮するみたいにそう言うが。しかし横目で彼女の方を一瞥した翔一は薄く表情を綻ばせると「こういう時ぐらい、僕に格好付けさせてくれ」と言い、そのままアリサを押し切って。ジーンズのポケットへ雑に突っ込んでいた幾らかの紙幣を取り出すと、自分の分とアリサの分、二人分の代金をさっさと支払ってしまった。
「君の分だ、受け取ってくれ」
 二枚の入場券を受け取り、そのまま翔一が二枚の内の片割れを隣の彼女に差し出してやると。すると差し出されたアリサの顔はやはり、翔一に対して申し訳なさそうな感じではあったが……しかし彼女の頬には、色濃い朱色が差していて。アリサは目の前の彼から視線を逸らし、それを明後日の方向に泳がせつつ。彼女は彼から目を逸らしたまま「……ありがと」と、照れくさそうに礼を言って。そうすれば彼女は漸く、翔一が差し出したその入場券を受け取った。
「へえ、やるじゃん翔一め。男前じゃん。よっし、だったら俺も負けてらんねえな。スンマッセーン! お姉さーん! 俺も大人二人分で――――」
「それには及ばないよ、宗悟。僕らのチケットならもう此処にある」
 そんな風に気を利かせた翔一と、照れくさそうなアリサとのやり取りをすぐ目の前で見ていた宗悟は、自分も負けていられないと……まさに本人が口にした通りに意気込み、自分もまた翔一のようにミレーヌの分を持とうとしたのだが。しかし後ろから彼の肩を叩いたミレーヌの、したり顔を浮かべた彼女の指には――――いつの間に用意したのか、既に水族館の入場券が二枚挟まれていた。
 当然、片方は宗悟の分だろう。知らない間に列を離れ、他の空いている窓口で先に購入していたのだろうか。ミレーヌらしくちゃっかりしているというか、何というか。宗悟がどうこうするよりも先に自分で全部済ませてしまっている辺り、本当に彼女らしいが……しかし、翔一を見て意気込んでいた宗悟本人といえば、
「おいおい、そりゃないぜ…………」
 こんな風に、全力で肩をがっくりと落としているといった有様で。そんな具合に落ち込んでいるというか、気勢を削がれたといった風な彼に対し、ミレーヌはいつものように透かした笑みを向けつつ。目の前で大袈裟なぐらいに肩を落とす宗悟に対し、彼女はいつものように皮肉っぽいというか、斜に構えたような口調で……彼にこんな言葉を投げ掛けていた。
「こういう時、格好付けるのは僕の役目だからね。君は黙ってこのチケットを受け取ってくれれば、それで良いのさ。
 だから宗悟……いいや、王子様? 僕からのささやかなプレゼント、受け取ってくれるかな?」
 ――――と、ある意味であまりにミレーヌらしい一言を。
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