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Sortie-02:騎士たちは西欧より来たりて
第十一章:オペレーション・ダイダロス/01
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第十一章:オペレーション・ダイダロス
――――地球衛星軌道上、地表から数千キロ上空。
群れを成して大気圏を突破し、重力も大気も無い真空の宇宙空間へと飛び出してきた数十機の空間戦闘機たち。真っ青な地球を背にして、国連統合軍は極東方面司令基地『H‐Rアイランド』……蓬莱島所属のイーグレット隊、ファルコンクロウ隊を初めとした空間戦闘機たちが大編隊を組んで飛んでいた。
そんな彼ら、蓬莱島飛行隊から少し離れたところには、別の基地から発進してきたであろう≪ミーティア≫の大群も見受けられる。その中には対艦戦闘目的なのか、ドデカい対艦ミサイルを吊して爆装した機体も幾らか見受けられた。敵のキャリアー・タイプが複数現れた場合は、拿捕する一隻を残してアレで撃沈してしまう構えなのだろうか。
ちなみに、同じく蓬莱島に所属している空中管制機、AWACSのQES‐767≪プロメテウス≫も上がって来ている。事前のブリーフィングにあった通り、蓬莱島所属のコールサイン・コスモアイの機体が今回の作戦の指揮に当たるようだ。尤も≪プロメテウス≫は無人機だから、実際に指揮を執るのは蓬莱島の司令室なのだが。
とにもかくにも、数えるのも面倒になるぐらいの空間戦闘機が一堂に会している。目視で見える以外の範囲にも、更なる味方機が展開しているというから驚きだ。まさに一大オペレーション、統合軍がこの作戦にどれだけの気合いを入れているのかが分かるというものだ。
――――が、実際これぐらいの気合いを入れて掛からねばならない戦いであることも、また事実だ。
予想されているだけで、敵の総数は数百、いいやひょっとすると四桁にまでなる可能性だってある。キャリアー・タイプの出現は確実で、しかもそれが予想通りに一隻か二隻だけの出現で収まってくれるとは限らない。ひょっとすれば三隻か、或いは四隻。それとも更なる数か……下手をすれば、ドデカい母船型のマザーシップ・タイプが出張ってくるかもしれないのだ。それぐらいに、今回開く超空間ゲートはかなり巨大なものになるという。
であるが故にだろう、これだけの数を揃えているのは。それ故なのだろう、対艦ミサイルで爆装した機体が不必要なぐらいに多く見受けられるのは。もし仮に、万が一にでもマザーシップ・タイプが出現した場合……対艦ミサイルを山ほどブチ込んでやらねば撃沈は出来ない。いや、場合によっては今ある数で足りないかもしれないのだ…………。
――――襲来予報は、あくまでも予報に過ぎない。
それは、この場に集った誰もが心得ていることだ。この大規模迎撃作戦、オペレーション・ダイダロスの策定時に予想した敵の数は、キャリアー・タイプが一隻ないしは二隻を中心とした大規模な集団。予想されている物量だけでも苦戦を強いられるのは必定だというのに、更にそれ以上の敵が襲来する可能性もあるとなれば……これほどの大軍勢を揃えるのも当然といえよう。
つまりは、万が一の保険という奴だ。聞くところによれば、後方には更に後詰めとして第二陣の出撃準備も整えてあるという。最悪のパターンへの備えは怠っておらず、構えは十二分に出来ているというワケだ…………。
「…………」
それを思うと、アリサはコクピットの中で小さく首を振って、今まで頭の中でぐるぐると回っていた余計な思考を外に弾き飛ばしていた。
これ以上は、自分が考えるべきことじゃない。そういう難しいことは、上の人間……それこそ参謀本部とかのお偉方が考えるべきことだ。今まさに最前線に立っている自分が出来ること、直に≪グレイ・ゴースト≫を駆り、今まさに襲来しようとしているレギオンと真っ向から相対する自分に出来ること。それはたったひとつ、戦い抜くことだけだ。それはどれだけ自分が考えてみたところで、結局は何も変わらない。戦って、戦って、戦い抜く――――ただ、それだけなのだ。
『おいおい、見ろよ朔也! すげえ数の味方だぜ!』
『……ああ。これだけ揃うと、流石に壮観だな』
『それだけ、これが大きな規模の作戦ということよ。……気を引き締めなさい、クロウ2』
『わーってるって。あいっかわらずソニアちゃんは生真面目だなあ』
『不真面目で生き残れるような戦場ではないわ、燎。……特に、今日のはね』
『へいへい、言われなくてもだぜ。……それよりゴーストのお嬢さんたち、気分はどうだい?』
榎本やソニアと普段通りの軽薄な調子で言葉を交わす、クロウ2――――クロウ隊の副隊長・生駒燎から問われ、アリサは彼に「悪くないわ」と通信越しに頷き返す。
「いつも通りにやるだけよ、それ以外にはない」
『ああそっか、アリサちゃんはオペレーション・イーグルの経験者だっけか……。ってヤベえ、俺ってば変なコト言っちゃったかな!?』
「良いわよ別に、気にしないで頂戴。……ソフィアのことなら、アタシはもう振り切ったつもりだから」
――――嘘だ。
燎の言う『オペレーション・イーグル』……二年前に月で行われた作戦の際、自分のミスで死なせてしまった元相棒。彼女の……ソフィア・ランチェスターのことを、アリサは今でも引きずっている。振り切っただなんて、とんでもない。ソフィアを死なせてしまったことは、今でも彼女の胸に深々と突き刺さり……今も尚、ズキズキと鈍い痛みを発し続けている。
だとしても、今はこう言うしかないだろう。下手に何か傷付いた風なことを言ったところで、今はお互いの……いいや、燎とアリサだけの問題じゃない。このやり取りを聞いているイーグレット隊とファルコンクロウ隊、双方のチーム全体に悪影響を及ぼしかねない。
だから、アリサは敢えてそんな嘘をついた。燎はそんな彼女に『ごっめん! マジごめんねアリサちゃん! 後で珈琲でも奢らせてちょーだいっ!』と全力で誤り倒すから、アリサはそれに「だから、気にしないでよ」と作り笑いで返してやる。
「……アリサ」
他の連中は、そんなアリサの内心には当然気付かない。宗悟とミレーヌもだ。彼ら二人は付き合いがまだ浅いし、それにクロウ隊の連中ともあまり必要以上に関わってこなかったから、気付けるはずがないのだ。
しかし、相棒である翔一だけは――――彼だけは、それに気が付いていた。
故に翔一はは広域通信を切り、こうして彼女に直接声を掛ける。気遣うように、大丈夫かと問いかけるように。
「…………大丈夫よ、そこまで動揺はしていないから」
そんな彼の方に小さく振り向きながら、アリサが小さく呟き返す。その横顔も、語気も……さっき燎に向けていたものと比べて、心なしか辛そうな感じだ。先程はわざと気丈に振る舞っている感じで、今は……敢えて綻びを見せ、弱音を吐きたいと言わんばかりの、アリサはそんな感じだった。
「しかし……」
「大丈夫だって。……そりゃあ、少しはグサッと来たけどさ。でも今のアタシにはアンタが居る。もう前みたいに一人じゃないもの。……だから、大丈夫よ。アタシを信じなさい、相棒」
「……分かった。でも辛いときはいつでも言ってくれ。君の為になら、やれるだけのことはやってみせる」
「頼りにしてるわ。……うん、大丈夫だと思う。でも、もし万が一アタシが取り乱した時は……本当に、頼むわよ」
「ああ、分かった」
二人で頷き合い、またアリサが後ろにチョイと差し出してきた握り拳に、翔一も自分の握り拳を軽く突き合わせてやる。揺るぎのない、互いへの強い信頼の証として。
そうしている内にも、彼ら二人を乗せた≪グレイ・ゴースト≫を初めとした空間戦闘機の大編隊は、どんどんと地球から離れていく。全てが生まれ、そして朽ちていく場所。母なる蒼き地球の影が、背中の向こうで段々と小さくなっていく。
故郷を、大地を離れ、此処に集った銀翼たちは各々が想いを、決意を胸に。決戦の地を目指し、群れを成して飛び立った。
群れを成す彼らの向かう先は――――L4。ラグランジュ・ポイント、第四点。
――――地球衛星軌道上、地表から数千キロ上空。
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そんな彼ら、蓬莱島飛行隊から少し離れたところには、別の基地から発進してきたであろう≪ミーティア≫の大群も見受けられる。その中には対艦戦闘目的なのか、ドデカい対艦ミサイルを吊して爆装した機体も幾らか見受けられた。敵のキャリアー・タイプが複数現れた場合は、拿捕する一隻を残してアレで撃沈してしまう構えなのだろうか。
ちなみに、同じく蓬莱島に所属している空中管制機、AWACSのQES‐767≪プロメテウス≫も上がって来ている。事前のブリーフィングにあった通り、蓬莱島所属のコールサイン・コスモアイの機体が今回の作戦の指揮に当たるようだ。尤も≪プロメテウス≫は無人機だから、実際に指揮を執るのは蓬莱島の司令室なのだが。
とにもかくにも、数えるのも面倒になるぐらいの空間戦闘機が一堂に会している。目視で見える以外の範囲にも、更なる味方機が展開しているというから驚きだ。まさに一大オペレーション、統合軍がこの作戦にどれだけの気合いを入れているのかが分かるというものだ。
――――が、実際これぐらいの気合いを入れて掛からねばならない戦いであることも、また事実だ。
予想されているだけで、敵の総数は数百、いいやひょっとすると四桁にまでなる可能性だってある。キャリアー・タイプの出現は確実で、しかもそれが予想通りに一隻か二隻だけの出現で収まってくれるとは限らない。ひょっとすれば三隻か、或いは四隻。それとも更なる数か……下手をすれば、ドデカい母船型のマザーシップ・タイプが出張ってくるかもしれないのだ。それぐらいに、今回開く超空間ゲートはかなり巨大なものになるという。
であるが故にだろう、これだけの数を揃えているのは。それ故なのだろう、対艦ミサイルで爆装した機体が不必要なぐらいに多く見受けられるのは。もし仮に、万が一にでもマザーシップ・タイプが出現した場合……対艦ミサイルを山ほどブチ込んでやらねば撃沈は出来ない。いや、場合によっては今ある数で足りないかもしれないのだ…………。
――――襲来予報は、あくまでも予報に過ぎない。
それは、この場に集った誰もが心得ていることだ。この大規模迎撃作戦、オペレーション・ダイダロスの策定時に予想した敵の数は、キャリアー・タイプが一隻ないしは二隻を中心とした大規模な集団。予想されている物量だけでも苦戦を強いられるのは必定だというのに、更にそれ以上の敵が襲来する可能性もあるとなれば……これほどの大軍勢を揃えるのも当然といえよう。
つまりは、万が一の保険という奴だ。聞くところによれば、後方には更に後詰めとして第二陣の出撃準備も整えてあるという。最悪のパターンへの備えは怠っておらず、構えは十二分に出来ているというワケだ…………。
「…………」
それを思うと、アリサはコクピットの中で小さく首を振って、今まで頭の中でぐるぐると回っていた余計な思考を外に弾き飛ばしていた。
これ以上は、自分が考えるべきことじゃない。そういう難しいことは、上の人間……それこそ参謀本部とかのお偉方が考えるべきことだ。今まさに最前線に立っている自分が出来ること、直に≪グレイ・ゴースト≫を駆り、今まさに襲来しようとしているレギオンと真っ向から相対する自分に出来ること。それはたったひとつ、戦い抜くことだけだ。それはどれだけ自分が考えてみたところで、結局は何も変わらない。戦って、戦って、戦い抜く――――ただ、それだけなのだ。
『おいおい、見ろよ朔也! すげえ数の味方だぜ!』
『……ああ。これだけ揃うと、流石に壮観だな』
『それだけ、これが大きな規模の作戦ということよ。……気を引き締めなさい、クロウ2』
『わーってるって。あいっかわらずソニアちゃんは生真面目だなあ』
『不真面目で生き残れるような戦場ではないわ、燎。……特に、今日のはね』
『へいへい、言われなくてもだぜ。……それよりゴーストのお嬢さんたち、気分はどうだい?』
榎本やソニアと普段通りの軽薄な調子で言葉を交わす、クロウ2――――クロウ隊の副隊長・生駒燎から問われ、アリサは彼に「悪くないわ」と通信越しに頷き返す。
「いつも通りにやるだけよ、それ以外にはない」
『ああそっか、アリサちゃんはオペレーション・イーグルの経験者だっけか……。ってヤベえ、俺ってば変なコト言っちゃったかな!?』
「良いわよ別に、気にしないで頂戴。……ソフィアのことなら、アタシはもう振り切ったつもりだから」
――――嘘だ。
燎の言う『オペレーション・イーグル』……二年前に月で行われた作戦の際、自分のミスで死なせてしまった元相棒。彼女の……ソフィア・ランチェスターのことを、アリサは今でも引きずっている。振り切っただなんて、とんでもない。ソフィアを死なせてしまったことは、今でも彼女の胸に深々と突き刺さり……今も尚、ズキズキと鈍い痛みを発し続けている。
だとしても、今はこう言うしかないだろう。下手に何か傷付いた風なことを言ったところで、今はお互いの……いいや、燎とアリサだけの問題じゃない。このやり取りを聞いているイーグレット隊とファルコンクロウ隊、双方のチーム全体に悪影響を及ぼしかねない。
だから、アリサは敢えてそんな嘘をついた。燎はそんな彼女に『ごっめん! マジごめんねアリサちゃん! 後で珈琲でも奢らせてちょーだいっ!』と全力で誤り倒すから、アリサはそれに「だから、気にしないでよ」と作り笑いで返してやる。
「……アリサ」
他の連中は、そんなアリサの内心には当然気付かない。宗悟とミレーヌもだ。彼ら二人は付き合いがまだ浅いし、それにクロウ隊の連中ともあまり必要以上に関わってこなかったから、気付けるはずがないのだ。
しかし、相棒である翔一だけは――――彼だけは、それに気が付いていた。
故に翔一はは広域通信を切り、こうして彼女に直接声を掛ける。気遣うように、大丈夫かと問いかけるように。
「…………大丈夫よ、そこまで動揺はしていないから」
そんな彼の方に小さく振り向きながら、アリサが小さく呟き返す。その横顔も、語気も……さっき燎に向けていたものと比べて、心なしか辛そうな感じだ。先程はわざと気丈に振る舞っている感じで、今は……敢えて綻びを見せ、弱音を吐きたいと言わんばかりの、アリサはそんな感じだった。
「しかし……」
「大丈夫だって。……そりゃあ、少しはグサッと来たけどさ。でも今のアタシにはアンタが居る。もう前みたいに一人じゃないもの。……だから、大丈夫よ。アタシを信じなさい、相棒」
「……分かった。でも辛いときはいつでも言ってくれ。君の為になら、やれるだけのことはやってみせる」
「頼りにしてるわ。……うん、大丈夫だと思う。でも、もし万が一アタシが取り乱した時は……本当に、頼むわよ」
「ああ、分かった」
二人で頷き合い、またアリサが後ろにチョイと差し出してきた握り拳に、翔一も自分の握り拳を軽く突き合わせてやる。揺るぎのない、互いへの強い信頼の証として。
そうしている内にも、彼ら二人を乗せた≪グレイ・ゴースト≫を初めとした空間戦闘機の大編隊は、どんどんと地球から離れていく。全てが生まれ、そして朽ちていく場所。母なる蒼き地球の影が、背中の向こうで段々と小さくなっていく。
故郷を、大地を離れ、此処に集った銀翼たちは各々が想いを、決意を胸に。決戦の地を目指し、群れを成して飛び立った。
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