蒼空のイーグレット

黒陽 光

文字の大きさ
134 / 142
Sortie-02:騎士たちは西欧より来たりて

第十一章:オペレーション・ダイダロス/05

しおりを挟む
『――――航空優勢、やっとこさ確保出来たみたいだ。相手の数が数だけに、楽ではなかったね』
「こっからが本番よ、ミレーヌ。油断大敵、気を引き締めていきましょう。もう暫くしたら揚陸艇がお姫様と一緒に来るはずだから」
『まるで魔法の馬車……ふふっ、筋肉ダルマのお姫様が寿司詰めってワケかい。アリサ、君にしては面白い冗談だね』
「うっさい、ンなつもりないわよ。っていうかやめてよねミレーヌ、想像したら吐きそうになっちゃったじゃない…………」
『……奇遇だね、僕もだ』
「ったく……んで翔一、機体の方は問題ないわよね?」
「…………大丈夫、まだミサイルの残弾もある程度余裕がある。やれるさ、僕らなら」
 二人の少しばかり気の抜けた会話を聞きながら、≪グレイ・ゴースト≫の後席で計器盤のモニタを指で叩く翔一が呟いて報告する。自分の真後ろから飛んで来た彼の報告に、アリサは「了解」と短く返すと。ひとまず小休止といった具合に、コクピットの中でふぅ、と小さく息をついた。
 ――――航空優勢、確保。
 他の作戦エリアは知らないが、少なくとも彼女らイーグレット隊を始めとした蓬莱島所属の部隊が受け持つこの一帯に関しては、敵モスキート・タイプの大群からの痛烈な出迎えを退け……どうにかこうにか航空優勢を確保することが出来ていた。
 現状、この宙域を飛んでいる敵モスキート・タイプの数は、最初の総数から数えて三分の一以下に減っている。残っている食べ残しの連中を、今まさに追い立てて始末している真っ最中だ。
 当然だが、こちらも無傷とはいかなかった。イーグレット隊、及びファルコンクロウ隊に関しては、幸運なことに一機たりとて欠けてはいないものの……しかし、それ以外の連中にはそれなりの被害が出てしまっている。駄目になった機体からの脱出に成功した者も多いが、中にはベイルアウトが間に合わぬまま、機と運命を共にしたパイロットも少なくない…………。
 これが、戦争なのだ。どちらの側も犠牲無しではいられない。互いに犠牲を払った先に、勝利と敗北という陳腐な結末が待ち構えている。例えそれが人間同士の戦いであっても、外宇宙からやって来た謎の敵性体との戦いであっても……相手が誰であろうと、根っこにあるその部分だけは何も変わらないのだ。
 だが、翔一はこんな戦いの最中にあっても、少しだけ安堵の気持ちを胸中に抱いていた。
 理由は簡単だ。自分たちイーグレット隊が一人も欠けていないこと。彼が小さな安堵を抱いている理由はそこにある。自分とアリサ、同じ機体で運命を共にする二人は別としても……宗悟にミレーヌ、あの二人もちゃんと五体満足で生きてくれていることが、大規模作戦の戦闘宙域という高ストレスな環境下に於いて彼を、翔一を落ち着かせている何よりもの要因だった。
 まあ冷静に考えてみれば、仮にもESP機の部隊であるこのイーグレット隊の面子がそう簡単に墜とされるはずもない。何せこの≪グレイ・ゴースト≫二機、どちらも正真正銘のエースが駆っているのだ。ESPだからって必ず生き残れるワケではない、寧ろ些細なボタンの掛け違いで容易に戦死の結末を辿ることは、ソフィア・ランチェスターの件をアリサの口から聞かされた翔一もちゃんと認識しているが……それでも、客観的に見てこの面子がそう易々と墜とされるワケがないと、今まさに彼女らの戦いぶりを目の当たりにした翔一にはそう思えて仕方がなかった。
 実際、この二機の戦いぶりは凄まじいものだった。
 アリサに関しては……延々と目の前で見てきたから、今更感もあるし割愛するが。宗悟たちの方も負けず劣らずといった勇猛果敢な戦いぶりだった。
 その一番の要因は、やはりあの二人の相性だろう。
 流石に空気のない宇宙空間だけあって、前にACM訓練で見せたようなエアロキネシスを使った意味不明な戦闘機動こそ出来ていなかったが……しかし、彼の能力はただ風を操るだけではない。その場に流れる気の流れというか……そう、まさに『空気』を読めるのだ。
 喩えるなら、超強力な第六感。文字通り後ろに眼が付いているような感じだ。流れを読んで、敵の動きを先読みする。戦い方としては、未来予知を使う翔一に近いものが無くもない。そこにミレーヌの広域空間把握能力を用いた完璧な索敵の補助が重なり合わされば……その結果どれだけの活躍を見せるかは、敢えて語るまでもないだろう。
 そんな彼らが飛ばすもう一機の≪グレイ・ゴースト≫と組むのだから、今の制空戦闘でイーグレット隊が挙げた戦果は目覚ましいものだった。
 変な話、この場に集まっていた敵機の半数近くはこの二機で平らげたと言っても過言ではない。後に作戦の第二段階、ガンマ目標の識別名が与えられた敵キャリアー・タイプに攻め入る強襲揚陸艇たちの護衛任務があるから、ミサイルの方は割に節約気味で。主に固定装備のガンや、胴体に吊したレーザーガンポッドを用いた格闘戦が多かったのだが……それにしたって、凄い戦果だった。
 今日、この僅かな時間だけで撃墜数が幾つ増えたのか……それは帰還してからちゃんと検証してみないことには分からないが、かなりの数を叩き落としたのは間違いない。
 ――――これが、ESP機が一騎当千の決戦兵器的な存在と位置づけられている何よりもの理由だ。
 たった二機ばかしで、通常機の何十倍もの戦果を挙げてしまえる存在。それがどれだけ重要な存在かは敢えて語るまでもない。強いて欠点を挙げるとすれば、操るESPパイロットそのものがとんでもなく稀少であることなのだが………。
 何にしても、それがESP機という存在だ。噂によればイーグレット隊以外にも、別の作戦エリアにも多数のESP機を投入しているという。中には世界最強のスーパー・エースと名高い『マルセイユの女神』も居るという話だ。たった二機のイーグレット隊だけでこれだけの戦果を挙げられたとなれば、参謀本部がこの『オペレーション・ダイダロス』に際し、多数のESP機を一気に投入していることにも頷けるというものだ…………。
「…………まだ、終わったわけじゃない」
 何にしても、自分らがやるべきことをやらねばならない。
 そう思うと、翔一は改めて自機の兵装状況を確認しておくことにした。別に大したことではない。あくまで残ったミサイルの確認だ。
 アリサ機に残っているのは――――短距離射程のAAM‐01が片翼につき二発ずつ、合計四発。四連ランチャーを介して吊していたから、今の戦闘で四発を消費したことになる。
 それ以外に、胴体中央へ吊した二五ミリ口径のレーザーガンポッド。これも問題無く動いているし、二〇ミリレールガトリング機関砲の残弾にもまだまだ余裕がある。割と節約を意識してアリサに戦って貰っていたが故に、あらゆる意味でこの≪グレイ・ゴースト≫にはかなりの余裕が残されていた。
 宗悟たちの方の残弾具合は知らないが……まあ、こちらと似たようなものだろう。二機ともまだまだ戦える。蓬莱島に戻って弾薬補給をする必要はなさそうだ。
『さて、漸く騎兵隊のお出ましだ』
 機体の状況確認を済ませた翔一が小さく息をついていると、ミレーヌからそんな報告が飛んでくる。
 その直後――――彼の前にあった計器盤のモニタ、そこに映し出されていたレーダー表示に新たな友軍機の反応が次々と現れる。彼らにとっての護衛対象である強襲揚陸艇。宇宙用パワードスーツに身を包んだ歩兵部隊を満載した、この作戦の要たる存在が群れを成して作戦エリアに侵入してきたことを、目の前のレーダー表示が暗に告げていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

 神典日月神示 真実の物語

蔵屋
歴史・時代
 私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。 この方たちのお名前は 大本開祖•出口なお(でぐちなお)、 神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。  この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。  昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。 その神示を纏めた書類です。  私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。  日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。 殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。 本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。 日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。 そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。 なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。 縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。 日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。 この小説は真実の物語です。 「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」 どうぞ、お楽しみ下さい。 『神知りて 人の幸せ 願うのみ 神のつたへし 愛善の道』  歌人 蔵屋日唱

処理中です...