蒼空のイーグレット

黒陽 光

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Sortie-02:騎士たちは西欧より来たりて

第十二章:HOLY LONELY LIGHT/01

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 第十二章:HOLY LONELY LIGHT


「新たなゲート……だとぉっ!?」
 蓬莱島の地下司令室に木霊する、要隆一郎の狼狽した叫び声。思わず両手でデスクを叩きながら立ち上がってしまっていた、そんな彼の方を小さく振り向きながら、レーアは普段通りの冷静な……しかし彼女にしては珍しく、一抹の焦燥感も含ませた声で「はい」と頷き返す。
「作戦エリアB‐3……確認しました、新たな超空間ゲートが当該戦域に出現しています」
「まさか、増援だとでもいうのか……!? レーアくん、敵の数は!?」
「お待ちを。――――キャリアー・タイプが一隻、ゲートより出現しました」
「時間差を置いて、新たなゲートが出現……今までになかったパターンだな…………」
 レーアの報告を聞きながら、要は立ち上がった格好のままで低く唸り声を上げていた。
 ――――戦闘中に、新たな超空間ゲートが出現した。
 五年前の開戦以来、一度として観測されてこなかった事例だ。この五年……オホーツク事変から二年間は空白だったから、実質的には三年間か。とにかく今までの戦いの中で、レギオンがそういった行動を見せたことは一度としてなかったのだ。
 基本的に、レギオンが一度の出現時に開くゲートはひとつのみ。その規模は時と場合によって変動すれど、その原則というか法則は全く変わらなかったのだ。
 だが……その規則性が今日、何の前触れもなく消え去った。
 交戦中に新たなゲートが開いたということは、つまりそういうことだ。奴らが何を考えてそうしたのか。いや、それ以前にどうして今までは次々とゲートを開こうとしなかったのか……そんなこと、考え始めればキリがない。
 その辺りのことは、分からないことだ。考えたところで分からない、答えなんて一生掛かっても出ない。出るわけがないのだ。だって人類は敵が……レギオンがどういう存在なのか、本当の意味では何も知らないのだから。
「レーアくん……新たに出現した敵集団に一番近い部隊は!?」
 だから、要は頭の中に渦巻いていた数多くの疑念を即座に思考の外へと弾き飛ばし、すぐさまレーアにそう問うていた。今は分かりっこないことで悶々としているよりも、自分のやるべきことを……基地司令として、この作戦の総指揮を与った者としてやるべきことを、出来ることをすべきだと思ったが故に。
「…………ガンマ標的突入部隊。キャスター隊と、それに随伴しているクロウ隊の護衛機が最も至近距離に在ります」
 要が問うと、レーアは淡々とした調子で答えてくれる。やはりその声音には焦燥感のような色が混ざっていたが……それでも的確に、簡潔明瞭に答えてくれる辺り、管制オペレータとして彼女は本当に優秀だった。
「なんてことだ……!」
 が、要の注意はそちらには向いていない。それよりも、今まさにレーアが呟いた報告……キャスター隊ら強襲揚陸艇の一団が、新たに出現したキャリアー・タイプに最も近いことの方が重要だった。
 司令室正面の大きなモニタに映し出されている戦域表示を見る限り、キャスター隊の傍に護衛機として居残り、随伴しているクロウ隊の数は……四機のみ。ESP機でもない彼らが、たった四機であの規模の敵を相手にすることなど絶対に不可能だ。
 だからこそ、要は焦っていた。このままでは彼らがすり潰されてしまう。どうすべきか……なんてこと、考えるまでもない。
「レーアくん、今すぐにキャスター隊を撤退させろ!」
「不可能です、司令。新たに出現したキャリアー・タイプより、敵モスキート・タイプが発艦を開始。およそ一二〇秒後にはキャスター隊と接触してしまいます」
「別のエリアからの増援は出せないか!?」
「既に動かしました。作戦エリアS‐1よりキングダム隊、及びエタンダール隊を離脱させ、救援に向かわせています」
「『マルセイユの女神』か、ありがたい……!!」
 彼女の呟いた報告を聞いた要の胸に一瞬、希望の光が灯る。
 エリアS‐1のエタンダール隊というと、あのスーパー・エースと名高いESPのエース二人組……『マルセイユの女神』の異名で恐れられている、あの二人の飛行隊のはずだ。どうやら既にあのエリアの敵キャリアーは撃沈させてしまっているようだし、そのお陰でどの作戦エリアよりも一番余裕があるのがエリアS‐1だ。増援として部隊を割いたところで、最も影響のないエリアであることには間違いないだろう。
 実力的な意味でも、作戦的な意味でも一番適した戦域からの増援だ。言わなくても動かしている辺り、流石はレーアといったところ。そんな連中が来てくれるからこそ、要は多少の安堵感を抱いていたのだが。
 ――――しかしレーアが次に放った言葉が、彼の抱いていた安堵を全て無に帰した。
「……ですが、増援の到着には早めに見積もっても、およそ六〇〇秒前後は掛かる見込みです」
「なんてことだ……! それでは、到着する頃にはキャスター隊が……!」
 ――――間に合わない。
 どう足掻いても、間に合わないのだ。例え来てくれる増援が人類最強の二人、スーパー・エースの『マルセイユの女神』だとしても、それでも時間の壁だけは超えられない。彼女らが着く頃にはもう、キャスター隊も随伴の護衛機も全滅してしまっているだろう。
「…………作戦は中止だ」
 故に、要は数秒の沈黙の後に決断し、絞り出すような声音で司令室の皆にそう告げていた。
 キャスター隊の生命いのちだけの問題じゃあない。仮に彼らを切り捨てたとしても……新たな敵艦が無傷で、しかも完全に虚を突く位置とタイミングで現れて奇襲を仕掛けて来たとあれば、これはもう作戦どころではない。このままでは横からアッパーカットで殴られる形で戦線は混乱し、崩壊。人類側の大敗北という形でこの戦いが幕を下ろしてしまうだろう。
 だからこそ、今は一旦退いて体勢を立て直し、改めて反撃を試みるべきだと……私情を抜きにした、国連統合軍の特務大佐としての彼が。この『オペレーション・ダイダロス』を与る総指揮官としての彼がそう、苦渋の決断を下していたのだが。
「作戦は中止だ! 全部隊は速やかに撤退、体勢を立て直――――」
『――――いいや、その必要はない!』
 作戦の中止を正式に告げようとして、要が声を張り上げた瞬間。そんな彼の宣言を半ばで遮ったのは、今まさに渦中にある作戦エリアB‐3からの通信だった。
『こちらクロウ1、作戦の続行を進言する!』
 彼の言葉を遮ったのは、ファルコンクロウ隊の隊長――――榎本朔也大尉から飛んで来た通信。自信と闘志に満ち溢れた、そんな彼の静かに燃え滾る声だった。
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