すべてはおわったことである

青伽

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使命終了

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「そこ行くご婦人。そうあなたでございます。私はしがない占師をやっておりまして、どうです? あなたは運命に興味なくとも、抱えていらっしゃる娘さんの運命は気になる所でしょう。
 気に入らなければお代は結構でございます。
 人というものは使命を持って生まれてくるものです。
 私が見るに、娘さんは既にその使命を全うされました。そしてあなたもです。
 その昔、貂蝉という美しい娘がおりました。あなたはその貂蝉のように、透き通った肌と顔だちをしていらっしゃる。
 その貂蝉は美しさゆえに、義父の王允によって逆賊董卓の下へ送り込まれ、董卓の配下呂布との仲を引き裂く道具として扱われました。
 無事使命を果たした貂蝉は、義父が自分を我が子と思っていないと嘆き、自害しました。
 義父の王允はそのことを悟り嘆き悲しみましたが、その悲しみを忘れるように政務に明け暮れました。
 しかし二か月後、結局は王允も亡くなりました。
 本来使命というものは全うしても、寿命は残されているものです。
 しかしながら稀に、使命を全うした後、直ぐに亡くなる者がおります。
 先ほどの王允然り、娘さんもその運命にあるのです。
 ご安心くだされ、当然回避する方法がございます。
 私がご婦人を呼び止めたのは、その為なのです。
 先ほど私はお二人を『使命を全うした』とこう表現致しました。しかしながらそれは間違いでもあるのです。
 ご婦人と娘さんのお二人は、親子となるために生まれてきたのでございます。
 すなわちそれは『使命を全うした』と言えます。
 しかし見方を変えると『使命を全うし続けている』とも言えるのです。
 つまりはお二人が、親子であり続ければ何の問題もございません。
 しかし一度お二人が長い間離れると、娘さんの命は三年と持たないことでしょう。
 嫁に出すのもいけません。息子であればと、お嘆きになられるかもしれませんが、娘として生まれたのは決められた運命ではなく、本人の意思でございます。
 親子として生まれることが使命付けられていながら、それに後ろめたさを持っておられるのです。
 娘であれば十数年で嫁げるため、あえて娘の姿を取ったのでございます。
 もし娘さんのそのような運命を憐れんで頂けるのであれば、どうか生涯手元に置いて差し上げてください。
 必ずや親孝行に励むことになるでしょう」
 そう言われ、大層美しい婦人は妙な納得感に包まれた。それを読み取った占師は、得意げに話し始めた。
「かくいう私は、幼き頃よりこの能力を身に付けました。各地を旅していた際は、占師をしながらーー」
「軍師殿ー!」
 遠くから野太い声が聞こえる。それは将軍のようだった。
「長く話過ぎてしまいました。私は別の所へ参らなければなりません。私の名でしょうか? 『亮』と申します。苗字はございません。占師というものは得てしてそういうものでございます」
 先ほどとは別の声が聞こえる。
「どこへおられます軍師殿ー!」
 人でも探しているのか、必死さが感じられた。
「それでは約束がございますので、私はこれにて。いずれ再び相見えんことを」
 代金も受け取らず、羽扇を持った男はそそくさと追われるようにその場を去った。残された親子は、微笑みを足して、平穏な日常へ戻って行った。
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みんなの感想(1件)

大林和正
2023.12.18 大林和正

主人の気持ちにそんな最期を迎える程の思いに心動かされました
その後は嬉しかったでしょう
そこまでの思いは演技では書かれてなかったですが今でも謎です
占い師があの彼というのも面白かったです
三国志は好きなのでその2次創作が思いもよらぬ形なので興味深かったです
とても面白かったです
ありがとうございます😊

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