28 / 59
XXVIII 逆さ道化
しおりを挟む
「オオオオオオオオオオ!!」
偽神の雄叫びが町中に響き渡る。その偽神は地面に手をついて逆立ちしており、不気味なピエロのメイクのような顔をしていた。目は真っ黒でどこを見ているかもわからず、三日月のような形に笑う口の中には不揃いでそれぞれが全く違う色の牙がびっしりと生えていた。胴体は異常なほどに細く、下半身から生える脚は全体を支える腕の数倍の長さを持っていた。関節がないのか、鞭のようにしなり周りの建物や物を薙ぎ倒していた。
「バカアホマヌケドジムノウヤクタタズアハハハハハ!!」
大声で罵声を上げながら偽神は口を大きく開く。すると、そこから抜け落ちた牙が地面に落ちて突き刺さる。牙が砕けて中から、全身が黒く頭だけが個別に色とりどりの不気味な魔人が姿を現した。
「おなかすいたおなかすいたおなかすいた」
「びーふしちゅー」「えびふらい」
「ぷべっ!」
奇声を上げながら魔人たちがウロウロとしていると、一匹の眉間を飛んできた矢が貫いた。
「不気味な連中ねぇ…あの偽神も、ここから見たら30mはあるわね。」
車から降りて次の矢を構えながら蘭がそう呟いた。続いて一華と息吹、ティナの執事である男性が車から顔を出す。
「全く…お嬢様が気まぐれで日本滞在を伸ばさなければ、こんな気味の悪い怪物を相手にすることもなかったというのに…。」
執事がぼやきながら腕時計を見つめる。
「そんなことより、これ以上の被害を出すわけにはいきません。応援の皆さんが集まるまでに可能な限りダメージを与えておかないと。」
一華は仕舞っていたナイフを取り出し、手首を切りつけて出血させる。
「はぁ…さっさと終わらせましょうか。」
執事は真っ先に歩き出し、執事服の内ポケットから細いナイフを数本取り出して構えた。
「アバババババッ!!」
魔人は不気味な笑顔を浮かべながら執事に向かって走り出した。
「ふんっ。」
執事はナイフを投げつけるが、魔人は首から不気味な音を鳴らしながら首を曲げてナイフを避ける。
「ギッシャァァァ!!」
魔人が口を大きく開き執事に噛みつこうとした。すると執事は表情ひとつ変えず、魔人の足を蹴って体制を崩させた。
「ホゲッ!!」
執事は慣れた手つきで魔人を掴むと、大きく振りかぶり正面に向けて投げた。すると、空中にあったナイフに魔人の頭部が突き刺さった。
「ギャァァッ!!」
「汚らしいよだれを撒き散らしながら街を歩くんじゃない。お嬢様のお気に入りである日本を貴様らの唾液で汚すことは私が許さん。」
執事は地面に落ちている手のひらサイズの瓦礫を数個山なりに投げる。すると、投げた瓦礫が空中で不自然に停止して固定された。執事はその空中で静止した瓦礫を足場に魔人の頭上に立った。
「ギヘ……ッ!」
執事は優しい笑顔で微笑むと、魔人の顔に向けてナイフを5本ほど投げつけた。しかしそのナイフは顔に刺さる寸前で停止した。
「目の前に死が迫る気分はどうだ?」
「シャァァッ!!」
執事が頭部にナイフが刺さってもがく魔人の頭上を歩いて乗り越えると、偽神が生み出した他の魔人が更に走り寄ってきた。
「ふん。」
執事が首を軽くずらす。すると、先ほどまで空中で止まっていた瓦礫が突然動き出し、先ほど投げた軌道のまま迫り来る魔人に向かって放たれた。
「ぷぎゃっ!」
執事が目の前の魔人にさらにナイフを投げつけていると、先ほどの魔人の目の前にあるナイフが突然落ちてきて顔に突き刺さった。
「失礼、忘れてましたね。」
執事が振り向いてそう呟くと、迫ってきた他の魔人に向かって放たれた矢が魔人の額を貫通した。その魔人を一華が飛び蹴りで吹き飛ばす。
「呑気してるんじゃないよロリコン羊!」
「蓮見様、私は羊ではありません執事です。そして何よりロリコンではないですお嬢様が特別麗しく愛らしく、それを敬愛しているだけです。」
「いや名前も羊みたいなもんだからおんなじでしょ。てかそういうところがロリコンなんだっつーの。」
「私の「末」はヒツジとは読みません。(本名:末春)あと断じてロリコンではなく私はお嬢様の━」
「二人とも前!危ないからー!」
蘭の言葉と同時に、二人は掴みかかろうとする魔人の腕を回避する。その瞬間末春はポケットからナイフを取り出し魔人の両目に突き刺した。その魔人の胸の皮膚を掴み、他の魔人にぶつけるように一華が投げる。
「ギュギャギャギャギャーッ!」
「ふん。」
末春は懐から細いワイヤーを取り出してまっすぐ横に伸ばす。それを顔の前まで持っていき手を離すと、空中でワイヤーが固定された。
「ルベタェマォー!」
走り寄ってきた魔人を避け、背後に回った末春が魔人を背中から一押しした。すると、空中で固定されたワイヤーによって、魔人の顔が横に引き裂かれた。
「ァァァァイタイイタイタイタァァァ!!」
顔が引き裂かれて痛みでもがき苦しむ魔人の首を一華が踏みつけ、力いっぱい足首を捻る。鈍い音と共に首の骨が取れた魔人はその場で絶命した。
「固定された物質に引き裂かれる気分はどうだ?おかわりはいくらでもありますよ。」
「まだまだ本調子じゃないけど…この程度の相手ならまだ輸血はいらないね。」
その瞬間、偽神が甲高い雄叫びを上げた。抜け落ちた牙から魔人が次々と生まれ、末春たちを集団で睨みつけた。
「二人とも!もっと連携意識しなさーい!」
「失礼しました、喜多見様。」
「こいつが突っ走るから…!」
呆れた様子で、息吹が不機嫌そうな一華の頭を優しく叩く。
「はいはーい、そのイライラは魔人たちにぶつけましょ~ね。」
「子供扱いしないでください!」
「私からしたらみんな子供だっての、ホラ次くるよ!」
全員が前に向き直り魔人の大群を見る。すると、大群の中に何者かが立っているのを見つける。
「…あれは?」
その人物はゆっくりを顔を上げる。顔には鬼のような仮面をつけ、忍装束を彷彿とさせる服に身を包んでいた。腰につけた鞘から長刀を引き抜き、こちらに向けて構える。
「あれは…!」
その瞬間、蘭が弓を構えて矢を放つ。しかし鬼面の人物はその矢を弾き飛ばして走り寄ってくる。
「やれやれ。」
正面から迫るその者に、末春がナイフを投げつける。しかしそのナイフさえも難なく弾きながら迫ってきていた。
「みんな、散るよ!」
蘭の合図に合わせて全員が魔人を倒しながらその場から離れる。
「貴方の相手は私が務めましょうか。」
末春が空中に弾かれたナイフの上に立ち、鬼面の人物を見下ろしていた。
「…私を見下ろすな、不快だ。」
「そう言わないでくださいよ、SLASH様。こうして財閥の前に姿を表すのも久しぶりでしょう?ここ数ヶ月目立った行動もしなかった[同盟]がこうして突然現れた…一体、何が目的で?」
「貴様に応える必要はない。」
SLASHと呼ばれた人物は見下ろしている末春に向けて刀を構える。末春はため息をつきながら、腰につけているポーチからナイフを取り出す。
「良いでしょう、私も今少し気が立っているんですよ。」
そう言いながら末春は空中にナイフを放り投げる。投げたナイフは固定され、さらにポーチからナイフを取り出しては投げて固定する。空中に無数のナイフが設置されていく。
「お嬢様からのお願いといえども年上の女性と組むのは私としては辛いものでして…なにぶん過去のトラウマがぶり返してしまいますから…。」
ナイフを大量に投げて空中に固定した後、まるで階段のようにナイフの峰部分を歩いてSLASHに歩み寄ってくる。その顔は爽やかな笑顔を浮かべていたが、目はどんよりとした暗い雰囲気を纏っていた。
「貴方には、私のストレス発散にお付き合い頂きましょうかね?」
末春は不気味な笑顔のままポーチに両手を突っ込んでナイフを取り出す。先ほどからナイフを大量に取り出しているが、そのポーチのサイズではナイフは2本がやっとと言ったところのサイズだった。明らかに手に握られているナイフは数十本、ポーチに入り切るものでないのは確かだった。
特級【封魔武具】[複製小袋]
「ストレス発散ショーの開始です。」
───────────────────
「あははははははははははははははひっはははははははははっ!!」
偽神が甲高い笑い声をあげ、鞭のように脚を振り回して周辺の建造物を破壊する。手でゆっくりと前に進みながら、手元の自動車などは踏み潰していた。
「うるっせぇなぁぁっ!!」
一華は[失血強化]で出血しながら肉体を強化し続けて魔人を薙ぎ倒していく。
「全く、凛泉がいないならいないで別の暴走機関車が動き出すんだからうちの組織はストッパーが欠かせないよねぇ。」
現在凛泉と空は治療に専念し動けず、碧射はジュラを襲った存在を調べるために閉鎖区域に残っていた。
「ま、戦力的には不足ってほどでもないし良いんだけど……。」
息吹はタバコの煙を勢いよく吐き出す。煙は目の前で壁のように形作られ、目の前から襲ってきた黒い銃弾を防いだ。そこには黒い仮面をつけた緑希が立っていた。
「……。」
「同盟らが追加で現れなきゃね。」
「あ、アレは…[薔薇の芽神同盟]!?」
蘭が声を上げると、背後からイバラのついた鞭が迫ってきた。蘭は鞭を避けると、背後から仮面をつけた楓が姿を現す。
「貴方達…!」
「こんにちわぁ、ご機嫌いかがかしら?イザード財閥の皆様。」
「今、最悪の機嫌だよ。厄介な敵が目の前に現れてんだから。」
息吹は緑希と楓を交互に見つめる。
(SHADOWにQUEEN…他にもいると考えると、偽神を叩くには人数不足…火力担当(一華)は突っ走ってっちゃうしよぉ…。)
「貴方達はここで捕獲します!」
「生ぬるいわよSHADOW。私たちがするのは捕獲じゃないわ…殺戮よ!」
そう叫んだQUEENが鞭を振るい上げる。息吹はタバコの煙を壁にしてその鞭を防いだ。
「はぁっ!」
その瞬間SHADOWが両手を前に突き出す。すると、両掌から光が放たれてタバコの煙によってできた壁に息吹の影が映り込んだ。
「しま…っ!」
煙の壁に映った息吹の影が立体となって飛び出し、息吹の首を掴みかかった。
「く…っ!」
「息吹さん!」
蘭が後ろに下がりながら弓を引き、息吹の影のこめかみを矢で貫いた。解放された息吹は崩れて元の影になっていく自分の影を見てバツの悪そうな顔を見せる。
「自分と同じ形の影が崩れるのって、なんか気分の良いもんじゃないねぇ。」
「ごめんなさいねー、でもそんな呑気に構えてられないわ!」
蘭にQUEENの鞭が迫り来るが、蘭は頭を下げて鞭を回避した上でその鞭に向けて矢を放ち、鞭を貫きちぎり飛ばした。
「ちぃっ!」
魔人が奇声を上げながら蘭に襲いかかるが、息吹がタバコの煙を槍状に変形させ魔人のこめかみを貫いた。
「油断大敵!」
SHADOWが白い紙に光を当てると、そこに描かれた黒い鳥が具現化し、息吹たちに襲いかかる。
「っ!」
その瞬間、発砲音と共に数匹の影の鳥が撃ち落とされた。鳥は地面に落ちると霧散して消え去った。銃声がした方向を見ると、ライフルを構えたはじめが建物から顔を出していた。
「あ~…だるい、早く終わらせて帰りたいのに。」
「ナァイスはじめちゃん!」
息吹は煙を足場にしてSHADOWに迫り、腹部に蹴りを入れる。
「ぐ…は…っ!」
「お姉さんたちを侮っちゃいけないよ?ボウヤ。」
楓は鞭を振るい、不快そうに舌打ちをした。
「実に愉快だ。」
その声を聞き、全員が振り向く。先ほどまでこちらに迫ってきていたピエロの魔人達が、ほとんどが体を真っ二つにちぎられて殺されていた。
「この戦いで私の存在意義を、君たちのボスを名乗る者に見せなければならないというのであれば…全力で舞わせてもらおう。」
「魔神…!!」
魔神は指の関節を鳴らしながら首を回して準備運動を始める。
「始めようか、同盟とやらの入団試験を。」
───────────────────
「こいつは…魔神!?」
監視カメラの映像を見ていたアイが声を荒げる。映像の魔神は監視カメラを見つめ、静かにウィンクした。こちらの声が聞こえているはずもないが、それはこちらを挑発しているように見えた。
「…増援に行きます。」
アイの後ろでモニターを見ていた紫音が出口に向かいながらそう呟いた。
「待ちなさい紫音!アンタまだ傷治りきってないのに無理は…!」
紫音は足元の影から[冥月]を具現化させ腰に携える。
「空さんや凛泉さん、志真さんも治療で動けず、碧射さんや杏奈さんは閉鎖区域に残り…魔神と遭遇した中で財閥から動けるのは私だけです。一刻も早くあの怪物を討伐しなければ…。」
紫音が歩き出そうとすると、目の前に何かが放り投げられた。それを紫音が咄嗟に受け止める。
「…?」
すると、その小さな小箱が開いて勢いよく小さな人形が紙吹雪と共に飛び出した。
「わ…っ!?」
紫音が驚いて後ろに倒れそうになるのを、箱を投げた幽子が即座に後ろ回り込み支えた。
「紫音~?ボクを置いて一人で行くなんて許さないぞ!キミが無理をする時はボクがそばにいるって決めてんだから!」
幽子は人形を拾いながら紫音に無邪気な笑顔を向ける。
「幽子…。ありがとうございます。では行きましょう。」
「ガッテンだ!」
二人は目を合わせて微笑むと、共に司令室を飛び出していった。二人が立ち去っていった後、呆れたようにため息をついた後に床を見てアイが眉間に皺を寄せる。
「…せめて片付けていきなさいよ!」
偽神の雄叫びが町中に響き渡る。その偽神は地面に手をついて逆立ちしており、不気味なピエロのメイクのような顔をしていた。目は真っ黒でどこを見ているかもわからず、三日月のような形に笑う口の中には不揃いでそれぞれが全く違う色の牙がびっしりと生えていた。胴体は異常なほどに細く、下半身から生える脚は全体を支える腕の数倍の長さを持っていた。関節がないのか、鞭のようにしなり周りの建物や物を薙ぎ倒していた。
「バカアホマヌケドジムノウヤクタタズアハハハハハ!!」
大声で罵声を上げながら偽神は口を大きく開く。すると、そこから抜け落ちた牙が地面に落ちて突き刺さる。牙が砕けて中から、全身が黒く頭だけが個別に色とりどりの不気味な魔人が姿を現した。
「おなかすいたおなかすいたおなかすいた」
「びーふしちゅー」「えびふらい」
「ぷべっ!」
奇声を上げながら魔人たちがウロウロとしていると、一匹の眉間を飛んできた矢が貫いた。
「不気味な連中ねぇ…あの偽神も、ここから見たら30mはあるわね。」
車から降りて次の矢を構えながら蘭がそう呟いた。続いて一華と息吹、ティナの執事である男性が車から顔を出す。
「全く…お嬢様が気まぐれで日本滞在を伸ばさなければ、こんな気味の悪い怪物を相手にすることもなかったというのに…。」
執事がぼやきながら腕時計を見つめる。
「そんなことより、これ以上の被害を出すわけにはいきません。応援の皆さんが集まるまでに可能な限りダメージを与えておかないと。」
一華は仕舞っていたナイフを取り出し、手首を切りつけて出血させる。
「はぁ…さっさと終わらせましょうか。」
執事は真っ先に歩き出し、執事服の内ポケットから細いナイフを数本取り出して構えた。
「アバババババッ!!」
魔人は不気味な笑顔を浮かべながら執事に向かって走り出した。
「ふんっ。」
執事はナイフを投げつけるが、魔人は首から不気味な音を鳴らしながら首を曲げてナイフを避ける。
「ギッシャァァァ!!」
魔人が口を大きく開き執事に噛みつこうとした。すると執事は表情ひとつ変えず、魔人の足を蹴って体制を崩させた。
「ホゲッ!!」
執事は慣れた手つきで魔人を掴むと、大きく振りかぶり正面に向けて投げた。すると、空中にあったナイフに魔人の頭部が突き刺さった。
「ギャァァッ!!」
「汚らしいよだれを撒き散らしながら街を歩くんじゃない。お嬢様のお気に入りである日本を貴様らの唾液で汚すことは私が許さん。」
執事は地面に落ちている手のひらサイズの瓦礫を数個山なりに投げる。すると、投げた瓦礫が空中で不自然に停止して固定された。執事はその空中で静止した瓦礫を足場に魔人の頭上に立った。
「ギヘ……ッ!」
執事は優しい笑顔で微笑むと、魔人の顔に向けてナイフを5本ほど投げつけた。しかしそのナイフは顔に刺さる寸前で停止した。
「目の前に死が迫る気分はどうだ?」
「シャァァッ!!」
執事が頭部にナイフが刺さってもがく魔人の頭上を歩いて乗り越えると、偽神が生み出した他の魔人が更に走り寄ってきた。
「ふん。」
執事が首を軽くずらす。すると、先ほどまで空中で止まっていた瓦礫が突然動き出し、先ほど投げた軌道のまま迫り来る魔人に向かって放たれた。
「ぷぎゃっ!」
執事が目の前の魔人にさらにナイフを投げつけていると、先ほどの魔人の目の前にあるナイフが突然落ちてきて顔に突き刺さった。
「失礼、忘れてましたね。」
執事が振り向いてそう呟くと、迫ってきた他の魔人に向かって放たれた矢が魔人の額を貫通した。その魔人を一華が飛び蹴りで吹き飛ばす。
「呑気してるんじゃないよロリコン羊!」
「蓮見様、私は羊ではありません執事です。そして何よりロリコンではないですお嬢様が特別麗しく愛らしく、それを敬愛しているだけです。」
「いや名前も羊みたいなもんだからおんなじでしょ。てかそういうところがロリコンなんだっつーの。」
「私の「末」はヒツジとは読みません。(本名:末春)あと断じてロリコンではなく私はお嬢様の━」
「二人とも前!危ないからー!」
蘭の言葉と同時に、二人は掴みかかろうとする魔人の腕を回避する。その瞬間末春はポケットからナイフを取り出し魔人の両目に突き刺した。その魔人の胸の皮膚を掴み、他の魔人にぶつけるように一華が投げる。
「ギュギャギャギャギャーッ!」
「ふん。」
末春は懐から細いワイヤーを取り出してまっすぐ横に伸ばす。それを顔の前まで持っていき手を離すと、空中でワイヤーが固定された。
「ルベタェマォー!」
走り寄ってきた魔人を避け、背後に回った末春が魔人を背中から一押しした。すると、空中で固定されたワイヤーによって、魔人の顔が横に引き裂かれた。
「ァァァァイタイイタイタイタァァァ!!」
顔が引き裂かれて痛みでもがき苦しむ魔人の首を一華が踏みつけ、力いっぱい足首を捻る。鈍い音と共に首の骨が取れた魔人はその場で絶命した。
「固定された物質に引き裂かれる気分はどうだ?おかわりはいくらでもありますよ。」
「まだまだ本調子じゃないけど…この程度の相手ならまだ輸血はいらないね。」
その瞬間、偽神が甲高い雄叫びを上げた。抜け落ちた牙から魔人が次々と生まれ、末春たちを集団で睨みつけた。
「二人とも!もっと連携意識しなさーい!」
「失礼しました、喜多見様。」
「こいつが突っ走るから…!」
呆れた様子で、息吹が不機嫌そうな一華の頭を優しく叩く。
「はいはーい、そのイライラは魔人たちにぶつけましょ~ね。」
「子供扱いしないでください!」
「私からしたらみんな子供だっての、ホラ次くるよ!」
全員が前に向き直り魔人の大群を見る。すると、大群の中に何者かが立っているのを見つける。
「…あれは?」
その人物はゆっくりを顔を上げる。顔には鬼のような仮面をつけ、忍装束を彷彿とさせる服に身を包んでいた。腰につけた鞘から長刀を引き抜き、こちらに向けて構える。
「あれは…!」
その瞬間、蘭が弓を構えて矢を放つ。しかし鬼面の人物はその矢を弾き飛ばして走り寄ってくる。
「やれやれ。」
正面から迫るその者に、末春がナイフを投げつける。しかしそのナイフさえも難なく弾きながら迫ってきていた。
「みんな、散るよ!」
蘭の合図に合わせて全員が魔人を倒しながらその場から離れる。
「貴方の相手は私が務めましょうか。」
末春が空中に弾かれたナイフの上に立ち、鬼面の人物を見下ろしていた。
「…私を見下ろすな、不快だ。」
「そう言わないでくださいよ、SLASH様。こうして財閥の前に姿を表すのも久しぶりでしょう?ここ数ヶ月目立った行動もしなかった[同盟]がこうして突然現れた…一体、何が目的で?」
「貴様に応える必要はない。」
SLASHと呼ばれた人物は見下ろしている末春に向けて刀を構える。末春はため息をつきながら、腰につけているポーチからナイフを取り出す。
「良いでしょう、私も今少し気が立っているんですよ。」
そう言いながら末春は空中にナイフを放り投げる。投げたナイフは固定され、さらにポーチからナイフを取り出しては投げて固定する。空中に無数のナイフが設置されていく。
「お嬢様からのお願いといえども年上の女性と組むのは私としては辛いものでして…なにぶん過去のトラウマがぶり返してしまいますから…。」
ナイフを大量に投げて空中に固定した後、まるで階段のようにナイフの峰部分を歩いてSLASHに歩み寄ってくる。その顔は爽やかな笑顔を浮かべていたが、目はどんよりとした暗い雰囲気を纏っていた。
「貴方には、私のストレス発散にお付き合い頂きましょうかね?」
末春は不気味な笑顔のままポーチに両手を突っ込んでナイフを取り出す。先ほどからナイフを大量に取り出しているが、そのポーチのサイズではナイフは2本がやっとと言ったところのサイズだった。明らかに手に握られているナイフは数十本、ポーチに入り切るものでないのは確かだった。
特級【封魔武具】[複製小袋]
「ストレス発散ショーの開始です。」
───────────────────
「あははははははははははははははひっはははははははははっ!!」
偽神が甲高い笑い声をあげ、鞭のように脚を振り回して周辺の建造物を破壊する。手でゆっくりと前に進みながら、手元の自動車などは踏み潰していた。
「うるっせぇなぁぁっ!!」
一華は[失血強化]で出血しながら肉体を強化し続けて魔人を薙ぎ倒していく。
「全く、凛泉がいないならいないで別の暴走機関車が動き出すんだからうちの組織はストッパーが欠かせないよねぇ。」
現在凛泉と空は治療に専念し動けず、碧射はジュラを襲った存在を調べるために閉鎖区域に残っていた。
「ま、戦力的には不足ってほどでもないし良いんだけど……。」
息吹はタバコの煙を勢いよく吐き出す。煙は目の前で壁のように形作られ、目の前から襲ってきた黒い銃弾を防いだ。そこには黒い仮面をつけた緑希が立っていた。
「……。」
「同盟らが追加で現れなきゃね。」
「あ、アレは…[薔薇の芽神同盟]!?」
蘭が声を上げると、背後からイバラのついた鞭が迫ってきた。蘭は鞭を避けると、背後から仮面をつけた楓が姿を現す。
「貴方達…!」
「こんにちわぁ、ご機嫌いかがかしら?イザード財閥の皆様。」
「今、最悪の機嫌だよ。厄介な敵が目の前に現れてんだから。」
息吹は緑希と楓を交互に見つめる。
(SHADOWにQUEEN…他にもいると考えると、偽神を叩くには人数不足…火力担当(一華)は突っ走ってっちゃうしよぉ…。)
「貴方達はここで捕獲します!」
「生ぬるいわよSHADOW。私たちがするのは捕獲じゃないわ…殺戮よ!」
そう叫んだQUEENが鞭を振るい上げる。息吹はタバコの煙を壁にしてその鞭を防いだ。
「はぁっ!」
その瞬間SHADOWが両手を前に突き出す。すると、両掌から光が放たれてタバコの煙によってできた壁に息吹の影が映り込んだ。
「しま…っ!」
煙の壁に映った息吹の影が立体となって飛び出し、息吹の首を掴みかかった。
「く…っ!」
「息吹さん!」
蘭が後ろに下がりながら弓を引き、息吹の影のこめかみを矢で貫いた。解放された息吹は崩れて元の影になっていく自分の影を見てバツの悪そうな顔を見せる。
「自分と同じ形の影が崩れるのって、なんか気分の良いもんじゃないねぇ。」
「ごめんなさいねー、でもそんな呑気に構えてられないわ!」
蘭にQUEENの鞭が迫り来るが、蘭は頭を下げて鞭を回避した上でその鞭に向けて矢を放ち、鞭を貫きちぎり飛ばした。
「ちぃっ!」
魔人が奇声を上げながら蘭に襲いかかるが、息吹がタバコの煙を槍状に変形させ魔人のこめかみを貫いた。
「油断大敵!」
SHADOWが白い紙に光を当てると、そこに描かれた黒い鳥が具現化し、息吹たちに襲いかかる。
「っ!」
その瞬間、発砲音と共に数匹の影の鳥が撃ち落とされた。鳥は地面に落ちると霧散して消え去った。銃声がした方向を見ると、ライフルを構えたはじめが建物から顔を出していた。
「あ~…だるい、早く終わらせて帰りたいのに。」
「ナァイスはじめちゃん!」
息吹は煙を足場にしてSHADOWに迫り、腹部に蹴りを入れる。
「ぐ…は…っ!」
「お姉さんたちを侮っちゃいけないよ?ボウヤ。」
楓は鞭を振るい、不快そうに舌打ちをした。
「実に愉快だ。」
その声を聞き、全員が振り向く。先ほどまでこちらに迫ってきていたピエロの魔人達が、ほとんどが体を真っ二つにちぎられて殺されていた。
「この戦いで私の存在意義を、君たちのボスを名乗る者に見せなければならないというのであれば…全力で舞わせてもらおう。」
「魔神…!!」
魔神は指の関節を鳴らしながら首を回して準備運動を始める。
「始めようか、同盟とやらの入団試験を。」
───────────────────
「こいつは…魔神!?」
監視カメラの映像を見ていたアイが声を荒げる。映像の魔神は監視カメラを見つめ、静かにウィンクした。こちらの声が聞こえているはずもないが、それはこちらを挑発しているように見えた。
「…増援に行きます。」
アイの後ろでモニターを見ていた紫音が出口に向かいながらそう呟いた。
「待ちなさい紫音!アンタまだ傷治りきってないのに無理は…!」
紫音は足元の影から[冥月]を具現化させ腰に携える。
「空さんや凛泉さん、志真さんも治療で動けず、碧射さんや杏奈さんは閉鎖区域に残り…魔神と遭遇した中で財閥から動けるのは私だけです。一刻も早くあの怪物を討伐しなければ…。」
紫音が歩き出そうとすると、目の前に何かが放り投げられた。それを紫音が咄嗟に受け止める。
「…?」
すると、その小さな小箱が開いて勢いよく小さな人形が紙吹雪と共に飛び出した。
「わ…っ!?」
紫音が驚いて後ろに倒れそうになるのを、箱を投げた幽子が即座に後ろ回り込み支えた。
「紫音~?ボクを置いて一人で行くなんて許さないぞ!キミが無理をする時はボクがそばにいるって決めてんだから!」
幽子は人形を拾いながら紫音に無邪気な笑顔を向ける。
「幽子…。ありがとうございます。では行きましょう。」
「ガッテンだ!」
二人は目を合わせて微笑むと、共に司令室を飛び出していった。二人が立ち去っていった後、呆れたようにため息をついた後に床を見てアイが眉間に皺を寄せる。
「…せめて片付けていきなさいよ!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる