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第五十七話 無用堂(むようどう)
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「おじゃましまーす……」
先に建物の中へ入っていたフロノの後に続き、私は恐る恐る店内へ足を踏み入れる。
若干埃っぽく、薄暗い建物の中にあったのは、整然と棚に収められた大量の本だった。
人が一人通れるかどうかという間隔で並んだ背丈の高い本棚からは、少し気圧されるような威圧感を受ける。
(すごい……。本の数ならアピロさんの屋敷の方が多いかもしれないけど、狭い場所にこれだけ詰め込まれているせいか、感じる雰囲気が全然違う)
歩を進め、奥へと向かいながら並ぶ本へ視線をやる。
棚に収められている本は、非常に分厚いものや極端に薄いもの、厚手の革表紙で飾られた高級そうなものから、ボロボロで手に取れば崩れてしまいそうなものまで、実にさまざまだ。
「というか、フロノは? ねえフロノ、どこにいるの?」
そこまで大きな声を出したつもりはなかったが、静かなうえに室内が狭かったため、私の声は店内に反響してこだました。
そんな時だった。
「おや、お客さんかな」
「ひぇえっ!?」
目の前の暗がりから、突然声がした。
思わず妙な悲鳴を上げてしまう。
その声の主は、暗がりの中から姿を現した一人の女性だった。
黒い服に黒い髪。けれど服の合間からのぞく肌は白く際立ち、頭には絵本で見たような黒いとんがり帽子。
大人びた艶を帯びた顔立ちと相まって、まさに“魔女”と呼ぶにふさわしい出で立ちだった。
「ごめんごめん、脅かすつもりはなかったんだ。大丈夫かい?」
「だっ、大丈夫です。こちらこそすみません、ちょっと驚いちゃって」
「はは、ちょっとじゃなかったようだけどね。まあ、何事もないなら何よりさ」
「あの、もしかしてここの店員さんですか?」
「まあ、そんなところかな。ところで君はお客さん、ということでいいんだよね? わざわざこんな店に来るなんて、妙な品物でもお探しかな?」
「妙な品物?」
「ん? なんだ、違うのかい?」
「えっと、実はこの街でおすすめのお店だって、友達に勧められて寄ってみたんです」
「この店をおすすめ? それはまた……君の友達、なかなかの変わり者じゃないか?」
「そう言われると、確かに変わり者のような気が……」
――変わり者じゃないっすよ!
と全力で否定するキャトの顔が、頭に浮かんだ。
「あの、その“妙な品物”ってどういう意味なんですか?」
「ああ、この店はね、簡単に言えば雑貨屋なんだ」
「雑貨屋?」
「そう。ただの雑貨屋じゃない。うちが扱うのは、いろいろな魔法関係の物品さ。
その中でも特別に妙な品――役に立ちそうで立たなかったり、はたまた役に立たなさそうで、やっぱり役に立たなかったり。
一部のマニアだけが欲しがりそうな品を扱う店。人呼んで――」
女性は小さく肩をすくめ、楽しげに笑う。
「無用堂(むようどう)、とでも言ったところかな」
先に建物の中へ入っていたフロノの後に続き、私は恐る恐る店内へ足を踏み入れる。
若干埃っぽく、薄暗い建物の中にあったのは、整然と棚に収められた大量の本だった。
人が一人通れるかどうかという間隔で並んだ背丈の高い本棚からは、少し気圧されるような威圧感を受ける。
(すごい……。本の数ならアピロさんの屋敷の方が多いかもしれないけど、狭い場所にこれだけ詰め込まれているせいか、感じる雰囲気が全然違う)
歩を進め、奥へと向かいながら並ぶ本へ視線をやる。
棚に収められている本は、非常に分厚いものや極端に薄いもの、厚手の革表紙で飾られた高級そうなものから、ボロボロで手に取れば崩れてしまいそうなものまで、実にさまざまだ。
「というか、フロノは? ねえフロノ、どこにいるの?」
そこまで大きな声を出したつもりはなかったが、静かなうえに室内が狭かったため、私の声は店内に反響してこだました。
そんな時だった。
「おや、お客さんかな」
「ひぇえっ!?」
目の前の暗がりから、突然声がした。
思わず妙な悲鳴を上げてしまう。
その声の主は、暗がりの中から姿を現した一人の女性だった。
黒い服に黒い髪。けれど服の合間からのぞく肌は白く際立ち、頭には絵本で見たような黒いとんがり帽子。
大人びた艶を帯びた顔立ちと相まって、まさに“魔女”と呼ぶにふさわしい出で立ちだった。
「ごめんごめん、脅かすつもりはなかったんだ。大丈夫かい?」
「だっ、大丈夫です。こちらこそすみません、ちょっと驚いちゃって」
「はは、ちょっとじゃなかったようだけどね。まあ、何事もないなら何よりさ」
「あの、もしかしてここの店員さんですか?」
「まあ、そんなところかな。ところで君はお客さん、ということでいいんだよね? わざわざこんな店に来るなんて、妙な品物でもお探しかな?」
「妙な品物?」
「ん? なんだ、違うのかい?」
「えっと、実はこの街でおすすめのお店だって、友達に勧められて寄ってみたんです」
「この店をおすすめ? それはまた……君の友達、なかなかの変わり者じゃないか?」
「そう言われると、確かに変わり者のような気が……」
――変わり者じゃないっすよ!
と全力で否定するキャトの顔が、頭に浮かんだ。
「あの、その“妙な品物”ってどういう意味なんですか?」
「ああ、この店はね、簡単に言えば雑貨屋なんだ」
「雑貨屋?」
「そう。ただの雑貨屋じゃない。うちが扱うのは、いろいろな魔法関係の物品さ。
その中でも特別に妙な品――役に立ちそうで立たなかったり、はたまた役に立たなさそうで、やっぱり役に立たなかったり。
一部のマニアだけが欲しがりそうな品を扱う店。人呼んで――」
女性は小さく肩をすくめ、楽しげに笑う。
「無用堂(むようどう)、とでも言ったところかな」
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