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第一話 誕生日の再会
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「じゃあ、私の使用人にならない?」
「へ?」
あまりにも唐突だった。
私は友人の口から放たれた言葉の意味を理解できずにいる。
「だから私の使用人になりなさいって言ってるのよ。そうすればこんな田舎から出て都会で一緒に楽しく……」
「ちょちょちょっと待って!?まだ私の頭が追いついてないから!!」
そう、落ち着いて整理しなきゃ。
まずは私、私の名前はエーナ・ラヴァトーラ。
今日は私の16才の誕生日だった。
私は珍しく朝早起きをして、近所のおばさんとおじいさんに年を1つ重ねたことへ祝福の言葉をもらい、ちょうど城下町から村に一時帰省をしていた友人であるウルとばったりで出くわしたのだ。
それでたしか、近くの川辺で昼食のパンを口にしながら思い出話に花を……。
「エーナ、大丈夫?」
「いやその、ウルの言葉が本当に突然すぎる内容でビックリしちゃって」
そう、まさにびっくりである。
久しぶりに再開した友人が突如として突拍子の無いことを言うのだから。
「えっと、やっぱり全然よくわけわかんないんだけど……急にどうしたの?」
「だから、使用人よ使用人、召使い!メ・イ・ド!」
「ごめん、やっぱ流れが理解出来ないかも……」
そう聞くとウルは一度深く息を吐き、私をまっすぐに見つめた。
「エーナ、私達今いくつだっけ?」
「私は今日で16だけど」
「村で同い年の子は今どうしてる?」
「えっと、確かベルが家業の洋服屋の手伝いをしてて、サラも家の畑を継ぐために農業に勤しんでて……。あっ、そうそう医者になるって出ていったアメリーが今王都にいるらしくてね、最近手紙が」
「じゃあ、エーナは今何やってるの?」
「私?私は、朝おきたらお花に水をあげて、おばあさんの家の家事の手伝いをして、お昼はたまに食材の買い出しに行って……」
「それ以外は?」
「えーと、あとは町の子供たちと遊んであげたりとか、アメリーのお父さんの家に行って勉強を教えてもらったりだとか……」
私の話を一通り聞いたウルは大きく溜息をついてわざとらしく肩をすくめた。
「で、エーナは将来はどうするか決めてるの?」
「決めてるのかって聞かれると全然決まってないような……」
「なんだ、てっきりまだ『私は魔法使いになるんだ』とか言い出すのかと思ってたわ」
「まっ!?ままま魔法使いだなんていいいつの話を持ち出してるのよ?!」
突然の不意打ちの言葉に、私は動揺を隠せず呂律の回らない返事を返してしまう。
「私がまだ村にいた頃はいつも口にしてたじゃない。将来はお母さんと同じように魔法使いになるんだーって」
魔法使い、それは幼い頃、初めて明確に私が胸に抱いていた夢。
母のように、世の中のいろんな人の役に立ちみんなを幸せに出来る職業。
私にとってのとても大切な言葉。
けれど、現在の私にとってはあまりに口にしたくない言葉でもあった。
「そ、そりゃ出来ることなら魔法使いになりたかったんだけど、結局この村だと魔法を教えられる人もいないし、家にお母さんが残した本なんかもほとんどは魔法とは全然関係ない内容だったりで。そんなこんなで結局何もできないままだから、最近は魔法使いになりたいだなんて口にし辛くて……」
「じゃあ、まだ魔法使いになるの諦めたわけじゃないの?」
「それはもちろんなれるならなりたいわよ。でもそれで本当にいいのかなって思ったりもするの。なれるかどうかもよくわからない物じゃなくて、おじいさんの農業の手伝いをして野菜とか家畜を育てたりだとか、そういうもっと現実的なものを見なきゃダメなんじゃないかって」
「なるほど、思ったよりはいろいろ考えてるわね。エーナも少しは大人になったじゃない」
「そ、そうかな?あんまりそういう褒め方をされたことないんだけど」
「でもねエーナ、そこまで考えてるならわかってるはずでしょう、今のままじゃダメなんだって」
「確かにそろそろちゃんと決めないとは思うけど……」
「じゃあ私の元で使用人として働きなさいエーナ」
「話が飛躍しすぎじゃないそれ?」
「ええ、飛躍しているわ。でもこれが最善手よエーナ、総合的に判断してもこれが最善手。これはあなたの夢のためでもあるわ」
最善手?使用人になることが魔法使いになる最善手?
「まず第一に、エーナは魔法使いになるためにどうすればいいかわかる?」
「どうするって……、そりゃあ魔法の勉強をして使えるようになればいいんじゃ……?」
これを聞いた瞬間、ウルはさっきほどよりも大きくため息をつき、あきれたと口にした。
「良いかしらエーナ、魔法使いって言うのはね、ただ魔法が使えるから名乗れるわけじゃないの。魔法使いっていうのは立派な一つの職業なのよ」
「どういうこと?」
「現在この国で魔法使いって名乗ってる人のほとんどはね、きちんと学校で魔法を勉強した後と国が行う正式な試験を受けてそれに合格した人達なのよ。」
「何それ!?魔法使いってそんなお役人様になるみたいなことしないとなれないの!?」
そんな話は聞いたことがない。
村のみんなはそんなこと一度も教えてくれなかったし、何より母だって一度もそんな過程を踏んだということを口にしたことはなかったのだ。
「数十年前ならいざ知らず、現在魔法使いと名乗れるのはそういう認可された人達だけよ。それで、エーナは魔法使いになるための勉強を少しでもいいからしてきた?」
「……してないです」
「まあそうよね。魔法使いになるための方法もしらなかったんだからそうでしょうね。」
ウルは再度大きくため息を付く。
そして改めて私のほうに向き直った。
「エーナ、実は私今度転校するために城下町を離れることになったの」
「え、すでにウルって良い学校に通ってるんじゃ」
「まあね。今居る場所もまあまあ良いところよ、でも正直私には物足りなくてね。
だからお父様にお願いしてタリアヴィルにある学院に転向することにしたのよ」
「タリアヴィルって、西の方にある街だよね?」
「そう、正確にいうと街っていうより大都市よ。あそこはいろいろな分野の学舎や研究者が集まって栄えてる場所なの。つまり、優秀な人材が集まる分良い学校もあるのよ」
「そっか、じゃあ今度から手紙を出すときはそっちの住所に送らないとだめなのね。」
「ええまあそうだけど……、って本題はそういうことじゃないの。ともかく、私はタリアヴィルの学校に通うために引っ越すことになったんだけど両親は城下での仕事があるから一緒には来れないのよ。だから私今付き人を探してるの、私の身の回りの世話とかそういうことしてくれる使用人」
「はぁ……使用人……」
「そう。だからエーナ、私の使用人になって一緒にタリアヴィルに行きましょう」
「ええええ!?ちょっと待ってよ、なんでそこで私なのよ。使用人なら他にもっと良い人がいっぱいいるでしょ?ウルの家お金はあるんだから、私よりもっと良い人がたくさん」
「それもできるけど、そんな親しくもない人と一緒に生活したくないのよ。今の屋敷にも何人かいるけど、お父様とお母さまの好みで入れ替わりも激しいし、あんまり愛想もよくないし、それならよく知ってるあなたのほうが良いじゃない。エーナは昔から一人暮らしだし家事とか料理とかそういうの一通り得意でしょ?」
「それはまあできるけど……って違う!そういう問題じゃないよ!」
「大丈夫、ちゃんと給与も休みも出すわ。それにねエーナ、タリアヴィルにはいるのよ?魔法使い達がたくさんね」
「え?」
ウルは私の肩をつかんでまっすぐと顔を向き合わせる。
昔から見慣れた水晶の様に澄んだ青色の瞳が私の顔を覗き込んだ。
「さっきも言ったけどあそこは学問や研究が盛んな都市なの。もちろん魔法も同じ。
有名な魔法使いだっていっぱいいるし、学舎だってあるのよ。だからねエーナ、タリアヴィルに行けばあなたは魔法を学ぶことができるのよ?」
「魔法が……、でも使用人なら私そういう暇ないんじゃ」
「さっきも行ったけど休みもきちんとだすし、私の通う学校にも魔法科はあるの。だから私の付き人として一緒に学園にいってもいいわ。学費だって私が何とかしてあげる。とっても素敵な条件でしょう?だから」
ウルの細くて美しい人形の様な白い手と指が、艶めかしく、ゆっくりと絡むように私の手を取り強く握りしめる。
そして改めて彼女は私にこう言い放ったのだった。
「本当にまだ夢を諦めていないのなら……私の使用人になりなさい?」
「へ?」
あまりにも唐突だった。
私は友人の口から放たれた言葉の意味を理解できずにいる。
「だから私の使用人になりなさいって言ってるのよ。そうすればこんな田舎から出て都会で一緒に楽しく……」
「ちょちょちょっと待って!?まだ私の頭が追いついてないから!!」
そう、落ち着いて整理しなきゃ。
まずは私、私の名前はエーナ・ラヴァトーラ。
今日は私の16才の誕生日だった。
私は珍しく朝早起きをして、近所のおばさんとおじいさんに年を1つ重ねたことへ祝福の言葉をもらい、ちょうど城下町から村に一時帰省をしていた友人であるウルとばったりで出くわしたのだ。
それでたしか、近くの川辺で昼食のパンを口にしながら思い出話に花を……。
「エーナ、大丈夫?」
「いやその、ウルの言葉が本当に突然すぎる内容でビックリしちゃって」
そう、まさにびっくりである。
久しぶりに再開した友人が突如として突拍子の無いことを言うのだから。
「えっと、やっぱり全然よくわけわかんないんだけど……急にどうしたの?」
「だから、使用人よ使用人、召使い!メ・イ・ド!」
「ごめん、やっぱ流れが理解出来ないかも……」
そう聞くとウルは一度深く息を吐き、私をまっすぐに見つめた。
「エーナ、私達今いくつだっけ?」
「私は今日で16だけど」
「村で同い年の子は今どうしてる?」
「えっと、確かベルが家業の洋服屋の手伝いをしてて、サラも家の畑を継ぐために農業に勤しんでて……。あっ、そうそう医者になるって出ていったアメリーが今王都にいるらしくてね、最近手紙が」
「じゃあ、エーナは今何やってるの?」
「私?私は、朝おきたらお花に水をあげて、おばあさんの家の家事の手伝いをして、お昼はたまに食材の買い出しに行って……」
「それ以外は?」
「えーと、あとは町の子供たちと遊んであげたりとか、アメリーのお父さんの家に行って勉強を教えてもらったりだとか……」
私の話を一通り聞いたウルは大きく溜息をついてわざとらしく肩をすくめた。
「で、エーナは将来はどうするか決めてるの?」
「決めてるのかって聞かれると全然決まってないような……」
「なんだ、てっきりまだ『私は魔法使いになるんだ』とか言い出すのかと思ってたわ」
「まっ!?ままま魔法使いだなんていいいつの話を持ち出してるのよ?!」
突然の不意打ちの言葉に、私は動揺を隠せず呂律の回らない返事を返してしまう。
「私がまだ村にいた頃はいつも口にしてたじゃない。将来はお母さんと同じように魔法使いになるんだーって」
魔法使い、それは幼い頃、初めて明確に私が胸に抱いていた夢。
母のように、世の中のいろんな人の役に立ちみんなを幸せに出来る職業。
私にとってのとても大切な言葉。
けれど、現在の私にとってはあまりに口にしたくない言葉でもあった。
「そ、そりゃ出来ることなら魔法使いになりたかったんだけど、結局この村だと魔法を教えられる人もいないし、家にお母さんが残した本なんかもほとんどは魔法とは全然関係ない内容だったりで。そんなこんなで結局何もできないままだから、最近は魔法使いになりたいだなんて口にし辛くて……」
「じゃあ、まだ魔法使いになるの諦めたわけじゃないの?」
「それはもちろんなれるならなりたいわよ。でもそれで本当にいいのかなって思ったりもするの。なれるかどうかもよくわからない物じゃなくて、おじいさんの農業の手伝いをして野菜とか家畜を育てたりだとか、そういうもっと現実的なものを見なきゃダメなんじゃないかって」
「なるほど、思ったよりはいろいろ考えてるわね。エーナも少しは大人になったじゃない」
「そ、そうかな?あんまりそういう褒め方をされたことないんだけど」
「でもねエーナ、そこまで考えてるならわかってるはずでしょう、今のままじゃダメなんだって」
「確かにそろそろちゃんと決めないとは思うけど……」
「じゃあ私の元で使用人として働きなさいエーナ」
「話が飛躍しすぎじゃないそれ?」
「ええ、飛躍しているわ。でもこれが最善手よエーナ、総合的に判断してもこれが最善手。これはあなたの夢のためでもあるわ」
最善手?使用人になることが魔法使いになる最善手?
「まず第一に、エーナは魔法使いになるためにどうすればいいかわかる?」
「どうするって……、そりゃあ魔法の勉強をして使えるようになればいいんじゃ……?」
これを聞いた瞬間、ウルはさっきほどよりも大きくため息をつき、あきれたと口にした。
「良いかしらエーナ、魔法使いって言うのはね、ただ魔法が使えるから名乗れるわけじゃないの。魔法使いっていうのは立派な一つの職業なのよ」
「どういうこと?」
「現在この国で魔法使いって名乗ってる人のほとんどはね、きちんと学校で魔法を勉強した後と国が行う正式な試験を受けてそれに合格した人達なのよ。」
「何それ!?魔法使いってそんなお役人様になるみたいなことしないとなれないの!?」
そんな話は聞いたことがない。
村のみんなはそんなこと一度も教えてくれなかったし、何より母だって一度もそんな過程を踏んだということを口にしたことはなかったのだ。
「数十年前ならいざ知らず、現在魔法使いと名乗れるのはそういう認可された人達だけよ。それで、エーナは魔法使いになるための勉強を少しでもいいからしてきた?」
「……してないです」
「まあそうよね。魔法使いになるための方法もしらなかったんだからそうでしょうね。」
ウルは再度大きくため息を付く。
そして改めて私のほうに向き直った。
「エーナ、実は私今度転校するために城下町を離れることになったの」
「え、すでにウルって良い学校に通ってるんじゃ」
「まあね。今居る場所もまあまあ良いところよ、でも正直私には物足りなくてね。
だからお父様にお願いしてタリアヴィルにある学院に転向することにしたのよ」
「タリアヴィルって、西の方にある街だよね?」
「そう、正確にいうと街っていうより大都市よ。あそこはいろいろな分野の学舎や研究者が集まって栄えてる場所なの。つまり、優秀な人材が集まる分良い学校もあるのよ」
「そっか、じゃあ今度から手紙を出すときはそっちの住所に送らないとだめなのね。」
「ええまあそうだけど……、って本題はそういうことじゃないの。ともかく、私はタリアヴィルの学校に通うために引っ越すことになったんだけど両親は城下での仕事があるから一緒には来れないのよ。だから私今付き人を探してるの、私の身の回りの世話とかそういうことしてくれる使用人」
「はぁ……使用人……」
「そう。だからエーナ、私の使用人になって一緒にタリアヴィルに行きましょう」
「ええええ!?ちょっと待ってよ、なんでそこで私なのよ。使用人なら他にもっと良い人がいっぱいいるでしょ?ウルの家お金はあるんだから、私よりもっと良い人がたくさん」
「それもできるけど、そんな親しくもない人と一緒に生活したくないのよ。今の屋敷にも何人かいるけど、お父様とお母さまの好みで入れ替わりも激しいし、あんまり愛想もよくないし、それならよく知ってるあなたのほうが良いじゃない。エーナは昔から一人暮らしだし家事とか料理とかそういうの一通り得意でしょ?」
「それはまあできるけど……って違う!そういう問題じゃないよ!」
「大丈夫、ちゃんと給与も休みも出すわ。それにねエーナ、タリアヴィルにはいるのよ?魔法使い達がたくさんね」
「え?」
ウルは私の肩をつかんでまっすぐと顔を向き合わせる。
昔から見慣れた水晶の様に澄んだ青色の瞳が私の顔を覗き込んだ。
「さっきも言ったけどあそこは学問や研究が盛んな都市なの。もちろん魔法も同じ。
有名な魔法使いだっていっぱいいるし、学舎だってあるのよ。だからねエーナ、タリアヴィルに行けばあなたは魔法を学ぶことができるのよ?」
「魔法が……、でも使用人なら私そういう暇ないんじゃ」
「さっきも行ったけど休みもきちんとだすし、私の通う学校にも魔法科はあるの。だから私の付き人として一緒に学園にいってもいいわ。学費だって私が何とかしてあげる。とっても素敵な条件でしょう?だから」
ウルの細くて美しい人形の様な白い手と指が、艶めかしく、ゆっくりと絡むように私の手を取り強く握りしめる。
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