現実世界恋愛短編集

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1、僕の彼女は視力が悪い

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「好きです。
付き合って下さい」
そう告白されたのは朝、最寄り駅に着き電車を降りた後。
話があると女の子に声をかけられて立ち止まり、改札口へと続く階段を降りていく人達を見送った後だった。

僕はびっくりして、返事を待つ彼女の赤い顔をしばらく見つめた後、
「こちらこそ、よろしくお願いします」
訥々と言った。

すると途端に彼女はニコッと笑顔を見せた。
僕もぎこちなく笑顔を返しつつ、内心かなり動揺していた。
こんな夢のようなことが起きるなんて。

僕に告白してくれた女の子はいつも僕と同じ時刻に同じ電車に乗る、僕とは違う高校に通う女子高生だが。
実は僕の方も彼女のことが前々から気になっていた。
容姿も可愛いが、ときどき聞こえてくる彼女とその友達との会話から察せられる性格も好ましく思っていた。
とても性格の良い子だなと思っていたのだ。

でもその子が僕の彼女になってくれることがあるなんて夢にも思わなかった。
僕から告白なんて、とてもできないし。一緒の電車に乗っているだけだったのだから。

でも彼女の方から告白してくれた。


※※※

お互いの学校の始業時間に間に合うように少しだけおしゃべりをした後、僕は駅の時計をチラリと見た。

「そろそろ学校行かないと。
何時から授業始まるの?」
と言いながら彼女の方を振り向くと、

「え~と」
彼女は目を細めて、駅の時計をじぃっと見ていた。
「始業は……8時半だけど。
15分前には着かなきゃ……」

相変わらず目を細めて懸命に時計を見続ける彼女に、僕は
「今は7時45分だよ……」
弱々しく微笑みながら声をかけた。

彼女は僕を見るとえへっと照れ笑いし、
「ありがとう。
私、視力が悪くて……」

「そうなんだ……」
と答えつつ、
『何でコンタクトか眼鏡しないの?』
みたいな当然の流れの会話を振ることもできなかった。
ショックを受けてしまい。


※※※

『彼女は視力が悪い』
 
そんなの大したことない、と言うか。
今の日本人は視力が良い人の方が少ないくらいだろう。

でも僕は『彼女の視力が悪い』と聞いたとき、不安を感じてしまった。

何故か。
それは僕が『雰囲気イケメン』だから。

『雰囲気イケメン』。
パッと見はイケメンに見えるが、よく見ると大したことない人間の呼称――卑屈な言い方をしてしまったが。
僕はまさしくそれなのだ。

スタイルは悪くないし、髪型もきちんと整えているし、制服姿にもカバンにも靴にも気を使っている。
でも顔はイマイチなのだ……。残念ながら。

だからなのか、近くで僕の顔を見ると不思議そうな顔をする人がときどきいるが。
そんなとき、

『あら、この子、近くで見るとそんなにイケメンじゃないのね。
もっとイケメンかと思ったわ』

オバサン口調にしてみたが、そんな風に人に思われているんじゃないか、と僕は不安になる。
実際人がどう思っているかはわからないが。

そして今。
僕に告白してくれた彼女は視力が悪いと知った今。
僕は今まで感じてきた以上の不安を感じていた。

彼女の視力が悪いなら。
彼女は僕の顔をハッキリ見たことがないんじゃないか?
『ぼや~』としか知らないんじゃないか?
だから僕のことを『イケメン』だと思い込んでいるのではないか?

僕はホントのところイケメンではないのに。
どうしよう、と思った。

 
※※※

帰りにまた会う約束をした後、彼女とは別れたが。
学校へ向かう間もずっと一人で悶々と悩んだ。
朝に告白されたので慌ただしく、あまり話もできていない。
僕に告白してきた理由を聞くこともできなかった。

初彼女ができた日なのに――直後なのに――こんなに気が重いとは。
 
僕は失望を恐れている。
せっかく好きな子と付き合えると思ったのに、彼女が僕を好きになったのが『勘違い』だったらどうしようと、恐れている。
 

※※※

放課後になると、重い足取りで駅へ向かった。
短い期間でフラれるくらいなら、初めから告白なんてされたくなかった。
そんな卑屈な考えまで持ち始めていた。

駅の階段を上ると、既に彼女が来ているのがわかった。
イスに座って本――教科書だろうか?――を見ている。
やっぱり可愛い。
見た目だけでなく醸し出す雰囲気も可愛い。

僕が少し立ち尽くして彼女を見ていると、彼女は僕の視線に気付いたのか、顔を上げた。
目が合い僕と認めるとニコッと口角を上げ、立ち上がり手を小さく振ってみせる。

駅までの道中は重い気持ちに支配されていたのに、彼女と再び顔を合わせた今、やはり心が躍るのを感じた。
たとえ短い間でも両思い気分を味わえるだけでも良いのではないか? なんて、やはり卑屈ではあるが前向きなことを思いつつ、彼女に近付く。

「待ったかな」

彼女は首を横に振った。
そして僕の肩越しに後方へと視線を投げると、

「4時半に着いたから。
5分ほど待っただけだよ」

どうやら階段近くにある駅の時計を確認したようだが。

……。あれ?

僕も振り返って駅の時計を見た。
朝、時計を確認したときと同じくらい、時計は遠かったが。
彼女は今朝とは違い、チラリと見るだけですぐに時刻がわかったようだ。

僕は首を傾げて、

「目、悪いんじゃなかったの?
よく時計見えたね」

と尋ねると、彼女は明るい顔で、

「今はコンタクトしているから。全然見えるよ」
「そうなんだ……」

「ほんとに視力低いの。
コンタクトしないで、生活できないよ」

明るく笑う彼女に僕は頭に浮かんだ疑問をそのまま口にした。

「でも今朝はコンタクトしていなかったよね?
何で?」

すると彼女はハッとし、目を泳がせた。
それからしばらく僕から視線を外しつつ黙ったが、僕をチラリと伺い僕がまだ答えを待っているのに気付くと、恥ずかしそうに、

「だって、告白するの、恥ずかしくて……。
あなたの顔がハッキリ見えている状態で言える自信が無くて。
コンタクトを外してたんだ」

僕はその返事を聞いて一瞬目を丸くした後、だんだん胸のあたりがじんわり暖かくなってきた。

僕の心配は、杞憂だった。
彼女は僕が『雰囲気イケメン』だとわかった上で、僕のことを好きになってくれて告白してくれたんだ。

僕は内心ドキドキしながらも、
「コンタクト付けずに、よく僕だとわかったね。
他の人と間違えなかった?」

照れ隠しに軽口を言う。
「もしかして、相手を間違えて告白していないよね?」

彼女は頬をふくらませ、
「そんなことするわけないよ!」
と言うとパッと笑顔になって僕を見つめた。

僕も見つめ返し、僕たちはしばらく見つめ合った。
その距離は50センチほどだったが。
彼女の幸せそうな顔には一点の曇りも見られなかった。


 
〈終〉
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