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2話 昼休みは婚約者と一緒
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マリアは休み時間はいつも眠っているが、昼休みだけは例外である。
食堂の、一角。
『いつもの席』――皆が気を使って、そこを使わないので、マリアたちの席となっている。
そこで、マリアは婚約者――名前をトムと言う――と待ち合わせをして、ランチを食べるのが習慣だ。
今日も向かい合って座り、食べる。
「今日の酢豚、おいしいのね。
そう思いませんこと?」
マリアがトムに訊ねると、
「あ、うん……」
トムは曖昧にニコッと笑って、すぐにマリアから目を逸らした。
「……?」
マリアは不思議に思った。
(今日は彼があまり元気がありませんこと。
わたくしの舌は平均的な味覚をしておりますので、『酢豚がおいしくない』と言うことはありませんわ。
どうかなさったのかしら?)
マリアはトムに聞いた。
「どこかお加減でも?」
「えっ」トムは目を丸くした。
「もしかして体調が優れませんこと?」
酢豚を手の平で示し、
「お食事も進んでいらっしゃらないわ」
「いや……」
トムは愛想笑いと分かりやすい笑顔を浮かべ、
「別に。
……元気だよ」
「パイナップルがお気に召しませんこと?」
そこでマリアは『酢豚のパイナップル』に関する豆知識を話した。
「肉を柔らかくするために入れるんですって」
「そうか……」
トムはどこか弱々しい笑みを浮かべた。
(やはりお元気がありませんわ)
マリアは心配したが。
(でも。皆、そうですわね。
皆、ときどき元気がない日もある。
人間として自然なことです)
マリアはトムの態度を気にしなかった――体調の心配はしたが、その態度に腹を立てることはなかった。
それからの食事中。
マリアはもしトムが精神的に落ち込んでいるならば元気になるよう、明るくときどき話しかけたが、そうすればそうするほどトムは何だか考え込むような表情になっていった。
「マリア」
トムは何だか悲しそうな表情で言った。
「君は僕にはとっても優しいね……」
マリアは不思議そうにトムを見つめた。
褒めているようで、褒められていない。
そんな感じが、鈍感なマリアにもしたのだが……
(きっと気のせいです)
マリアは思った。
(トムがせっかくお褒め下さるのに、疑うなんて失礼です)
「ありがとう、トム。
優しいと仰って下さって、嬉しゅうございますわ」
マリアがお礼を言うと、トムはフッと苦い笑みを浮かべ……
マリアはやはり『おや?』と思うのだった……
食堂の、一角。
『いつもの席』――皆が気を使って、そこを使わないので、マリアたちの席となっている。
そこで、マリアは婚約者――名前をトムと言う――と待ち合わせをして、ランチを食べるのが習慣だ。
今日も向かい合って座り、食べる。
「今日の酢豚、おいしいのね。
そう思いませんこと?」
マリアがトムに訊ねると、
「あ、うん……」
トムは曖昧にニコッと笑って、すぐにマリアから目を逸らした。
「……?」
マリアは不思議に思った。
(今日は彼があまり元気がありませんこと。
わたくしの舌は平均的な味覚をしておりますので、『酢豚がおいしくない』と言うことはありませんわ。
どうかなさったのかしら?)
マリアはトムに聞いた。
「どこかお加減でも?」
「えっ」トムは目を丸くした。
「もしかして体調が優れませんこと?」
酢豚を手の平で示し、
「お食事も進んでいらっしゃらないわ」
「いや……」
トムは愛想笑いと分かりやすい笑顔を浮かべ、
「別に。
……元気だよ」
「パイナップルがお気に召しませんこと?」
そこでマリアは『酢豚のパイナップル』に関する豆知識を話した。
「肉を柔らかくするために入れるんですって」
「そうか……」
トムはどこか弱々しい笑みを浮かべた。
(やはりお元気がありませんわ)
マリアは心配したが。
(でも。皆、そうですわね。
皆、ときどき元気がない日もある。
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マリアはトムの態度を気にしなかった――体調の心配はしたが、その態度に腹を立てることはなかった。
それからの食事中。
マリアはもしトムが精神的に落ち込んでいるならば元気になるよう、明るくときどき話しかけたが、そうすればそうするほどトムは何だか考え込むような表情になっていった。
「マリア」
トムは何だか悲しそうな表情で言った。
「君は僕にはとっても優しいね……」
マリアは不思議そうにトムを見つめた。
褒めているようで、褒められていない。
そんな感じが、鈍感なマリアにもしたのだが……
(きっと気のせいです)
マリアは思った。
(トムがせっかくお褒め下さるのに、疑うなんて失礼です)
「ありがとう、トム。
優しいと仰って下さって、嬉しゅうございますわ」
マリアがお礼を言うと、トムはフッと苦い笑みを浮かべ……
マリアはやはり『おや?』と思うのだった……
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