いつか死ぬのだから

ひゅん

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五月・死と向きあう

孤独

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 それはある日突然やってきた。
 その日、私はなかなか寝付けなかった。
 死んだ人は生きかえらない、死んだ人は生き返らない……
  その事実を反芻して眠れなくなったのだ。
 闇深い夜だった。それはまるで、私の存在を飲み込まんとする程に、重くて広大な闇に取り囲まれているような夜だった。
 深夜、私が眠りにつこうとしていた時、急に心細くなった。どれくらいの時間、我慢しただろう。
  やがて、涙が頬を伝って流れ出た。そして、とうとう鳴咽するほどに溢れ出した。
 自分がいつか死ぬということが恐いのではなかった。いや、そうではない自分の「死」についてよりも、私は孤独を感じて泣いたのだ。自分以外の人たちが自分の周りから消え去って一人になってしまう。周りにあるもの全てが闇に飲み込まれ、最後に私一人が残る。そのように想像してひどく心細くなった、確か、そうだったように記憶している。
 大泣きに泣いている私を母親が抱き上げて、あやしてくれた。母親の胸のなかで、もう一度、私は自分一人を残して全てが消え去っていく運命であることを想像した。今いる人たちが全員消えていなくなる、ということかどれほど心細いと思ったかしれない。
「お母さんもお父さんも、いなくなるの?」   
  流れ出る涙を母親は優しく拭ってくれた。
 すべて闇の中に消え去る。
 母親に懐かれながら、私は、闇ばかりではなく光にも恐怖していた。闇の中で光る電灯を見ていると、それはまるで恐ろしい闇の付属物であるように思えた。
母親は「大丈夫、大丈夫よ」と言って私をあやした。それ以上何も言わずにただ側にいてくれた。
 私を抱いて黙ってゆらゆらと左右に揺れていた。そして私が寝るまで母は揺れていた。
 そして、やがて朝がきた。
 陽の光がレースのカーテンを通して輝いていた。私は、すっかり昨晩の闇に対する恐怖を忘れてしまっていた。 あのあと母親の胸の中で眠りについたのだろう、私は母親のベッドで一人横たわっていた。
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