いつか死ぬのだから

ひゅん

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時間

相対的な物事

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「わかったの! 裕二のおかげでわかったの!」
  ある時、美由紀が朝、教室に入ってくるなり、屈託なく私に言った時の記憶が脳裏に浮かぶ。何がわかったのかを訊ねると、それは私との付き合いの中で何か発見できたことがあったのだと、美由紀は言った。
「裕二のこと考えていたらね、矢を射る時の精神統一がうまくいくようになったのね。それは裕二が示してくれたのよ」
  何も身に覚えがなかった。美由紀はさも宝物でも発見したかのような口ぶりで、私に何かを伝えてきた。
 メンタルの話しだったので、その意味はよく分からなかったけれど、彼女は実際に、次の週の段位に見事合格した。
「矢を射る前の精神統一」とやらも、それが私との関係で成されたのかは甚だ疑問ではあるが、美由紀の弓道の成功によって、私の人生の運気も比例して上昇していったのは確かだった。
 美由紀と高校生活を共に過ごして、とても充実した三年間を送れたことに今でも感謝している。卒業式前に切り出された別れの言葉以外は私にとって完璧な時間だった。
 陽子との時間には、美由紀と私との関係における「弓道」のようなものがない。もちろん陽子とは気が合った。出会ってしばらく陽子を見ていて、この子とならやっていける、という確信があった。それも時間の経過と共に、目に見えて色褪せてきてはいるけれど、陽子のことは今でも愛している。
 ただ、どうしていいのかわからないのだ。わかっているのに、掴めてはいるのに身体と心のバランスが悪く一致しない。このままいくと破局してしまうだろう。
 だから私は焦っていた。美由紀と私の関係の重要な要素であった弓道のようなものが陽子と私との間にあったなら、どれだけいいかと思う。
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