ラストスパート

ひゅん

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学級委員選挙

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 一学期の初めに藤浪たちのクラスの学級会で学級委員を四人選出した。クラス担任の指導のもと選出に当たって、まず誰が相応しいかを選出する形で生徒が手を上げて候補者を募った。
 次々に名前が上がっていき、担任が黒板に候補者の苗字を書いていった。大概、学級委員の選出は学校の成績がいい順に名前が上がっていき、誰がノミネートされるかはあらかじめみんなわかっていた。
「森下くんがいいと思います」「日下くんが相応しいと思います」「横西さんを学級委員にしたいと思います」などなど八名の名前が出揃った。
  この中に藤浪の名前はなかった。また自分が学級委員なんかになれるとも思っていなかった。藤浪は自分の名前が読み上げられることがない代わりに星崎を密かに応援していた。候補者には勿論星崎の名前があった。
 あの日から星崎は毎朝、学校がある日は藤浪を迎えにいき、それは小学校三年の最後の日まで一日たりとも欠かさずに続いた。藤波にとってみれば、星崎の毎朝の訪問は嬉しくもあり、また光栄にも感じていた。星崎は三学年一組のクラスで一目おかれる存在だった。そんな星崎が藤波を慕って毎朝一緒に登校する。そのことがとても藤波には誇らしかった。藤波は星崎のことを「星崎君」と呼び、また星崎も藤波のことを「藤波君」と呼んで、それはいつまでも変わらなかった。
 候補者が出揃ったところで、この中から四人を選出するに当たって生徒たちに小さな紙が配られ記名投票という形で選挙が行われた。藤浪は紙に星崎と書いて投票した。
  集計は先生が名前を一つ一つ読み上げていき、それを正の字で黒板にカウントしていき学級委員四人が決定した。経過は途中まで星崎がトップだったが、石川くんと接戦となり僅かに二票の差で石川くんがトップ当選となり、星崎は結局学級副委員長に就任した。
 学級委員の選出が終わった後の放課後、藤浪が星崎に向かって「おめでとう」を言った。
「ありがとう」と星崎は返事をしたが、どこか浮かない顔をしていた。藤浪は人の表情を敏感に感じ取ることができた。柔軟で凝り固まったところがない素直な心の持ち主である藤浪は、その人が何を望んでいて自分がその人に何を与えることができるかをよくよく考えられる子供だった。人に何かをしてあげることに彼は喜びを見出すようなところがあった。
  星崎にとって学級委員に選出されることが重荷なのかもしれないと藤浪は思った。
「学級委員になりたくなかった?」と藤浪は訊いてみた。すると星崎は首を振って「学級委員に選ばれたことは嬉しいけど、僕はあんまり学級委員みたいな目立つ役割を引き受けたくないんだ」と言った。
  藤浪は彼が何を嫌がっているのかあまり意味がわからなかった。
「目立ちたくないの?」
「あんまりね。何か人の上に立つような役割を与えられることが嫌なんだよ」
「星崎君は何がいいの?」「僕はもっと強くなりたい」
「強く?」
「そう、君みたいな根性が欲しい」
  星崎に比べて藤波は典型的な劣等生である。星崎は体育を除いてオール五の成績だったが、藤波は通信簿で五段階評価の二か三の評価が殆どで、図画工作などは一の成績だった。そんな格差があった二人だが、走ることに関しては、立場が逆転した。藤波は短距離も長距離も速かった。藤波は運動会クラス対抗のリレーでも選抜の六人に選ばれたが、星崎は短距離ではクラスで真ん中くらいであり、マラソンに関しても星崎は年が明けるまでは、学生で五十位くらいが精一杯だった。  
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