代役の花嫁

もちうさ

文字の大きさ
1 / 2

白いドレスの行き先

しおりを挟む
 
 カーテンの隙間から、夏の午後の光が差し込んでいた。
小さな風鈴が、かすかに鳴る。
音のない部屋で、それだけが生きているようだった。

 理沙は、妹・美緒の部屋のベッドに腰を下ろしていた。
事故からまだ一週間も経っていない。葬儀を終えてなお、現実は彼女の中でうまく形を結んでいなかった。

「……まだ、ここにいるみたい」

 整頓されたドレッサー、机の上のスケジュール帳、使いかけの香水。
妹の気配が、部屋のあちこちに残っている。まるで、今も帰ってきて「ただいま」と言いそうだった。

 ふと、クローゼットを開けると、奥のほうに白い布のカバーが吊られていた。
指先でそっと触れると、さらりとした質感が伝わってくる。

 ──ウエディングドレス。

 理沙は無意識に、ファスナーを下ろした。
中には、シンプルで気品のあるドレスが眠っていた。
美緒が「これがいい」と笑っていた顔を、思い出す。
──結婚式は、来月だった。

 もう、あの子は歩けない。
バージンロードも、誓いの言葉も、永遠に届かないまま。

「……こんなに、楽しみにしてたのに」

 理沙は、ふと足元に落ちていたスケッチブックを拾った。
中には、美緒の手書きの結婚式のプランが、びっしりと描かれていた。
会場の配置、招待客リスト、ドレスの試着日、演出のメモ。
一ページ一ページが、妹の未来そのものだった。

──なにか、してあげたい。
でも、なにができる?

 ページをめくる手が止まった。
そこにはこう書かれていた。
「お姉ちゃん、当日、絶対泣くと思うけど、それでも私は嬉しいよ。
お姉ちゃんに、花嫁姿を一番に見せたい」

 胸の奥で、何かが崩れた。
涙が、スケッチブックの上にこぼれ落ちる。
「……見せてあげる。ちゃんと……見せるから」
理沙は顔をあげた。
やがて、震える声でひとつの言葉を口にした。

「──妹のかわりに、私が花嫁になる」

 その瞬間、止まっていた時間が、ゆっくりと動きはじめた
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】あなた方は信用できません

玲羅
恋愛
第一王子から婚約破棄されてしまったラスナンド侯爵家の長女、ファシスディーテ。第一王子に寄り添うはジプソフィル子爵家のトレニア。 第一王子はひどい言いがかりをつけ、ファシスディーテをなじり、断罪する。そこに救いの手がさしのべられて……?

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...