24 / 37
残り50日~41日
残り50日
しおりを挟む「代替肉は知っているか?」
「……は?」
目の前の青年が、間の抜けた声を上げた。
「最近の流行りだ。畜産は、思いの外二酸化炭素を排出する。新興国での食肉消費が多くなれば、地球温暖化はさらに加速する。
そこで肉食を止めよう、という話になるわけだ。代替肉は大豆などのタンパク質から作られる、実にエコだ」
「は、はあ。そんなことを、何故俺に」
俺はナイフをフォアグラのソテーに入れた。豊かな脂身と肉汁が溢れる。
「こうした贅沢ができるのも、あと僅かということだ。あと数年で、高級フレンチからもフォアグラは消える。
それは動物虐待というセンチメンタルな、下らない理由じゃない。ただ単に、環境面でサステナブルでないからだ」
「そうなんすかね……あんたが言うなら、そうなんでしょうけど」
青年は首を捻りながらフォアグラを口に放り込む。慶應の学生らしいが、品のない男だ。
「彼」の遺産を継いでいないのならば、こうしてテーブルを囲むこともないだろう。
「それでも食文化は廃れない。既にシンガポールでは代替肉が高級フレンチで使われている。
フォアグラの代替も、すぐに出てくる。科学技術の進歩は君が考えるよりずっと早いということだ。
そして、何事にも代わりはいる。無論、君の代わりも」
青年の顔が、サッと青ざめた。
「……!!すみませんっ!!まさか、深道が捕まるなんてっ」
「言い訳はいい。俺が望むのは、これからどうするのかというプランだ。
君も、深道を失って『AD』の得意先が消えているんだろう?私は『グレゴリオ』を閉めればいいだけのことだが、君は違う。『AD』をある程度捌かないと、身柄が危うい。違うか?」
青年はフォークを置いて、真っ青な顔で俯いている。俺の隣の男が、「まあまあ虐めるのはそこまでにしてやってくださいよ」と笑った。
「私も坂本君には随分助けられてきたんや。何より、『AD』を私たちに紹介してくれたことで、本業も大分楽になっとる。
で、坂本君。次の『AD』の入荷は?」
「あ……2週間です、たぶ……」
ドンッッ!!!
男がテーブルを叩いた。花瓶が大きく揺れ、倒れそうになる。
「多分じゃ困るんよなぁ!!?確実に、やろぉ!!?」
「ひゃ、ひゃいっ」
俺は渋い顔で男……安原を見る。
元住口会らしいこの男は危うい。俺の「今後」を考えたら早めに切っておきたいが、まだ利用価値はあるのが悩ましい。
なぜなら、俺の相手は「警察」だからだ。3度、坂本が失敗したことでそれは確信に変わった。
元より、違和感はあった。起きる筈の事件が起きない。それが何度も続いていた。
最初は、俺の記憶違いかと思っていた。しかし、竹下と水元が妙な動きをし始めたことで、徐々にこう思うようになった。
あいつらを焚き付けた連中が、存在するのではないか、と。
そして、そいつらはエバーグリーン自由ケ丘の倒壊を、阻止しようとしている。
それは、俺にとって二重の意味で不都合だ。
まず、倒壊が阻止されれば俺の社会的生命は絶たれる。控えめに言っても、かなり立場は危うくなる。
そしてそれだけではない。竹下俊太郎が、未来において俺の重要な手駒にならなくなる。あの男がいたからこそ、俺は「官房長官にまでなれた」のだ。
もう、間違いない。この時間軸は、巻き戻る前の時間軸とは明らかに違う。
「AD」にしてもそうだ。本来なら、供給量はもっとあったはずだ。2021年においては、既に「AD」は社会問題化していないとおかしいはずだった。それが、そうなってはいない。
「AD」の供給源だった佐倉翔一も既にこの世の者ではないと、坂本を通じて知った。あの男は、2040年まで生きていたはずだった。
今なら分かる。彼は「警察」に消されたのだ。未来に起きる筈の犯罪を事前に抑止する「警察」に。
「何とか言ってやって下さいよ、『デウス』さん」
安原が俺を見た。奴には俺の素性は明かしていない。強請られるのが目に見えている。
「『AD』の在庫は?」
「あっ、あと……10錠、ぐらいです」
「……ほぼないな」
坂本の言葉に私はフォークを置き、オーパスワンを口にする。……そうなると。
「安原さん、少し考えがあるのだが」
「は?」
「少し、待ってやってくれないか。『AD』がもう少し増えたら、やりたいことがある」
「何ですのん、それは」
俺はニィと、口の端を上げた。
「俺たちに敵対する連中ごと、竹下俊太郎を拐う。戦力の逐次投入は、もうやめだ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 190万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる