最推しの乙女ゲー攻略対象に転生したら腹黒系人誑かしになり国を掌握した

少年期

8

　ゲームでレーヴェと親しくなると、腹黒で心の内をそう簡単に明かさないレーヴェに一人の親友がいたことが明かされる。しかしハンスという名前以外の情報はゲーム中に手に入れることはできない。

　なぜならばハンスはゲーム開始時点で死んでいるからだ。そしてその死因こそが、第一王子ランベルトと第二王子レーヴェの決定的な仲違いの原因となっている。

　話はこうだ。

　ランベルトはある日レーヴェと些細な喧嘩をした。次の日、ランベルトは仲直りのためにレーヴェの親友であるハンスを呼び出して茶会に誘う。しかしそこでハンスは、出された紅茶に含まれていた毒で変死してしまう。ランベルトはハンスを犠牲にギリギリのところで死を回避していたわけでもある。

　事件を聞いたレーヴェはランベルトの凶行だと確信するも、第一王子が手にかけた可能性があったので周りの人間によって勝手に事件は隠蔽されてしまった。明らかに事件の周囲は不自然であり、レーヴェは激しくランベルトを怨むようになってしまう。

　元々ランベルトとレーヴェの仲があまり良好とは言えなかったことや、レーヴェが訴えても誰も彼もが目を背けたことが、レーヴェにとって疑問なく憎しみを育てた理由になってしまった。

　プレイヤーがレーヴェを攻略するならば、この事件の謎を解いてランベルトとレーヴェの仲を取り持つことがトゥルーエンドを迎える条件の一つとなる。

　レーヴェの前世の喪女はもちろん何十周も見たし、IF展開の二次創作だって死ぬほど漁った。

（もしここで彼を突っぱねれば死ぬことを回避できるだろうし、ランベルトとの仲違いを回避することができる。ならば迷う必要もない）

　レーヴェは即座に返答した。

「私などに気を遣ってくれなくて結構だ。では、失礼する」

「おっ、王子！」

　絶望感を織り交ぜたハンスの叫び声が聞こえた。それこそレーヴェの下僕になれなければ死んでしまうような声だ。

「レーヴェ王子ん従僕になるためはるばる隣国ちゃりやっちきよったんやけど。でなければ、オレに存在価値やらなんやらなか！」

「そこまで言うか」

「言います！　でなければ、殺しとってくれ！」

　不敬であろうが、ハンスはレーヴェに縋ってまで言葉を続けた。

「私の下僕になれなければ死ぬのか」

「死にます！」

「私の下僕になっても死ぬぞ」

　妙に現実感を含んだ言葉がハンスに刺さる。レーヴェは予言者の如くハンスの前に立っている。表情のない美しい顔は、ハンスにとってこれ以上なく冷たく見えた。

「それでも、頼みます」

　ハンスは歳の割に覚悟を決めた目をしていた。平凡な茶色の瞳だが、意思を感じる。

「君にそこまでする事情があるのもわかった。良いだろう。これからよろしく頼む」

　根負けしたレーヴェが両手を上げて降参した。ハンスは喜び、横の男と目線を合わせてこっそり拳を合わせた。

（なんだ、生贄のように私に差し出してきた割には仲が良いっぽいな）

　ハンスは改めてこちらを向いてビシッと背筋を伸ばした。

「よろしくお願いします、レーヴェ王子」

「レーヴェで良い。どうせこれから長い付き合いになる」

「あげなにオレば……コホン、私ば拒絶しよったんに、なして長か付き合いっち言い切るけん？」

「気安く話しかけていい。その方が訛りも出ないだろう。……長い付き合いと言い切るのは、その方が好ましいからだ。君も短い付き合いで終わりたくはないだろう？」

「そりゃ、もちろんそーたいばってん」

（あーあ、根負けして従僕にしてしまった。これからどうなることやら。それに親友になれたのはゲームのレーヴェであって、私が親友になれるとは限らないし）

　とはいえ、訛りながら必死に言葉を紡ぐ一生懸命さは好ましい。ゲームのような親友関係でいなくとも、せめて友好な関係は築こうと決心した。