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”乙女ゲーム”の崩壊した国
246話 蠢く悪意⑤ (クレイ視点)
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「クレイ様、髪をもっと手入れさせてくださいませ」
「ディディー様の横に立たれるのですから、もっとお肌のパックを致しましょう」
大公家から派遣されたメイド達が私の世話をしようと躍起になっている。
「ごめんなさい、湯船に長く入るとくらくらするのであまり入れないの…
それにもう十分。
あのパサついた髪をこんなに綺麗にしてくださってありがとう」
私が困ったように微笑むと、メイド達が残念がってくれる。
あの家を出ただけで、人からかけられる言葉が変わった事に私は笑みを浮かべた。
公爵家を出てすぐに声は戻ったが、祈りの言葉を紡ごうとすると、また声が出なくなる。
カイナール様は、徹底して愛し子の祈りをなしにしようとしている。
優しい方だ――――。
だからこそ、分かる。
やはりあの家がおかしかったのだと。
離れてきちんと確信できた。
「お嬢様の体調が回復せぬまま夜会になってしまい…私達も悔しいです。
万全であれば、全力でサポートさせていただいたのに」
「お嬢様の白いお肌をもっとみがきたかったです。ディディー様の赤髪に映えるのに…」
「大丈夫、今日はきっとディディー様の隣に私が立つことはないですから。」
メイド達に困ったように微笑んで…私は下を向いた。
「でも、ディディー様の赤い髪の様なリボンが映えるように
髪を結っていただけて嬉しいですわ。ありがとう」
そっと髪を触って、そう言って顔を上げ嬉しそうに微笑むと、メイド達も嬉しそうに笑顔になった。
大公家の方々達は頑張って飾り立ててくださろうとしているけれど、
どちらかと言うと、このままでいい。
みすぼらしく立っている…ありのままのわたくしを皆に見てもらいたい。
私は膝の上に座って心配そうにこちらを見てくる妖精の猫くんに視線を向けて微笑んだ。
ディディー様はきっと義妹の手を取り会場を歩くのでしょうね。
そうして私を最後まで見下したいのでしょう。
それが、あの方の生き方なのだから。
わたくしが身にまとっているのは、ベルベット生地の深緑のドレス。
形が古いのと、私の痩せた体に合うように
中が透けて見えるオーガンジーを袖と、骨の浮いた鎖骨が目立たないようにと胸元にもあしらってくれて、
お母様の清廉なイメージから、少し可愛らしいドレスへとイメージが変わっている。
それの手直しをしてくれたドレス工房の女性は、アンティークなドレスをリメイクしてより美しく見せるのは職人冥利に尽きるととても喜んでくれた。
私もとても嬉しかった。
実は胸元にあしらってくれたオーガンジーで作った小花のいくつかに、
大好きな猫くんの青海色を入れてもらっている。
私を支えてくれるお母さまの残してくれたドレスと、猫くんの色。
この国の悪意の前に立つのはこれが最後。
大丈夫……私は頑張れる。
カツン、カツン、カツン。
会場に向かう廊下の床を歩くたびヒールの音が響き、その音を聞くと私の背筋は伸びていく。
エスコートしてくださるのは騎士団長様。
猫くんが『不愛想だが悪意はかけらもない。大丈夫だ』そう言っていたので安心している。
大公殿下が私の為につけてくれた、この国最強の護衛だもの―――
そう思っていたら会場の扉前で騎士団長様に声を掛けられた。
「クレイ嬢…学園での事を閣下が調べられた際…我が愚息の事を初めて知った。
貴女には大変失礼な事をしていた。申し訳なかった。
今回の件片が付いたら必ずや愚息に責任を取らす。約束しよう」
扉を見つめそう言い切った団長様の気持ちが嬉しくなる。
学園でも、屋敷でも私は何も言わず、心を殺して生きて来たから。
私の事を考えてくださる言葉が嬉しい―――
私も閉まったままの扉を見つめ最後の忠告めいた言葉を伝える。
「騎士団長様、そのお気持ちがあるのであれば、
必ず状態異常の耐性のアクセサリーをお付けになってから
義妹を調べてください。
ご子息様はじめ、他の方々も同様な状態になっているでしょう」
騎士団長は私の方に顔を向け驚きを示していたが、私は目を合わせなかった。
「多分それ以外にも、あの子に魅入られた方々が幾人もいるでしょう。
悟られぬよう慎重に行動されることをお勧めいたします」
私はずっと誰かに伝えたいと思っていたことを団長様に伝えると、扉を開けるようにお願いした。
暗い廊下に光が広がり会場のざわめきが耳に届いた。
これが最後―――
引き際は華々しく行こうと猫くんと約束したの。
最後にあの人たちに、お返しという名の絶望を――
静かに、確実に、叩きつけてやるのだから。
「ディディー様の横に立たれるのですから、もっとお肌のパックを致しましょう」
大公家から派遣されたメイド達が私の世話をしようと躍起になっている。
「ごめんなさい、湯船に長く入るとくらくらするのであまり入れないの…
それにもう十分。
あのパサついた髪をこんなに綺麗にしてくださってありがとう」
私が困ったように微笑むと、メイド達が残念がってくれる。
あの家を出ただけで、人からかけられる言葉が変わった事に私は笑みを浮かべた。
公爵家を出てすぐに声は戻ったが、祈りの言葉を紡ごうとすると、また声が出なくなる。
カイナール様は、徹底して愛し子の祈りをなしにしようとしている。
優しい方だ――――。
だからこそ、分かる。
やはりあの家がおかしかったのだと。
離れてきちんと確信できた。
「お嬢様の体調が回復せぬまま夜会になってしまい…私達も悔しいです。
万全であれば、全力でサポートさせていただいたのに」
「お嬢様の白いお肌をもっとみがきたかったです。ディディー様の赤髪に映えるのに…」
「大丈夫、今日はきっとディディー様の隣に私が立つことはないですから。」
メイド達に困ったように微笑んで…私は下を向いた。
「でも、ディディー様の赤い髪の様なリボンが映えるように
髪を結っていただけて嬉しいですわ。ありがとう」
そっと髪を触って、そう言って顔を上げ嬉しそうに微笑むと、メイド達も嬉しそうに笑顔になった。
大公家の方々達は頑張って飾り立ててくださろうとしているけれど、
どちらかと言うと、このままでいい。
みすぼらしく立っている…ありのままのわたくしを皆に見てもらいたい。
私は膝の上に座って心配そうにこちらを見てくる妖精の猫くんに視線を向けて微笑んだ。
ディディー様はきっと義妹の手を取り会場を歩くのでしょうね。
そうして私を最後まで見下したいのでしょう。
それが、あの方の生き方なのだから。
わたくしが身にまとっているのは、ベルベット生地の深緑のドレス。
形が古いのと、私の痩せた体に合うように
中が透けて見えるオーガンジーを袖と、骨の浮いた鎖骨が目立たないようにと胸元にもあしらってくれて、
お母様の清廉なイメージから、少し可愛らしいドレスへとイメージが変わっている。
それの手直しをしてくれたドレス工房の女性は、アンティークなドレスをリメイクしてより美しく見せるのは職人冥利に尽きるととても喜んでくれた。
私もとても嬉しかった。
実は胸元にあしらってくれたオーガンジーで作った小花のいくつかに、
大好きな猫くんの青海色を入れてもらっている。
私を支えてくれるお母さまの残してくれたドレスと、猫くんの色。
この国の悪意の前に立つのはこれが最後。
大丈夫……私は頑張れる。
カツン、カツン、カツン。
会場に向かう廊下の床を歩くたびヒールの音が響き、その音を聞くと私の背筋は伸びていく。
エスコートしてくださるのは騎士団長様。
猫くんが『不愛想だが悪意はかけらもない。大丈夫だ』そう言っていたので安心している。
大公殿下が私の為につけてくれた、この国最強の護衛だもの―――
そう思っていたら会場の扉前で騎士団長様に声を掛けられた。
「クレイ嬢…学園での事を閣下が調べられた際…我が愚息の事を初めて知った。
貴女には大変失礼な事をしていた。申し訳なかった。
今回の件片が付いたら必ずや愚息に責任を取らす。約束しよう」
扉を見つめそう言い切った団長様の気持ちが嬉しくなる。
学園でも、屋敷でも私は何も言わず、心を殺して生きて来たから。
私の事を考えてくださる言葉が嬉しい―――
私も閉まったままの扉を見つめ最後の忠告めいた言葉を伝える。
「騎士団長様、そのお気持ちがあるのであれば、
必ず状態異常の耐性のアクセサリーをお付けになってから
義妹を調べてください。
ご子息様はじめ、他の方々も同様な状態になっているでしょう」
騎士団長は私の方に顔を向け驚きを示していたが、私は目を合わせなかった。
「多分それ以外にも、あの子に魅入られた方々が幾人もいるでしょう。
悟られぬよう慎重に行動されることをお勧めいたします」
私はずっと誰かに伝えたいと思っていたことを団長様に伝えると、扉を開けるようにお願いした。
暗い廊下に光が広がり会場のざわめきが耳に届いた。
これが最後―――
引き際は華々しく行こうと猫くんと約束したの。
最後にあの人たちに、お返しという名の絶望を――
静かに、確実に、叩きつけてやるのだから。
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桃さん
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続編楽しみにまってます。
ありがとうございます(●´ω`●)
ぼちぼち更新致しますので読んで頂ければ嬉しいです♡