安全第一異世界生活

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旅と出会いと冒険と

31話 ある少年の独白

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月が雲に隠れ、あたりは闇に包まれた。
森に響くのは、まるで番人のように辺りを見まわすフクロウの「ホーホー」という鳴き声と、遠くで聞こえる狼の遠吠えだけだ。
普段は静かな森の中で、何かが草を踏みしめる音が不気味に響く。

ガサガサ……ハァハァ ガサガサガサ………ズズズ

暗闇の中、少年が泣きながら逃げていた。何か恐ろしいものに追われているのだろうか

「……お母さま…お母さま………」

少年は小さな声で母を呼びながら、泣きながら走っていく。
小さな背中は恐怖で震えていた。

大きな城門を抜けるとすぐに整備された街並みが広がっている
大通りがあり、色々な人が行き来する
一つ通りをはぐれると人が少なくなるため身を潜めたりする人間にとっては隠れやすい場所と言える。

昨夜森を走っていた少年は、この『モンティア街』に息を潜め隠れていた。


 少年はフードをかぶって市場が見られる路地に座り込んでいた。

通りを通る人がすべて幸せそうに見える。僕はこれからどうすればいいんだ……すべてを失った僕は…

「お母さま…」

お母さまはもう居ない…居ないのに…僕にはもう誰も…絶望にしずみそうになっていた

その時、父親と笑いながら歩いてくる少女が見えた
少女は鈴を転がすようなかわいい声で楽しそうに父親に問いかけている

「トーさん!!あれ何?あの浮かんでいるの何??」

「こら!!走らない!!人が多いんだから手をつないで。ネ。」

少女の手を優しく握り、少女が指さす綿雲菓子の説明をしている。
優しく少女の顔を見て手を握り……
幸せそうな親子連れ。

『あの女にそっくりのお前など顔を見るだけでも吐き気がする!!』
自分が父親から投げかけられる言葉は…いつだって…

「わわわ!!食べたい!!買っていい?」

少女は自分のポーチからお金の入った巾着を出して値段を確認して店員に差し出した。その様子を温かいまなざしで見守る父親
僕はあんな目で父親に見てもらったことがあっただろうか…

『お前の顔など見たくない』

『今日からこの人が、お前の母親になる。』

『お前に弟か、妹ができる』


『あの女をせっかく始末したんだ』
『あいつが死ねばこの伯爵家は私のものだ』


『今夜、あいつを殺せ』

僕は幸せそうな親子を見ながら、
父が僕に言った言葉を思い返し、
そして父の僕を見る目を思いだし…
少女の屈託のない笑顔が憎らしくなり、目を逸らした。
父は僕を常に憎しみのこもった目で見ていた
いや、僕だけじゃない…父は僕とお母さまをずっとずっとあの目で見ていたんだ………
僕は手を強く握りしめた。

僕に起きた不幸は少女のせいじゃないのに…
幸せそうな姿がうらやましくて・うらやましくて……憎らしくて、
心がもやもやとして胸がギューッて苦しくて涙が出そうになる

泣いちゃダメだ

泣いちゃダメだ

泣いちゃダメだ

泣きそうになるのを我慢していると、頭が締め付けられるように痛む
気を紛らわせようと市場の方を覗くと

先ほどの少女と父親は、休憩用に置かれたベンチに腰を下ろし、その上を紐のついた綿雲菓子の袋がフヨフヨ飛んでいる。それが気になるのかずっと上を見ている少女に、父親は屋台の串焼きを渡している。少女はニコニコと楽しそうだ。

その様子を、僕はじっと見ていた。目が離せなかった。

その時、僕の腹が鳴った。

「ぐぅぅぅぅ!!!!」

僕は顔が真っ赤になってしまった…だってあまりにも大きな腹の音にびっくりした少女と目が合ってしまったんだ

恥ずかしい・恥ずかしい・

少女は父親に何かを言うと、僕の方にやってきた。
僕の前で足を止めた少女はかがんで声をかけてくれる

「あのね、串焼き食べないとお菓子が食べられないの。でも私お腹いっぱいで、良かったらこの串焼き食べてもらえると助かるんだけどな」

少女は、串焼きを僕に差し出した。

ニコニコ顔の少女、こんな街角に隠れている僕をさげすむでもなく、僕の事を気遣って言ってくれてるって解かる。

僕よりも幼い容姿の少女に気を使わせてしまう…そんな自分が、情けなく少女の目が見れなくて、下を向いて唇を噛んでしまった

その時だった、僕の後ろから大声で声をかけられた

「見つけたぜ!!坊ちゃん!!」

僕が振り返るとそこには、いつも門に立って挨拶をしてくれていた男がいた。男の手にはナイフが握られている。

この男は、父に僕の殺害を命じられていた


『今夜、あいつを殺せ』


『構いませんが、報酬はたんまり頼みますよ』


父と男が交わしていた会話を僕は偶然見てしまった。すぐさま逃げた。屋敷には僕を気にするような人間は居ない。だからすぐに逃げられた。

「坊ちゃんの部屋に行ったらもぬけの殻で、探しましたよ」

男はナイフをちらつかせ、にやり顔で近づいてきた

僕は後ずさろうと動いて、少女に気づいた。
あぁ…このままでは、この優しい少女を巻き込んでしまう
そんなわけにはいかない。そう思い、少女をかばうように手を広げ

「彼女は関係ない!!君も早く父親の元に帰りなよ!!」

「なんだ?何だ?おいおい、坊ちゃんがナイト気どりとは笑わせる。旦那に母親殺されて、泣くしかできなかった坊ちゃんが~クッククク」

男は僕が真実を知りながら何もできなかったと嘲笑った。

その通り、何もできなかった。お母さまも守れなかったし、自分の命も守れない、ただの10歳のガキだ。悔しい‥‥目に涙がたまっていくのが分かる、こんな奴の前で泣きたくない!!泣きたくないのに!!
せめて、この少女だけは父親の元に!!

僕の背中に小さな手が添えられる

「君は、とても頑張ったんだね。よく耐えたね。偉かったね」

僕の後ろから愛らしい声とともに僕の頭をなでる感触があった…

次の瞬間、男がベッシャと潰れた。
潰れた?
少年が男の上を見ると、少女の父親が、男の上に立っていた。
その目は、信じられないほど冷たく男を見ていた。

男は黒い靄にぐるぐると巻き込まれ、動けなくなっていた。

少女は、震える僕の手を優しく握り、
「助けようとしてくれて ありがとう」
と言った。

僕は、もうだめだった。
彼女の優しい言葉に何かが決壊したように涙が溢れて溢れて、そのまま号泣してしまった。
少女は、僕の手を引き、近くを歩く人に声をかけた。

「男の人がナイフを持って襲ってきたんです。誰か衛兵様を呼んでください」

彼女は現状を周りの大人たちに伝え、すぐに兵士がやってきて、男は引き渡されていた。
少女の父親は兵士の中でもマントを羽織った上官であろう兵士と話をしていた。僕が泣き止む頃には、少女の父親は戻ってきて、食事を僕の前に差し出してくれた。

「娘を守ろうと動いた君の勇気は賞賛に値する。
これはその礼だ。受け取ってくれ。」

あぁ、この人もか、僕に気を使わせないように優しい言葉で受け取りやすいようにしてくれる…

「ありがとう…ございます。」

僕は素直にお礼を言って受け取った。

「お腹が減っては戦はできぬ!!って昔から言うの!!さあ食べて食べて!!」

少女は僕と一緒にベンチに座り
泣きながらご飯を食べる僕をお母さまのような瞳で見つめてくれていた。

 僕の頭には、少女の父親の手が置かれよしよしとずっと撫でてくれている。お母さまがなくなってから、僕の頭をなでてくれたのはこの親子が初めてだ。僕は胸が温かくなる気持ちが溢れてまた涙がにじんできた。そんな僕の表情に気づいたのか少女が

「ごはんが終わったら、みんなで一緒にこの不思議な空飛ぶお菓子を食べようね」

ずっと大切に持っている、綿雲菓子をみんなで食べようと言ってくれる。僕は素直に

「うん」

っと答えた。
食後、お菓子を食べながら、男の事を少女の父親に聞かれ、僕は素直に話した。
僕が伯爵家の跡継ぎで、入り婿の父が家を乗っ取るため
お母親は父親に殺されたこと。
僕は疎まれ邪魔者扱いされていたこと。
父親に刺客を放たれたこと。
すべてを話した。
そして、少女と父親はその話すべてを優しく聞いてくれた。
そして問われた

「君を助けてくれる人は、いるのか?」

「伯爵家の元当主のお爺様とお婆様なら力になってくれると……でもお婆様がお身体を悪くして王都の療養所に入っていると聞いてんます。」

「王都か……」
「王都!!」

二人はそう言って顔を見合わせるとニヤリと笑いあって

「連れて行ってあげる」
と言ってくれた。


僕は先ほどまで絶望の淵に居たのに……いとも簡単に明るい場所まで引き上げられ、そして助けてくれようとしている・・・

この人たちは、一体何者なんだろうか。

もしかして、僕の救世主様なのかもしれない。
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