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愚王の崩壊
85話 暗躍する者 トーさん編
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※この話は81話が終わった後の時間軸です
皆との話し合いを終え、僅かに休息を取ると、すぐに動き出した。カナメが元護衛騎士と会う前に一度帰宅する必要がある。
闇魔法の使い手は日中よりも夜を好む。
あちらにも王宮魔術師団・闇魔法の使い手の爺さんが居ると聞く、警戒を怠るべきでは無い。慎重に進めねば…
闇夜に浮かび上がる白亜の城。本来ならば影渡りで容易に侵入したいところだが、今は我慢だ。
王城の周囲は警備のため、騎士、兵士、文官が交代で常駐しており、関係者が出入りする通用門が存在する。
その通用門にて、騎士に『宰相閣下への緊急の案件のため』と記された入城のための書状を手渡した。書状にはストーティオン伯爵家の紋章印が確かに押されており、騎士はそれを疑うことなく通した。
城内に入ると、まず最大限に存在感を希薄にし、気配を断った。宰相閣下の執務室方面へと歩を進める。急がず、静かに。周囲の気配を探りながら。
やはり、裏手の方が不穏な気配が濃い。
そちらか…おぉ? 大きく息を吐き、ゆっくりと気配を戻しながら、そのまま宰相執務室の扉の前に到着した。扉の前には騎士が一人。俺は彼に礼をし、書状を示した。
書状の印を確認した騎士は頷き、扉を叩いた。
『コンコン・コン』一拍置いてのノックか…簡単な確認だろう。
扉が開き、側近の男が現れた。彼に書状を手渡し
「ストーティオン伯爵様からの宰相閣下への緊急の知らせです。こちらでお返事をお待ちしております。」
そう言って俺が礼をすると、側近の男は頷き、扉を閉じた。騎士が立っている扉の反対側に身を置き、静かに待機した。中からは、何かがぶつかるような音が聞こえてくる。
その音を聞きながら、俺は騎士に話しかけた。
「夜分に騎士殿もご苦労様です」
騎士は疑念を抱きつつも、義務的な態度で正面に向き合い、事務的な返答をした。
「職務にございます。貴殿も同様でしょう。」
「私は今回限りの使いでございます。たまたま邸に足の速い者が私しかおりませんでしたので。」
「う、足が速いとは羨ましい限りですな。」
「恐れ入ります。私は騎士殿のような剣術の才はございませんので、逃げ足ばかり鍛えておりまして。」
俺も正面を向いたまま苦笑すると、騎士は小さく笑った。
「できれば日中に参上したかったのですが。これほど暗いと、せっかくの庭園も拝見できません。この時期ならば、さぞかし美しい花々が咲き誇っているのでしょうね。」
「ええ。休憩時などに解放されている場所では、美しい花々に心を癒されております。」
「貴殿も植物がお好きで? 実は私もでして。娘は花よりも薬草一筋でして。せめて女の子なのですから、もう少し花を愛でてほしいのですが。」
フフフ、騎士と軽く微笑んでいると、背後の扉が開き、先ほどの側近が驚いた表情で顔を出した。
「ザーワ殿が…お話しされている…」
騎士が咳払いをすると、出てきた側近はハッとしたように俺に声をかけた。
「伯爵の使いの方、どうぞお入りください。宰相閣下がお話をお待ちかねです。」
俺は騎士に一礼すると中に入っていった。
中に入るとすぐに、側近が耳元で囁いてきた。
「ザーワ殿は滅多に口を開かれないと伺っておりましたが…一体何を話されていたのですか?」
「草花の愛で方について、少々。」
側近は目を丸くして『草花……?』と考え込んでいる。いや、それよりも先に俺を宰相閣下の元へ案内するのが先だろう…こんな者が宰相室の担当で大丈夫なのか?
正面に立つ人物に視線を向けると、相手と視線が絡み合った。俺は口元に人差し指を立てると、宰相は何も言わずに俺を見つめ返した。
俺は黒い霧をゆっくりと部屋に広げ始めた。異変を察知した側近が口を開こうとした瞬間、闇沼へと引きずり込んだ。
しばらくの間、静かにしてもらうとしよう。部屋が闇の霧に深く覆われた時、一箇所に青く光る光が見えた。俺はその光にゆっくりと近づき、取り出した瓶の中にそれを押し込んだ。周囲を注意深く見渡すと、黒い霧の中に濃い黒色の部分を発見した。それも別の瓶に収めた。宰相閣下は目を見開いて驚愕している。
よし、もう良いだろうと側近を闇沼から引き上げると
側近の襟裏付近に赤い光が宿っている。即座にそれを瓶に封じた。
「ふむ、こんなところか。宰相、もう声を出しても構わない。」
「こ……これは一体?」
「ああ、今、簡単な隠蔽魔法を炙り出したのと、ついでに防音結界を張った。闇属性だからな、見た目は悪かろうが気にするな。」
「先ほどの光は…炙り出された魔法なのですか?」
「一つは闇魔法使いの爺のものだろう。青いのはどこかの輩の仕業か。そして赤は、魔族のものだ。」
「ま…魔族! 魔族がこの国を探り始めたと申すか…」
俺は首を傾げた…まさか。
「貴殿らは何も気づいていなかったのか? 呆れたものだな。城には優秀な魔法師が多いと聞いていたが、足元にいるものにすら気づかないとは…」
宰相は深い皺を刻み、鋭い眼光で俺を睨みつけてきた。俺は城の東の方角を指差した。
「あの方向には、何がある?」
「王妃の宮でございますが…まさか!」
「俺は、この城に入って五分も経たずに気づいたぞ。」
宰相は言葉を失い、顔面蒼白になっている。あまりにも顔色が変わりすぎだろう。
「あの辺りで、何匹もの異質な存在が飼われているようだ。人間の魔力ではない。だが、人間のような気配もする。魔族でもない…魔物に近いのだろうか、かなり歪んでいる…俺が遠くから感知できたのはそれだけだ。ああ…決して騎士団総出で動くような真似はするなよ。もし討伐するならば、教会の神聖魔法や聖騎士によるものが望ましい。ああいう歪んだ存在は、きちんと祓わなければレイスのような厄介なものになるからな。」
「宰相殿、我々に指名依頼を出す気はあるか? 結構な額になるが。魔族相手に、普通の騎士ではどうにもならないことは理解しているのだろう?」
「お受けいただけるのですか?」
「今の国王を退位させることだ。それが条件だ。第三王子には、良い筋書きを用意してやろう。」
俺はニヤリと笑った。宰相は言葉を失い、愕然とした表情でこちらを凝視している。俺は通信用の魔道具と説明書を宰相に手渡した。
「これは、王が退位するまで貸し与えよう。使い方はこれを見ろ。返事は、連絡をくれれば良い。良い返事を期待しているぞ。この魔道具を国に売るつもりはないから、交渉などしてくるなよ。ではな。」
俺は扉を開けながら、闇の霧を払った。そして振り返り
「では、これにて失礼いたします。」
そう言い残し、礼をして扉を閉めた。外に立つ騎士にも目礼し、その場を後にした。
そのまま王城の外へ向かいながら、再び気配を風の揺らぎ程度の微かなものにまで薄め、後宮へと向かった。後宮の入り口付近から、外周を警戒する感知魔法のようなものが張り巡らされている。
感知範囲は広いようだが…魔力の術式が見える者からすれば、穴だらけだな。
探索魔法と探索魔法の間隙を縫って、容易に通り抜けられる。
これに風魔法の移動術式を応用すれば、もっと強固な結界になるだろうに。魔力量が、この程度の展開では限界ということか? 勿体ないな、もっと効率的な術式があるのに。これが、噂の王宮魔術師団の闇魔法使いの爺さんの魔法か? ……カナメの方が、間違いなく腕は上だ。
と言うわけで!容易く後宮に侵入し、慎重に周囲を目視した後、影渡りで移動していく。王妃の部屋のすぐ近くに辿り着いた。
「今、何と仰いましたの、お父様?」
ほう、王妃の実家、エヴゲニー公爵家の当主が来ているのか。実に良いタイミングだ。
「どこから漏れたのか、幾つかの商会が摘発されたようです。」
「家紋の方に影響は?」
「対策は万全を期しております。ただ、念のためお前の耳に入れておきたくてな。」
「承知いたしましたわ。しばらくは動きません。」
「ああ。それでは、私はこれで失礼する。」
公爵が部屋を出て、歩いて行く姿を確認し、その後を追うべきか思案していると、ガシャン!!!!と、宮殿に大きな何かが割れる音が響き渡った。俺はにやりと口角を上げ、公爵の後を追うことに決めた。
皆との話し合いを終え、僅かに休息を取ると、すぐに動き出した。カナメが元護衛騎士と会う前に一度帰宅する必要がある。
闇魔法の使い手は日中よりも夜を好む。
あちらにも王宮魔術師団・闇魔法の使い手の爺さんが居ると聞く、警戒を怠るべきでは無い。慎重に進めねば…
闇夜に浮かび上がる白亜の城。本来ならば影渡りで容易に侵入したいところだが、今は我慢だ。
王城の周囲は警備のため、騎士、兵士、文官が交代で常駐しており、関係者が出入りする通用門が存在する。
その通用門にて、騎士に『宰相閣下への緊急の案件のため』と記された入城のための書状を手渡した。書状にはストーティオン伯爵家の紋章印が確かに押されており、騎士はそれを疑うことなく通した。
城内に入ると、まず最大限に存在感を希薄にし、気配を断った。宰相閣下の執務室方面へと歩を進める。急がず、静かに。周囲の気配を探りながら。
やはり、裏手の方が不穏な気配が濃い。
そちらか…おぉ? 大きく息を吐き、ゆっくりと気配を戻しながら、そのまま宰相執務室の扉の前に到着した。扉の前には騎士が一人。俺は彼に礼をし、書状を示した。
書状の印を確認した騎士は頷き、扉を叩いた。
『コンコン・コン』一拍置いてのノックか…簡単な確認だろう。
扉が開き、側近の男が現れた。彼に書状を手渡し
「ストーティオン伯爵様からの宰相閣下への緊急の知らせです。こちらでお返事をお待ちしております。」
そう言って俺が礼をすると、側近の男は頷き、扉を閉じた。騎士が立っている扉の反対側に身を置き、静かに待機した。中からは、何かがぶつかるような音が聞こえてくる。
その音を聞きながら、俺は騎士に話しかけた。
「夜分に騎士殿もご苦労様です」
騎士は疑念を抱きつつも、義務的な態度で正面に向き合い、事務的な返答をした。
「職務にございます。貴殿も同様でしょう。」
「私は今回限りの使いでございます。たまたま邸に足の速い者が私しかおりませんでしたので。」
「う、足が速いとは羨ましい限りですな。」
「恐れ入ります。私は騎士殿のような剣術の才はございませんので、逃げ足ばかり鍛えておりまして。」
俺も正面を向いたまま苦笑すると、騎士は小さく笑った。
「できれば日中に参上したかったのですが。これほど暗いと、せっかくの庭園も拝見できません。この時期ならば、さぞかし美しい花々が咲き誇っているのでしょうね。」
「ええ。休憩時などに解放されている場所では、美しい花々に心を癒されております。」
「貴殿も植物がお好きで? 実は私もでして。娘は花よりも薬草一筋でして。せめて女の子なのですから、もう少し花を愛でてほしいのですが。」
フフフ、騎士と軽く微笑んでいると、背後の扉が開き、先ほどの側近が驚いた表情で顔を出した。
「ザーワ殿が…お話しされている…」
騎士が咳払いをすると、出てきた側近はハッとしたように俺に声をかけた。
「伯爵の使いの方、どうぞお入りください。宰相閣下がお話をお待ちかねです。」
俺は騎士に一礼すると中に入っていった。
中に入るとすぐに、側近が耳元で囁いてきた。
「ザーワ殿は滅多に口を開かれないと伺っておりましたが…一体何を話されていたのですか?」
「草花の愛で方について、少々。」
側近は目を丸くして『草花……?』と考え込んでいる。いや、それよりも先に俺を宰相閣下の元へ案内するのが先だろう…こんな者が宰相室の担当で大丈夫なのか?
正面に立つ人物に視線を向けると、相手と視線が絡み合った。俺は口元に人差し指を立てると、宰相は何も言わずに俺を見つめ返した。
俺は黒い霧をゆっくりと部屋に広げ始めた。異変を察知した側近が口を開こうとした瞬間、闇沼へと引きずり込んだ。
しばらくの間、静かにしてもらうとしよう。部屋が闇の霧に深く覆われた時、一箇所に青く光る光が見えた。俺はその光にゆっくりと近づき、取り出した瓶の中にそれを押し込んだ。周囲を注意深く見渡すと、黒い霧の中に濃い黒色の部分を発見した。それも別の瓶に収めた。宰相閣下は目を見開いて驚愕している。
よし、もう良いだろうと側近を闇沼から引き上げると
側近の襟裏付近に赤い光が宿っている。即座にそれを瓶に封じた。
「ふむ、こんなところか。宰相、もう声を出しても構わない。」
「こ……これは一体?」
「ああ、今、簡単な隠蔽魔法を炙り出したのと、ついでに防音結界を張った。闇属性だからな、見た目は悪かろうが気にするな。」
「先ほどの光は…炙り出された魔法なのですか?」
「一つは闇魔法使いの爺のものだろう。青いのはどこかの輩の仕業か。そして赤は、魔族のものだ。」
「ま…魔族! 魔族がこの国を探り始めたと申すか…」
俺は首を傾げた…まさか。
「貴殿らは何も気づいていなかったのか? 呆れたものだな。城には優秀な魔法師が多いと聞いていたが、足元にいるものにすら気づかないとは…」
宰相は深い皺を刻み、鋭い眼光で俺を睨みつけてきた。俺は城の東の方角を指差した。
「あの方向には、何がある?」
「王妃の宮でございますが…まさか!」
「俺は、この城に入って五分も経たずに気づいたぞ。」
宰相は言葉を失い、顔面蒼白になっている。あまりにも顔色が変わりすぎだろう。
「あの辺りで、何匹もの異質な存在が飼われているようだ。人間の魔力ではない。だが、人間のような気配もする。魔族でもない…魔物に近いのだろうか、かなり歪んでいる…俺が遠くから感知できたのはそれだけだ。ああ…決して騎士団総出で動くような真似はするなよ。もし討伐するならば、教会の神聖魔法や聖騎士によるものが望ましい。ああいう歪んだ存在は、きちんと祓わなければレイスのような厄介なものになるからな。」
「宰相殿、我々に指名依頼を出す気はあるか? 結構な額になるが。魔族相手に、普通の騎士ではどうにもならないことは理解しているのだろう?」
「お受けいただけるのですか?」
「今の国王を退位させることだ。それが条件だ。第三王子には、良い筋書きを用意してやろう。」
俺はニヤリと笑った。宰相は言葉を失い、愕然とした表情でこちらを凝視している。俺は通信用の魔道具と説明書を宰相に手渡した。
「これは、王が退位するまで貸し与えよう。使い方はこれを見ろ。返事は、連絡をくれれば良い。良い返事を期待しているぞ。この魔道具を国に売るつもりはないから、交渉などしてくるなよ。ではな。」
俺は扉を開けながら、闇の霧を払った。そして振り返り
「では、これにて失礼いたします。」
そう言い残し、礼をして扉を閉めた。外に立つ騎士にも目礼し、その場を後にした。
そのまま王城の外へ向かいながら、再び気配を風の揺らぎ程度の微かなものにまで薄め、後宮へと向かった。後宮の入り口付近から、外周を警戒する感知魔法のようなものが張り巡らされている。
感知範囲は広いようだが…魔力の術式が見える者からすれば、穴だらけだな。
探索魔法と探索魔法の間隙を縫って、容易に通り抜けられる。
これに風魔法の移動術式を応用すれば、もっと強固な結界になるだろうに。魔力量が、この程度の展開では限界ということか? 勿体ないな、もっと効率的な術式があるのに。これが、噂の王宮魔術師団の闇魔法使いの爺さんの魔法か? ……カナメの方が、間違いなく腕は上だ。
と言うわけで!容易く後宮に侵入し、慎重に周囲を目視した後、影渡りで移動していく。王妃の部屋のすぐ近くに辿り着いた。
「今、何と仰いましたの、お父様?」
ほう、王妃の実家、エヴゲニー公爵家の当主が来ているのか。実に良いタイミングだ。
「どこから漏れたのか、幾つかの商会が摘発されたようです。」
「家紋の方に影響は?」
「対策は万全を期しております。ただ、念のためお前の耳に入れておきたくてな。」
「承知いたしましたわ。しばらくは動きません。」
「ああ。それでは、私はこれで失礼する。」
公爵が部屋を出て、歩いて行く姿を確認し、その後を追うべきか思案していると、ガシャン!!!!と、宮殿に大きな何かが割れる音が響き渡った。俺はにやりと口角を上げ、公爵の後を追うことに決めた。
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