ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第159話 技能集団首領の実力

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「ばーさんがよく言う。全力で抵抗しろよ、じゃないと俺の実力は測れないぞ」

 俺とリンドは臨戦態勢に入る。

 リンドは手を開いたり握ったりしている。

 突然、武器、ウォーハンマーとでも呼べばいいのだろうか? 鉄製の長い柄に頭の部分に片方は金づちのように叩く場所、もう片方に円錐状の突起がついているタイプなのだが、サイズがデカい。パッと見た感じ五十キログラム以上あるんじゃないかと思うような超重力級の武器だ。

「あんたは武器を出さないのかい? その腕についてるやつの中に入ってるんだろ?」

「まぁ確かに入っているけど、今のところ俺に武器が必要とは思えない。武器を抜かせたいなら頑張ってみな」

「減らず口を叩く若造だね。後悔しても知らないっよ」

 よ、といった瞬間に十メートル程あった距離が一気に縮まる。

 初撃は、突進の勢いに合わせて放たれたウォーハンマーの横なぎ。

 受け止めれる気がしなくもないが、ここは無難にしゃがんで回避する。リンドはウォーハンマーの勢いを利用してしゃがんだ俺に蹴りを放ってきた。かわせないと判断した俺は、腕をクロスにして蹴りを防いだ、が体勢が悪く踏ん張れなかったためゴロゴロと十メートル程回転して移動していた。

「ったく、あぶねえばーさんだな。手がしびれたぜ」

「余裕こいてるからそういう目にあうんだよ。わかったなら武器を出しな」

「確かに油断していたな。だけど俺のメインウェポンを出す必要性は感じないっな」

 お返しとばかりに、な、といった瞬間にリンドとの距離を詰める。素手相手ではないのでフェイントや駆け引きなどはせず、一切の躊躇なしにフックぎみに右手をふりぬく。

 リンドはウォーハンマーの柄を俺の肘に引っ掛けて攻撃を止めたが、俺の体の勢いはまだ止まっていない。そのままの勢いで左手でボディーブローを放つ。

 ガキーンッ

 金属を叩いたような音がして、リンドが三メートル程宙を舞った。拳を保護しているはずなのに、

「痛っ、なんだその服、鉄板でも仕込んでたのか? しかもただの鉄板じゃないな。おそらくミスリルクラスの何かを仕込んでるな。グローブつけてなかったらさすがに拳痛めてたな」

「なんて坊やだい。確かにミスリル製の合金を仕込んでるけど、変形させるなんて馬鹿げてるね、武器ださないんじゃなくて武器の必要ない格闘家系の人間だったとはね、やってくれるじゃない」

「あんたは何か勘違いをしているな、俺の本領は素手じゃないのにな」

 会話の最中にも攻撃の応酬は止まらない。

 リンドは大振りで上段から振り下ろし、地面に小さなクレーターを作った直後に跳ね上げ回避した方向へ円錐の部分を向けてくる。流石にこれは本気で殺しに来てる気がするが、まだ甘い攻撃だな、手を抜いてるのか?

 肉体活性でブーストし、さらに付与術で全身に土属性を付与して、柄を左手でつかみ受け止める。抑えたまま顔面に向かって右の拳をふりぬく。リンドは辛うじて避けるが頬に傷ができた。この戦闘初の外傷だ。

 俺を前蹴りで突き飛ばし距離をとったリンドは、ウォーハンマーをしまい両手に片手の鈍器を取り出す。いわゆるメイスと呼ばれるものだろうが、先端部分が凶悪だ。トゲトゲになっており殴られればただじゃすまないだろう。どうするか悩んでいると、外野から

「姉御っ! それは大人げないぞ! 相手を殺す気か!」

 等とヤジが飛んでいる。

「黙りな! 私に挑んでくる勇気のない玉無し共! 久々に本気になれるんだ、邪魔したらタダじゃおかないよ」

 俺相手に超重量級の長物は不利だと察し、話の内容を聞いていると本来の戦闘スタイルになったのだろうか? 二刀流や双鞭とかは聞いたことあるが、双鈍器使いっていうのは聞かんな。

「私も本気になったんだ、出し惜しみしてると大変なことになるよ」

 リンドは軽々と持っている武器を器用に操り、左右からの連撃を放ち足技も交えて攻撃してくる。

 リーチの問題で不利になった俺は、攻めきれずにいた。蹴りに対しては先読みし足の裏で脛を受け止め不発にさせていたが、両手に持っている鈍器は片方を抑えれば回避が非常にしづらくなるため、回避の一方だった。二分程しのいでいると、

「そろそろ本気を出したらどうだい? 攻撃の手が無くなっているようだけど、大丈夫なのかい?」

 右の鈍器をかわし接近して殴ろうとしても、左の鈍器が俺を襲ってきて、回避して回り込もうとしても振り切ったはずの右の鈍器が俺を襲ってくるため、距離をとって回避せざるを得ない。ウォーハンマーだった時とは明らかに動きが違う。さすがに余裕ができる程の状況ではなかった。

 それにしても、この人レベルいくつなんだろうな? レベル二八三で能力向上を持って肉体活性を使っている俺と、互角以上にやりあってるんだからな。フレデリクの街で襲われたあいつらより上か?

 リンドの攻撃が多彩なので攻めあぐねていた俺は、攻め方を変える事にした。身を低くして下半身を重点的に攻撃する方法に変えた。

 リンドは振り下ろしと、タイミングを計ってからの振り上げ、かがんでからのなぎ払いしかできなくなり苦い顔をしている。

 不利になる状況が減ったとはいえ、俺の攻撃意図がばれてしまったので簡単に防がれてしまう。流石に生身の状態じゃこれ以上攻めきれないな。

「どうしたんだい? 左頬にかすって以来まともに攻撃ができてないよ? 強がって出し惜しみしてる場合じゃないんじゃないか? 本当は素手が本領だってばれてるんだから諦めな」

「ったく、口の減らないばーさんだな。そもそも素手でも均衡を保てる相手に、俺が人前で本領を発揮するメリットがない。だけど攻め切れていないのは同感だ。少し本気を出すから意識を手放すなよ」

 改めて肉体活性のスキルを魔力でブーストし、今度は雷属性を全身に付与する。雷がつかさどるのはスピード……

 様子が変わった俺を見て、守りの構えをとったリンドは目を見開く。

 意識していたのにギリギリガードが間に合った状況に驚いたのだろう。俺は単純に距離を詰め突きを放っただけだ。フェイントもなしの真正面からの攻撃で、不意打ちに近い状況ではなったのに防がれたのには驚いた。多分次は真正面からの攻撃なら簡単に防ぎそうだ。

「なんだねその速度は? 到底人の出せるスピードじゃないと思うんだが」

 俺は答えずに、魔力をさらに流しブーストしていく。後先考えないでいいからできる裏ワザとでもいえばいいのだろうか? 肉体活性のブーストって魔力消費が酷いんだよね、だから瞬間瞬間で切り替えながら使用する必要があるけど今はそうじゃない、常に全力だ。

 確実に相手を上回っている俺は、殴る蹴るのラッシュを行う。辛うじて受けているリンドには着々とダメージが溜まっているようだ。

 焦りは無いがジリ貧になっている悔しさがみられる。恐らくこのまま攻めれば決定的なダメージを負わせることができるだろう。とりあえず、ボコボコに殴っているので気持ちの発散はできた。

「なぜ攻撃をやめた? あのまま行けばあなたの勝ちでしょ?」

「俺は勝つことが目的じゃない。馬鹿にされたこの娘たちに謝らせたかっただけだ。ボコボコに殴れたし気も晴れた。もし勝つことにこだわるなら、初めから自分の得意な武器で攻めるさ」

「本当に格闘がメインじゃないのかい? お嬢ちゃんたち、失礼な態度を取って申し訳なかった。どうか許していただけないだろうか?」

 態度が急変したな。悪い人間ではないのだろう。普通なら奴隷に奴隷って言って何が悪いって話だし、奴隷を持っている人間に嫌悪感を抱いてもおかしくないもんな。幼女組はよく分かってなかったが、俺が謝らせることが目的で、リンドが謝ったから特に気にしている様子は無かった。

「単純な格闘センスだけなら、ここにいるシェリルの方が圧倒的に高い。まぁ謝ってくれたし今回の事は水に流そう。とりあえず、俺がここに来た理由を説明したいのだが?」

「そんなのは後だ! 野郎ども宴の準備をしな! あんたもさっきの酒を出してくれよ。今から飲むよ!」

 俺の話は後回しにされた。それにしてもまだ昼にすらなってないのに酒を飲むのか? さすがドワーフとでもいうべきか? 娘たちに無線で連絡をしてキッチン馬車と追加の酒を持ってきてもらう事にした。
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