ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第508話 道中の話

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 ヴローツマインを出発して二日が経過した。

 踏破距離は直線で一四〇キロメートルオーバー。

 森歩きの上、木の根や高低差が邪魔をして歩きにくいのに、一日七十キロメートル以上も行軍しているのだ。元の世界で考えれば、ありえないくらいのハイスピードで進んでいると、シュウは考えている。だが、この世界でも、さすがに森の中を一日七十キロメートルは異常である。

 地球にいた時に読んだことのあった、海上保安庁羽田特殊救難基地をモデルとしたマンガで、一〇〇キロメートル行軍というのがあって、二十四時間で一〇〇キロメートルを行軍する、という特殊過程があるそうだ。

 その時に荷物を全く持っていない状況で、一〇〇キロメートルを行軍するのも、本当に困難だと読んだ記憶が……一日七十キロメートルだから三十キロメートルも少ないけど、荷物を持っての行軍だから、体にかかる負担はあり得ないほど大きいだろう。

 夜は夜で野営をして休んでいるので、歩く時間は十二時間くらいだろう。一時間平均で五キロメートル以上は歩いていることになる。

 日本で平地を人が歩くスピードが、四キロメートル位だと言われているのに対して、この行動距離は人か疑わしくなるな。A級冒険者なら移動しようと思えば、一日で平地を三〇〇キロメートル移動できるそうだ。化け物だな。

 途中で薬草の採集等もしているし、魔物の討伐もしているので、実質もっと早く移動していることになる。

 それにしても十二時間も同じ光景を見るのは飽きてきた。少なくとも後三日は、到着までにかかるんだよな。

「シュウ君、そろそろ出発しますよ。その周りの景色に飽きたみたいな顔はしないの。さすがにこの地形で本を読みながら歩くのは、危険ですのでやめてくださいね」

「ん~いつも思ってたけど、ミリーってお母さんとかお姉ちゃんみたいだな。俺には兄弟がいなかったからよく分からないけど、姉ちゃんがいたらこんな感じかな?」

「嫌ですか?」

「そんなことないよ。むしろ安心感があってミリーの魅力があふれ出てきてるよ!」

 ミリーの顔が赤くなってうつむいてしまった、しかもケモミミがピコピコ動いてる。可愛いな。

「ミリーは可愛いな。準備もできたし出発しようか。今日も昨日のペースで頑張ろうか」

 特に変化のない森の中では、普段するような会話が減って昔の話をしていた。ミリーとの出会いがどういったものか、その時にどんな心境だったのか、そういう風に見られてたのか!とか思うと、めっちゃ恥ずかしい。

 初めて会った時に言った『獣耳の良さもわからん連中にはいずれ正義の鉄槌を下してやる!』と言ったことを鮮明に覚えていたのだ。あ~恥ずかしい。

 カエデとの出会いは、何度聞いても最終的には笑い話になっていしまうのでいたたまれないな。前半の部分はどんなにレベルが上がっても、身震いするくらい恐ろしい事の様だった。

 リンドとの出会いは、みんなも知っているからあれだけど、精神的にも物理的にも衝撃的だったと本人の談。

 レイリーとはフレデリクの奴隷商だったしな。本当に数少ない男がまともな人で良かった。ちょっと語弊があるな。日常生活ではまともといえばまともだけど、俺のために命を投げ出せると豪語する変人さんだった。

 ヴローツマインから一八〇キロメートル位進んだ時に面白い物を発見した。DP召喚した時はもう普通の木のサイズだったあれが、本当に苗のような状態でそこに存在したのだ。

「みんな止まって。あそこにうちの庭にある世界樹によく似た、木の苗があるんだけどどう思う?」

「ほんとですね。小さいからちょっと形が違いますが、これって……世界樹ですよね」

「何でこんなところにあるんでしょうね?」

「シュウ、これどうすんの?」

「一応、見つけたから保護しようか? エルフへのお土産になるかな? それとも激怒されるかな?」

「管理されているような状況じゃないので、エルフの干渉は無いはずです。というかシュウ、何でエルフと世界樹を結びつけるのだ?」

「え? 世界樹ってエルフが守ってるんじゃないのか?」

「何を言っておる、世界樹はこの星の恵みだぞ。誰の物でもない、初めに見つけた者の物に決まっておる。

 だからディストピアのシュウの家にあるあれは、お前の物じゃ。それにあの家には四大精霊が住み着いて居るし何の問題も無かろう。国の中で見つければ、おそらく領主同士や国まで出てくる戦争になるだろう」

「世界樹ってそんなに危ない物だったのか? フレデリクにあった時は、まだ普通の木のサイズだったからな。最近はちょっとずつでかくなってて、家に近付いてきてるんだよね。そのうち家が世界樹に飲み込まれ足りしたら困るな。この世界樹っぽいの持って行って、問題ないってことか?」

「問題ないと思いますよ。私もエルフの事はあまり知りませんが、リンドさんから聞いた話では、この森を五人で無傷でしかも馬まで連れて歩いてくる人間に、愚かな行動をとるほど馬鹿ではないでしょうし」

 最悪ドッペルだからなんの問題もないけど、馬たちは可哀想だよな~何もない事を祈るか。

 三日目までの移動距離は二一〇キロメートル程だ。明日でエルフの街まで二十キロメートルになってしまうが、マップ先生で見る分には、街から三十キロメートル位が索敵圏内の様で、部隊っぽい物が見回りをしているので、余裕をもって三十五キロメートル位まで進んで作戦会議をするか。

 三日目になり魔法で作る野営場も、簡単に終わってしまう。垂直に4メートル程掘ってから、高さ3m程の天井で、八畳くらいの部屋を四つ作り、風呂場と脱衣所、キッチンも作っていく。さすがに床や壁、天井が土のままは嫌だったので、ロックフォールで十センチメートル程の石で敷き詰めて覆っている。

 お風呂の水は魔法で頑張れ! 調理は、埋め込み式の五徳を付けて、換気扇のような物を付けている。後は簡易ベッドを置いて完成! 今後エルフたちが利用できるようにしてある。

 このままでは魔物が入り込んでしまう可能性があるので、鉄の鍵付きの蓋を付けている。よほど知能の高い魔物でも鍵まであけれないだろう。木の板を押し込むだけで開くようにしているので、方法さえ知っていればあけられてしまう。

「シュウ、ここってそのまま残しておくんだよね? エルフの事を考えてとも聞いてるけど、もし友好が結べたら地下通路作っちゃうんでしょ? ここ必要なくない?」

「カエデの言いたいこともわかるけど、森の中でセーフティーゾーンがあるのとないのでは、負担が違うだろ? 念のため取り外せないようにしてある金庫の中に、ポーションも入れてるしな。できる限り友好的に接するために下ごしらえってところだ」

「ふ~ん、そんなもんなのかな?」

 四日目の行軍は、前の三日より移動距離が少なかったので、少し念入りに野営の拠点を作っている。

 明日はエルフたちとの邂逅だな。
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