ダンマス(異端者)

AN@RCHY

文字の大きさ
1,238 / 2,518

第1238話 ストレス発散!

しおりを挟む
 教皇への連絡は終わった。娘たちの可愛さで癒されたいけど、こんなに心が荒れている状態で娘たちに合う事は出来ないな。少し発散する必要がありそうだ。

 リビングに戻り妻たちに教皇との話を伝え、ひとまずは全員が落ち着いた。そしてみんなも今の状態で娘たちに会うと悪影響が出ると考えていたようで、全員でスポーツ? と言っていいのか、模擬戦で発散させる事にしたらしい。

 俺も混ざろうとしたが、今の状況では遠慮してほしいと言われてしまえば、俺は遠慮せざるを得ない。

 でも、模擬戦で発散すること自体は悪い話ではない。要は、妻たちじゃなくて違う人物を相手にすればいいという事だ。

「……という事でレイリー、模擬戦の相手をしてくれ」

「本当にあなたと言うお方は、まぁいいでしょう」

 兵士の訓練所に向かいレイリーに模擬戦の相手をお願いした。

「君たちは運がいい。なかなかお目にかかれる戦闘ではありませんよ。模擬戦とはいえ、回復剤や回復魔法を準備しているので、かなり本気に近い戦闘が見られます。強者同士の戦闘は、見ているだけでも得られる物があるでしょう。ですが、心が折れない様にだけ気を付けて下さい」

 レイリーはそう言って、兵士を円状に配置させる。広さは大体直系25メートル程だろう。この世界で本気で動き回る戦闘としては、かなり範囲の狭い戦闘エリアだ。

 ただ見るためには少し遠くないか? と思ったが、この世界の人間……特にレベルの上がっている連中の視力ってかなりいいんだよな。元の世界で言えば、普通に4.0以上ある奴が多い。普通の市民でも2.0は普通にあったりする。個人差はあるけど、元の世界と比べると全体的に高いと思う。

「では、シュウ様。ウォーミングアップを始めましょうか」

 装備は模擬専用の武器防具を着用している。ただ、俺の売りは色々な武器を使える……という事だと、考えている。なので、装備を換装するために専用の収納の腕輪も付けている。

「初めは剣と盾ですか? ウォーミングアップとはいえ、真正面から打ち合うという事でしょうか? 戦闘を始めてみればわかりますね。では、いきましょう!」

 「いきましょう」の「う」が言われたと同時に俺とレイリーは動いた。

 いくら模擬専用の武器が、相手を大きく傷付けないエンチャントが施されているとはいえ、訓練場に大音量が響く。俺もレイリーも、右手に剣、左手に盾と持っている。両者が剣で盾を叩いて生まれた衝突音だ。

 俺は、上段から頭をめがけて振り下ろし、レイリーは俺の顔を薙ぐように武器を動かしていた。

「いきなりこれですか? ウォーミングアップの次元では無いですね」

「よく言う。レイリーのこの攻撃だって、同じ事だろ?」

 レイリーは強い。最初は、戦闘経験が俺よりはるかに長いから、俺が強くなっていても手も足も出ないのだと思っていた。だけど、俺が体を作り変えて勝率が半々くらいになった時に、戦闘経験がなせる業では無かったと理解した。

 理解した理由は簡単だ。チビ神が雑談の合間にその理由を教えてくれたのだ。人に干渉しないと言っていたのに、ちょくちょく話しかけてくるからその時に知ったんだよな。

 レイリーは、神の加護を受けているらしい。

 この世界に召喚される俺たちには、ダンジョンマスターと勇者という称号が神から与えられるが、この世界の人間は自分の力だけで己を鍛えるしかないと思っていたのだ。

 だけど、そうでは無かった。個人差や神たちの気紛れという事もあるが、勇者を召喚する陣営、ダンジョンマスターを召喚する陣営……そして知らなかったが、現地人に加護を与える陣営があるそうなのだ。

 加護を与える陣営は、正確にはダンマス同士や勇者との勝負に関与する事が目的ではなく、現地で有望な人材を見つけると加護を与えるそうだ。この加護を与えるのが、無理やりに神の分類をするのであれば、戦神の類なのだそうだ。

 現地の人間を強化して、目指すべき道しるべみたいな意味合いもある! と本人たちは言っているそうだが、実際には面白半分で、ゲーム板を狂わせるのが目的だとの事。傍迷惑な……

 そして俺たち全員がピンチになった、聖国のトリプルの冒険者も神の加護を持っていたらしい。ダンジョンマスターと勇者みたいな関係は無いので、加護がある人間は俺には分からない。だけど、チビ神が教えてくれて、レイリーが強い理由を知ったのだ。

 体を作り変えた俺に勝ち越す程強いって、正直どうなのかと思ったけど、レイリーは確かに強くはなったが、俺たちみたいに色々な事をできるわけでは無く、純粋に戦闘が強いというだけなのだ。

 レイリーは魔法の訓練もしているが、歳の所為かあまり大きな魔法は覚えられなかった。純粋に肉弾戦が強い戦士と言った感じだ。

 俺にみたいに広範囲殲滅魔法を持っているわけでもないので、戦況を一瞬でひっくり返せるような種類の強さではないと悔しがっているけどな。

 そんな事を思い出しながら5分程足を止めて盾を叩き叩かれ、剣で剣を弾き弾かれた。

「そろそろ、本気でやりましょうか?」

 レイリーがギアをあげてきた。消えたと見間違える程のスピードで俺の右に現れ、上段から頭をめがけて剣を振り下ろしている。

 盾で防ぐ事は困難。武器ではじく事も厳しい、頭を攻撃されないように、体を動かすしか方法が無かった。首をひねりかわすように体を動かすが、レイリーの剣が俺の右肩を捕らえた。

 ボキッ!

 右肩に鈍い骨折音が響く。次の瞬間激痛が走るが、動きを止めるわけにはいかない。模擬戦とはいえ、戦闘中なのだ。俺はこの状態でも負けを認めるほど軟ではない。特に体を作り変えてからは、骨が折れたくらいでは止まらなくなっている。

 剣は落としてしまったが、左手には鈍器として扱える盾がある。俺の愛用している先の尖っているカイトシールドだ。

 首をひねったと同時に体も回しており、そのせいで右肩をやられたが、回転の勢いをそのままにレイリーの右わき腹に先端を叩きこめなかった。

 レイリーは、肩の骨を折ったと分かったが、俺がこれで止まらない事を理解している。そのため、俺が盾を振り抜く前に距離をあけていたのだ。

 俺は装備を換装する。取り出したのは、俺のメインウェポンの大薙刀だ。最近はあまり使う事がなくなったが、個人的に一番訓練しているのがこの武器である。

「大薙刀ですか……相変わらず意味が分からない武器ですが、魔法行使の機能を埋め込んだ大薙刀となれば、シュウ様も本気になるということですな」

 魔法を使うのに触媒は必要ないのだが、あれば効果を増大させる事ができるのだ。その触媒となる物が杖やマジックアイテムの指輪なのだが、俺は大薙刀に触媒を埋め込み、武器を振るいながら魔法を行使する戦闘スタイルをとっているのだ。

 取り出した大薙刀を使い、回復魔法をかけていく。粉砕骨折ではなくポキリと折れただけだったので、すぐにくっつける事ができた。痛みも消えているのだが、骨折した時の残滓があるためかまだ痛く感じている。

 それを黙ってみている程レイリーは甘くない。回復魔法を使うと同時に攻撃を仕掛けてきている。

 今回は、弾丸のような勢いで盾を構え突っ込んできたのだ。これまでの戦闘経験上、近付けば魔法と大薙刀による攻撃にさらされるが、離れた状態では一方的に魔法を撃ち込まれて、手も足も出ずに負ける事を理解しているための行動だ。
しおりを挟む
感想 316

あなたにおすすめの小説

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~

犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。 塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。 弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。 けれども違ったのだ。 この世の中、強い奴ほど才能がなかった。 これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。 見抜いて、育てる。 育てて、恩を売って、いい暮らしをする。 誰もが知らない才能を見抜け。 そしてこの世界を生き残れ。 なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。 更新不定期

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

処理中です...