ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第1534話 悪人を使って

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 暗部の鬼人たちがしようとしている人体実験について、バザールに相談しに向かった。

 綾乃には相談するつもりはなかったが、バザールの部屋で一緒にゲームをしていたので、いるのに仲間はずれにするのはと思い、一緒に聞いてもらった。

「なに? そんなことで悩んでるの? どうせ死刑になるんでしょ? シュウの関係している街で重犯罪者で死刑ってことは、殺人や違法奴隷売買を行ってたってことでしょ? そんな奴に慈悲なんてもったいないよ。死ぬ前に役に立てるんだったら、人体実験でも何でもするべきだと思うわ」

 綾乃から出た答えはこんな感じだった。

 綾乃の言っている通り、死刑が適用される重犯罪者は殺人や違法奴隷売買など、人の命を弄んだ奴らに適応される。他にもあるのだが、ここでは関係ない話だ。

「そうでござるな。綾乃殿の言うとおり、救いようのないクズでござるから、せめて最後くらい人の役に立って死んでもらうのがいいと思うでござるよ。某も、元気な御老人たちが多いと思っていたでござる。その原因が解るのでござるなら、むしろ死刑待ちの犯罪者で人体実験を推奨するべきでござるよ」

 綾乃もバザールも死刑になる犯罪者であるなら、人体実験してから殺すべきだとの判断だ。

 バザールは、この世界にきて長いだろうし、そもそも今は人間ですらないからな。人体実験を推奨すると思っていた。俺の気持ちを固めるために、相談という形をとったのだが、まさか綾乃まで同じことを言うと思ってなかった。

「ん? 不思議に思う? 私はもともと死刑になるような人間には、人権はないと思ってるからね。だって、そいつらは人の尊厳を踏みねじってるんだよ。それなのに、自分の人権が保障されるなんておかしいよね? それに、この世界で知り合った友達の中にも、たくさん性被害者がいたわ」

 弱い相手を一方的に嬲るなんて許さないと付け加えて、怒りをあらわにしている。

 確かにな。強姦なんて、自分の欲を満たすだけのために、女性を傷付ける行為だもんな。自分の右手で処理しておけっていうんだよ! あっ、左手の人もいるかもしれないけど。

 まぁ、俺の街では性犯罪者は、男ならホモークやホモゴブリン、女ならオークやゴブリンとまぐわうことになるからな。自分が弱い立場になって、一方的に弄ばれるのがルールだからな。

 死刑になる人間なら、人体実験しても問題がないというのが共通認識のようだ。

「それとさ、裏の組織の幹部も人体実験のモルモットにしてよ。あいつらってさ、自分では手を汚さないで下に押し付けてるじゃん? せめて自分でやれっていうんだよ。幹部の人間って、貴族の当主や家族がやっている場合が多いから、特にむかつくのよね」

 綾乃は、閉じ込められていた時に何かあったらしく、貴族、特に自分で何もしないのに、部下に責任を押し付けるやつが本当に嫌いなんだよね。

 前に綾乃を閉じ込めていた帝国の貴族の1人が、ゴーストタウンに来た時の話だが、帝国に帰る途中に何者かに襲われて無残な死体で発見されたことがあった。話を聞いたら、綾乃が自分で作った人造ゴーレムで報復をしたのだとか。

 それを聞いたときに、それはどうなんだ? と思ったが、証拠はないし人を食い物にしている奴だったので、放置したけどね。ただ、今度やるときはしっかりと相談するように注意した。

 っと、話がそれたな。

 人を殺すこと自体には忌避というか、相応の理由があれば肯定するんだけど、人体実験となると、ためらうこともあるんだよな。今までの所業を考えれば、何言ってんだこいつ? みたいな目で見られるけど、人体実験だからか、なんとなくね。

「でも、そうだよな。元気な年寄りが多い理由が解るなら、人体実験をするのは間違いじゃないか」

「そうでござる。もし、それがポーションや魔法のおかげでござるなら、認知症に効くランクのポーションを見極めて、配布するのもいいでござるよ。健康寿命が延びることは良いことでござる」

 重犯罪者たちがした罪を考えれば、死刑の前に麻薬で気持ちよくなって実験をされるくらい、大したことじゃないか。

 そう思い込むことにした。

 バザールたちと話した後、すぐに庁舎へ戻り、人体実験の許可を出した。ただし、麻薬を召喚するのは俺で、経過観察に参加することを条件とした。

 俺の許可で行うのだ。責任をもって経過観察もするべきだろう。

 それに、麻薬を使ってもすぐに脳細胞が大量に壊れるわけではないし、禁断症状に対する治療が可能なのか、麻薬を無効化する方法があるのかなどなど、いろいろ調べたいことは存在している。

 なので、人体実験を始める前に、今回の件で麻薬を使った他の実験もまとめて行うことにした。

 現在の日本の考えで言えば非人道的だが、2世紀も前の世界で見れば、もっとひどい実験も行われていたし、他に言えば魔女狩りと称して無実の人間を、火あぶりにしている歴史だってあるからな。

 そういう意味では、死刑になる人間が人の役に立つのであれば、被害者たちやその家族に貢献できる可能性だってあるしな。何の役にも立たない死刑囚から、死ぬ前に役に立った死刑囚になるんだから、むしろいいことだと思おう。

 許可がを出した1週間後に実験が開始される。

 1週間と間があいたのは、同時に実験する内容を詰めたり、人体実験を行う場所を作ったり、各街から重犯罪者を移送したりしたためである。

 ついでに言うと、人体実験にはバザールも綾乃も参加している。

 バザールはどっちでもよかったみたいだが、綾乃が強引に引っ張ってきたようだ。どうせ人体実験を行うなら、自分もいくつかしてみたいことがあるので便乗するとのことだった。

 バザールの人体実験は、大きく分けて2つ。

 脳を壊された人間であれば、バザールの能力……ノーライフキングの能力で操るのが可能なのか。いわゆる、生ける屍はアンデッドとなりえるのか、ということを調べたかったらしい。

 2つ目は最近身に着けたスキルで『闇の波動』というものがあり、生物に変質を起こすという内容しか調べてもわからなかったので、数の多い犯罪者を使って実験をする。

 1つ目は、ノーライフキングの能力の対象を調べるための実験で、2つ目は戦闘するときに把握しておきたい能力ということだった。

 俺も1つ追加で実験をしてもらうことにした。手足の欠損などはもともと治ることは解っていたのだが、下半身マヒなどの神経にもポーションが有効なのか? というものだ。

 この世界では、マヒになる人間は少ない。脳出血などはよくわかっておらず、死んでしまうことが多い。事故によるマヒも、他の合併症などで死んでしまうことが多いため、実験することも難しかったりするのだ。

 治験をしたくてもできない、ということだ。それに、お金持ちであれば治療をすぐに受け死ぬことは無いが、それが神経を直したか直していないか……までは判断ができないので、確定するために実験を行う形である。

 こうして、この世界で初の試みがゴーストタウンの地下実験施設で始まった。
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