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第2282話 後半戦第1試合
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休憩という作戦会議が終わり、シェリル・イリア・ネルの3人は、再び俺と対峙している。
10分という短い間で、慣れない投げ技に対してどんな作戦を考えたのか、正直気になっている。学生の時に柔道を授業でやらされていたから分かるが、素人が考えてどうにかなるほど甘くないということだ。
相手より体格が良く、力も遥かに強いとなれば話は別だが、俺の方が体は大きいし力もある。そんな状況で彼女たちは、何を考えたのだろうか?
対峙して感じたこの雰囲気……先ほどまでは、柔道の訓練に近い形だったが、全て関係ないとばかりに模擬戦にするような感じだな。
それが正解だし、柔術の本領はこういった状況のはず。柔道では考えられないシチュエーションでも、柔術なら十分にあり得る、1対3の対人戦。
「そっちは全力になるみたいだから、こっちもギアをあげて対処させてもらうよ」
あくまでも、俺は強者。この3人を相手にして真正面から戦っても、俺は勝ち越している。それも昔からの戦績ではなく、最近……1年くらいの勝敗でだ。
俺が強者、上位者としてふるまうと、シェリルたちは悔しそうな顔をする。負けん気の強い子たちだから、1対3で負け越しているのが悔しいんだろうな。
でも、訓練では可能な限り全力を出すと言っているからには、俺は負けてあげるような優しい事はしない。妻たちも手加減されて勝ちを譲ってもらっても、喜ぶはずがないからな。
俺は先ほどまでとは違い、緩んでいた意識を締めなおし、3人と対峙する。
身に纏っているオーラが変わったな。先ほどまでとは全く違う空気だ。少し肌がピりつくこの感じは、3人が本気になった証拠でもある。ある程度の実力者が本気になると、こういった空気の変化が起きる。
それは闘気だったり殺気だったりするのだが、ある程度以上の実力が無ければ、空気を換えることはできない。強い魔物が出た時に、恐れを抱く空気と同じような物だ。
今回は恐れでも殺気でもなく、闘争による高揚感に近い雰囲気だ。
俺は、3人を視界におさめ、誰が先に出てくるのかをじっと観察する。本気になったとはいえ、俺はこの子たちと模擬戦をしているわけではない。だから、勝ち負けには興味がない。純粋にこの子たちに、柔術を教えるための訓練でしかない。
俺は、捕縛術に使えそうな、ミスリル合金で作られた縄を取り出して腰に身につける。金属から作られたならワイヤーというべきなのだろうが、その性質は縄に近い。縄に近い繊維構造をミスリル合金で作っているから、こういう風に柔らかな縄ができたのだ。
既製品の縄だと、力任せに引きちぎられる可能性があるから、今回は使う予定もなく何となく興味があるからと言って作った、ミスリル合金製の縄をチョイスしている。それに魔力の伝導率の良いミスリル合金は、操るのにも向いているので、有効に活用することができる。
柔術の本領を3人に見せてあげよう。
俺は現存しているスキルの大半を覚えているので、柔術の枠に捕らわれず色々な技術を複合して扱うことができる。
例えばこんな感じ……
俺は正面から突っ込んできたシェリルに向かって、応じるように前に出る。
初手で投げられないように消極的な攻めをしてくるが、有無を言わさず距離を詰め、腰技に近い形で俺の回転に巻き込んでシェリルを投げた。
その隙を逃すまいとネルとイリアが左右から襲い掛かってくる。
投げた後の隙を突く……短い時間で思いつくのは、こんなもんだろう。長く考えたところで、選択肢がさほど多くなるわけではない。
シェリルを投げた瞬間から次の手を打っていた俺の行動は、縄を鞭のように使いイリアの足へ巻き付かせる。本当は強く引いて転ばせようとしたのだが、こちらの体勢も良くなく、ネルが踏ん張った事でこちらの目論見から脱線する。
それでも当初の目標である、分断ができたので良しとしよう。ネルが立て直すまでの時間の間に、イリアを投げてしまえば問題ない。
挟撃予定だった攻撃を単独ですることになったイリア。だからと言って止まることができない距離にまで近付いていた。
意を決して俺に攻撃を仕掛けてくるが、動揺が抜けておらず簡単に投げ落とすことができた。シェリルの時のように強引に詰める必要もなく、俺の思うが儘に投げることができた。
続けて攻撃を仕掛けようとしていたネルだが、振りを悟り距離を置こうとするが、急に転んだ。
足に縄が絡まっており、その縄の反対側を俺の足が踏みつけているので、急いだ勢いが余って転倒してしまったのだ。
引っ張っても良かったのだが、さすがに妻を引きずる夫は、見た目も言葉としても良くないので、近付いて捕縛して1セットが終了する。
「む~やっぱり何もできない!」
子どもっぽくふくれっ面をしたシェリルが、イリアとネルに頭を撫でられている。
「シェリルたちの得意な徒手格闘と同じで、柔術は近距離に強いから仕方がないさ。それに、武器を使っていれば間合いも変わってくるから、今と同じようにはいかない。そちらに有利に見えて、こっちに有利な戦いだから、このくらいは仕方がないんじゃないかな」
慰めるようなことを言っても、シェリルたちは本質を理解している。
「そうだったとしても、実力が拮抗していれば、有利不利は関係なく3人いるこっちの方が絶対に強いのに、まったく手も足も出なかった!」
この子たちの言いたいことは良く分かる。だけど間違っていることもあるぞ。
「手も足も出なかったわけじゃない。不利だと考えたから先に縄を取り出したんだよ。柔術の捕縛術としての使い方ではなく、どちらかというと鞭のスキルを使っていたしね。そこまでしないと、訓練にもならないと思ったから使ったんだよ」
君たちの力を認めていたからね……ここは心の中だけで言ったけど、本音だからこそ直接言えないこともある。
今回は今までと違う技術を使ったので、シェリルたちから説明を求められた。休憩に入ろうとしていたミーシャたちも集まって来て、今回使った捕縛術について説明をしていく。
10分という短い間で、慣れない投げ技に対してどんな作戦を考えたのか、正直気になっている。学生の時に柔道を授業でやらされていたから分かるが、素人が考えてどうにかなるほど甘くないということだ。
相手より体格が良く、力も遥かに強いとなれば話は別だが、俺の方が体は大きいし力もある。そんな状況で彼女たちは、何を考えたのだろうか?
対峙して感じたこの雰囲気……先ほどまでは、柔道の訓練に近い形だったが、全て関係ないとばかりに模擬戦にするような感じだな。
それが正解だし、柔術の本領はこういった状況のはず。柔道では考えられないシチュエーションでも、柔術なら十分にあり得る、1対3の対人戦。
「そっちは全力になるみたいだから、こっちもギアをあげて対処させてもらうよ」
あくまでも、俺は強者。この3人を相手にして真正面から戦っても、俺は勝ち越している。それも昔からの戦績ではなく、最近……1年くらいの勝敗でだ。
俺が強者、上位者としてふるまうと、シェリルたちは悔しそうな顔をする。負けん気の強い子たちだから、1対3で負け越しているのが悔しいんだろうな。
でも、訓練では可能な限り全力を出すと言っているからには、俺は負けてあげるような優しい事はしない。妻たちも手加減されて勝ちを譲ってもらっても、喜ぶはずがないからな。
俺は先ほどまでとは違い、緩んでいた意識を締めなおし、3人と対峙する。
身に纏っているオーラが変わったな。先ほどまでとは全く違う空気だ。少し肌がピりつくこの感じは、3人が本気になった証拠でもある。ある程度の実力者が本気になると、こういった空気の変化が起きる。
それは闘気だったり殺気だったりするのだが、ある程度以上の実力が無ければ、空気を換えることはできない。強い魔物が出た時に、恐れを抱く空気と同じような物だ。
今回は恐れでも殺気でもなく、闘争による高揚感に近い雰囲気だ。
俺は、3人を視界におさめ、誰が先に出てくるのかをじっと観察する。本気になったとはいえ、俺はこの子たちと模擬戦をしているわけではない。だから、勝ち負けには興味がない。純粋にこの子たちに、柔術を教えるための訓練でしかない。
俺は、捕縛術に使えそうな、ミスリル合金で作られた縄を取り出して腰に身につける。金属から作られたならワイヤーというべきなのだろうが、その性質は縄に近い。縄に近い繊維構造をミスリル合金で作っているから、こういう風に柔らかな縄ができたのだ。
既製品の縄だと、力任せに引きちぎられる可能性があるから、今回は使う予定もなく何となく興味があるからと言って作った、ミスリル合金製の縄をチョイスしている。それに魔力の伝導率の良いミスリル合金は、操るのにも向いているので、有効に活用することができる。
柔術の本領を3人に見せてあげよう。
俺は現存しているスキルの大半を覚えているので、柔術の枠に捕らわれず色々な技術を複合して扱うことができる。
例えばこんな感じ……
俺は正面から突っ込んできたシェリルに向かって、応じるように前に出る。
初手で投げられないように消極的な攻めをしてくるが、有無を言わさず距離を詰め、腰技に近い形で俺の回転に巻き込んでシェリルを投げた。
その隙を逃すまいとネルとイリアが左右から襲い掛かってくる。
投げた後の隙を突く……短い時間で思いつくのは、こんなもんだろう。長く考えたところで、選択肢がさほど多くなるわけではない。
シェリルを投げた瞬間から次の手を打っていた俺の行動は、縄を鞭のように使いイリアの足へ巻き付かせる。本当は強く引いて転ばせようとしたのだが、こちらの体勢も良くなく、ネルが踏ん張った事でこちらの目論見から脱線する。
それでも当初の目標である、分断ができたので良しとしよう。ネルが立て直すまでの時間の間に、イリアを投げてしまえば問題ない。
挟撃予定だった攻撃を単独ですることになったイリア。だからと言って止まることができない距離にまで近付いていた。
意を決して俺に攻撃を仕掛けてくるが、動揺が抜けておらず簡単に投げ落とすことができた。シェリルの時のように強引に詰める必要もなく、俺の思うが儘に投げることができた。
続けて攻撃を仕掛けようとしていたネルだが、振りを悟り距離を置こうとするが、急に転んだ。
足に縄が絡まっており、その縄の反対側を俺の足が踏みつけているので、急いだ勢いが余って転倒してしまったのだ。
引っ張っても良かったのだが、さすがに妻を引きずる夫は、見た目も言葉としても良くないので、近付いて捕縛して1セットが終了する。
「む~やっぱり何もできない!」
子どもっぽくふくれっ面をしたシェリルが、イリアとネルに頭を撫でられている。
「シェリルたちの得意な徒手格闘と同じで、柔術は近距離に強いから仕方がないさ。それに、武器を使っていれば間合いも変わってくるから、今と同じようにはいかない。そちらに有利に見えて、こっちに有利な戦いだから、このくらいは仕方がないんじゃないかな」
慰めるようなことを言っても、シェリルたちは本質を理解している。
「そうだったとしても、実力が拮抗していれば、有利不利は関係なく3人いるこっちの方が絶対に強いのに、まったく手も足も出なかった!」
この子たちの言いたいことは良く分かる。だけど間違っていることもあるぞ。
「手も足も出なかったわけじゃない。不利だと考えたから先に縄を取り出したんだよ。柔術の捕縛術としての使い方ではなく、どちらかというと鞭のスキルを使っていたしね。そこまでしないと、訓練にもならないと思ったから使ったんだよ」
君たちの力を認めていたからね……ここは心の中だけで言ったけど、本音だからこそ直接言えないこともある。
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