ダンマス(異端者)

AN@RCHY

文字の大きさ
2,482 / 2,518

第2482話 全力

しおりを挟む
 急に土下座をされて、驚いてしまったシェリルとネルは、何とかして俺の事を立たせようとする。

 土下座をしているが、まだ謝られていないので立つことは出来ない。

 頭を下げたまま2人に、土下座をしている理由を伝える。

 シュリは、英雄症候群もあり、ステータスで俺より上をいっている。だから下にみることはなかったけど、シェリルやネルの事は無意識的に格下と侮っており、それによって俺の体の動きは阻害されていたのだと話す。

 動きが阻害されているのはそれだけが原因ではないが、一番大きな理由としてあげられるだろう。格下だと思い、意識を切り替えたつもりでも、手加減してしまっていたのだ。骨を折られるようなことがあっても……

 思い込みをすぐに変えることは難しいが、事実を事実として受け入れることはそう難しくはない。内容によっては、理解に苦しむ内容もあるだろうが、今回は受け入れるだけで問題はない。

 色々な理由を説明し、謝罪した。

 2人は、謝ることじゃないというが、けじめのようなものだからな。

 お互いの呼吸を整え、もう一度訓練を始める。

 相手が誰だからとかではない。持てる限りの全力で訓練をする。

 シェリルの動きは、やはり美しかった。極限まで研ぎ澄まされた動きは、感動をもたらすんだな……

 受けるとか受け流すとか避けるとか、ややこしい事は考えない。訓練ではあるが、体が思うがままに動くことにする。

 俺の体は、シェリルが懐に入ってくることを拒んでいる。俺よりも近い距離で力の入った攻撃ができるからだ。それを体が拒み重い一撃を掌で受け、受けた勢いのまま力に逆らわず飛ぶ。

 手数で押してくるシェリルに、合気を使って反撃を試みるが、無駄のない早い動きは合気を使う隙が無かった。

 合わせようとしても、体が反応するよりも前に起点となる手がそこに無いからだ。

 達人といわれる合気使いであれば、こんな遅れはないのかもしれないが、スキルで使い方を覚えそれらしく使っている俺では間に合わないのだ。

 拳の弾幕で近寄らせないようにするしかなくなる。

 お互いに拳を守るグローブを付けているから出来る芸当だろう。手数を増やした俺の体は、シェリルの攻撃を見つければ、それに拳を合わせて撃墜する。

 インパクトになる前であれば、最大級の力が乗っているわけではない。そこをピンポイントに撃ち落とす形だ。

 俺より早いのに何故成功するのかといえば、拳の軌道をある程度変えることが可能だからだ。

 集中した俺とシェリルの時間の感覚は、通常の何倍も遅くなっている。体感時間を圧縮することで、やっと相手の動きを認識できる状態になってしまったからだ。

 ゾーンに入った状態とでもいえばいいのだろう。シェリルはギアをマックスに揚げた段階で入っていただろうが、俺はやっと今その状態にたどり着けた。

 俺とシェリルには、言葉はなかった。

 それなのにお互いの考えていることが、手に取るようにわかる。

 体感時間が圧縮され始めて、拳を迎撃することが無くなり、全てを回避するか受けて距離をとる形となっている。

 俺の拳やローキックは、ことごとく躱され当たる様子がない。それに対してシェリルの攻撃は、ギリギリで回避できているが時折受けるしか手段がなくなる。

 体感時間を圧縮している世界で、シェリルの動きはさらに光を帯びている。

 動きが理解できていても体が間に合わない。本当にどうしようもない状態だ。

 俺はシェリルの動きを見て真似ることで、俺に足りていないものがすぐに分かった。

 反射速度だ。

 目で見て、脳で理解して、体を動かす指令を出し、体が動く。この速度……俺よりシェリルの方が圧倒的に早いのだ。時間にすれば、0.01秒より短いかもしれないが、圧倒的な差なのだ。

 ステータスがあがっている俺たちなら、ほぼ人間の反応限界速度0.1秒をコンスタントに叩きだすくらいには反応が早い。

 その中でシェリルの反応速度は、人間の限界を超えている秒数を叩きだしているということだ。

 1秒における0.01秒と、0.1秒における0.01秒では、10倍以上の価値が違う。数字だけ見れば10倍ではあるが、刹那の時間で言う0.01秒を価値で表すなら……100倍にも1000倍にも価値が跳ね上がるだろう。

 特に戦闘という場面においては……

 スピードのあるシェリルに初動で負けるのであれば、速度で勝つことはまず不可能だ。

 ならどうする……

 俺の体が出した答えは、体格差によるタフネス勝負だった。

 肉を切らせて骨を断つ。シェリルの攻撃はくらうことが前提。くらった上で最高の返しをする選択を体が選んだのだ。

 少しでもダメージを軽減できるタイミングを狙う。

 手数で押してきた中で一番狙いやすいであろう拳を選択し、体を前に出すことで密着させ力を可能な限り弱くしてから。全力の拳を叩きこむ。

 相手が俺よりも小さいので狙える場所は少ない。顔は弱点でもあるが、それだけに守りが硬い。ならば耐久力が高くでも、守りの弱い所を殴りつける。

 咄嗟に選んだのは、左の肩……三角筋あたりだった。

 腕の中でも耐久力は高いだろうが、実は大きな欠点もある箇所だ。

 耐久力が高い反面、その許容量を超えてしまうと、腕が上げられなくなってしまう。肘は曲がるのだが、持ち上げることが不可能になる箇所だ。

 体は本能的に理解して攻撃を叩き込む。

 強烈な一撃は、シュリの体を浮かせ移動させることに成功する。

 だが、思った効果を発揮せず、痛みで上げにくくなる程度で終わってしまう。それでも、左腕は動かしにくくなり、反応速度で負けていても左腕という限定的な箇所であれば、勝ることが可能だ。

 それに、右腕だけなら手数は半分に減る。それを考えれば、思った効果はあげられていないが、最高の結果に近いだろう。

 反応が遅くて左腕を使ってくるが、先ほどの圧力は感じられない。

 この差が決定的であり、完全に動かせる前に俺の攻撃がシェリルに届いた。
しおりを挟む
感想 316

あなたにおすすめの小説

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~

犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。 塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。 弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。 けれども違ったのだ。 この世の中、強い奴ほど才能がなかった。 これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。 見抜いて、育てる。 育てて、恩を売って、いい暮らしをする。 誰もが知らない才能を見抜け。 そしてこの世界を生き残れ。 なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。 更新不定期

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

ダンジョン作成から始まる最強クラン

山椒
ファンタジー
ダンジョンが出現して数十年が経ち、ダンジョンがあることが日常となっていた。 そんな世界で五年前に起きた大規模魔物侵攻により心に傷を受けた青年がいた。 極力誰とも関わりを持たずにいた彼の住んでいる部屋に寝ている間にダンジョンが出現し、彼はそこに落ちた。 そのダンジョンは他に確認されていない自作するダンジョンであった。 ダンジョンとモンスターにトラウマを抱えつつもダンジョン作成を始めていく。 ただそのダンジョンは特別性であった。 ダンジョンが彼を、彼の大事な人を強くするダンジョンであった。

ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。 まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。 しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。 一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。

処理中です...