全機械式天使の宿望

藍色綿菓子

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許し

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 時々、天使を崇めていく人がいる。でも大体の人が直視できない。ずっと目を伏せて、何か祈って帰っていく。そういう時、五藤君は居心地悪そうに目を泳がせている。
 使う人の少なくなったビルを一つ、天使教で占領した。五藤君を匿っている。保護という名目で、宗教のシンボルにされている。穏やかな生活だ。醜すぎて目を合わせられない信徒が大半なので、余分な雑音もなく、ほとんど二人で過ごしている。かき集めたDVDを四六時中観ている。
 暑さだけが難点だ。マスクを脱げない。信徒の中でも、私がマスクを脱がないことが有名になっているらしい。長生きしているのはそのおかげだと勝手に解釈されている。暑い。
 五藤君との雑談の中で、衝撃的な話を聞いた。ずっと麻酔が効かなかったと。五藤君の精神力の強さは、生半可では無いようだ。彼の口から感謝の言葉を聞いた。
 ビルで暮らす人達も、町を歩く人達も、次々と死んでいき、火葬が間に合わないほどだ。夏の終わりに無数に転がるセミの死体、あれくらい人が死んでいる。
「お許しください天使様」
 そう言う信徒に、五藤君は沈黙を返す。

 ビル内から人がいなくなり、町からも人が消えた。スーパーから日持ちする缶詰を貰ってきて、のんびりと暮らしている。たまに歩いている人は全て医療関係者だ。それ以外は皆死んだ。学校や企業はもう相当の規模が縮小して、ほぼ壊滅状態にある。緩やかに国は滅んでいる。
 あまりにも人がいないので、マスクを外して五藤君の車椅子を押した。太陽の光が気持ち良い。散歩日和だ。マスクがなくて清々しい。
 今の自分を許せる。過去が今に繋がるのなら、全ての過去も許すことができる。子供の幻影は見なくなった。
 今後のために自給自足をしようかと思う。五藤君が気に入っていた自然の多い、山の中にでも移り住んで、家庭菜園を作って生きていこうかなと。まさにスローライフ。思いついた内容を五藤君に言う。うん、いいと思うけど、と前置きが入り、頼りなく問いかけてきた。
「沢山人が亡くなって、それでも僕ら、幸せになっていいのかな」
 五藤君は後ろめたそうだ。でも、無用な心配だろう。心からそう思う。だってここには誰もいない! 傷つけられることはもうない。
「もちろん良いに決まってる」
 曇りなく言い切る。彼は笑った。
 暖かで、どこまでも平和だった。今後と現在の、互いの幸福を確信している。世界は案外輝いて見える。
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