崩落

藍色綿菓子

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友人の弟

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「おっ、綺麗だ。綺麗な色だ、発色が良い! あれ買わないか!?」
 虫が騒ぎ出した。今鏡があれば、頭からひょこりと顔を出して外を覗いている虫が見られるかもしれないが、私が鏡を探したり持ち出すと引っ込むので不可能だ。私達の進行の先には、真新しいアイスクリームの移動販売があった。活きの良い脂の乗った肉のような、鮮やかな色をしていた。
「いいかもね」
 鞄の中を確認して、お財布事情と相談した結果、私は移動販売に近付いていった。なんとか買える程度ではあった。赤い顔のおじさんが一人で切り盛りしているようで、小型のトラックも赤色を多く起用しているように見える。色鮮やかな臓物色の広告が、大きく車に載っていた。数人の人が列を作っているので、私もそれに並んだ。
 遠くからか細いボーイソプラノの声がする。徐々に近付いてきているような気がした。列は短くなって、私の順番がやって来た。声はすぐ横まで迫っており、どうやら叫ばれていたのは私の名前だったらしい。泣き出しそうな声の主に目を向けると、知人だった。まだ綺麗な顔を維持している、友達の弟だった。友達は最近意思疎通が取れない状態になったので、弟との接点は増えた。
「探してた! なんで電話したのに出ないの!」
 私は注文したアイスを受け取った。一口食べてみると冷たくて甘い!
「無視しないでよっ」
「ごめんて。つい」
「何かのっぴきならない用件があるに違いねえ……そんな表情だ。俺は予感する!」
 頭の虫がハードボイルドなことを言い出した。そんな表情、と言われて注視してみたが、鼻水を垂らした小汚さしかわからない。
「どうかした? 今の時代、電話がちゃんと通じると思うなよ……普通に届いてないから」
「アレが無くなった! アレが! アレ!」
 アレ、というジェスチャーをする。
「まさかアレか」
 筋骨隆々の赤いおじさんがこころなしか青くなった。
「ぽろっと取れた……」
「そんな! なんてこと、惨すぎる!」
 虫が騒ぐので頭が痛くなった。アイスに寄せられて集まっていた人々の、主に男性陣が弟を慰めにかかる。女性の私からすると、なんともいえない微妙な空気になってしまった午後だった。
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