崩落

藍色綿菓子

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終幕

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 あれから、世界は賑わいを取り戻した。テレビも見られる。だけどワクチンを入れない人もいる。身近なところでは、近所のおばさんは入れないらしい。家族が皆肉塊になったので、自分もそこに行く、と行っていた。死は場所か? 知らないけど。
 ワクチンは、思ったよりもずっと安定して供給されるらしい。人口も減っているし。
 テレビでは、ニュース番組が一つだけできた。美人のアナウンサーの肌の色が、日を追うごとに人の色に戻っていく。私はソファーで寝転んで、世界の移り変わりをずっと見ている。
 腕を始めとして手足に生えた細い爪を、引き抜くと痛い。抜いた周辺がじんじんと脈打つように痛んで、腫れてしまう。最近では、腫れた皮膚が元に戻らなくなってきたので、抜くのを止めた。動く時に邪魔だったのだが、体が動かなくなってきてからは、気にすることもなくなった。
 虫は昔話をずっと一人でしている。
「あれが無いって言ってた奴、可哀想だったぜ。あとあの綺麗な顔したお友達な、花に囲まれても人間味ねえんだな。まあでも、人望あるみたいで良かったよ。こんな時代に葬式してもらえるなんてさ」
 テレビ画面に人間を信じる会のリーダーが映る。足は無くなったらしい。会長と呼ばれている。どこか憔悴したような顔で、人捜しをしていると言っていた。特徴は、腹話術みたいに時々叫び出す女の子、らしい。
「足ミンチ! 足ミンチじゃねえか!」
 あまりにも直接的すぎる表現に、久々に声をあげて笑った。

 細胞の異常増殖が始まった。皮膚がのびて、その下の肉が盛り上がる。目や耳が塞がった。電源を付けておいたテレビが観られない。だけど意識はある。何もかもがぼやけて、微睡んでいるようだ。少し退屈。
 虫がぼそぼそと何か言っている。耳が無くてよく聞き取れないが、頭蓋骨から振動して伝わってくる。少しは幸せだったか、と言っているのがわかった。それに答える喉は既にない。息をしている感覚が、遠い日のことのようで、酸素の届かなくなった脳が静かに停滞していく。
 しかし私は一人ではなかったようだ 。
 穏やかな気持ちだ。例えるなら胎内に戻るような。意識と思考が霧散していく。静かな時間が訪れた。
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