手の中の小鳥

藍色綿菓子

文字の大きさ
2 / 5

太郎さん

しおりを挟む
 次の日も電車に乗った。伸縮する象や尾が分かれた白猫を見て、そのまま学校に行った。佐藤の孔雀に電灯の光が反射して黒板が見えない。自分以外は誰も眩しそうにしていないのが妙に嫌だった。手の中の小鳥はクルクルと鳴く。撫でても人は動作自体に気付かない。干渉を認識しないようだった。
 また公園に寄った。今日はいないかと思ったら、いた。彼は作業服のような物を着て、焼き蕎麦を食べていた。その肩に乗った鴉が、時々彼の焼き蕎麦を横取りして、彼も時には鴉の嘴に割り箸ごと押し込んでやっていた。それはもう、迷惑そうに顔をしかめて。
 青い小鳥を手に握って、いつもの自販機に硬貨を入れる。思えば先日もこうして握り込んだままでいたから、それで見てきたのかもしれない。鴉と小鳥を視認できているなら。
 視線を感じた。小鳥を胸ポケットに入れた。小鳥は大人しくしている。彼の鴉はとうとう焼き蕎麦の最後の一口を奪い取ってしまった。
「焼き蕎麦」
 私は言った。
「鴉って、焼き蕎麦食べるんですね」
「こいつは何でも食べるよ」
 黒々と光をはじく翼は普通の鴉も持つだろう。しかし宝石をそのまま埋め込んだような赤い目の、人についていく鴉はいない。この鴉も何かだった。彼はそれが見えていると伝えてきた。思わず自分の小鳥を取り出して、その人の眼前に突きつける。実は私は自分の何かを相当気に入っていたので、この絶好の機会に聞いてみたいことがあった。
「可愛くないですか」
 彼は眉をひそめて言った。
「いや、目が無いと怖い」

 その人はフリーターで、今は工事現場のバイトをするためにこの町に来たのだと言った。私はその人のことが知りたくて、多くのことを質問したが、上記のこと以外は「個人情報だから」とふざけて教えてくれなかった。名前がわからないので勝手に太郎さんと呼んでいる。しつこくしすぎたのか、途中から「鳥なんて知らない、鴉なんて見えない」と言い出したが、道を歩く二足歩行の美脚モモンガをしっかりと三度見していた。行動に出やすい性格らしかった。
 用事のない時はよく会って話をした。年の頃も近いように見えた。親しくして二週間が過ぎた頃、人型の何かを見た。その時私は一人だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...