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孤独
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食べる炭酸シリーズが期間限定のチョコミント味を出したと聞いて、私は普段行かない町の中央に出かけた。人が多くいると、何かの数も凄まじいことになる。太郎さんと検証したことから、自分以外の何かに触れたりすることはできないとわかってはいたものの、足元の動く毛玉を踏みつけて歩くのは心苦しくてできない。周囲の人が人にだけ注意しているのに対し、私は何かと人の両方に注意していたためか、とうとう誰かにぶつかった。
「すいませ……」
咄嗟に謝ってぶつかった人の顔を確認した。驚くべきことに、フードを被っていて白いマスクを着けていた。完全に不審者の装いで、顔も性別もわからない。更にその人のすぐ後ろには、青白い肌の異様な何かがいた。ムンクの叫びとよく似ている。私はぎょっとして固まった。
青白い何かは、頭の裏側を震わせるような不快で甲高い声をあげた。辺りに絶叫が響く。おぞましさに身を縮めて耳を塞いだ。声に反応したのは私だけだった。
「え?」
フードの人は首を傾けた。不思議そうに身じろぎするその人は、まだ引きつった表情を浮かべているだろう私に指をさして、言った。
「見えるんだ」
マスクの下でにたりと笑う口元が、見えたような気がした。
私は逃げた。大分長いこと走って逃げた。おかげでチョコミントにはありつけなかった。駆け込んだ自宅では、母が鍋の前に立つ背を見た。仕事と家事に忙しい母の何かは蟻である。小さくて見つけ難いが、八足の靴を履いているので、見ればわかる。何かとはそういう物らしい。何かはそれを持つ人の、精神を反映する。
髪も耳もなく、目のあるべき位置にぽっかりと黒い空洞の空いた姿、それが人の背丈でいた。この世のあらゆる悲哀を背負ったかのようだった。
「何立ってるの? 入れば?」
振り向いた母が言った。頷いて部屋に踏み入る。母はお帰りと言った。叫び声が耳から離れることは無かった。
学校へ向かう途中、あの青白い肌を見かけた気がした。
暗い気分で受ける授業では例の如く、佐藤の孔雀で黒板が見えない。可能な限り右にずれてもやはり見えない。目の前でやたらに孔雀の羽が輝いていた。この気分を変えようと、勇気を出して「少し左にずれてくれない?」と佐藤の肩を叩く。佐藤がこちらを向いた。
佐藤がふざけてぐるぐる動いたので、黒板は見えなかった。孔雀も連動して眩いばかりの教室は、とても楽しそうだったが、私はうつむいて小鳥を握っていた。手の中の暖かい脈拍だけを聴いていたかった。
「すいませ……」
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「え?」
フードの人は首を傾けた。不思議そうに身じろぎするその人は、まだ引きつった表情を浮かべているだろう私に指をさして、言った。
「見えるんだ」
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