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友達
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ある日起きたら髪が緑色だった時は本当に驚いた。子供かあの人は。何をしてるんだろう。本人は楽しいらしい。
せっかく魔法が使える世界だというのに、有用な使われ方をしているのを見たことがあまりない。私は使えない。人の髪の色を勝手に変えたり急に戻したり鏡の中身を動かしたり、悪戯ばかりで使われている。
時折刺激を感じながらも、ほのぼのと平和な毎日を送っていた。使用人が無口すぎて、アルバートが仕事中暇なのが不満。本も読めないし。何あの文字、ミミズ? 触ったら浮いたしもう触りたくない。怖い。
せっせと窓を磨く折れた翼の女性を見ながら、私も仕事をしよう! と思いついた。簡単な掃除ならできるだろうと。やってる内に会話してくれる人も出るかもしれない。寂しいのだ。
掃除道具を持って歩く女性の後をつける。不審そうに大きな耳がぱたぱた動く。追いかけていくと掃除道具を入れるロッカーのような物に辿り着いた。あさる。
「お客様、そんなことをなさる必要はありません!」
「いやいやいや……」
無理を押し通してなんやかやと言い争った。呼ばれてやって来たのかアルバートまで出て来た。だだをこねて強行。使用人の服を手に入れた。不思議と馴染む。やれやれと息を吐くアルバートから書庫の清掃を頼まれた。
意気込んでやって来た書庫は薄暗く、ひとけがない。落胆した。暇を紛らわすために埃を落としたり、集めて捨てたり、高さ順に本棚に詰めたりした。本の題名はどれも読めない。
この書庫幽霊出るの? 清掃やめようかな。
ある日の私はいるはずのない女性の姿を認める。その人はふわふわの猫っ毛をひょこひょこと揺らしながら、高い書棚の埃を落とそうと背伸びを繰り返していた。長いブロンドの毛が羨ましいくらい綺麗だ。
書庫の清掃は私に一任されている。だから誰かが書庫に入ってくるはずがないのだ。というか、入ってこないようにアルバートが言っていた気がする。気がするというか言ってた。だから、誰も来ないはずなのだ。
それがここにいるということは、もう幽霊と思うしかない。
私は彼女を刺激しないように、本棚の裏手に回った。せっせと埃を落とす。基本的な仕事内容は埃を落とすことなんだ。本棚の数が膨大で、その書棚の一つ一つに埃がぶ厚く乗っている。右から左に、上から下に、落としていく埃をうっかり吸い込んだ。むせ込んで体をくの字に曲げる。汚い。喉がざらざらする。
「大丈夫ですか……?」
砂糖菓子みたいに甘い声がした。それとは対照的に、とても女とは思えないおっさんのような声で私がむせていると、心優しい女性の柔らかな手が背中を撫でてくれる。あ、この人幽霊じゃない。触れるし、暖かいもの。
「大丈夫です、ありがとう」
我ながら聞き苦しい声だった。
「私新人で、マリアっていいます。迷い込んじゃったんだけど、とりあえずお掃除しなきゃと思って……あの」
「私はナツキ」
喜びに震えた。こういうの。こういうの! 求めてたの! 新人さんなんだって。私も同じような物じゃない? 少し先輩? とにかく、そう、私達は! 仲良くなれる。
「ここの掃除は私に任されてるんだけど、人手が増えて悪い気はしないな! とりあえず書架の埃を落として、その後床掃除してくれればいいから」
正しい対応は、外にマリアを案内することなんだろうけど、寂しいので無理矢理滞在させることにした。先輩風を吹かせて悠々と埃を落としていたら、虫が飛び出してきて、思わずマリアに泣きついた。彼女ががそれを魔法で焼き払って、ついでに本に飛び火して、二人で全てを隠蔽したりした。短い期間に確かな友情ができた。
そのまま一日マリアが清掃を手伝ってくれた。夕方頃には怒り心頭の使用人頭が書庫に乗り込んできて、マリアは首根っこ掴まれて引きずり出されていた。手を振る。どうやら私に助けを求めていたらしいが、楽しい今日をありがとう。
せっかく魔法が使える世界だというのに、有用な使われ方をしているのを見たことがあまりない。私は使えない。人の髪の色を勝手に変えたり急に戻したり鏡の中身を動かしたり、悪戯ばかりで使われている。
時折刺激を感じながらも、ほのぼのと平和な毎日を送っていた。使用人が無口すぎて、アルバートが仕事中暇なのが不満。本も読めないし。何あの文字、ミミズ? 触ったら浮いたしもう触りたくない。怖い。
せっせと窓を磨く折れた翼の女性を見ながら、私も仕事をしよう! と思いついた。簡単な掃除ならできるだろうと。やってる内に会話してくれる人も出るかもしれない。寂しいのだ。
掃除道具を持って歩く女性の後をつける。不審そうに大きな耳がぱたぱた動く。追いかけていくと掃除道具を入れるロッカーのような物に辿り着いた。あさる。
「お客様、そんなことをなさる必要はありません!」
「いやいやいや……」
無理を押し通してなんやかやと言い争った。呼ばれてやって来たのかアルバートまで出て来た。だだをこねて強行。使用人の服を手に入れた。不思議と馴染む。やれやれと息を吐くアルバートから書庫の清掃を頼まれた。
意気込んでやって来た書庫は薄暗く、ひとけがない。落胆した。暇を紛らわすために埃を落としたり、集めて捨てたり、高さ順に本棚に詰めたりした。本の題名はどれも読めない。
この書庫幽霊出るの? 清掃やめようかな。
ある日の私はいるはずのない女性の姿を認める。その人はふわふわの猫っ毛をひょこひょこと揺らしながら、高い書棚の埃を落とそうと背伸びを繰り返していた。長いブロンドの毛が羨ましいくらい綺麗だ。
書庫の清掃は私に一任されている。だから誰かが書庫に入ってくるはずがないのだ。というか、入ってこないようにアルバートが言っていた気がする。気がするというか言ってた。だから、誰も来ないはずなのだ。
それがここにいるということは、もう幽霊と思うしかない。
私は彼女を刺激しないように、本棚の裏手に回った。せっせと埃を落とす。基本的な仕事内容は埃を落とすことなんだ。本棚の数が膨大で、その書棚の一つ一つに埃がぶ厚く乗っている。右から左に、上から下に、落としていく埃をうっかり吸い込んだ。むせ込んで体をくの字に曲げる。汚い。喉がざらざらする。
「大丈夫ですか……?」
砂糖菓子みたいに甘い声がした。それとは対照的に、とても女とは思えないおっさんのような声で私がむせていると、心優しい女性の柔らかな手が背中を撫でてくれる。あ、この人幽霊じゃない。触れるし、暖かいもの。
「大丈夫です、ありがとう」
我ながら聞き苦しい声だった。
「私新人で、マリアっていいます。迷い込んじゃったんだけど、とりあえずお掃除しなきゃと思って……あの」
「私はナツキ」
喜びに震えた。こういうの。こういうの! 求めてたの! 新人さんなんだって。私も同じような物じゃない? 少し先輩? とにかく、そう、私達は! 仲良くなれる。
「ここの掃除は私に任されてるんだけど、人手が増えて悪い気はしないな! とりあえず書架の埃を落として、その後床掃除してくれればいいから」
正しい対応は、外にマリアを案内することなんだろうけど、寂しいので無理矢理滞在させることにした。先輩風を吹かせて悠々と埃を落としていたら、虫が飛び出してきて、思わずマリアに泣きついた。彼女ががそれを魔法で焼き払って、ついでに本に飛び火して、二人で全てを隠蔽したりした。短い期間に確かな友情ができた。
そのまま一日マリアが清掃を手伝ってくれた。夕方頃には怒り心頭の使用人頭が書庫に乗り込んできて、マリアは首根っこ掴まれて引きずり出されていた。手を振る。どうやら私に助けを求めていたらしいが、楽しい今日をありがとう。
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